第46話「追う者たち」
広場の空気は、重かった。
死人。
監察側。
騎士団。
そして。
“選ぶ側”。
その言葉だけが、場に黒く残っている。
レオは、小さく息を吐いた。
「……帰りたい」
「珍しく本音出た」
オスカーが即答する。
「今夜は特にな」
エルマーも低く返した。
ユリウスは、死んだ男を見下ろしていた。
感情は薄い。
でも。
さっきより、空気が鋭い。
監察側の男たちが慌ただしく動く。
「周囲封鎖!」
「接触者確認しろ!」
「印を探せ!」
広場が、一気に監察側の空気へ塗り替わる。
オスカーが小さく笑った。
「うわぁ」
「完全に監察モード」
「元から監察側です」
ユリウスが静かに返す。
「そういう意味じゃないんだけどねぇ」
軽口。
でも。
双子の目は笑っていない。
レオは視線だけ動かした。
監察側の動き。
騎士の配置。
逃走経路。
野次馬。
全部が、少しずつ“閉じて”いる。
「……面倒」
小さな舌打ち。
その時。
ユリウスが、静かにこちらを見た。
「あなた達」
レオの目が細くなる。
「何」
「帰るつもりですか」
沈黙。
オスカーが吹き出した。
「監察官殿、それ」
「だいぶ怪しい質問」
「怪しい人間に聞いていますので」
「うわ認めた」
レオが低く言う。
「誰が怪しい」
ユリウスは、数秒だけ黙った。
それから。
「少なくとも、“普通”ではない」
静かな返答。
最悪だった。
本当に。
この男、全部ギリギリを攻めてくる。
レオは腕を組む。
「監察側って」
「全員そんな性格悪いの?」
「人によります」
「補佐官殿は?」
オスカーが聞く。
ユリウスは少しだけ考えた。
「比較的、穏健です」
沈黙。
オスカーが腹を抱えた。
「今の聞いた!?」
「エルマー聞いた!?」
「この人、自分で穏健って言った!」
「オスカー」
エルマーが静かに言う。
「笑うとこじゃない」
「いや怖いって」
レオは小さく額を押さえた。
頭痛がする。
その時。
広場外周。
ざわ、と人波が揺れた。
ユリウスの空気が変わる。
「……またか」
低い声。
監察側の一人が駆け込んでくる。
「補佐官!」
「東通路側で暴動です!」
「規模は」
「不明!」
「ですが、騎士側が数名負傷!」
空気が張る。
ユリウスは即座に動いた。
「第三班を東へ」
「封鎖は維持」
「騎士側へ伝達を」
迷いがない。
完全に、仕事人間だった。
オスカーが小さく呟く。
「……うわ」
「本当に止まんないね」
レオは黙ったまま、ユリウスを見る。
この男。
疲れるとか、ないのか。
そんな視線に気づいたのか。
ユリウスが、一瞬だけこちらを見た。
「あなた達も」
静かな声。
「巻き込まれたくなければ、帰った方がいい」
レオは即答した。
「もう遅いでしょ」
沈黙。
ユリウスが、ほんの少しだけ目を細める。
「……そうですね」
その瞬間だった。
遠く。
東側。
悲鳴が響いた。




