表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/109

第107話「五日間だけは」

翌朝。


レティシアは動かなかった。


正確には、一度だけ右腕が毛布の外へ出た。


枕元に置かれた水差しへ向かって伸び、

あと指一本分というところで止まる。


「……遠い」


そのまま腕が落ちた。


ソファで朝まで仮眠していたオスカーが目を覚ます。


「お嬢、水?」

「うん」

「起きれば届くぞ」

「無理」


即答だった。


オスカーは笑いながら水を注ぎ、ベッドまで持っていく。


レティシアは起きない。


「飲まないの?」

「起こして」

「そこまで?」

「今日はそこまで」


オスカーがレティシアの背へ腕を入れ、上半身だけ起こす。

コップを渡すと、両手で持って半分ほど飲み、そのまま再び枕へ沈んだ。


「終了」

「朝飯は?」

「いらない」


部屋の扉が開く。


盆を持ったエルマーが入ってきた。


「想定済みだ」


柔らかいパン。

薄いスープ。

果物。

そして、小さな淡雪シュー。


レティシアの片目が開いた。


「……シュー」

「飯を食ったらな」


目が閉じた。


「じゃあ、いらない」

「お嬢」

「シューだけでいい」

「駄目だ」

「横暴」


昨日も聞いた言葉に、オスカーが吹き出した。


枕元では、白が静かに開いている。


『これが、れお?』


二人の動きが止まった。


レティシアは毛布の中から答えた。


「レティシア」


『きのうと、ちがう』


「昨日も私」


『うごかない』


「今日は動かない私」


『どうして?』


「頑張ったから」


白の頁から文字が消えた。


しばらくして。


『こわれた?』


「壊れてない」


エルマーが淡々と答える。


「通常だ」


『つうじょう』


「覚えなくていいよ」


レティシアが毛布を頭まで被った。


その時、扉が三回叩かれた。


「姉上?」


ルシアンだった。


レティシアが毛布から顔だけ出す。


「いない」


オスカーが振り返る。


「返事してるぞ」

「気のせい」

「姉上、入ります」

「駄目」


今度だけ声が速い。


エルマーが扉の前へ立った。


「ルシアン様、五日間は面会禁止です」

「僕は家族です」

「家族もです」

「白という本は入っているのでしょう?」


枕元の白が開く。


『いる』


扉の向こうが静かになった。


「……なぜ本はよくて僕は駄目なんですか」


レティシアは再び毛布へ潜った。


「白は喋らないから」


『しゃべる』


「今は黙って」


『はい』


オスカーが肩を震わせる。


「もう完全に懐いてるじゃん」

「知らない」

「お嬢、昨日まで命懸けで助けてたのに」

「昨日の私と今日の私は別人」


エルマーがスープを差し出す。


「口を開けろ」

「嫌」

「淡雪シュー」


数秒。


毛布が少し下がった。


「あー」


オスカーがとうとう声を上げて笑った。


「お嬢、外での格好良さ全部どこに置いてきた?」


スープを飲み込んだレティシアが、目を閉じたまま答える。


「地下」

「拾ってくる?」

「いらない」


その後も、レティシアはベッドから出なかった。


昼食もベッド。

夕食もベッド。

着替えも最低限。

髪を整える気もない。


白が頁を開くたび、


『だいじょうぶ?』


と確認してきたが、


「五日後」


しか返ってこない。


そして夕方。


カイゼルとリオンが見舞いに訪れた。

挿絵(By みてみん)エルマーは手紙だけ受け取り、二人を玄関で丁重に帰した。


オスカーが部屋へ戻って報告する。


「殿下二人とも来たぞ」

「帰ってもらって」

「もう帰した」


毛布の中から親指だけが立った。


「さすが」


エルマーはその手を見下ろした。


「明日は起きろよ」


親指がゆっくり倒れる。


「予定は未定」


白の頁に、新しい文字が浮かんだ。


『ひもの』


部屋が静まり返った。


レティシアが毛布から目だけを出す。


「誰が教えたの」


オスカーがエルマーを見る。

エルマーがオスカーを見る。

二人同時に首を横へ振った。


白の頁が、楽しそうにぱたぱたと揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ