四十一話 偽りの平穏
ドサッと音をたてて
ケイルシールが倒れる。
「……勝ったのか……?……奈織さん…ウズ…光さ、ん……大丈……夫……」
そこで意識が途切れた。
「止血が追いつきません!」
「圧迫を続けろ。そのまま腹部を固定して。」
……どこだ、ここ……
「血圧が急降下しています!」
「輸血を開始。Oマイナスを優先。」
「目を開けました!聞こえてますかー、名前言えますかーー。」
……誰だ…………
「呼吸が浅いです!」
「挿管する。キットを準備。」
「先生、このままでは…!」
「大丈夫だ。心拍はまだ保たれている。オペ室に直行するぞ。」
「はい!」
*
『……大丈夫か?』
『……お前は…βの。』
『まさかこんなことになるなんて……すまん。』
『他の人たちは?』
『わからない。』
『そうか……。なあ……。』
『?』
『これはハッピーエンドだと思うか?」
『……この際はっきり言わせてもらうぜ。こんな結末はクソだ……だが、最善はつくした。』
『……本当にそうなのか……。』
『なに?』
『俺が復讐しに行ってなかったら涼は死んでなかった。そしたらきっともっとたくさんの人が救われた。』
『……あの行動はお前と涼の総意だったんだ。間違えじゃない。それとこの世界はお前が守ったんだ。それは誇っていいし、今からの人生を楽しむのもお前だ。頑張れよ。』
『おい!』
*
「憧也……!憧也!!」
「……母さん……。」
「憧也!!」
泣きながら抱きついてくる。
「痛っ!」
「……憧也……」
そのまま約1分が経過した。
「細かい事情は後できくから。今はお医者さん呼んでくるわね。」
「……」
その後は中年の医者がやってきて、今の状態を伝えられた。
要約すると最低でも2〜3週間の入院が必要だということ。
「それでは。」
医者の男はぺこりと一礼をし、退出した。
「……母さん、お父さんの様子見に行ってくる。」
そっかここには爺ちゃんも運ばれているんだ。
…………
『ニュース速報です。
本日正午ごろ、福岡市のJR博多駅構内で火災が発生。
この火災により、これまでに2人の死亡が確認され、複数人が負傷しているとの情報が入っています。
現場では消防や警察が消火活動および原因の調査を続けており、周辺では一部通行規制も行われています。』
…………
みんな生きてるよな……
爺ちゃん、奈織さん、ルイ、ウズ、篤男さん、ウォルフさん、あと光さんと鹿の仮面の女……
考えれば考えるほど居ても立っても居られなくなる。
布団を剥ぎ取り、体をおこす。
腹の痛みに耐えながら立ち上がり扉をあける。
「内貴君!ダメじゃない!」
「えっ」
扉の先にはナースが立っていた。
「病人はベッドでゆっくりしてないと!」
「えっと……トイレに……」
「もぉ〜そんなことなら呼んでくれればいいのに。ボタンが頭元にあるでしょ?」
「あ、はい。」
どうやら脱出は無理そうだった。
トイレを済ませベッドに再び戻る。
天井を見ながらいろいろと思考を巡らせる。
未だにいくつもの疑問が脳裏をよぎる。
気づけば俺は眠っていた。
コンコン……
コンコン……
「……う、うん……」
小さな音で目を覚ます。
「もう……夜か……」
周りは暗くなっていた。
コンコン……
誰だ……?
「……入ってきていいっすよー」
…………
扉に向かってそう応えるも返事がない。
コンコン……
悪戯か?
「……ん?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
チラッと窓をみると、そこではウズが片手で窓の枠を掴みながらぶら下がっていた。
「ウズ!?ここ4階だぞ!?」
急いで窓を開ける。
「…………よいしょっと……」
体を前後に大きく揺らし窓から飛び込んできた。
「お前、なにして!普通に入ってこいよ!」
「しっ、誰かに盗聴されてる……」
「っっ!!」
「………な〜んてな!いちいち手続きとか面倒だからな。」
「……お前なぁ…………その、大丈夫なのか?」
「?……ああ、私は無傷さ。」
「私はって……もしかして」
「あの後、安否が気になってな。お前は大丈夫そうだったから後回しにしたんだよ。」
「…………それで、みんなは……」
「非常に言いづらいんだが………………全滅だ。」
「ッ!そんな………」
「永嶌の野郎はまだ息はあるが、体じゅうに穴が空いてる……時間の問題だろうな。」
「……奈織さんは今どこに!」
「……応急処置をして、私の家で休ませてる。」
「連れてってくれ!」
「はッ!そういうと思ったよ。」
俺とウズは病院を抜け出した。
傷口の痛みに耐えながらも全速力で走った。
バンッ!
「奈織さん!!」
「…………憧也君、か……元気そうで、よかった……」
急いで駆け寄る。
「私はもうすぐ、死ぬ、余計なお世話かもしれないが……ぐふっ!」
大量の血を口から吐き出す。
「奈織さん!早く病院に!」
「いいんだ……君と喋れなくなる、しな…………。…………今回は全て、私の責任だ……みんなが死んで……」
奈織さんは泣いていた。
唇を震わせながらも声が上擦らないように堪えていた。
「…………」
「君がこの結末を、受け入れられるなら、それでいい。……でももし、世界を変えたい、と、そう望むのなら、科学部へ行け……」
「科学部……」
「……ちょっとしたら賭け、だ…………知力担当としては、最悪だがね…………君の幸せを祈る…………」
「……奈織さん……?……奈織さん!」
「…………」
息をしていない。最後の言葉と同時にすぅっと表情が穏やかになり、死んだ。
「いやだ……いやだ!!あなたまで死んだら!俺は……!」
「…………」
「俺は……どうすればいいんだよ…………」




