第19話「選ばれる仕事」
夜。
王都の空気が、少しだけ重い。
人通りはある。
灯りもある。
だが——
「……最近、多くない?」
レティシアは、窓の外を見ながら呟いた。
小さな揉め事。
ちょっとしたトラブル。
以前より、確実に増えている。
「増えています」
エルマーが答える。
「規模も、頻度も」
「だよね」
オスカーが肩をすくめた。
「しかもさ、バラバラに見えて繋がってる感じある」
「繋がってる?」
レティシアが振り返る。
「うん」
オスカーは軽く指を立てた。
「場所が違うだけで、手口が似てる」
「物資、流通、人の流れ」
エルマーが続ける。
「意図的に“乱している”」
沈黙。
「……組織?」
レティシアが小さく言う。
「可能性は高い」
「証拠はないけどね」
レティシアは、目を細めた。
(……面倒くさい)
規模が違う。
今までの“お助け”とは。
「で」
オスカーが言う。
「どうする?」
同じ問い。
何度もされた。
けれど、今は違う。
レティシアは、少しだけ考える。
全部やる必要はない。
全部背負う必要もない。
——選ぶ。
「……場所は?」
エルマーとオスカーが、同時に目を細めた。
「北区の倉庫街」
「今夜、動きがある」
「根拠は?」
「ない」
オスカーが笑う。
「勘」
「信用できない」
「でも当たる」
「……当たるのよね」
レティシアは小さく息を吐いた。
「そこに行く」
短く言う。
「全部じゃない」
一拍。
「そこだけ」
「いいね」
オスカーが笑う。
「ちゃんと選んでる」
「当然です」
エルマーも頷いた。
「では、準備を」
レティシアは立ち上がる。
外套。
帽子。
黒髪。
手慣れた動き。
だが。
その前に、止まる。
「……」
視線が、双子に向く。
「……一緒に来るでしょ」
「当然」
「当たり前」
同時。
レティシアは、少しだけ笑った。
「じゃあ、行くわよ」
その瞬間——
彼女は、“レオ”になった。
北区、倉庫街。
夜は静かだ。
だが——
「いるね」
オスカーが小さく言う。
影。
複数。
動きがある。
「……確定」
エルマーが低く言う。
木箱が運ばれている。
荷ではない。
中身を隠すように。
「……怪しいどころじゃない」
レオが呟く。
「どうする?」
一瞬。
レオは、目を細めた。
「……見る」
「攻めない?」
「まだ」
短く。
「確証が足りない」
オスカーが少しだけ笑った。
「いいね、それ」
「学習しましたね」
エルマーが淡々と返す。
静かに、距離を詰める。
音を消す。
気配を消す。
近づく。
「——運べ」
低い声。
「急げ。時間がない」
明らかに、ただの商人ではない。
「……完全にアウト」
レオが小さく言う。
「どうする?」
問われて——
レオは、迷わなかった。
「……今」
次の瞬間。
動いた。
影から出る。
一気に距離を詰める。
「なっ——」
驚く声。
だが、遅い。
腕を取る。
崩す。
落とす。
同時に。
エルマーとオスカーが動いている。
連携。
完璧。
数秒。
それだけで、場は制圧されていた。
「……何だお前ら!」
残った一人が叫ぶ。
「通りすがり」
レオが答える。
「それにしては、やりすぎだろうが!」
「やりすぎたかもね」
軽く返す。
だが。
「——その箱」
レオが指さす。
「中身、何?」
沈黙。
答えない。
「……開けるか」
オスカーが言う。
蓋を外す。
中にあったのは——
「……武器?」
大量の、刃。
「流通させる気か」
エルマーの声が低くなる。
「……面倒くさいどころじゃない」
レオが呟く。
規模が違う。
「これは」
エルマーが言う。
「騎士団案件です」
「分かってる」
レオは、目を細めた。
ここまでは、選べた。
だが。
(……これ、もう一人でどうにかするレベルじゃない)
小さく、息を吐く。
「……報告する」
その一言に。
エルマーとオスカーが、わずかに目を見開いた。
「いいの?」
「いい」
迷いはなかった。
「これは、任せるべき」
静かな声。
だが。
はっきりしている。
選んだ。
「……成長したね、お嬢」
オスカーが笑う。
「うるさい」
レオは、顔を逸らした。
だが。
その選択は、確かだった。
すべてを抱えない。
すべてを自分で終わらせない。
必要な時に動き。
必要な時に、手放す。
それが——
今のレティシアの“戦い方”だった。
そして。
その選択は。
新しい面倒ごとを、確実に引き寄せていた。




