第41話「本命」
「“本命”は別だ」
レオの声が落ちる。
北側の火。
煙。
爆発。
黒装束。
全部、
派手すぎた。
見せるための騒ぎ。
「中央……?」
オスカーが低く言う。
レオは即答しない。
でも、
頭の中ではもう線が繋がっている。
北側へ視線を集める。
監察側を動かす。
騎士団を散らす。
その上で。
“誰か”を選ぶ。
「……ユリウスは気づいてる」
レオが低く言う。
「たぶん、途中までは」
エルマーが煙の向こうを警戒したまま問う。
「途中?」
レオの目が細くなる。
「“選別”までは読んでる。でも——」
その時。
遠く。
鐘の音が響いた。
重い音。
北側ではない。
中央側。
三人の空気が変わる。
オスカーの笑みが消える。
エルマーの視線が鋭くなる。
レオは小さく舌打ちした。
「やっぱり」
黒装束が笑う。
「遅かったな」
次の瞬間。
煙の中へ下がる。
逃走。
「逃がす?」
オスカーが問う。
レオは数秒だけ考えた。
追えば捕まえられる。
でも。
「切る」
短い返答。
「中央へ戻る」
エルマーが即座に頷く。
オスカーは軽く息を吐いた。
「だと思った」
三人が同時に動く。
その瞬間。
黒装束の一人が、最後に小さく笑った。
「選ばれたのは、お前たちじゃない」
レオの目が細くなる。
嫌な言い方だった。
まるで。
“本命”を知っているみたいな。
「レオ!」
エルマーの声。
レオは即座に意識を切り替えた。
今は追う場面じゃない。
戻る。
判断は速い。
三人が倉庫街を抜ける。
夜風。
煙。
火の粉。
そして。
中央側から響く、
ざわめき。
「人の流れが変わってる」
オスカーが低く言う。
さっきまで北へ向かっていた視線が、
今は中央へ戻っている。
つまり。
向こうで、
“何か”が起きた。
「面倒」
レオが吐き捨てる。
「本日最多記録更新?」
「うるさい」
軽口。
でも、
三人とも速度は落ちない。
その時だった。
屋根の上。
影。
レオの目が動く。
「……っ」
誰かいる。
黒装束ではない。
細身。
長い外套。
静かな立ち方。
月明かりの下。
その男は、
こちらを見ていた。
「……ユリウス」
レオが低く呟く。
監察官補佐は、
屋根の上から静かに三人を見下ろしていた。
追ってきたのか。
それとも。
最初から読んでいたのか。
ユリウスは何も言わない。
ただ。
静かに中央側を見る。
その横顔を見た瞬間。
レオは理解した。
——知っている。
あの男、
もう“本命”へ辿り着いている。
「最悪」
レオが低く吐く。
オスカーが小さく笑った。
「今日、それ何回目?」
「数える余裕あるなら走りなさい」
「はーい」
軽い返事。
でも、
オスカーの目から笑みは消えている。
エルマーが静かに言った。
「レオ」
「なに」
「監察官殿、止めますか」
レオは数秒だけ黙った。
ユリウスを止める。
それはつまり。
“知られたくない側”として動くこと。
でも。
今のユリウスは、
もうそこじゃない。
レオは小さく息を吐いた。
「……無理」
「珍しいですね」
エルマーが静かに返す。
レオは視線を上げた。
屋根の上。
ユリウスが、
こちらを見ている。
追及する目ではない。
読む目。
全部を繋げようとしている目。
「今のあの人、止まらない」
静かな声だった。
その瞬間。
ユリウスが、
ほんの少しだけ目を細めた。
まるで。
聞こえたみたいに。




