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四十一話 偽りの平穏

ドサッと音をたてて

ケイルシールが倒れる。


「……勝ったのか……?……奈織さん…ウズ…光さ、ん……大丈……夫……」


そこで意識が途切れた。




「止血が追いつきません!」

「圧迫を続けろ。そのまま腹部を固定して。」

 

……どこだ、ここ……

 

「血圧が急降下しています!」

「輸血を開始。Oマイナスを優先。」

「目を開けました!聞こえてますかー、名前言えますかーー。」

 

……誰だ…………

 

「呼吸が浅いです!」

「挿管する。キットを準備。」

「先生、このままでは…!」

「大丈夫だ。心拍はまだ保たれている。オペ室に直行するぞ。」

「はい!」



『……大丈夫か?』

『……お前は…βの。』

『まさかこんなことになるなんて……すまん。』

『他の人たちは?』

『わからない。』

『そうか……。なあ……。』

『?』

『これはハッピーエンドだと思うか?」

『……この際はっきり言わせてもらうぜ。こんな結末はクソだ……だが、最善はつくした。』

『……本当にそうなのか……。』

『なに?』

『俺が復讐しに行ってなかったら涼は死んでなかった。そしたらきっともっとたくさんの人が救われた。』

『……あの行動はお前と涼の総意だったんだ。間違えじゃない。それとこの世界はお前が守ったんだ。それは誇っていいし、今からの人生を楽しむのもお前だ。頑張れよ。』

『おい!』



「憧也……!憧也!!」

「……母さん……。」

「憧也!!」

 

泣きながら抱きついてくる。

 

「痛っ!」

「……憧也……」

 

そのまま約1分が経過した。

 

「細かい事情は後できくから。今はお医者さん呼んでくるわね。」

「……」

 

その後は中年の医者がやってきて、今の状態を伝えられた。

要約すると最低でも2〜3週間の入院が必要だということ。

 

「それでは。」

 

医者の男はぺこりと一礼をし、退出した。


「……母さん、お父さんの様子見に行ってくる。」


そっかここには爺ちゃんも運ばれているんだ。

…………


『ニュース速報です。

 本日正午ごろ、福岡市のJR博多駅構内で火災が発生。

この火災により、これまでに2人の死亡が確認され、複数人が負傷しているとの情報が入っています。

 現場では消防や警察が消火活動および原因の調査を続けており、周辺では一部通行規制も行われています。』



…………

みんな生きてるよな……

爺ちゃん、奈織さん、ルイ、ウズ、篤男さん、ウォルフさん、あと光さんと鹿の仮面の女……


考えれば考えるほど居ても立っても居られなくなる。


布団を剥ぎ取り、体をおこす。

腹の痛みに耐えながら立ち上がり扉をあける。


「内貴君!ダメじゃない!」

「えっ」


扉の先にはナースが立っていた。


「病人はベッドでゆっくりしてないと!」

「えっと……トイレに……」

「もぉ〜そんなことなら呼んでくれればいいのに。ボタンが頭元にあるでしょ?」

「あ、はい。」


どうやら脱出は無理そうだった。


トイレを済ませベッドに再び戻る。

天井を見ながらいろいろと思考を巡らせる。

未だにいくつもの疑問が脳裏をよぎる。


気づけば俺は眠っていた。



 

コンコン……

コンコン……

 

「……う、うん……」


小さな音で目を覚ます。


「もう……夜か……」


周りは暗くなっていた。


コンコン……

誰だ……?

 

「……入ってきていいっすよー」

 

…………


扉に向かってそう応えるも返事がない。


コンコン……

悪戯か?


「……ん?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


チラッと窓をみると、そこではウズが片手で窓の枠を掴みながらぶら下がっていた。


「ウズ!?ここ4階だぞ!?」


急いで窓を開ける。


「…………よいしょっと……」


体を前後に大きく揺らし窓から飛び込んできた。


「お前、なにして!普通に入ってこいよ!」

「しっ、誰かに盗聴されてる……」

「っっ!!」

「………な〜んてな!いちいち手続きとか面倒だからな。」

「……お前なぁ…………その、大丈夫なのか?」

「?……ああ、私は無傷さ。」

「私はって……もしかして」

「あの後、安否が気になってな。お前は大丈夫そうだったから後回しにしたんだよ。」

「…………それで、みんなは……」

「非常に言いづらいんだが………………全滅だ。」

「ッ!そんな………」

「永嶌の野郎はまだ息はあるが、体じゅうに穴が空いてる……時間の問題だろうな。」

「……奈織さんは今どこに!」

「……応急処置をして、私の家で休ませてる。」

「連れてってくれ!」

「はッ!そういうと思ったよ。」


俺とウズは病院を抜け出した。

傷口の痛みに耐えながらも全速力で走った。


バンッ!

「奈織さん!!」

「…………憧也君、か……元気そうで、よかった……」


急いで駆け寄る。


「私はもうすぐ、死ぬ、余計なお世話かもしれないが……ぐふっ!」


大量の血を口から吐き出す。


「奈織さん!早く病院に!」

「いいんだ……君と喋れなくなる、しな…………。…………今回は全て、私の責任だ……みんなが死んで……」


奈織さんは泣いていた。

唇を震わせながらも声が上擦らないように堪えていた。


「…………」

「君がこの結末を、受け入れられるなら、それでいい。……でももし、世界を変えたい、と、そう望むのなら、科学部へ行け……」

「科学部……」

「……ちょっとしたら賭け、だ…………知力担当としては、最悪だがね…………君の幸せを祈る…………」

「……奈織さん……?……奈織さん!」

「…………」


息をしていない。最後の言葉と同時にすぅっと表情が穏やかになり、死んだ。

 

「いやだ……いやだ!!あなたまで死んだら!俺は……!」

「…………」

「俺は……どうすればいいんだよ…………」

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