第六話「異常事態発生」
――次の日
アルスはフェンリルと一緒に中央大きな部屋にある図書館に来ていた。
この図書館の正式名称は国名にちなんで、『大地底中央図書館』と言う。
中央図書館と言いつつもこの図書館がある場所は中央大きな部屋の最南に位置している。
言わば学校と真反対の位置だ。
この図書館は地底世界唯一の図書館であり、地底世界にとって歴史ある建造物の一つである。
外壁は全て土で造られ、中は木造という変わった造りをしているこの建物は小さい子供から腰の曲がった老人まで、誰もが利用できる場所だ。
しかし、この場所は余程の本好きでない限りあまり出入りしない。
何故なら、この図書館はあまりにも広過ぎるのだ。
建物の大きさももちろんだが、一番は建物の中。
端から端まで本がずっしり並べられている。
小さい子供が入れば迷路と勘違いする程だろう。
だからアルスはここには絶対に一人では入らないようにしていた。
本の冊数の多さに目眩を起こす上、ほぼ100%迷子になるため。
そんなアルスが今日、リスクを犯してまでここに来ている理由は一つ。
―― " 勉強する " ためである。
アルスは館内に置かれてある机に教科書を広げ、頭を押えながらそれを睨みつけている。
そしてその様子を向かいの席で見ているフェンリル。
今日の彼はアルスの教師役だ。
「はぁ………はぁ………はぁ………ねぇ、この教科書ビリビリ破り散らかしてもいいかなァ!?何書いてあるか全然分からないんだけど!?俺の教科書だけ文字がサンバ踊ってるように見えるんだけどッ!!!?」
声を荒らげるアルス。
「アルス落ち着いて。教科書は破っちゃいけないし、何書いてあるか分からないなんてことはないよ。全部授業でやった内容だし、君の理解力が低いだけ。あと文字は踊らない。目眩を起こしてるだけさ」
アルスは今、これまでにないほど教科書と向き合っている。
学園入学からほとんどまともに教科書を開いてこなかったのだ。
脳内が混乱し、目眩を起こすのも必然と言えよう。
「おいどうなってんだよ!!!全然分かんねぇよ!!
俺はまともに授業聞いてこなかったから知らねぇけど、お前らずっとこれ見ながら授業してきたわけ!?信じられねぇんだけど!」
「そりゃあ、今まで授業聞いてこなかったらそうなるだろうに。まぁでも、今まで何一つとして聞いてこなかったってわけじゃないでしょ?ちょっとは分かるはずだよ?
掛け算や割り算の暗算に文章の読解。ここら辺の内容は四年生には習い終えている内容だ。
少なくともここぐらいまでは難なく理解出来るでしょ?」
フェンリルが教科書を指でさしながらアルスに尋ねる。
だが、アルスは意味が分からないと言った顔でそれを見る。
「なんで掛け算とか割り算とかしなきゃなんねぇんだよ。もの買えりゃ計算とかどうでもいいだろ。
文章の読解なんて、どこ歩いてたら文章の読解する場面に出会すんだよ」
フェンリルはため息をつく。
「……数字は買い物だけに使われるものじゃないし、もっと多くのものに使われている。文章の読解なんて掲示板に行けば山ほどあるでしょ?………それに、やるって決めたんでしょ?」
アルスその言葉に黙り込む。
アルスは今日、朝いきなりフェンリルに「図書館に行くからついて来てくれ」と言い、フェンリルを驚かせたのだ。
自分から進んで絶対に行こうと言わない場所なのに、朝一でそれを言われ、フェンリルは酷く動揺していた。
訳を聞くと昨日のことを話してくれた。
ラスティーニの話、老婆の話。
アルスはそれらの全てを話し終えたあと、フェンリルに「今日からやっていこうと思う。だから力を貸してくれ。」と言ったのだ。
フェンリルはその時のアルスの揺るぎない瞳を見て、確信に変わった。
「彼は本気だ」と。
そして、現在に至る。
「まぁ、昨日までまともに勉強してこなかった人がいきなり本気で勉強をやるって言っても、やっぱり限度があるかな。今のアルスは引きこもりのニートがいきなり社会に出たようなものだからね。こういうのはやっぱり、手間暇かけてするものだと思うよ」
「おい、今の例え絶対悪意あるだろ」
鋭い目つきでフェンリルを見る。
フェンリルはその視線を無視しながら教科書を捲っていく。
生徒たちが持つ教科書は入学時に配布される分厚い一冊だけ。
その一冊は六年分の全ての教科が詰まっている。
そのためかなり重く、低学年の時は登校するにあたってかなり苦心するも、高学年になればこれだけで全てが学べるし、持ち運びもそこまで苦でなくなるため楽なのである。
フェンリルのような教科書の全てを網羅している生徒は他にも自分で本を買い、持ち歩いたりもしているが、アルスにはこの一冊があれば十分そうだ。
いや、むしろ手にあまりそうでもあるが……。
フェンリルが教科書を捲る手を止める。
そしてちょうど止めたページを見て、それをアルスの方へ向ける。
「この教科はどうかな?たぶんアルスでもこれなら少しは理解しやすいと思うよ?」
そのページは『地底常識学』と書かれたページだった。
地底常識学とは、その名の通り地底世界の常識を学ぶものである。
これは地底人にとっては普段通りの生活を聞かれているようなものだ。
そのため、テストの際はほとんどの生徒が満点を取れる科目。
出来て当然の科目だ。
アルスはフェンリルが開いたそのページを覗き込み、内容を見る。
地底常識学か……。
確かにこれなら簡単そうだな。
どんな科目のテストでもほとんど0点を叩き出してたけど、この科目は唯一四割くらい取れる科目なんだよな。
難しい科目から取り組んでいくより、こういう出来る科目から取り組んで行った方がいいかもな。
やってる内に他の科目にも興味が出てくるかもしれねぇ。
「それからやるわ。それなら俺でも出来そうだ」
フェンリルはアルスの言葉にニッと笑い、「分かった。」と一言。
フェンリルにとって、アルスが剣以外のことに対して興味を持ち始めたことが嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。
「? 何笑ってんだよ。」
「ふふっ、別に何も……!」
アルスはフェンリルの様子に首を傾げるも、教科書に目を落とす。
そして内容を読み始めた時、大きな音が鳴った。
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
「あっ……」
アルスは思わず声がこぼれる。
まじか、今ちょうど読み始めようとしたのに。
この鐘のような音は図書館内にのみに鳴り響くものではない。
外で誰かが鉄板を叩いてる音でもない。
これは、地底世界の住人ならば必ず毎日聞くもの。
地底人にとっての生活の指標そのもの。
それは巨大な鐘で地底世界中に鳴り響く、『グランの鐘』と言われるものである。
地底世界の住人たちはこのグランの鐘で朝、目を覚まし、行動を開始する。
そして、行動を終え、就寝する際もこの音を耳にする。
就寝の鐘がなると、一日を終えた証拠だ。
そして、今鳴った鐘は昼を知らせる鐘。
アルスたちはその音を聞いて手を止める。
「もう昼になっちゃったかぁ。まぁ、勉強もあるし、どうする?昼食あとにする?」
アルスはそう言われ唸りながら首を傾げる。
「………そうだな。後にしよう。今はこれやりたいし。」
「分かった」
そう言って勉強を再開する。
鐘の音は地底人にとっては行動の指標であるが、決してその通りに動かなければならないって訳ではない。
いつ寝ようがいつご飯を食べようが自由。
ただ、人々の生活の標準を合わせるためのものだ。
アルスにとっては今は勉強したい気分。
邪魔してはならない。
そう思い、フェンリルもアルスが「飽きた」と言うまで読書を続けた。
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数ヶ月が過ぎた。
アルスは学力がかなり身についた。
吸収はいい方なのだろう。
学校で行われる小テストも少しずつ点数を取れてきた。
元が元なので何とも言えないが、この調子なら卒業試験の筆記テストも何とかなりそうだ。
そして今日、アルスたちは息抜きをしようと、久しぶりに狩りをすることにした。
勉強ばかりでは、アルスの脳みそが破裂しかねない。
そのため、いつも通り学校を終え、二人は北大大きな部屋へ向かった。
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中央大きな部屋から見て北に位置する北大大きな部屋。
そこは魔獣の巣窟である。
色々な魔獣が各々の住処を作り、生息している場所。
狩りをする時は必ずここに来る。
本来は学校の授業以外などでは少人数で立ち入ってはいけない約束なのだが、問題児である彼はもちろんそんな約束守るわけがなく、何食わぬ顔で堂々と北大大きな部屋へと入っていく。
そしてフェンリルもアルスの後ろに続く。
フェンリルは学年一の頭脳を持つ天才なんて言われているが、元々はアルスと同じ、悪ガキと言われる生徒だった。
アルスとアイビスと三人でよく悪さをしてフィーネスを困らせていたが、成長するにつれある程度の善悪がつくようになり、先導するアルスを止めれるようになったものの、今でも多少の悪さは許容している。
フェンリルは狩りにおいてはアルスやアイビスに比べると魔獣への闘争心や敵に対する直接的な攻撃力は低い。
だが、戦闘実習学はアルス、アイビスに続いて三位。
ちゃんと二人に劣らず戦える力を持っている。
そんな彼が戦闘において主に使用するのは、『固有魔法』。
フェンリルの固有魔法は「魔獣を操る魔法」。
魔獣を呼び寄せ、使役することが出来る。
魔獣同士で戦わせることも出来るが、基本は他のパーティメンバーをサポートする方が多い。
「さて、今日は何を狩るつもりなの?」
大きな部屋内を歩きながらフェンリルが聞いてくる。
アルスはウキウキした様子で一枚の紙をフェンリルに渡す。
「今日はこれだ!」
フェンリルがその紙を受け取り中身を見る。
そこには、 " 討伐依頼 " と言う文字が一番上に書かれてあり、下には依頼内容が書かれてあった。
アルスは今朝、掲示板で依頼の紙を取ってきていたのだ。
フェンリルは依頼内容の方に目を通す。
「グランドアントの討伐依頼か。数は八匹。まぁまぁいるね」
「ちょうど数の多い依頼があってラッキーだ!」
そう言ってズンズン進んで行くアルス。
「えーと、今回の被害は中央大きな部屋の店にて商品を荒らされた、か。確かこれ、この前あった学校前の八百屋さんことだよね?
被害はそんなに出てないらしいけど、大丈夫だったのかな?」
フェンリルが紙を見ながら心配そうに呟く。
「人に危害加えてないなら問題ねぇだろ。」
魔獣は時に人が住む中央大きな部屋に来て悪さを働く。
地底ではもっかの重大な問題として掲げられている。
まぁ、人が怪我をしたとか死人が出たとかなら大問題だが、商品を荒らされた程度ならそんな大きなことじゃねぇだろ。
「まぁ正直グランドアントなら、アイビスがいて欲しかったね」
フェンリルが今度は苦笑いを浮かべながら呟く。
グランドアントは魔獣の中でも最も多い数で群れを成す生き物。
一匹一匹が特別強い訳ではないため、こういう時は魔法で一掃出来れば楽なのだが、彼らのパーティの魔法使いは今日も不在。
フェンリルも魔法を使えるが、アイビスほど上手く広範囲に使えない。
「いいんだよ!アイビスがいると一瞬で終わっちまう!たくさんいた方がたくさん斬れるだろ?」
「そうだけど…………ホント欲張りだねぇ」
フェンリルがため息混じりにそう言うとらアルスは人差し指を立てて横に振る。
「チッ、チッ、チッ、違うね!欲張りなんてガキみてぇな言い方はよせよ、フェンリル。今の俺は剣だけでなく勉学にも励む列記とした優等生!!!故に、欲張りではなく、「向上心のある」と言え!いいな?」
イケボを使いながらかなりハイテンションでフェンリルに指を差す。
「そうだね、いつかなれるといいね、優等生。」
ため息混じりに適当にあしらう。
勉強をいきなり始めた弊害か、アルスが徐々に壊れかかっていることにあえて口を紡ぐ。
そんなフェンリルがふと怪訝な表情を浮かべた。
異様な違和感を察知するように
フェンリルたちが今いる場所は中央大きな部屋の中央辺り。
普通ならば中央大きな部屋に入った時点で魔獣と遭遇するし、場合によってはいきなり戦闘なんてこともある。
だが、今日はおかしい。
今日フェンリルたちは中央大きな部屋に入ってから一度も魔獣と遭遇していない。
それどころか、姿すら見ていない。
これは、明らかにおかしい。
フェンリルは警戒を強める。
「アルス、なんか変じゃない?」
「………あぁ、なんか気味悪ぃわ」
アルスも顔をしかめている。
フェンリル同様、アルスも気づいていたようだ。
「なんで一匹も見当たらないんだろう。こんなこと今まで見た事がないよ。魔獣たちが消えるなんて、有り得ない。どこに行っちゃったんだろ?」
「……………いや、いる。俺たちの前に姿を見せないだけで、隠れてる」
アルスは人より魔獣の気配を感じとりやすい。
そのおかげで、フェンリルが気づかないことでもアルスならすぐに気づけるのだ。
フェンリルはもう一度周りを見渡す。
だが、周囲に魔獣が潜んでいる感じはしない。
「僕には分からないけど、魔獣たちはいるんだね?」
「あぁ、いる。」
「じゃあ、魔獣たちは今どんな感じなの?」
アルスは立ち止まり、少し悩んだ後、首を傾げながら答える。
「俺たちのことを伺うようにじっと見てるんだけど…………なんか、アレだな………………怯えてる?」
「怯えてる?」
怯えてる?
何に?
僕たち?
いや、それは違う。
僕たちが来る前からこの場所は静かだった。
僕たちじゃない。
それとも僕たちではなく人そのものに対して?
僕たちが狩りをしてない間に何かしらの問題があったなら有り得る。
けどそれなら掲示板や噂とかで耳にするはず……。
となると、人間ではない何か……。
ここに来るのは人か魔獣くらい。
人ではないのならば考えられるのは魔獣だ。
魔獣……。
同種食い、競争の激化、巨大な群れの形成、考えられるのはたくさんあるけど、どれも魔獣にとっては普通のこと。
常日頃から起きてる事だ。
じゃあなんだ?
人でもない魔獣でもないとなると何がある?
魔獣たちが自分たちの領域から隠れるほどのこと。
フェンリルが無言で考えているとアルスが何やら犬のように周囲を嗅ぎ出した。
「なぁ、なんか臭わね?」
「え?臭う?」
そう言われ、フェンリルも周辺を嗅いでみる。
だが、またしてもフェンリルには何も感じない。
「何も臭わないけど?どんな臭いがするの?」
「なんか…………血生臭ぇ……」
血生臭い……?
フェンリルは顔をしかめる。
「それってどっちから?」
「んー、右だな。」
「右だね?行ってみよう」
そう言って二人は今いる場所から右に向かって歩き出した。
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少し歩いたところで、アルスが鼻を抑えだした。
理由はフェンリルにも分かった。
臭いが強まったのだ。
血生臭い嫌な臭いが。
「………フェンリル、吐きそう……。」
顔を青くしたアルスが吐き気を訴える。
吐き気を催すほどのその臭いは、胃の中にどろどろとした何かが流れ込み、鉛のようにずっしりと留まるような感覚を感じさせる。
丸で一種の毒のようだ。
フェンリルも嗚咽が出そうになるのを何とかこらえる。
「我慢してアルス。もうすぐだと思うから。」
フェンリルが目の前の岩に手をつきながらその岩の横を通過した、その時だった。
眼前に広がる景色に、二人は声も出ず愕然とした。
ぐちゃぐちゃになった魔獣の死体によって一面が血の海のように真っ赤に染まっている。
地獄絵図とは正しくこのことだろう。
「……何がどうなってんだよ………!?」
異様な光景にただただ目を疑うしかなかった。
フェンリルも惨たらしい惨状に顔が引き攣る。
「…………これは…………どう見ても異常事態だね。」
異常事態とはその名の通り、地底世界で起こりうる異常な事態のこと。
平和なこと世界において、異常事態が起こること自体がほとんどない。
最後に異常事態が起きたのは20年も前だ。
アルスたちは生まれてすらない。
「魔獣たちは何に殺られたんだ?」
アルスが目を細めながら、転がっている魔獣の死体を見る。
死体の数は2、30匹程。
魔獣の種類も色々。
ここまでで無差別的なものと分かる。
だが、それ以上に衝撃なのは、殺され方だ。
全ての死体は内臓が飛び散っていたり、ぺちゃんこに踏み潰されていたり、形がぐちゃぐちゃに変形していたりと、様々だが、綺麗な状態の死体はどこにも無い。
正しく、惨殺。
この時点で、人が殺ったのではないと分かる。
まず、この中央大きな部屋に来るのは狩人か、教師や専門職員といった要職員。
あるいは学園生徒ぐらい。
そのような人たちは魔法や剣などを用いて魔獣と戦闘を行うが、魔法や剣ではまずこんな死体にはならない。
もっと綺麗な死体になるはずだ。
そして人が魔獣を狩った際には、必要な部分だけ持ち帰り、あとは燃やさなければならない。
これは狩りにおいての鉄則のルールだ。
これらの観点から人ではないだろう。
人でないならば残るは魔獣くらいだが、魔獣にしてもおかしい。
魔獣同士の殺し合いは容易に起こりうる。
だが、魔獣同士が殺し合うのは主に捕食が理由だ。
ただ殺すだけなんてことはしない。
フェンリルはそれらの考えられる全ての状況を頭で整理しながら、ある一点を見つめていた。
それは、死体によって血の海と化した一帯の奥にある、何も無い場所。
何も無い場所なのだが、明らかにこの状況を作り出した犯人のモノと思われるものがそこにあった。
それは、巨大な血溜まりの跡。
その跡は一つだけに留まらず、奥の方へと続いていた。
この状況とあの跡………。
間違いなくあの跡が手掛かりだけど………なんだろう、あれ。
血溜まり……。
怪我をして逃げたってことか?
いや、それにしてもあまりにも血痕が等間隔に並び過ぎている。
まるで足跡のような……………足跡?
フェンリルは目を見開き、困惑する。
まさか………
「………新種………!?」
「新種?……………って、おいそれって………!!」
新種――。
それは長い地底の歴史において起こり得てはならない『災悪』。
フェンリルはもう一度疑いの目を持ってその跡を見る。
見間違いではないかと。
だが、間違いない。
あれは足跡だ。
巨大な何かの、足跡。
フェンリルはあまりの恐怖に震え出しそうになる。
大き過ぎるせいで気づかなかったけど、アレは間違いなく足跡だ。
となると新種の魔獣は足跡から推定するに、優に30メートルを超える、『怪物』。
フェンリルはすぐに状況を理解し、踵を返し、早歩きで歩き出す。
「アルス、戻ろう!ここに居たら危険だ!」
「!! ……おう!」
フェンリルの焦りようを見てか、アルスもすぐにフェンリルの後ろへついて行く。
嫌な予感が的中した。
これは…………下手をすれば……。
そんな考えが浮かぶも、二人は何も言わず中央大きな部屋へ向かった。
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中央大きな部屋まで戻って来て、二人はすぐに学校に向かい、フィーネスに見たこと全てを話した。
本来ならあまりにおかしな話に相手にされないが、話し手はフェンリル。
フィーネスはすぐに信じてくれた。
学校側は要職や狩人たちと共に協力して調査を行うそうだ。
二人は「危険だし、今日はもう遅いから帰れ」とフィーネスに帰らされた。
「アレ、どう思う?」
アルスが神妙な面持ちでフェンリルに聞く。
フェンリルも真剣な表情で答える。
「かなり危険だよ。アレは一歩間違えれば地底世界が潰れかねない。先生たちが万全を期した状態なら問題は無さそうだけど、逆に先生たちが出なければならないほどの危険度だっていう事だ。」
アルスはそれを聞いてどれだけ危険か改めて認識すると同時に、先生たちが事の次第に当たってくれることに対して安心感を感じる。
まぁ、フィーネスにラスティーニ先生も動いてくれるなら安心だな。
今日中にカタがつきそうだ。
「まぁ、大丈夫っしょ!地底世界でも屈指のバケモノたちが動いてくれるんだ!明日になったらすっかり元通りになってんだろ!」
「………だといいけど……。」
明るく振る舞うアルスに対して、フェンリルは不安をぬぐえない様子でいる。
フェンリルもフィーネスたちの強さはよく分かっているが、どうしても胸に引っかかる嫌な予感が外れない。
二人はフィーネスたちが全てを片付けてくれることを願いながら家へ帰った。
だが次の日、フェンリルの嫌な予感は的中した。
♦ちょこっと補足①♦
地底世界には多くの謎が存在しており、そのうちの一つが『グランの鐘』である。グランの鐘は巨大な鐘と言われているが、実は誰もグランの鐘を見たことがないのだ。どこで誰がその鐘を鳴らしているのかも分からない。ただ、地底世界中に鳴り響くほどの鐘ならば巨大なのだろうという人々の憶測で、皆巨大な鐘と思っている。巷では地底世界の神様が人々のために鳴らしてくれているのではないかという話もあるが、真相は謎のままだ。
♦ちょこっと補足②♦
フェンリルはアルスたち同様悪ガキなんて呼ばれていたが、実際はアルスとアイビスに振り回された結果、同じ扱いをされるようになった。




