第27話「招かれざる客」
アルヴェール公爵家。
昼。
応接室。
静かだ。
整えられた空間。
無駄のない配置。
隙のない空気。
「……来るの?」
レティシアが、軽く言う。
ソファに座ったまま。
だが、姿勢は崩れていない。
「はい」
エルマーが答える。
「宮廷法務官、セドリック・ルヴァリエ」
一拍。
「正式な訪問です」
「……面倒くさい」
小さく呟く。
だが——
目は、笑っていない。
扉が、ノックされる。
「失礼いたします」
使用人の声。
「セドリック・ルヴァリエ様がお見えです」
一瞬。
空気が、変わる。
「通して」
レティシアは、微笑む。
完璧に。
扉が開く。
入ってきたのは——
黒髪の男。
無駄のない動き。
冷えた視線。
整いすぎた美貌。
「初めまして」
低い声。
「レティシア・フォン・アルヴェール公爵令嬢」
一礼。
隙がない。
「セドリック・ルヴァリエと申します」
レティシアも、立つ。
優雅に、一礼。
「ようこそお越しくださいました」
完璧な笑み。
だが——
(……嫌な感じ)
直感。
着席。
沈黙。
先に口を開いたのは、セドリックだった。
「最近、王都の治安が乱れております」
唐突。
だが、不自然ではない。
「そうですの?」
レティシアは、微笑む。
「存じませんでしたわ」
即答。
「そうですか」
短く。
その目が——逸れない。
「北区」
「南区」
「中央区」
淡々と並べる。
「すべてで、似た動きが確認されている」
レティシアは、黙る。
「偶然ではありません」
一拍。
「“意図的な流れ”です」
沈黙。
「……それで?」
レティシアが言う。
「私に何を?」
セドリックは、わずかに首を傾けた。
「確認です」
短く。
「何を、ですの?」
「あなたが」
一拍。
「どこまで関与しているか」
空気が、止まる。
エルマーの視線が、わずかに鋭くなる。
オスカーは、笑みを消す。
だが。
レティシアは、崩れない。
「……随分と失礼ですのね」
柔らかく。
だが、冷たい。
「そうでしょうか」
セドリックは、あっさりと返す。
「事実確認です」
一歩も引かない。
「証拠は?」
レティシアが問う。
「ありません」
即答。
沈黙。
「ですが——」
視線が、刺さる。
「一致率が高い」
「介入の位置」
「タイミング」
「規模」
一つずつ。
「すべてに“意志”がある」
レティシアの指が、わずかに止まる。
(……見てる)
いや。
(違う)
(知ってる)
「面白いですわね」
レティシアは、笑った。
「それで、私だと?」
「可能性の一つです」
淡々と。
「ですが」
一拍。
「最も“合理的”です」
オスカーが、小さく息を吐く。
(うわ、これ——)
エルマーは、何も言わない。
ただ——警戒している。
「……仮に」
レティシアが言う。
「そうだとしたら?」
一瞬。
エルマーの視線が動く。
だが、止めない。
セドリックの目が、わずかに細くなる。
「ならば」
短く。
「危険です」
「誰にとって?」
即座に。
「王都にとって」
一拍。
「そして——あなたにとっても」
沈黙。
レティシアは、笑う。
「ご忠告、痛み入ります」
完璧に。
だが。
その目は——冷たい。
「人助けは」
セドリックが言う。
唐突に。
「綺麗事です」
空気が、変わる。
「秩序を乱す」
一拍。
「感情で動く者は、いずれ破綻する」
静かな断定。
レティシアの目が、わずかに細くなる。
「……そうかしら」
初めて。
感情が、乗る。
「少なくとも」
セドリックは続ける。
「長くは持たない」
沈黙。
数秒。
レティシアは、ふっと笑った。
「……面白い方ですのね」
軽く。
だが——
完全に、対峙している。
「では、逆にお聞きしますわ」
一歩、踏み込む。
「あなたは」
視線が、まっすぐ刺さる。
「何を守っているの?」
沈黙。
セドリックは、わずかに間を置いた。
「秩序です」
短く。
迷いなく。
レティシアは、頷いた。
「そう」
一拍。
「私は——人よ」
静かな声。
だが、はっきりしている。
空気が、張り詰める。
セドリックは、立ち上がった。
「本日はこれで」
一礼。
「貴重なお時間を、ありがとうございました」
形式は、完璧。
だが——
最後に。
「いずれ」
視線だけが残る。
「証明されます」
一拍。
「どちらが、正しいか」
扉が閉まる。
「……何あれ」
オスカーが、息を吐く。
「最悪」
レティシアが即答。
だが。
その口元は、わずかに上がっている。
「お嬢」
エルマーが低く言う。
「危険です」
「知ってる」
短く。
「でも——」
一拍。
「面白い」
静かに。
「……来たね」
オスカーが笑う。
「完全に本命」
レティシアは、窓の外を見る。
(……面倒くさい)
だが。
その目は——
完全に、戦う側だった。




