第21話「選択の裏側」
北区、倉庫街。
夜明け前。
静かなはずの場所に——緊張が走っていた。
「……ここか」
低い声。
騎士団が展開している。
規律正しく、無駄がない。
「報告通りです」
エルマーが言う。
「遅かったな」
短く返したのは、アルドリックだった。
「すでに“片付いている”」
その言葉で。
空気が変わる。
「……何?」
オスカーが眉を上げる。
倉庫の扉は開いている。
中は——空。
「運び出された後だ」
木箱は残っている。
だが、中身はない。
「……嘘でしょ」
「昨夜の時点では、確かにあった」
エルマーの声は低い。
「だろうな」
アルドリックは頷く。
「だが——漏れている」
一拍。
「情報が」
沈黙。
全員が理解した。
(……早すぎる)
王宮、監察官室。
「……動いたのは、正解だ」
ユリウスが呟く。
「だが——」
指で机を叩く。
「読まれている」
視線が、報告書から外れる。
「いや」
一拍。
「“誘導されている”か」
目が細くなる。
「面白い」
アルヴェール公爵家。
「——空だった?」
レティシアが、低く言った。
「綺麗に抜かれてた」
オスカーが肩をすくめる。
「痕跡もほとんどなし」
「……」
レティシアは、黙る。
(……読まれた)
報告した。
動かした。
だから——
(動かされた)
「お嬢」
エルマーが言う。
「これは、偶然ではありません」
「分かってる」
短く。
「タイミングが良すぎる」
「だね」
「誰かが」
エルマーの声が、少しだけ低くなる。
「“見ていた”」
一瞬。
空気が冷える。
レティシアは、ゆっくりと息を吐いた。
「……面倒くさい」
だが。
その声は、以前よりも静かだった。
王宮、別室。
「潰されたと思った?」
リオンが笑う。
「思っていない」
カイゼルは静かに言う。
「試された」
「誰に?」
「向こうに」
一拍。
「そして、こちらも」
リオンが、少しだけ笑みを消した。
「……なるほどね」
王太子執務室。
「早いな」
アレクシスが、淡々と言う。
「はい」
側近が答える。
「すでに倉庫は空でした」
「そうか」
一拍。
「では——」
ゆっくりと、目を細める。
「こちらも、動くか」
王都のどこか。
「……反応したな」
低い声。
「想定通りだ」
「次は?」
一拍。
「餌を変える」
静かに。
「もう少し、大きく」
アルヴェール公爵家、庭園。
風が吹く。
「……外した?」
オスカーが軽く聞く。
一瞬。
「違う」
レティシアは答えた。
「これは——」
一拍。
「相手が一枚上だっただけ」
「へえ」
「悔しい?」
オスカーの問い。
レティシアは、少しだけ笑った。
「……悔しい」
素直に。
「でも」
視線が、まっすぐ前を向く。
「だから面白い」
静かな声。
だが、その奥に——火がある。
「お嬢」
エルマーが呼ぶ。
「次はどうします」
一瞬。
レティシアは、考える。
全部は動かない。
全部は追わない。
——選ぶ。
「……待つ」
「珍しい」
オスカーが笑う。
「でも」
レティシアは続ける。
「待つだけじゃない」
一拍。
「“見せる”」
双子が、同時に目を細めた。
「何を」
「動く気があるってこと」
静かに。
「選んでるってこと」
その一言で。
空気が、変わる。
選択には、裏がある。
動けば、読まれる。
任せれば、動かされる。
それでも。
レティシアは、選ぶ。
今度は——
相手に、“選ばせる”ために。




