第22話「餌を撒く」
王都、昼。
穏やかな空気。
人の流れ。
いつも通りの喧騒。
だが——
「……動く」
低い声。
レオだった。
エルマーとオスカーが、同時に視線を上げる。
「早くない?」
オスカーが笑う。
「早いですね」
エルマーは淡々と返す。
「昨日、“待つ”って言ってなかった?」
「言った」
短く。
「でも」
レオは続ける。
「待つだけじゃ意味ない」
一拍。
「見せる」
それだけ。
双子の目が、わずかに細くなる。
「……撒くんだね」
オスカーが笑う。
「餌を」
レオは答えない。
ただ、動いた。
外套。
帽子。
黒髪。
その一連の動きに、迷いはない。
「三日ぶりか」
オスカーが軽く言う。
「そんなもん」
興味なさそうに返す。
「我慢できなかったでしょ」
「うるさい」
だが、否定もしない。
「……行きます」
エルマーが言う。
「今回は“誘導”です」
「分かってる」
レオは、短く頷いた。
中央区、表通り。
人が多い。
視線が多い。
——だからいい。
「ここでやるの?」
オスカーが小さく言う。
「ここがいい」
レオは止まらない。
「目撃が増える」
「情報が流れる」
淡々と。
「“見つかる前提”で動く」
エルマーの視線が鋭くなる。
「……危険です」
「知ってる」
レオは肩をすくめた。
「それでいい」
その時。
「やめろ!」
怒鳴り声。
通りの中央。
揉め事。
荷を巡る争い。
だが——
「……浅い」
レオが呟く。
「ただの揉め事じゃないね」
オスカーが笑う。
「見せてる」
短く。
「向こうも餌か」
「だろうな」
一拍。
レオの目が細くなる。
「なら——」
ほんのわずかに、口元が上がる。
「食う」
次の瞬間——動いた。
人の間を抜ける。
距離を詰める。
腕を取る。
崩す。
落とす。
一瞬。
「なっ——」
遅い。
「通りすがり」
低く、短く。
だが今回は——
消えない。
その場に“残る”。
「……珍しいな」
低い声。
人混みの奥。
「逃げないんですね」
ユリウス・ヴァン・クロイツ。
レオは、振り返る。
視線がぶつかる。
「気分」
短く。
「今回はな」
ユリウスの目が細くなる。
「……誘っていますか」
「どう思う」
同じ返し。
だが——
今は明確に違う。
数秒。
完全な静止。
だが内側では——
流れている。
視線。
情報。
読み。
「いいでしょう」
ユリウスが一歩、踏み込む。
「乗ります」
その一言で。
空気が変わる。
王宮、執務室。
「出たか」
アレクシスが呟く。
「中央区で確認」
側近が答える。
「逃げていません」
一拍。
「……餌か」
わずかに、笑う。
別室。
「来たね」
リオンが楽しそうに笑う。
「分かりやすい」
「違う」
カイゼルが静かに言う。
「分かりやすくしている」
一拍。
「選ばせるために」
リオンの目が変わる。
「……いい」
中央区。
「どうする?」
オスカーが聞く。
レオは視線を逸らさない。
「簡単」
短く。
「動かす」
誰を、とは言わない。
だが——
十分。
「派手にいく?」
オスカーが笑う。
「抑えろ」
エルマーが即座に返す。
「今回は違う」
一拍。
「“見せる戦い”です」
レオは、静かに息を吐いた。
「……面倒くさい」
だが——
その目は、完全に狙っている。
餌は、撒いた。
あとは——
食いつかせるだけだ。




