第67話 「アウレリア館」
翌日。
王都の空は曇っていた。
オスカーは古い地図を広げたまま歩いていた。
「こっちだな」
「たぶんな」
隣を歩くエルマーが答える。
「たぶんじゃ困る」
「お前もたぶんだろう」
「そうだな」
二人は同時に頷いた。
後ろを歩くレティシアがため息を吐く。
「その会話で進むのやめてくれる?」
「お嬢、何言ってるの?進んでるって」
「進んでいるな」
「進んでないのよ」
即答だった。
ルシアンが笑う。
セドラスは慣れた顔をしていた。
本当に慣れていた。
王都中央部から少し外れた旧貴族街。
今では使われていない建物が並んでいる。
「兄上」
オスカーが足を止めた。
「ここだ」
全員の視線が向く。
石造りの大きな建物。
門は閉ざされている。
蔦が壁を覆っていた。
だが。
門柱には確かに何かがあった。
削られた跡。
エルマーが近づく。
手袋越しに石をなぞった。
「紋章だな」
「ああ」
オスカーも頷く。
「削られてる」
レティシアの胸がざわつく。
中央広場。
鐘楼。
そしてここ。
同じだった。
セドラスは地図を確認する。
「間違いない」
静かな声。
「アウレリア館だ」
沈黙。
風が吹く。
古びた門が小さく軋んだ。
オスカーが門へ近づいた。
「入るか」
「ああ」
エルマーも続く。
二人は当然のように前へ出た。
「待ちなさい」
セドラスの声。
双子が振り返る。
「先に周囲を確認しろ」
「はい」
「はい」
返事だけは良かった。
本当に良かった。
数分後。
異常なし。
そう判断した双子が門を開く。
重い音が響いた。
中庭は荒れていた。
草が伸び放題になっている。
噴水は止まり。
窓も割れていた。
長い間。
誰も住んでいない。
そんな空気だった。
だが。
エルマーが立ち止まる。
「オスカー」
「ああ」
二人は同じ場所を見ていた。
石畳。
そこだけ色が違う。
オスカーがしゃがみ込む。
指先で土を払った。
現れたのは。
小さな紋章。
レティシアが息を呑む。
中央広場のものと同じだった。
「残っていたか」
セドラスの目が細くなる。
だが。
それだけでは終わらなかった。
エルマーがさらに奥を見る。
館の入口。
割れた扉の向こう。
薄暗い廊下。
その先の壁。
「兄上」
声色が変わる。
全員が振り返る。
エルマーは壁を見ていた。
オスカーも立ち上がる。
「見つけたな」
「ああ」
壁には古い肖像画が掛かっていた。
埃を被っている。
だが。
一枚だけ。
不自然に綺麗だった。
誰かが最近触れたように。
沈黙。
レティシアの鼓動が速くなる。
セドラスが前へ出る。
慎重に埃を払った。
現れたのは。
金色の髪を持つ少女。
そして。
その顔を見た瞬間。
レティシアの呼吸が止まった。
「え……」
少女の顔は。
まるで。
髪の色だけが違った。
それ以外は。
幼い日のレティシアそのものだった。
書き込まれた名は一つ。
『アウレリア』
誰も言葉を発しなかった。




