第26話「選ばなかった場所」
夜。
北区、倉庫街。
「……終わりだな」
レオが、短く言った。
地面には、縛られた男たち。
木箱は押さえた。
流通も止めた。
「いい感じじゃない?」
オスカーが笑う。
「最低限は抑えました」
エルマーが周囲を確認する。
静かだ。
動きは、もうない。
「……当たりだったね」
オスカーが言う。
レオは、頷かない。
ただ——
(……静かすぎる)
違和感。
だが。
「戻る」
短く言う。
「はい」
「りょーかい」
三人は、その場を離れた。
夜更け。
扉が開く。
「戻った」
レオの声。
室内には、ルシアンがいた。
机に向かっている。
「おかえりなさい」
視線を上げる。
一瞬。
沈黙。
「……どうでした」
静かに問う。
「北区は当たり」
オスカーが答える。
「武器の流通、押さえた」
「そうですか」
ルシアンは、頷く。
だが——
次の言葉が、来ない。
「……ルー?」
レティシアに戻りながら、声をかける。
外套を外す。
帽子を取る。
「どうしたの」
ルシアンは、ゆっくりと口を開いた。
「……北区は、正解です」
一拍。
「ですが——」
その声で。
空気が、変わる。
「南区が、空きました」
沈黙。
「……は?」
オスカーが、眉を上げる。
「南区?」
エルマーの目が細くなる。
「何があった」
ルシアンは、紙を差し出した。
「先ほど入った情報です」
短く。
「南区で、同時刻に騒動が発生」
一拍。
「こちらより規模が大きい」
レティシアの指が、止まる。
「……どのくらい」
「負傷者あり」
静かに。
「物資も流れています」
完全な沈黙。
(……やられた)
レティシアは、目を閉じた。
「……分散」
エルマーが低く言う。
「北区に注意を引いて——南区を通した」
「うん」
オスカーが頷く。
「しかも“選ばせた”」
レティシアは、目を開ける。
(選んだ)
北区を。
(だから)
南区が空いた。
「……最初から」
小さく呟く。
「こっちを動かす前提だった」
「はい」
ルシアンが即答する。
「姉様の選択は——想定内です」
空気が、冷える。
「……ミスった?」
オスカーが、軽く言う。
一瞬。
沈黙。
レティシアは、顔を上げた。
「違う」
短く。
「選んだだけ」
静かな声。
だが——揺れはない。
「……なるほど」
オスカーが笑う。
「いいね、それ」
エルマーも、わずかに頷く。
「相手は」
ルシアンが言う。
「姉様に“選ばせています”」
一拍。
「ならば——」
視線が、まっすぐ向く。
「こちらも、“選ばせ返す”べきです」
沈黙。
レティシアの目が、細くなる。
「……どうやって」
ルシアンは、迷わない。
「情報を操作します」
「は?」
オスカーが笑う。
「それ、だいぶ危ないやつじゃない?」
「事実です」
淡々と。
「ですが、現状は“読まれている側”です」
一拍。
「ならば、読む側に回る必要があります」
レティシアは、少しだけ考える。
短く。
(面倒くさい)
だが。
口元が、わずかに上がる。
「……いいわ」
立ち上がる。
「やる」
短く。
「選ばせる側に回る」
「はい」
ルシアンが頷く。
「そのための準備を」
暗い部屋。
灯りは、少ない。
「……南区は通ったか」
低い声。
「はい」
短い返答。
「北区は?」
「制圧されました」
一拍。
「問題ありません」
沈黙。
「……やはり、選びましたか」
静かな声。
「では——」
わずかに、口元が動く。
「次は、“選ばせる”のではなく」
一拍。
「誘導する」
アルヴェール公爵家。
「……来るね、これ」
オスカーが笑う。
「ええ」
エルマーが低く言う。
レティシアは、窓の外を見る。
街。
灯り。
動き。
(……面倒くさい)
だが。
目は、完全に前を見ている。
「……上等」
小さく呟く。
「やってやるわよ」
選ぶ側から。
選ばせる側へ。
その一歩を——
踏み出した。




