表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/70

第55話「眠れなかった朝」

どこかで。

ずっと。

その感覚だけが残った。

レティシアは窓の外を見る。


夜。

誰もいない庭。

揺れる木々。

風。


それだけだった。

なのに。

視線だけが消えない。


沈黙。


机の上。

紋章。

そして。

――思い出せ。

短い言葉。


それが頭から離れなかった。


ベッドへ入ったのは、空が白み始めた頃だった。


だが。

眠れなかった。

結局。

一睡もできないまま朝になった。


朝。

公爵邸。


食堂。

「来ないな」

オスカーが言った。

エルマーも時計を見る。

朝食の時間は過ぎている。


レティシアが寝坊すること自体は珍しくない。


でも。

今日は違った。

「寝てないな」

エルマーが言う。

オスカーが頷く。

「だろうね」


昨夜の顔を思い出す。

紋章を見た時の顔。

あれは。

寝られる人間の顔じゃなかった。


沈黙。


オスカーが立ち上がる。

「行く?」

「行くか」

二人の意見は一致した。


どうせ起きている。

そう思った。

だが。

部屋へ向かう途中。

ふとオスカーが足を止める。

「今日」

「はい」

「金曜だ」


沈黙。

エルマーも止まる。

数秒。


「買うか」

「買う」

即答だった。


Fil(フィル) d’Argent(ダルジャン)


朝。


店の前には既に行列ができている。

王都でも有名な人気店。

そして。

金曜日限定。

淡雪シュー。


「お嬢なら並んでる」

オスカーが言う。

「普段なら」

エルマーが訂正した。

今日は来ない。

分かっていた。

昨夜の状態では。

来られるはずがない。


店内へ入る。

焼きたての香り。

甘い匂い。

淡雪みたいな白いクリーム。

「二箱」

エルマーが言う。

店員が笑った。

「またお嬢様ですか?」

「またです」

慣れた返答だった。


挿絵(By みてみん)


公爵邸。

朝。

レティシアの部屋。

ノック。

返事はない。

もう一度。

ノック。


沈黙。


オスカーが顔を見合わせる。

「入るよー」

返事はない。

扉を開ける。

そこには。

机に突っ伏したまま眠っているレティシアがいた。

机の上には紙。

紋章。

インク。

そして。

何度も描き直した跡。


オスカーが小さく息を吐く。

「やっぱり」

エルマーも黙る。

眠れなかった。

その事実だけは。

十分伝わった。


そして。

机の端。

一枚の紙。

そこに書かれた文字を見て。

二人の表情が変わった。


――思い出せ。


沈黙。


オスカーが低く呟く。

「……誰だよ」

初めてだった。

本気で笑わなかったのは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ