表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/111

第49話「煙の残り香」

夜風が、白煙をゆっくり攫っていく。

東通路側。

さっきまで混乱していた広場は、監察側と騎士団によって封鎖され始めていた。

濡れた石畳。倒れた荷車。散乱した果物。そして。

黒衣の男の死体。


「……趣味悪」

レオが低く吐き捨てる。

ユリウスは死体のそばへ膝をついたまま、男の手首を確認していた。

赤い印。

さっき見たものと同じ。


「補佐官」

監察側の男が低く声をかける。

「周辺確認終わりました。接触痕は複数ありますが、同一組織かはまだ——」

「分かっています」

ユリウスの返答は短い。

でも。

その目は、印から離れない。


レオは小さく舌打ちした。

嫌な空気だった。

まるで。“繋がっていく”。

「レオ、帰る?」

オスカーが軽く言う。

「帰りたい」

「珍しく即答」

「面倒だから」

「今日ずっと言ってるねぇ」

「誰のせい」

オスカーが肩を竦める。

エルマーは静かに周囲を見ていた。

「監察側、増えてます」

レオが視線だけ動かす。

確かに。

広場外周。黒外套が増えていた。

逃がさない配置。


「……最悪」

「本日最多更新?」

「オスカー」

「はいはい」

軽口。

でも。三人とも分かっていた。

今夜の監察側は、完全に“何か”を掴みかけている。

その時。

「レオでしたっけ」

静かな声。


レオの空気が変わる。

ユリウスだった。

監察官補佐は立ち上がり、静かにこちらを見る。

「何」

「少し確認を」

「嫌」

「即答ですね」

「面倒だから」

ユリウスが少しだけ目を細める。

オスカーが横で笑った。

「監察官殿、今日のレオ、機嫌悪いから」

「いつもでは?」

「今日は特に」

レオが睨む。

「オスカー」

「はいはい」

ユリウスは数秒だけ黙った。


それから。

「あなた、“どこで”気づきました?」

静かな声。

空気が止まる。

レオは視線を逸らさない。

「何に」

「北側の誘導です」


沈黙。


オスカーの笑みが少し薄れる。

エルマーの視線が鋭くなる。

ユリウスは続けた。

「騎士側も監察側も、北へ意識を向けていた」

「でもあなたは、中央を警戒していた」

「なぜです?」

レオは数秒だけ黙った。


それから。

「勘」

短い返答。

ユリウスの目が細くなる。

「それで片付く量じゃない」

「じゃあ才能」

「なお悪い」

オスカーが吹き出した。

「監察官殿、真面目だなぁ」

「仕事ですので」

「仕事人間」

ぼそり、とレオが言う。

ユリウスの視線が動いた。

「何です?」

「別に」


沈黙。


ほんの少しだけ。

ユリウスが息を吐いた。

「……本当に隠す気あります?」

「ないわけじゃない」

「でも下手ですよね」

オスカーが吹き出す。

「うわ、言った」

「監察官殿、ついに言った」

「事実でしょう」

レオが額を押さえる。


最悪。

本当に。

この男、どんどん遠慮がなくなっている。


その時。

「補佐官!」

監察側の男が再び駆け込んできた。

「回収物です!」

布に包まれた何かを差し出す。

ユリウスが受け取る。


古い金属片。

紋章のような。でも。

見たことのない印。


空気が変わる。

レオの目が細くなる。

ユリウスは、その反応を見逃さなかった。

「……知っている顔ですね」

静かな声。


レオは即座に視線を外した。

「知らない」

「今、空気変わりましたよ」

「気のせい」

「分かりやす」

「オスカー黙って」

でも。

遅かった。


ユリウスは静かにレオを見る。

逃がさない目。

読む目。

そして。

確信へ近づく目。

「……あなた」

低い声。

「何を知っているんです?」

夜風が吹く。

白煙の残り香だけが、静かに広場へ漂っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ