第28話「揺さぶり」
王都、夕刻。
アルヴェール公爵家。
窓の外。
中央区。
人の流れはある。
灯りもある。
だが——
「……おかしくない?」
レティシアが呟いた。
「静かすぎる」
一拍。
「違いますね」
エルマーが言う。
「“抑えられている”」
「うん」
オスカーが頷く。
「無理やり落ち着かせてる感じ」
違和感。
強い。
「……来る」
レティシアが、小さく言った。
一瞬の沈黙。
「準備する」
立ち上がる。
外套。
帽子。
黒髪。
その瞬間——
彼女は、“レオ”になった。
中央区へ向かう途中。
空気が変わる。
人の流れが、歪む。
「……来たね」
オスカーが笑う。
「ええ」
エルマーが短く返す。
レオは、何も言わない。
ただ——
(予定通り)
そう、判断していた。
中央区。
人の流れ。
止まる。
「下がれ!」
怒鳴り声。
武器。
複数。
だが——
「雑魚じゃないね」
オスカーが呟く。
「統率があります」
エルマーの声は低い。
「配置も、意図的です」
囲むように。
人を閉じ込める。
逃げ道を、塞ぐ。
「……最悪」
レオが、短く言う。
「どうする?」
オスカーが笑う。
だが、その目は鋭い。
「選ぶんでしょ?」
試すように。
一瞬。
沈黙。
(……選ばせに来てる)
レオは、理解していた。
これは——
“揺さぶり”だ。
「……やる」
短く。
動く。
一気に距離を詰める。
速い。
「なっ——」
一人、落とす。
二人、崩す。
だが——
「数が多いな」
レオが呟く。
「時間稼ぎです」
エルマーが即座に言う。
「本命は別にあります」
「だろうな」
レオは頷く。
その時。
「——やはり来ましたか」
低い声。
空気が、止まる。
前方。
人の流れの奥。
立っている。
セドリック・ルヴァリエ。
「……あんたか」
レオが言う。
声は、低い。
「ええ」
淡々と。
「予想通りです」
一歩、近づく。
「あなたは——」
一拍。
「見過ごせない」
沈黙。
「……で?」
レオは、動かない。
「これ、何だ」
「実験です」
即答。
空気が、冷える。
「どこまで“選べるか”」
淡々と。
「そして——」
視線が、刺さる。
「どこで“壊れるか”」
「趣味悪いな」
レオが言う。
「合理的です」
即答。
「感情で動く以上、限界は存在する」
一拍。
「そこを測る」
沈黙。
レオは、わずかに笑った。
「……測られてやる義理はない」
その瞬間——
動いた。
だが。
攻撃ではない。
人の流れを——崩す。
誘導する。
押す。
逃がす。
「……!」
セドリックの目が、わずかに動く。
「オスカー、右流せ」
「了解」
「エルマー、後ろ切れ」
「はい」
動きが変わる。
戦闘ではない。
制圧でもない。
“流れ”の操作。
人が逃げる。
道が開く。
混乱が——消える。
「……なるほど」
セドリックが呟く。
「選ばない」
一拍。
「“全部やる”か」
レオが振り返る。
「違う」
短く。
「“選ばせない”だけだ」
沈黙。
セドリックの口元が、わずかに動く。
「……面白い」
一歩、引く。
「では」
一拍。
「次は、こちらが条件を変えます」
レオは答えない。
数秒。
「……終わったね」
オスカーが言う。
「ええ」
エルマーが周囲を見る。
だが。
「……終わってない」
レオが呟く。
視線は、セドリックの消えた方向。
(……来る)
確信。
王都のどこか。
「……中央区は、確認済みだ」
低い声。
影。
「反応も、想定通り」
一拍。
「次は——」
静かに。
「選ばせるのではなく、追い込む」
灯りの届かない場所で。
揺さぶりは——
まだ、続く。




