表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/108

第103話「壁の向こうの回収役」

「やっぱり、そう言うと思った」


リオンの笑みを横目に、レオは書斎を見回した。


本棚。

机。

偽物の窓。

そして、通路を塞いだ石壁。


壁に浮かぶ文字は、変わらず淡い光を放っている。


『失われた名を一つ、返せ』


「返せって言われても、名前が分からないんだけど」


レオは白を左腕に抱えたまま、肖像画を裏返した。


削られた部分へ銀の鍵を近づける。

だが、鍵は反応しない。


「これは違うみたいだね」


リオンは本棚の前へ立ち、並んだ本の背を指先で押していく。


一冊目。

二冊目。

三冊目。


どれも動かない。


「仕掛けを作った奴を探すって言ったけど、どう探す?」

「こういう部屋には、大体見られたくない場所があるでしょ」


レオは机の下へ屈み込み、床へ手をついた。


石ではない。

薄い木板が一枚だけ混ざっている。


指の関節で叩く。


こつ。

こつ。

こん。


三か所目だけ、音が軽い。


「ここ」


銀の鍵を隙間へ差し込もうとした瞬間、白の頁に文字が浮かんだ。


『だめ』


レオの手が止まる。


「罠?」


『ちがう』


「じゃあ何?」


『下に、いる』


レオとリオンが同時に床を見る。


その直後だった。


どん、と部屋の左壁が揺れた。

本棚から埃が落ちる。

レオは白を抱え直し、リオンは剣を抜いた。


二度目の衝撃。


どん!


壁に一本の亀裂が走る。


「新しい仕掛け?」

「動き方が雑すぎるね」


三度目。


石壁の一部が内側へ膨らみ、細かな石片が床へ落ちた。

そして、壁の向こうから声が響く。


「お嬢ー! そこにいるなら返事しろ!」


レオは目を瞬いた。


「オスカー?」

「返事をする前に離れて」


リオンがレオの肩を引き、壁から三歩下がらせる。


次の瞬間、石壁が内側へ崩れた。

白い粉塵の中から、剣を肩へ担いだオスカーが姿を現す。

その後ろからエルマーが穴を広げ、周囲を確認しながら入ってきた。


「いた!」


オスカーの顔が明るくなる。


「いた、じゃない」


エルマーはレオの姿を上から下まで確認した。


服の汚れ。

握った銀の鍵。

腕に抱えた白い本。

顔色。


「お嬢、あとどのくらい動ける?」

「帰るまで」

「帰った瞬間に止まる答えだな」


オスカーが白を覗き込む。


「それ、何?」


白の頁に素早く文字が浮かんだ。


『白』


「名乗った」

「懐かれてるな」

「助けただけ」

「お嬢、それを世間ではたらしって言うんだぞ」

「本までたらしたみたいに言わないで」

「実際、懐かれてるだろ」


その間にも、エルマーは壊した壁の向こうを振り返っていた。


「話は歩きながら聞く。地下全体が動き始めてる」

「動く?」


リオンが穴の奥を見る。


崩れた通路の天井から、細かな砂が落ちている。

遠くでは石が擦れる音が続いていた。


「部屋の配置が変わってる」


エルマーが短く答える。


「俺たちも同じ通路を三回通った。カイゼル殿下とは途中ではぐれた」


リオンの表情から笑みが消える。


「兄上は?」

「別ルートを探してる。オスカーが壁の向こうから、お嬢の声を聞いた」

「声?」


レオは眉を寄せる。

「それ、さっき別の部屋で言った言葉だけど」


オスカーが床を指した。

「でも、下から聞こえたんだよ。『失わせる』って」


レオは白を見る。

白の頁には、何も浮かばない。

その時、床下から低い音が響いた。

ごり、と木板が持ち上がる。

机が横へ滑った。

床の一部が開き、暗い穴から黒い手袋をはめた腕が伸びる。


レオを狙った手を、オスカーの剣が弾いた。

同時にエルマーがレオの前へ入り、リオンが開いた床板を蹴り戻す。

三人の動きに迷いはなかった。


「今のが、作った奴?」


レオが白を抱えたまま身を乗り出す。

エルマーが肩越しに睨んだ。


「近づくな」

「でも」

「帰り道を確保してからだ」


オスカーが床板を剣先で押さえ、笑う。


「お嬢、今回は俺たちが来たんだから、少しくらい回収されろよ」


床下から、何本もの黒い指が隙間を押し上げる。

部屋全体が大きく揺れた。


リオンは崩れた壁の向こうへ視線を走らせる。


「話し合いは移動しながらにしよう。ここ、あと一分も持たないよ」


レオは白を抱え直し、深いため息をついた。


「休憩どころか、帰るだけでも大仕事じゃない」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ