表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/108

第74話「鐘楼へ続く道」

地下室を抜ける頃には、外は夕暮れに染まり始めていた。


誰も口数は多くない。

レティシアの腕には、布で包まれた名簿。

セドラスの手には、封印された手紙。

そして全員の頭の中には、同じ言葉が残っていた。


『――鐘が三度鳴る日、失われた名を戻す。』


ヴァレント家に向かう馬車の中。

静寂を破ったのはオスカーだった。


「兄上」

「何だ」

「結局さ」

オスカーは窓の外を眺めながら言う。

「アウレリア家って、悪人じゃなかったんだよな」

セドラスは少し考え、静かに答えた。

「少なくとも、今見つかっている資料はそう語っている」

「でも」

エルマーが続ける。

「誰かは真逆の歴史を残した」

「ああ」


その一言だけで十分だった。


歴史は書き換えられた。

名前だけではない。

真実そのものが消されていたのだ。


馬車が屋敷へ到着する。


その夜。


セドラスの書斎。

机の上には名簿、手紙、地図、そして中央広場の古い見取り図が並べられていた。


レティシアは名簿を静かに開いた。

一枚。

また一枚。

やがて、小さく息を止める。


「気になることがある」

全員が顔を上げた。

「名前を消された人は多い。でも」

紙をめくる。

「全員じゃない」

オスカーが身を乗り出す。

「本当だ」

エルマーも紙を見る。

「数人だけ残されている」

「なぜ?」


ルシアンが首を傾げる。


セドラスは眼鏡を押し上げた。


「消せなかったのではない」

「残した」

「わざと?」

レティシアは一人の名前を指差した。

「この人物だけ、何度も証人になっている」


その名は削られていない。

何枚もの記録に現れる。


「重要人物か」

オスカーが呟く。

「いや」

レティシアは首を振った。

「もっと違う」

「消す必要がなかった人物」


部屋が静まり返る。


セドラスが地図を広げた。

「こちらを見てくれ」


中央広場。

鐘楼。

アウレリア館。

地下室。

赤い線で結ばれている。


「一直線じゃない」

エルマーが言う。

「少しずれてる」

「その通り」


セドラスは机を軽く叩いた。


「この線は地上ではなく地下道を示している」

「地下道?」

ルシアンが驚く。

「王都建設初期の避難路だ」

「現在は存在しないことになっている」

オスカーが笑う。

「また『存在しない』か」

「最近その言葉ばっかり聞いてる気がする」

「存在しないことにされた、だ」

エルマーが訂正する。

「それだ」


オスカーは肩をすくめた。


レティシアは地図を見つめ続けていた。

頭の奥が疼く。

鐘楼。

地下道。

石畳。

何かを知っている。

そんな感覚だけが残る。


その時だった。


コンコン。


静かなノック。


執事が一枚の封筒を運んできた。


「セドラス様」

「中央広場の管理局からです」


全員の視線が集まる。


セドラスは封を切った。


中には短い文だけが書かれていた。


『鐘楼改修工事


明朝より地下点検開始』


沈黙。


オスカーが最初に口を開いた。

「兄上」

「ああ」

セドラスは頷く。

「時間がない」


レティシアは静かに立ち上がった。


「明日」

その瞳には迷いがなかった。

「鐘楼へ行く」


誰も反対しなかった。


真実はもう。


すぐそこまで迫っていた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ