第64話「知っていた人たち」
沈黙。
書斎に静寂が落ちる。
二十年前に消えた家。
その言葉だけが残った。
レティシアは資料を見る。
家名は切り取られている。
記録も不自然に抜けている。
まるで。
最初から存在しなかったように。
「どういうこと」
ようやく声を出した。
セドラスは資料を閉じる。
「そのままの意味だ」
穏やかな声。
「この家は消された」
レティシアの眉が寄る。
「そんなことができるの?」
「できる」
即答だった。
「権力があれば」
沈黙。
ルシアンが資料を見つめる。
オスカーは腕を組む。
エルマーは黙っている。
その反応を見て。
レティシアは嫌な予感がした。
本当にした。
「待って」
全員を見る。
「なんでそんなに落ち着いてるの?」
沈黙。
オスカー。
エルマー。
セドラス。
三人が顔を見合わせる。
レティシアの眉がぴくりと動いた。
「知ってたの?」
オスカーが答える。
「全部じゃない」
エルマーが続ける。
「だが予想はしていた」
レティシアが固まる。
「いつから?」
沈黙。
セドラスが言った。
「中央広場の報告を受けてからだ」
「昨日じゃない!」
即座にツッコミが飛ぶ。
ルシアンが吹き出した。
セドラスも少し笑う。
「正確には」
眼鏡の位置を直す。
「君が中央広場へ行く前からだ」
沈黙。
レティシアが止まる。
止まった。
本当に止まった。
「……は?」
オスカーが視線を逸らす。
エルマーが本棚を見る。
完全に見覚えのある反応だった。
「オスカー」
「はい」
「エルマー」
「はい」
「説明して」
二人は顔を見合わせる。
オスカーが言った。
「お嬢だから」
エルマーが頷く。
「ああ」
意味が分からない。
本当に分からない。
「説明になってない」
「なる」
「ならない」
「なる」
双子は真面目だった。
それが一番腹立たしい。
セドラスが笑う。
「君は昔からそうだろう」
レティシアが振り返る。
「何が」
「気になったら動く」
沈黙。
反論できない。
「そして面倒事を拾う」
オスカーが頷く。
「ああ」
エルマーも頷く。
「ああ」
「二人とも黙って」
ルシアンがまた吹き出した。
書斎の空気が少しだけ和らぐ。
だが。
セドラスは次の資料を開いた。
空気が変わる。
「冗談はここまでだ」
全員の表情が戻る。
机の上。
古い地図。
そして。
二十年前に消えた家の紋章。
セドラスはその一角を指差した。
「問題は」
静かな声。
「この家が消えた二十年前」
指先が止まる。
王都中央広場。
鐘楼の印。
そして。
もう一つ。
レティシアの呼吸が止まった。
そこに書かれていたのは。
見覚えのある名前だった。
沈黙。
セドラスが顔を上げる。
「ようやく繋がった」
誰も言葉を失う。
そして。
レティシアだけが。
その名前を見ていた。




