第45話「選ぶ側」
広場の空気は、まだ張り詰めていた。
取り押さえられた男。
監察側。
騎士団。
ざわめく野次馬。
その中心で。
レオは、静かにユリウスを睨んでいた。
「……いつまで見てる」
低い声。
ユリウスは少しだけ目を細める。
「あなたが、“普通”の反応をするまでです」
「無理難題」
オスカーが吹き出した。
「監察官殿、それレオに求めるの無茶」
「オスカー」
「はいはい」
軽い返答。
でも。
双子の空気は、もう完全に戦闘後のものだった。
周囲を見ている。
騎士の配置。
監察側の動き。
野次馬の流れ。
そして。
“次”。
エルマーが低く言う。
「監察側、増えてます」
レオが視線だけ動かす。
確かに。
広場外周。
黒い外套が増えていた。
監察側。
しかも。
「囲ってるねぇ」
オスカーが笑う。
「逃がさない配置」
ユリウスは否定しない。
「危険人物がいますので」
「誰のこと」
レオが即答する。
ユリウスが静かに視線を返した。
「さて」
最悪だった。
本当に。
この男、全部言わない。
でも。
全部見ている。
レオは小さく舌打ちした。
その時。
「補佐官!」
監察側の男が駆け込んできた。
息が荒い。
「西路地側です! 同じ印が!」
空気が変わる。
ユリウスの目から、一瞬で温度が消えた。
「詳細を」
短い声。
監察官補佐の顔だった。
もう。
レオをからかっていた空気はない。
オスカーが小さく呟く。
「切り替え早」
「仕事人間なので」
エルマーが静かに返す。
レオは黙ったまま、拘束された男を見る。
男は笑っていた。
気味が悪いくらい。
「……何がおかしい」
レオが低く問う。
男の目が動く。
真っ直ぐ。
レオを見る。
「見つけた」
静かな声。
でも。
ぞわり、とした。
「あんた」
男が笑う。
「“読める側”だろ」
沈黙。
周囲の騎士たちが顔を上げる。
監察側も止まる。
ユリウスだけが、静かに男を見ていた。
「続けてください」
男は笑う。
「やっと見つけた」
「ずっと探してた」
レオの目が細くなる。
嫌な感じだった。
まるで。
“探されていた”。
その言葉自体が。
「……誰に」
低い声。
男の口角が上がる。
「選ぶ側に」
空気が止まった。
その瞬間。
ユリウスが動いた。
男の顎を掴む。
「それ以上喋るな」
静かな声。
でも。
初めてだった。
この男が、感情を見せたのは。
男は笑う。
「監察側も知らないのか」
「かわいそうに」
次の瞬間。
男の口から血が落ちた。
「っ……!」
オスカーの空気が変わる。
エルマーが即座に男を押さえる。
でも。
遅い。
男は笑ったまま、
崩れ落ちた。
沈黙。
広場から音が消える。
ユリウスが低く言う。
「毒」
レオの目が細くなる。
「口封じ?」
「ええ」
短い返答。
でも。
ユリウスの視線は、
死んだ男ではなく。
レオへ向いていた。
完全に。
“見つけた側”の目だった。
レオは小さく息を吐く。
最悪。
本当に。
面倒な方向へ転がり始めていた。




