第80話「再会は路地裏で」
王都西地区。
石畳の路地を、黒衣の青年が静かに歩いていた。
黒い外套。
深く被ったフード。
人混みへ紛れれば、誰もその正体に気付かない。
レオだった。
少し後ろを歩くオスカーが、辺りを見回しながら口を開く。
「やっぱりレオだと歩きやすいな」
「令嬢のお嬢だと目立つからな」
エルマーも周囲へ視線を巡らせる。
レオは小さく頷いた。
「この辺りは情報屋が多い」
「鐘楼の地下について何か知っている者がいるかもしれない」
三人は市場を抜け、西地区の古い路地へ足を踏み入れた。
湿った石壁。
昼間でも薄暗い細道。
「この辺、昔も来たことある?」
オスカーが尋ねる。
レオは少し考えた。
「……ある気がする」
「でも思い出せない」
その時だった。
「助けて!」
少女の悲鳴が響く。
「来た」
オスカーが即座に呟く。
「早かったな」
エルマーもため息をつく。
レオは無言のまま駆け出した。
路地の先。
三人の男が、一人の少女を囲んでいる。
「金を返せ!」
「知らない!」
少女は震えていた。
レオは男たちの前へ立つ。
「その子を離せ」
男たちが振り返る。
「誰だ、お前」
「通りすがり」
「通りすがりが首を突っ込むな!」
男の拳が振り下ろされる。
その瞬間。
レオは半歩だけ身体をずらした。
拳は空を切る。
続けて相手の手首を掴み、身体を流す。
男は勢いのまま石畳へ転がった。
「なっ!」
残る二人も短剣を抜く。
「オスカー」
「了解」
嬉しそうに笑う。
「やっと仕事だ」
エルマーも静かに前へ出た。
「遊びすぎるな」
「分かってる」
三人は一瞬で男たちを制圧した。
少女は呆然とレオを見る。
「ありがとう……ございます」
「もう大丈夫」
レオは短く答える。
その時だった。
「相変わらず無茶をする」
静かな声。
路地の入口。
黒い長外套。
さらっと流した亜麻色の髪。
髪と同じ色の瞳。
監察官補佐――ユリウスだった。
レオの動きが止まる。
ユリウスも静かに見つめ返す。
「久しぶりだな」
「……」
オスカーが小声で呟く。
「来た」
エルマーも苦笑した。
「一番会いたくない相手だ」
ユリウスはゆっくり歩み寄る。
その視線は、レオだけを捉えている。
「また面倒ごとの中心にいるとは思っていた」
「期待を裏切らない」
レオは肩をすくめる。
「偶然だ」
「偶然?」
ユリウスは少しだけ笑った。
「君の偶然は、王都では事件と呼ぶ」
その言葉に。
オスカーは吹き出した。
「言われてるぞ」
「否定できない」
エルマーまで頷く。
レオはため息をついた。
「……今回は、まだ大したことはしてない」
「もう十分している」
ユリウスの亜麻色の瞳は細められる。
「今回は、何を追っている」
その問いに。
レオは何も答えなかった。
静かな沈黙だけが、路地裏を包んでいた。




