第44話「見つけた」
飛んできたのは、細身の投げ短剣だった。
柄は短く、刃は薄い。
光を受けた銀だけが、一直線にレオへ走る。
速い。
一直線。
狙いは、完全にレオだった。
「っ——!」
オスカーが地を蹴る。
でも。
間に合わない。
レオの目が細くなる。
避ける。
そう判断した瞬間。
——ガンッ!
金属音。
銀が弾かれた。
視界の端。
黒い外套。
「……は?」
レオが思わず止まる。
ユリウスだった。
監察官補佐は、いつの間にか一歩前へ出ていた。
片手の短剣で、飛来した刃を弾いている。
沈黙。
広場の空気が、一瞬止まった。
オスカーが目を丸くする。
「うわ」
エルマーの目が細くなる。
レオは数秒、完全に固まった。
そして。
「……何してる」
低い声。
ユリウスは刃を払った。
「死なれると困るので」
静かな返答。
でも。
その目は、完全に“読めている側”だった。
「監察官が前出る?」
レオが低く吐き捨てる。
「騎士の仕事でしょ」
「騎士が間に合わなかった」
オスカーが吹き出した。
「うわ、煽る〜」
「事実です」
軽い。
でも。
ユリウスの視線は、もう投擲した男へ向いている。
男は舌打ちした。
「……邪魔だ」
次の瞬間。
男が走る。
逃走。
「エルマー!」
レオが低く呼ぶ。
「ええ」
短い返答。
エルマーが動く。
踏み込み。
一瞬で距離を詰める。
重い。
騎士としての正面突破。
男が振り返る。
短剣。
でも。
遅い。
エルマーの剣が、男の武器ごと弾き飛ばした。
金属音。
「っ……!」
男の体勢が崩れる。
そこへ。
オスカー。
「はい終了〜」
軽い声。
でも、首筋へ短剣が添えられている。
完全制圧。
広場がざわつく。
野次馬。
騎士。
監察側。
全員、今の動きを見た。
レオは小さく舌打ちした。
最悪。
目立った。
しかも。
かなり。
「レオ」
オスカーが軽く呼ぶ。
「視線やばい」
「分かってる」
低く返す。
今の動き。
普通じゃない。
特に。
ユリウス。
あの男、完全に見ていた。
レオは視線を向ける。
ユリウスは、静かにこちらを見ている。
追及はしない。
でも。
逃がさない目。
「……面倒」
レオが吐き捨てる。
オスカーが笑った。
「本日最多更新おめでとうございます」
「黙って」
ユリウスが、そこで小さく口を開いた。
「あなた」
静かな声。
レオの空気が変わる。
「何」
短い返答。
ユリウスは数秒、レオを見る。
黒髪。
立ち方。
視線。
全部を確認するみたいに。
それから。
「避ける前提で動きましたね」
沈黙。
オスカーが吹き出しかける。
エルマーが静かに目を閉じた。
レオは無表情だった。
でも。
内心では、かなり舌打ちしたかった。
最悪。
本当に、見ている。
「何の話」
レオが低く返す。
ユリウスは少しだけ目を細めた。
「いえ」
静かな声。
「普通の人間は、あの速度で飛来物を見切りません」
空気が止まる。
周囲の騎士たちが、わずかにこちらを見る。
レオは視線を逸らさない。
でも。
ユリウスも逸らさない。
まるで。
互いに、どこまで踏み込むか測っているみたいだった。
その時。
「監察官殿」
オスカーが軽く割って入る。
「それ、尋問? 口説き文句?」
沈黙。
レオが思わずオスカーを見る。
エルマーが小さく息を吐く。
ユリウスは数秒だけ黙った。
それから。
「尋問です」
静かな返答。
でも。
否定が遅かった。
オスカーが吹き出す。
「否定の方向そこなんだ」
「オスカー」
レオの声が低い。
「怒ってる?」
「黙れって言ってる」
「はいはい」
軽口。
でも。
その軽さのおかげで、張り詰めた空気が少しだけ崩れる。
ユリウスは小さく息を吐いた。
それから。
「……本当に面倒ですね」
静かに言った。
レオの目が細くなる。
「それ、こっちの台詞」
ユリウスが、そこでほんの少しだけ笑った。




