表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/113

(改善版)第9話「追う者と、逃げる者」

空気が、張り付いていた。

倒れた男たち。散らばった荷。

その中心で——視線だけが、ぶつかっている。

ユリウス・ヴァン・クロイツは動かない。

黒髪の青年——レオも、動かない。

互いに知っている。

先に崩れた方が、不利になると。

   

「……妙ですね」

先に口を開いたのは、ユリウスだった。

「ただの通りすがりにしては、慣れすぎている」

レオは、わずかに肩をすくめる。

「何が?」

「状況判断。介入のタイミング。退き際」

淡々と並べる。

「すべてが、“場数を踏んだ人間”のものだ」

「買い被りすぎ」

短く返す。

だが、声音は揺れない。

    

ユリウスの視線が、わずかに落ちる。

足元。重心。

腕の角度。指先の力。

(……無駄がない)

ただの素人ではない。

それだけは、確信できる。

    

「運、ですか」

「そうかもね」

「否定します」

即答。

「運で人は制圧できません」

「じゃあ技術?」

「そうでしょう」

「どこで習った?」

「答える必要はありません」

「ないね」

即座に同意する。

だが——それで終わらない。

    

「では」

ユリウスが一歩、距離を詰める。

「あなたの目的は?」

間。

核心。

レオは、ほんの一瞬だけ沈黙し——

「ない」

軽く言う。

「気分」

    

「気分で動くにしては、一貫性がある」

「たまたま」

「それも否定します」

切り返しが速い。

だが、それ以上に——

食い下がりが鋭い。

    

「……あなた」

ユリウスが声を落とす。

「“助ける対象”を選んでいる」

レオの目が、わずかに細くなる。

「弱者。非対称。理不尽」

並べる。

「偶然ではない」

「よく見てる」

「仕事です」

    

沈黙。

数秒。

だが、その数秒で——

ユリウスは確信を強める。

(……意図がある)

(だが、動機が読めない)

ただの善意ではない。

ただの衝動でもない。

   

「痕跡を残さないのも、意図的ですね」

さらに踏み込む。

「逃走経路の確保。目撃の分断。情報の断片化」

「……」

「すべて、偶然ではない」

    

レオは、静かに息を吐いた。

そして——わずかに笑う。

「すごいね」

「褒め言葉として受け取っておきます」

    

「でも」

レオが言う。

「一つだけ、外してる」

ユリウスの目が細くなる。

「何ですか」

「そこまで大層なこと、考えてない」

肩をすくめる。

「見えたものに、手を出してるだけ」

    

 沈黙。

(……嘘ではない)

 ユリウスは見抜く。

(だが、それがすべてでもない)

    

「……面倒な人間ですね」

ぽつりと漏れる。

「よく言われる」

    

「名前は?」

唐突な問い。

レオは一瞬だけ間を置き——

「レオ」

短く答えた。

    

「レオ、ですか」

ユリウスが繰り返す。

一歩、さらに詰める。

「では、レオ」

声を落とす。

「次に会う時は——」

ほんのわずかに、間。

「もう少し詳しく、話を聞かせてもらいます」

    

レオは、目を逸らさない。

「会えたらね」

短く返す。

    

数秒。

完全な静止。

だが、その内側では——

完全な読み合い。

    

「……行くぞ」

低い声。

エルマーだった。

「だね」

オスカーが軽く応じる。

リオンがくつりと笑う。

「もう終わり?」

「終わり」

 レオが言う。

   

次の瞬間——

レオは動いた。

視線の死角へ。

人の流れへ。

音の隙間へ。

——消える。

    

「……」

ユリウスは追わない。

ただ、目を細める。

「レオ」

名を、もう一度呟く。

「……面白い」

だが、その声に温度はない。

「次は、逃がしません」

   

少し離れた場所。

リオンが笑う。

「完全にロックされてるね」

「でしょうね」

 オスカーが返す。

「やっぱり揃うとやばいな」

「だな」

エルマーが短く言う。

    

追う者と、逃げる者。

その距離は——

確実に、縮まり始めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ