表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/108

第58話「思い出したくないもの」

逃げるべきだった。

淡雪シューが終わった時点で。

レティシアは心からそう思った。


「姉上」

「嫌」

「まだ何も言ってません」

「言う前から嫌」

即答だった。

ルシアンがため息を吐く。

最近。

義姉の扱いが少し分かってきた。

オスカーが笑う。

「成長したな」

「不本意です」

エルマーも頷いた。

「分かります」

「お前ら何で仲良くなってるの」

レティシアが呆れる。

三人は無視した。

酷かった。

本当に酷かった。


そして。


机の上。

古い本。

紋章。

失われた名。

全部そのまま。


逃げ場がない。

レティシアは立ち上がる。

「仕事がある」

「ありますね」

エルマーが即答する。

「訓練もある」

オスカーが笑う。

「図書室もあります」

ルシアンが静かに言った。

全員いた。

なぜか全員いた。


「帰って」

「無理」

「無理です」

「無理だな」

三方向から返された。

四面楚歌だった。


沈黙。


レティシアは諦めた。

少しだけ。

本当に少しだけ。

「……何が知りたいの」

その瞬間。

三人の目が変わった。


しまった。

口が滑った。

本当に滑った。

ルシアンが静かに本を開く。

「この紋章です」

ページを示す。

古い紋章。

その下。

失われた名。

レティシアの視線が止まる。


一瞬だけ。

本当に一瞬だけ。

景色が揺れた。


古い石畳。

冷たい風。

誰かの声。

遠くで鳴る鐘。

知らない。

はずだった。


沈黙。


気付けば。

指先が震えていた。


「姉上?」

ルシアンが呼ぶ。

レティシアは我に返った。

息を吐く。

「知らない」

またそれだった。

オスカーが言う。

「また知ってる時のやつ」

「黙って」

「二回目」

「黙って」

エルマーが小さく笑った。


珍しかった。

本当に珍しく。

少しだけ。

レティシアも気が抜ける。


でも。


次の瞬間。

視界の端。

紋章が映る。

頭の奥が痛んだ。

知らない。

知らないはずだ。

なのに。

何かが引っかかる。

思い出せそうで。

思い出したくない。


沈黙。


そして。

ぽつりと。

レティシアは呟いた。


「……鐘」

全員が止まる。

「何?」

オスカーが聞く。

レティシア自身も驚いていた。

なぜ今。

その言葉が出たのか。

分からない。

「鐘の音がした気がする」

静かな声。

ルシアンとエルマーが顔を見合わせる。

オスカーの笑みも消えていた。


初めてだった。

失われた名に繋がる記憶が。

ほんの少しだけ。

形を持ったのは。


窓の外で。

昼の鐘が鳴った。

その音に。

レティシアの肩がわずかに震えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ