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干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


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35/70

第34話「観察者は空気を読む」

ユリウス・ヴァン・クロイツが庭園に姿を現した瞬間、そこにあった空気は、綺麗に二つに割れた。

片側には、陽射しと紅茶と焼き菓子。

もう片側には、監察官補佐という肩書きが連れてくる、静かな緊張。

ほんの数秒前まで、レティシアは処理能力不足に陥っていた。

カイゼルの言葉。

シャルロットの失言。

オスカーの笑い。

エルマーの冷静な追撃。

庭園は完全に、恋愛喜劇の現場だった。

だが今、レティシアは背筋を伸ばし、何事もなかったかのように微笑んでいる。

完璧な公爵令嬢。

柔らかく、品よく、隙がない。

その切り替わりを、ユリウスは見逃さなかった。


「失礼いたします」

ユリウスは静かに一礼した。

濃い色の上着。

整えられた髪。

穏やかな声。

だが、その目だけは柔らかくない。

見る。

拾う。

並べる。

そういう目だった。

「突然の訪問をお許しください、レティシア様」

「構いませんわ」

レティシアは微笑む。

「ちょうど、賑やかなお茶の時間でしたもの」

「そのようですね」

ユリウスの視線が庭園をゆっくり巡る。

大量の菓子箱。

半分閉じられた箱の蓋。

赤くなったままのシャルロット。

笑いを噛み殺しているオスカー。

静かすぎるエルマー。

王族の顔に戻ったカイゼル。

そして、完璧な微笑みを浮かべるレティシア。


ユリウスは、わずかに目を細めた。

「……なるほど」

「何がですの?」

シャルロットが思わず聞いた。

ユリウスは穏やかに答える。

「空気を読んだだけです」

オスカーが、噴き出しそうになって口元を押さえた。

レティシアは微笑んだまま、内心で思う。

最悪。

この男、全部見た。

全部ではないかもしれない。

けれど、見なくていいところを、確実に拾った。


「監察官補佐殿」

先に口を開いたのはカイゼルだった。

声は穏やかだ。

だが、そこには先ほどまでレティシアへ向けていた柔らかさはない。

「今日は何の用だ?」

「仕事です」

ユリウスは短く答えた。

「中央区の件について」

その言葉で、庭園の空気が変わる。

シャルロットが一瞬だけ不安そうに瞬きをした。

オスカーの笑みが少し薄くなる。

エルマーは黙ったまま、紅茶を置いた。

レティシアだけは微笑んだままだった。

「中央区」

「はい」

ユリウスは視線をレティシアへ戻す。

「昨日の騒動について、いくつか確認したいことがありまして」

「私に?」

「ええ」

「私が、何かお役に立てるかしら」

「お役に立つかどうかは、伺ってみなければ分かりません」

丁寧な言葉。

穏やかな声。

しかし、その言い方は逃げ道を一つずつ塞いでくる。

アレクシスのような甘い圧ではない。

カイゼルのような包む圧でもない。

ユリウスのそれは、刃物で薄紙を一枚ずつ剥がしていくようなものだった。


レティシアは、静かに紅茶を置いた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

ユリウスは席を勧められても、すぐには座らなかった。

そのかわり、庭園に立ったまま、穏やかに言う。

「最近、“レオ”の動きが少し変わりました」

シャルロットが小さく反応した。

「レオ様?」

「ご存じですか?」

ユリウスが視線を向ける。

シャルロットは素直に頷いた。

「王都で噂の方ですわよね。困っている人を助ける、少し軽い雰囲気の、けれど頼りになる殿方だと」

「なるほど」

ユリウスは微笑む。

「令嬢方の間でも噂になるほどですか」

「それはもう」

シャルロットは少し身を乗り出した。

「だって、まるで物語の登場人物みたいですもの。ふらりと現れて、さらっと助けて、名乗りもせずに去るなんて」

「名乗ってますわよね?」

レティシアがつい言った。

一瞬。

ユリウスの視線が、ぴたりと止まった。

しまった。

オスカーの笑みが凍る。

エルマーは目を伏せる。

カイゼルは何も言わない。

シャルロットだけが不思議そうに首を傾げた。

「え? でも、レオ様としか……」

「噂で聞いただけですわ」

レティシアは微笑む。

「お名前が知られているのなら、名乗っているのではと思っただけ」

「そうですか」

ユリウスは穏やかに頷いた。

だが、絶対に拾った。

レティシアは心の中で舌打ちした。

やりにくい。

非常にやりにくい。


「そのレオですが」

ユリウスは話を戻す。

「以前より、選ぶようになりました」

「選ぶ?」

シャルロットが聞く。

「ええ」

ユリウスはゆっくりと言葉を置いた。

「誰を先に助けるか」

「どこを切るか」

「何を後回しにするか」

静かな声。

「以前の彼は、もう少し衝動的だったように思います」

オスカーが軽く笑った。

「へえ。監察官補佐殿、ずいぶん詳しいんだね」

「仕事ですので」

「噂の市井の男を観察するのも?」

「市井で騒動が起これば、観察対象になります」

「なるほどねえ」

オスカーは笑っている。

けれど、目は笑っていない。

レティシアはそれを横目で見た。

オスカーは、いつものように軽く見える。

だが、危険な会話になると、彼は一番早く反応する。

笑いながら近づき、笑いながら遮り、笑いながら逃げ道を作る。

その気配を、ユリウスも感じ取ったのだろう。

わずかに、視線がオスカーへ向いた。


「あなたは、レオという人物をどう見ていますか?」

「俺?」

オスカーは肩をすくめる。

「便利な人だよね」

「便利?」

「困った時に出てくる。面倒ごとを拾う。で、だいたい周りが騒ぐ」

「随分と具体的ですね」

「噂で聞いた話」

「なるほど」

ユリウスは微笑んだ。

「皆様、よく噂をご存じだ」

嫌な言い方である。


レティシアは紅茶に手を伸ばした。

カップを持つ指先は、揺れていない。

揺らしてはいけない。

「監察官補佐様」

シャルロットが、少し困ったように言う。

「レオ様が何か、悪いことをなさったのですか?」

その問いに、ユリウスはすぐには答えなかった。

庭園に、一拍の静けさが落ちる。

「いいえ」

やがて、ユリウスは穏やかに言った。

「少なくとも、今のところは」

「今のところ?」

「彼は人を助けている」

ユリウスは言う。

「ですが、人を助ける者が、常に危うくないとは限りません」

レティシアの指が、ほんの少し止まった。

カイゼルがそれを見る。

エルマーも。

オスカーも。

ユリウスは続けた。

「誰かを助けるために、自分の限界を無視する人間はいます」

一拍。

「そして、そういう人間は、たいてい壊れるまで止まらない」

庭園の空気が、静かに冷える。

シャルロットが黙った。

先ほどまでの恋愛喜劇の顔ではない。

彼女にも分かったのだろう。

これは、ただの噂話ではない。


「ですが」

ユリウスは、少しだけ目を細めた。

「最近の彼は、止まることを覚えたように見える」

レティシアは微笑む。

「それは良いことではなくて?」

「ええ」

ユリウスは頷いた。

「良いことです」

そして、穏やかに問いを置く。

「何が、彼をそう変えたのでしょうね」

沈黙。

それは、レティシアへ向けられた問いだった。

けれど、直接ではない。

シャルロットがいる。

カイゼルがいる。

双子がいる。

だからこそ、ユリウスは断定しない。

疑いではなく、観察。

探るのではなく、並べる。

その姿勢がかえって厄介だった。

レティシアは微笑みを深めた。

「人は、いつでも変わるものですわ」

「ええ」

「経験を重ねれば、誰でも少しは慎重になります」

「そうですね」

「なら、その方も成長されたのでは?」

ユリウスは、数秒だけ黙った。

そして小さく笑う。

「自然なご意見です」

「でしょう?」

「はい」

ユリウスの目が、ほんの少しだけ鋭くなる。

「とても、自然です」

嫌な間だった。

レティシアは内心でため息をつく。

自然と言われるほど、不自然に聞こえる。


「監察官補佐殿」

カイゼルが静かに口を開いた。

「それで、中央区の件とレオの変化に、何の関係がある?」

ユリウスは視線をカイゼルへ移す。

「昨日の騒動は、偶発ではありません」

「根拠は?」

「人の流れです」

ユリウスは答えた。

「騒ぎが起きた場所、逃げた者の進路、群衆の動き。すべてが自然に見えて、少しずつ誘導されている」

オスカーの表情から笑みが消えた。

エルマーも、目を上げる。

レティシアは黙ったまま聞く。

「つまり?」

カイゼルが問う。

「昨日の騒動は、誰かが“反応を見るため”に起こした可能性があります」

「反応?」

シャルロットが小さく呟く。

ユリウスは頷いた。

「誰が動くか」

「誰が止めるか」

「どこに人が集まるか」

「どの道が空くか」

ひとつずつ。

言葉が置かれるたび、庭園の空気が重くなる。

「そして、そこにレオが現れた」

「偶然では?」

レティシアが微笑んだまま言う。

「ええ」

ユリウスは否定しない。

「偶然かもしれません」

一拍。

「ですが、偶然が続くと、人はそれを確認したくなる」

その言葉に、レティシアは目を細めた。

「監察官らしいお考えですわね」

「疑いは、先入観です」

ユリウスは穏やかに言った。

「観察は、確認です」

静かな声。

だが、その台詞だけが、やけにはっきり庭園に落ちた。


シャルロットが息を呑む。

オスカーは笑わない。

エルマーは、ほんの少しだけ前に出ていた。

ユリウスはそれも見た。

当然のように。

「……なるほど」

「また“なるほど”ですか」

オスカーが軽く言う。

「口癖?」

「観察結果が増えた時に出ます」

「嫌な口癖だなあ」

「よく言われます」

「でしょうね」

オスカーが笑う。

その笑いが、少しだけ場の温度を戻した。

シャルロットがほっと息を吐く。

レティシアも紅茶を口に運ぶ。

だが、ユリウスの視線はまだ引いていない。

「レティシア様」

「はい」

「あなたは、レオという人物をどう思われますか?」

来た。

レティシアは、カップを置いた。

カイゼルの視線が静かに向く。

エルマーは無言。

オスカーは、今度は口を挟まない。

シャルロットは不安そうにレティシアを見る。

レティシアは、完璧な令嬢の微笑みで答えた。

「困っている方を助けるのなら、善良な方なのでしょう」

「それだけですか」

「ええ」

「危ういとは?」

「善意には、危うさが付き物ですわ」

ユリウスの目が少し細くなる。

レティシアは続ける。

「優しいだけでは、誰かを守り切れないこともあります」

庭園が静かになる。

その言葉は、少しだけ重かった。

シャルロットが目を瞬く。

オスカーがレティシアを見る。

エルマーも。

カイゼルも。

ユリウスだけが、薄く笑った。

「興味深いお考えですね」

「そうかしら」

「ええ」

「令嬢としての一般論ですわ」

「一般論にしては、実感がある」

嫌な男である。

レティシアは心の中で断言した。

ユリウスはさらに一歩踏み込む。

「では、レオが今後、優しさだけでは選べない場面に立った時」

一拍。

「あなたなら、彼に何と言いますか?」

空気が止まった。

それは、問いではない。

試しだ。

レティシアは数秒、黙った。

言葉を選ぶ。

令嬢として。

レオを知らない者として。

けれど、自分自身を裏切らないように。


やがて、静かに言った。

「全部を助けようとするな、と」

ユリウスの目が、わずかに動いた。

「理由は?」

「全部を救えると思い上がった瞬間、人は一番近くのものを見落とします」

レティシアは微笑む。

「守るためには、選ばなければならない時もありますわ」

シャルロットは黙っていた。

カイゼルの目が、静かにレティシアを見ている。

オスカーは笑っていない。

エルマーは、目を伏せた。

ユリウスはしばらく何も言わなかった。

そして、ゆっくり口を開く。

「レオが聞いたら、参考にするでしょうね」

「お会いする機会があれば、そうお伝えください」

レティシアは完璧に微笑んだ。

「私は、市井の噂の方とは面識がありませんので」

ほんの一瞬。

オスカーが視線を逸らした。

笑いを堪えたのではない。

危ないと思ったのだ。

ユリウスは、その小さな動きも見た。

だが何も言わない。


「承知しました」

彼は静かに頭を下げる。

「では、そのように」

「ええ」

会話は終わった。

少なくとも、表面上は。

だが庭園には、まだ緊張が残っていた。

シャルロットが小さく息を吐く。

「……監察官補佐様のお仕事って、大変ですのね」

「そう見えますか?」

「はい」

シャルロットは正直に頷いた。

「常に人を疑っているみたいで」

ユリウスは少しだけ笑った。

「疑ってはいません」

「では?」

「観察しているだけです」

「それは、違いますの?」

「違います」

即答だった。

ユリウスは穏やかに言う。

「疑いは、答えを決めてから見ることです」

一拍。

「観察は、答えを決めないために見ることです」

シャルロットは、少しだけ黙った。

「……難しいですわ」

「ええ」

ユリウスは頷く。

「だから、よく嫌われます」

オスカーが小さく笑った。

「自覚あるんだ」

「あります」

「じゃあ直せば?」

「仕事に支障が出ます」

「嫌な仕事だなあ」

その軽口に、少しだけ空気が緩む。

しかし、レティシアは緩まなかった。

この男は危険だ。

敵ではない。

少なくとも今は。

だが、近くに置くには厄介すぎる。


「それで」

カイゼルが言う。

「昨日の騒動について、監察側はどう動く?」

「人の流れを追います」

ユリウスは答えた。

「特に、騒動が起きた直後に姿を消した者たちを」

「目星は?」

「いくつか」

「共有できるか」

「必要な範囲であれば」

カイゼルとユリウスの間に、王族と監察官補佐の空気が流れる。

レティシアは黙って聞いた。

レオとしてなら、すぐに動きたい。

だが今は、レティシアだ。

公爵令嬢として座っている。

しかも、シャルロットがいる。

情報は選ばなければならない。

言葉も。

動きも。

「レティシア様」

ユリウスが、ふいに声を向けた。

「何か?」

「今日は、お身体を休められた方がよろしいかと」

レティシアは微笑んだ。

「まあ。監察官補佐様にまでご心配いただくなんて」

「心配というより、観察結果です」

「何を観察されたのかしら」

「あなたは」

ユリウスは淡々と言った。

「休むのが下手そうです」


沈黙。

オスカーが吹き出した。

シャルロットも口元を押さえる。

エルマーは深く頷いた。

「正確です」

「エルマー?」

「否定できません」

「あなたは私の味方では?」

「味方だから言っています」

カイゼルも静かに頷いた。

「休め、レティー」

「命令が増えた」

「必要だからな」

「全員で私を休ませようとしないで」

「休まないからでは?」

ユリウスが穏やかに刺した。

レティシアは、にこりと微笑んだ。


「監察官補佐様」

「はい」

「観察しすぎる方は嫌われますわよ」

「先ほど申し上げました」

「自覚があるなら控えてくださいませ」

「善処します」

「しない人の返事ですわね」

「よく言われます」

本当に嫌な男である。

だが、そのやり取りで、庭園の空気が少しだけ戻った。

シャルロットがほっとしたように笑う。

「でも、安心しましたわ」

「何が?」

レティシアが聞く。

「レティシア様は、やっぱりレティシア様です」

「どういう意味」

「完璧なのに、こういう時だけ少し負けず嫌いですわ」

「失礼ね」

「褒めています!」

「褒め方を学んで」

オスカーが笑う。

「シャル、だいぶお嬢の扱い分かってきたね」

「ええ。最近、少しだけ」

「分からなくていい」

レティシアは即答した。


その時だった。

庭園の外から、足音がした。

軽いものではない。

整えられた、速い足音。

使用人ではない。

オスカーの表情が、すっと変わる。

エルマーが先に立ち上がった。

カイゼルも視線を向ける。

ユリウスの目が、細くなる。

一瞬遅れて、レティシアも気づいた。

騎士の足音だ。

庭園の入口に、アルヴェール家の使用人が現れる。

その後ろに、王都騎士団の伝令が一人。

伝令はカイゼルとユリウスを見て、即座に膝をついた。

「失礼いたします」

声が硬い。

「カイゼル殿下。ユリウス・ヴァン・クロイツ様」

一拍。

「西区にて、複数の騒動が発生しました」

空気が落ちた。

先ほどまでの紅茶の香りが、遠くなる。

シャルロットが息を呑む。

レティシアは、何も言わなかった。

だが、カップを置く音だけが、やけに静かに響いた。

ユリウスが短く問う。

「規模は」

伝令は一瞬だけ、周囲を見た。

レティシア。

シャルロット。

そして、庭園の席。

詳細を話すには、人が多い。

その迷いを、エルマーが即座に拾った。

「シャルロット様」

静かな声。

「申し訳ありません。ここから先は、少し物騒な話になります」

シャルロットは目を見開いた。

「私、席を外した方がよろしいですのね」

「はい」

エルマーは穏やかに頷く。

「安全のためです」

シャルロットは一瞬だけレティシアを見た。

不安そうに。

けれど、すぐに背筋を伸ばす。

「分かりましたわ」

そして、小さくレティシアへ言った。

「レティシア様」

「何?」

「……無茶は、なさらないでくださいませね」

その言葉に、レティシアは微笑んだ。

完璧に。

「私は庭園でお茶をしているだけですわ」

シャルロットは、その言葉を信じたのか。

信じたかったのか。

少しだけ眉を寄せてから、一礼して席を離れた。

彼女の背中が庭園の向こうへ消えるまで、誰も詳細を口にしなかった。

ユリウスは、その沈黙すら観察していた。


やがて、シャルロットの気配が遠ざかる。

エルマーが静かに振り返った。

「続けてください」

伝令が息を整える。

「西区にて、火災、暴動、物資襲撃が、ほぼ同時刻に発生しています」

沈黙。

オスカーが、笑わない声で呟いた。

「……露骨だね」

ユリウスの目が細くなる。

「分散させる気か」

カイゼルの声も低くなる。

「被害は」

「現在確認中です。ただし、誘導の可能性があります」

レティシアは黙っていた。

けれど、その目からは、先ほどまでの熱が消えている。

完璧令嬢の顔でもない。

干物の顔でもない。

何かを選ぶ時の顔だった。

全部は無理。

なら、選ぶしかない。

ユリウスが、ふとレティシアを見る。

その一瞬を、カイゼルが見た。

エルマーも。

オスカーも。

誰も何も言わない。

けれど全員が、同じことを理解していた。

レティシアは、休めない。

いや。

休まない。

伝令の報告が続く中、レティシアは静かに庭園の外へ視線を向けた。

面倒ごとは、いつも突然やってくる。

でも今回は。

向こうから来たというより、こちらを試しに来たような気がした。

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