第43話「選ばれる条件」
空気が、止まった。
「“読める人間”が、選ばれ始めています」
ユリウスの声は静かだった。
でも。
その一言だけで、広場のざわめきが遠くなる。
レオは黙ったまま、ユリウスを見る。
監察官補佐は、こちらを試している。
どこまで理解しているか。
何に気づいているか。
そして。
“こちら側”かどうか。
「……面倒」
レオが低く吐き捨てる。
オスカーが吹き出した。
「また更新した」
「うるさい」
「今日ほんと機嫌悪いねぇ」
「誰のせいだと思ってる」
「監察官殿?」
「半分正解」
ユリウスが少しだけ目を細めた。
笑ったのか。
呆れたのか。
分からない。
それがまた、面倒だった。
「選ばれるって、どういう意味?」
オスカーが軽い声で問う。
でも。
その目は笑っていない。
ユリウスは広場を見る。
血。
荷車。
騎士。
人流。
全部を確認するように。
「簡単です」
静かな声。
「“見える人間”を炙り出している」
レオの目が細くなる。
「違和感に気づく人間」
「異常な流れを読む人間」
「誘導を察知する人間」
ユリウスは続ける。
「つまり、“盤面を見る側”です」
沈黙。
オスカーの笑みが薄れる。
エルマーは静かに周囲を警戒したまま、
ユリウスを見る。
レオは低く問う。
「……何のために」
ユリウスは数秒だけ黙った。
それから。
「まだ分かりません」
静かな返答。
でも。
レオは気づく。
この男。
“全部は分かっていない”。
だから止まっていない。
理解しきれていないからこそ、追っている。
その姿が、少しだけ自分に似ている。
レオは小さく舌打ちしたくなった。
「で?」
レオが低く言う。
「監察側は何人選ばれた」
ユリウスの視線が動く。
ほんの少しだけ。
「……三人」
少ない。
でも。
その数字が逆に嫌だった。
「騎士側は?」
「まだ不明です」
「つまり把握しきれてない」
「ええ」
ユリウスはあっさり認めた。
オスカーが小さく笑う。
「珍しいね」
「何がです?」
「監察官殿って、もっと“全部分かってます”顔するタイプかと思ってた」
ユリウスは少しだけ沈黙した。
それから。
「分からないから、見ているんです」
静かな声だった。
レオは、その瞬間だけ目を逸らした。
最悪。
本当に面倒な男だ。
「レオ」
エルマーが低く呼ぶ。
視線だけ向ける。
「西側」
レオの目が変わる。
人の流れ。
不自然。
ざわつき方が違う。
「……動いた」
オスカーの声から軽さが消える。
広場の端。
一人の男が、
人混みを逆走している。
逃げている。
でも。
「違う」
レオが低く言う。
「逃げてない」
沈黙。
ユリウスの目が細くなる。
レオは男を見る。
走り方。
視線。
焦り。
そして。
“確認している”。
誰がいるか。
誰が動くか。
「炙り出す側」
静かな声。
次の瞬間。
男の目が、真っ直ぐレオを捉えた。
空気が止まる。
男が笑う。
「見つけた」
嫌な声だった。
その瞬間。
オスカーが動く。
「レオ!」
叫ぶより早い。
男が懐へ手を入れる。
短剣。
違う。
小さい。
「投げ——」
レオの言葉より先に、男が腕を振った。
飛ぶ。
銀。
一直線。
ユリウスの目が見開かれる。
狙い。
それは。
——レオだった。




