(改善版)第7話「悪友は、踏み込みすぎる」
夕暮れ。
王都の喧騒が、少しだけ柔らぐ時間。
「——で?」
声が落ちた。
レティシアは足を止める。
「いつまで逃げるつもり?」
振り返る。
そこにいるのは——リオン。
相変わらず、距離が近い。
「逃げてないわ」
「逃げてるよ」
即答。
「さっきも消えたし」
「用事があったの」
「へえ」
にやりと笑う。
「黒髪のやつ?」
沈黙。
「……何の話?」
「とぼけるの下手だよね」
「失礼」
「事実」
軽く言い切る。
だが——目は、全く軽くない。
「なあ、レティー」
一歩、近づく。
「お前さ」
声を落とす。
「昔から、そうだったよな」
「何が」
「面倒くさいって言いながら」
視線を合わせる。
「一番面倒なとこ行く」
言い切る。
レティシアは、少しだけ目を逸らした。
「……覚えてるのね」
「そりゃね」
肩をすくめる。
「一緒にいたし」
笑う。
「で?」
「何が」
「今回も、それ?」
短い問い。
だが、核心に近い。
「……関係ないでしょ」
レティシアが言う。
「関係あるよ」
即答。
「俺には」
「なんでよ」
「気になるから」
あっさり。
だが——
「放っとけないから」
少しだけ、声が低くなる。
間。
空気が、少しだけ変わる。
「……ほんと」
レティシアがため息をつく。
「面倒くさい男ね」
「お互い様」
「一緒にしないで」
「してるよ」
笑う。
「似てるし」
「似てない」
「似てる」
「似てない」
「似てるって」
言い切る。
「だってさ」
少しだけ、顔を寄せる。
「今も、行こうとしてるでしょ」
レティシアの足が——止まる。
完全に。
図星。
「……」
「ほら」
にやっと笑う。
「やっぱり」
「……離れて」
「やだ」
「人いる」
「気にしない」
「私はするの」
「じゃあ人いないとこ行く?」
「行かない」
「残念」
軽口。
だが——
完全に逃がしていない。
「なあ」
ふと、リオンが言う。
「もしさ」
少しだけ、真面目な声になる。
「お前がやってるなら」
間。
「危ないこと、やめろとは言わない」
レティシアが目を見開く。
「でも」
続ける。
「一人でやるな」
その一言に——
レティシアの表情が、ほんの少し揺れた。
「……何よそれ」
「そのまま」
「意味分かんない」
「分かってるでしょ」
静かに言う。
「お前、一人で突っ込むタイプだから」
その言葉は——
完全に、正しい。
「……」
レティシアは黙る。
そして。
「……やめないわよ」
小さく言う。
「知ってる」
「絶対やめない」
「知ってる」
「面倒くさいって言いながらやる」
「知ってる」
全部、肯定。
「だから」
リオンが笑う。
「巻き込め」
「は?」
「俺も」
あっさり言う。
「却下」
即答。
「なんで」
「なんででも」
「理由になってない」
「なるの」
「ならない」
テンポよく返す。
「危ないから」
「俺も強いよ?」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ何」
「……面倒が増える」
「ひどい」
笑う。
「でもまあ」
肩をすくめる。
「それでもいいけど」
その時。
遠くで、また声が上がった。
騒ぎ。
人の流れが揺れる。
「……ほら」
リオンが言う。
「行くんでしょ」
レティシアは、目を閉じて。
小さく息を吐いた。
「……ほんと、面倒くさい」
だが。
目を開く。
その視線は——もう決まっている。
「行くわよ」
「はいはい」
リオンが笑う。
「付き合う」
「来るなって言ってるでしょ」
「聞いてない」
「聞きなさい」
「無理」
即答。
次の瞬間。
二人は同時に走り出した。
悪友は、距離を詰める。
容赦なく。
そして——
逃げ場をなくしていく。




