第47話「悲鳴の先」
東側。
悲鳴。
空気が、一気に崩れた。
「きゃああっ!!」
人波が揺れる。
逃げる。
押し合う。
騎士の怒声。
監察側の指示。
石畳を叩く足音。
レオの目が細くなる。
「……また?」
ユリウスが低く言った。
「第三地点」
沈黙。
オスカーが笑う。
「今日、休ませる気ゼロじゃん」
「最初からそんな空気なかった」
レオが即答する。
エルマーは、もう周囲を見ていた。
「東通路側、崩れてます」
「一般人が押される」
「騎士側の導線が詰まってる」
レオが舌打ちした。
最悪。
完全に、群衆事故になる流れだった。
ユリウスが即座に動く。
「第四班、北側から回せ」
「封鎖を広げるな」
「出口を作れ」
監察側が一斉に動き出す。
でも。
遅い。
人波が崩れる。
子どもの泣き声。
「っ……!」
レオの空気が変わった。
ユリウスが視線だけ向ける。
「あなた」
「分かってる」
次の瞬間。
レオが走った。
「うわ」
オスカーが笑う。
「行った」
「オスカー」
エルマーが低く言う。
「左」
「了解」
双子も動く。
群衆の隙間。
押し倒された屋台。
転んだ子ども。
レオが一気に飛び込む。
「下がって!」
低い声。
でも。
よく通る。
子どもを抱き上げる。
母親が息を呑む。
「西へ走って」
「騎士の列から離れるな」
即断。
迷いがない。
その動きを、ユリウスは静かに見ていた。
「……やっぱり」
小さな声。
その時。
群衆の奥。
黒い影が動いた。
レオの目が細くなる。
「いた」
男。
黒衣。
フード。
そして。
腕。
赤い印。
「レオ!」
オスカーの声。
次の瞬間。
黒衣の男が、
群衆へ小瓶を投げた。
ガシャンッ!!
白煙。
悲鳴。
「煙!」
「離れろ!!」
騎士が叫ぶ。
でも。
煙の中。
男は笑っていた。
「選ばれた」
低い声。
ぞわり、とした。
レオが地を蹴る。
速い。
煙を切る。
黒衣の男が振り返る。
その瞬間。
「っ——!」
短剣。
レオが身体を捻る。
避ける。
でも。
男は止まらない。
まるで、レオを確認するためだけにいるみたいだった。
「お前」
レオが低く言う。
「何者」
男が笑う。
「お前こそ」
次の瞬間。
エルマーが割り込んだ。
剣。
重い一撃。
男が後退する。
そこへ。
オスカー。
「はい、そろそろ終わりにしよっか」
軽い声。
でも。
短剣は急所へ向いている。
男が笑う。
「騎士」
「監察」
「読める側」
ぞわり、と空気が揺れた。
ユリウスが煙の向こうから現れる。
黒い外套。
冷たい目。
「その言葉を」
静かな声。
「誰から聞いた」
男が笑った。
「怖い?」
沈黙。
ユリウスの空気が、一瞬だけ鋭くなる。
でも。
次の瞬間。
男は、自分の口へ何かを押し込んだ。
「っ……!」
レオの目が変わる。
ユリウスが動く。
でも。
遅い。
男の口から血が落ちた。
崩れる。
沈黙。
オスカーが低く言う。
「またか」
エルマーが男を確認する。
「……死んでます」
広場の音が、また遠くなる。
ユリウスは数秒、
黙ったまま男を見下ろしていた。
それから。
静かに。
「……徹底してる」
レオが低く返す。
「どこの組織」
ユリウスは答えない。
でも。
その視線は、またレオへ向いていた。
完全に。
“探していた側”の目で。
レオは小さく舌打ちした。
最悪。
本当に。
面倒な夜が、終わる気がしなかった。




