第23話「罠はどちらに」
中央区、裏路地。
喧騒から一歩外れた場所。
人通りはある。
だが——流れが遅い。
「……いるな」
低く。
レオは立ち止まらない。
視線だけが動く。
影。
気配。
足音。
「三人」
オスカーが小さく言う。
「四人です」
エルマーが即座に訂正する。
「一人、奥にいます」
「……さすが」
レオは短く呟いた。
だが
「多いな」
それだけ。
「どうする?」
オスカーが笑う。
「やる?」
軽い声。
「やらない」
即答。
エルマーの目が、わずかに細くなる。
「……理由を」
「餌だから」
短く。
一歩、踏み出す。
わざと。
音を立てて。
「おい」
影が動く。
囲むように、出てくる。
「……来たな」
低い声。
武器を持っている。
だが——
「浅い」
レオが呟く。
統率がない。
動きが粗い。
「弱いね」
オスカーが笑う。
「時間稼ぎです」
エルマーが言う。
「本命ではない」
「だろうな」
「で?」
オスカーが肩を回す。
「どうするの、レオ——」
「今じゃない」
レオが遮る。
一拍。
「流す」
それだけ。
次の瞬間——
動いた。
だが、戦わない。
抜ける。
すり抜ける。
「なっ——」
反応が遅い。
「止めろ!」
追う。
だが
「遅い」
レオは振り返らない。
角を曲がる。
さらに奥。
「……来るな」
レオが呟く。
「来るね」
オスカーが笑う。
「当然です」
エルマーは淡々と。
空気が変わる。
温度が落ちる。
音が、消える。
「……いた」
レオが止まる。
「いい判断です」
低い声。
前方。
ユリウス・ヴァン・クロイツ。
「無駄な消耗を避けた」
一歩、近づく。
「だが——」
視線が刺さる。
「逃げ切れない位置に来た」
数秒。
完全な静止。
「……わざとだろ」
レオが言う。
「ここに誘導した」
ユリウスは、否定しない。
「ええ」
一拍。
「ですが——」
わずかに、口元が動く。
「あなたも、来た」
沈黙。
「……乗ったな」
レオが呟く。
「ええ」
即答。
「罠に」
一拍。
「どちらが、とは言いませんが」
オスカーが小さく笑う。
「いいねこれ」
「最悪です」
エルマーは低く言う。
「で?」
レオは視線を逸らさない。
「何がしたい」
ユリウスは、答えない。
代わりに——
一歩、詰める。
「確認です」
短く。
「あなたは」
視線が、鋭くなる。
「“選んでいる”」
空気が、止まる。
「助ける場所」
「介入の規模」
「退くタイミング」
淡々と。
「すべてに、一貫性がある」
「……だから?」
レオは、動かない。
「だから——」
ユリウスは言う。
「読める」
一瞬。
空気が、張り詰める。
「……そうか」
レオは、ほんのわずかに笑った。
「なら」
一拍。
「読んでみろ」
その瞬間——
動いた。
ユリウスではない。
レオが先。
距離を詰める。
速い。
だが——
攻撃しない。
「……!」
ユリウスの目が、わずかに揺れる。
すれ違う。
その一瞬。
レオの声が、落ちた。
「一つ、読み違えてる」
次の瞬間——
消えた。
「っ——」
ユリウスが振り返る。
遅い。
「上だよ」
オスカーの声。
屋根の上。
レオが立っている。
「選んでるのは」
レオが言う。
「俺だけじゃない」
一拍。
「お前もだろ」
沈黙。
ユリウスは、見上げる。
「……なるほど」
小さく。
「面白い」
その目が、細くなる。
「では」
一歩、引く。
「次は、こちらが選びます」
レオは、笑わない。
「勝手にしろ」
短く。
風が吹く。
数秒。
「……追わないんだ」
オスカーが言う。
「ええ」
ユリウスは答える。
「今は」
その一言で。
全員、理解した。
「……やだなそれ」
オスカーが笑う。
「完全にロックされた」
「ええ」
エルマーが低く言う。
「逃げでは、切れません」
レオは、黙った。
(……面倒くさい)
だが。
その目は——
完全に、次を見ている。
罠は、張られた。
だが——
どちらが、かかったのかは。
まだ、決まっていない。




