四十話 終焉
次の瞬間、鹿子の意識は、ケイルシールの記憶で埋め尽くされた。
それは、一人の神族の、数億年にわたる記憶。
宇宙の創造と終焉。生命の誕生と絶滅。数多の文明の栄枯盛衰。
あまりにも膨大で、あまりにも異質すぎる情報が、暴力的な波となって、鹿子の精神を襲う。
「きゃああああああああああああああああああ!!!!」
彼女の絶叫が、空間に響き渡る。その叫びは、肉体的な痛みではなく、魂の崩壊を感じさせる、悲鳴だった。
「鹿子ちゃん!!」
ケイルシールは、驚きもしない。
《我ノ記憶ヲ見タカ。無理モナイ、ソノ娘ノ脳ニハ数億年ノ記憶ガ一度ニ入ッタンダ。》
鹿子の口元から、血の筋が垂れる。
《トコロデ皆サン、血ヲ逆流サセタラドウナルト思イマスカ?》
「は、何言って……」
ケイルシールがゆっくりと鹿女に近づき心臓に触れる。
《デハ見テルトイイ。》
私、いまなにされて……
ゔゔゔうううぅぅぁぁぁぁぁ!!!
全身が痺れるように痛い。
血管が破けているのがわかる。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
体の痙攣が止まらない。
私ここで死ぬんだ。
★★★
「なんてことしたの!!」
「だって、鹿さんは神様なんでしょ?死なないんじゃないの?」
「あんた……」
これは……走馬灯……?
確か私が鹿を殺したときの……
このあと施設に入れられたんだっけ。
多分このとき、私は見捨てられたんだと思う。
「お前、冥斬士に興味あるか?」
「めいざんし?」
「お前みたいににイカれた人間をちょうど探してたんだ。」
「あなた誰?」
「そんなこと知らなくていい。入るか?」
「なにするの?」
「そうだな……悪魔を殺す。」
「あくま……?やりたいやりたい!!」
この施設は冥斬士の本部が支援をしていた。
1年に数人、身寄りのない子供を冥斬士に引き渡すという条件のもとに。
「あなた名前は?」
「うーん、じゃあ鹿子!!」
「そっか鹿子ちゃんね!私は光!よろしくね!」
「うん!!」
光さんはよくしてくれた。
私を家に泊めてくれて一人暮らしの仕方を教えてくれた。
体の洗い方、余暇の過ごし方、女の子らしい振る舞いを全て教わった。
私はいま、この人に恩返しがしたい……
イカれた私に普通に接してくれたこの方に……
そして、全身の細胞が破壊されるほどの激痛に耐えながら、たった一つの情報を掴み取った
…………見つけた。
声はもう出ない。
自分の舌を噛み切り、インクを大量に出す。
朦朧とする意識の中、私は光さんから教わった英語で
HEAD
と書き記した。
その瞬間、私の意識は完全に途絶えた。
★★★
「鹿子ーー!!」
「くっ……!」
「絶対に許さない!断罪砲!!」
《マタソレカ……モウ見飽キタ。》
まずい……!
もううつてがない……!
どうする、まだ何か、手段は…………
ダメだ何も思いつかない。
もう……
パパパンッ!
「「「……!!」」」
突如ケイルシールの後ろで小さな花火が上がった。
「あれは…………!?」
思わず涙ぐむ。
採算バカにしてきたあいつの魔法。
まだ、プーに殺される前の誰も傷つけない魔法。
そこには
エフェクト増し増しの
漢字の『頭』という文字が浮かび上がっていた。
涼……!
マグナスと光さんの顔つきが変わる。
「おうらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
《何ヲッ!》
「久遠!!絶対離すんじゃねぇぞ!!」
「はい!!」
マグナスと光がケイルシールに抱きつき、動きを止める。
「とうやぁぁぁぁぁぁぁあ、後は任せるぞ!!」
《離セ……離セッ!!》
グサグサッッ!
「「ガハッ……!」」
ケイルシールの体から無数の棘がはえ、二人を貫く。
「マグナスさん!!」
「気にすんじゃねぇぇ!!」
《コイツラ……!!鬱陶シインダヨ!!奈落雨!!》
「なんだこれ……!」
次第に黒い雨が降り始める。
……!
草が枯れて……!
ビュン!!
瞬間的に強風が吹き上がる。
「そこの女これ借りるぞ!……断罪砲!!」
「ウズ!」
天に打ち上がった断罪砲は雲の一部を消し、わずかな範囲だが確実に雨をとめた。
「ッらああああああ!!いけ!憧也!」
ウズがケイルシールに突進する。
「これでメロンパンの借りはちゃらだ!!」
そんなこと…………
3人が鬼の形相でケイルシールを止めている。
ここで期待に応えなきゃ、
「男じゃねえよなぁぁぁぁぁあ!!」
村正を手にケイルシールの頭を目指し、ひたすらに突き進んだ。
「ケイルシール!!今ここでお前と決着をつける!!」
《…………!!》
刀を両手でがっしりと握り顔へと打ち込む。
徐々に刀が近づいていく。
あと10センチ…………
もう少し、もう少し!!
ビタッ!!
《フハ、フハハ!ハハハハハ!!惜シカッタナ小童!!》
「…………!」
俺の村正はケイルシールの胸から生えてきた2本の手によって押さえつけられていた。
ブシュ!
さらに追い討ちと言わんばかりにケイルシールから生えた針が俺の腹を貫いた。
「こんなの…………こんなの、全然痛くねぇんだよ!!おおおおぉぉぉぉぁぉぉぉ!!」
少しずつ剣が近づく。
《ナンダ……オ前……コノ力!!》
「おおぉぉぉぁぉぉぉぉぉぉ!!俺は、負けられねぇんだよおおおおおおおおおおおおお!!」
ザシュ!!
時が止まる。
静寂が訪れる。
俺の村正は奴の頭を完全に貫いていた。




