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第三十七話「応戦」

 アルスたちが討伐依頼に向かった数時間後――王宮は騒がしくしていた。


 この国には『花神祭』という一年に一度の祭りがある。

 それは初代花神の生誕から始まったこの国の伝統であり、花神に感謝を伝える日である。


 花神祭は今から約一ヶ月後に開催される予定である。


 そのため、祭りに向けての準備が慌ただしく、宮中はバタバタだった。

 訳あって現在王宮を不在にしている兄の代わりに指揮するリリアもそれ以上に忙しさを増していた。



 一段落がつき、リリアは休憩室で一息ついていた。


「リリア様、お疲れ様です。こちら紅茶です。どうぞ」

「ありがとうございます」


 一息付きながら紅茶をすする。


 やっぱりこの時期は大変だなぁ。

 私一人じゃ全然手が回らない。


 討伐依頼の方は上手くいってるのかな。

 バーゼルさんとお兄様も居るし、大事ないとは思うけど……。


「………」


 窓の外を見て、ふとアルスを思い出す。


 今日もお話出来るかな……。


 アルスのことに関しては好意があるわけではないが、決してないという訳でもない。

 少しばかりの興味が湧いていた。

 とは言っても、話し相手程度のものだが。


 今頃向こうも討伐し始めたところかな。


「花神様、そろそろお時間です」

「はい。今行きます。」


 休憩の終わりを執事から伝えられ、最後に外の空気を吸おうと窓際へ立った。

 外からの新鮮な空気に深呼吸をする。


 今日もこの国は綺麗!

 さぁ、もうひと頑張りしよう!


 そう心の中で喝を入れた時だった――。


 森の方で何かが小さく光った。

 そして次の瞬間、砂で出来た槍のようなものが一直線にリリアの方へ向かって飛んできた。


「っ!」


 リリアは花神の力を使い、その槍を目の前で防いだ。


 槍は一瞬にして砕けたものの、中から何か魔道具のようなものだけが流れ弾のようにしてこぼれ、リリアの手に触れた。


 次の瞬間、カチッという音ともに、リリアの目の前が一瞬にして白く染められた。


 リリアは後退りをするように尻もちをついた。


「リリア様!!!?」


 執事たちが近寄る。


「リリア様!大丈夫ですか!?」

「何が起こったのだ!?」

「何者かに攻撃された!」

「何だと!?おい!警備の者は何をしている!」

「早く大臣方に報告を!それから花神様を救護室へ運ぶぞ!」


 混乱し、慌ただしく動き回る従者たちの足音と声だけがリリアの耳に入る。


 先程の魔道具でリリアは視界を奪われていた。

 そのためリリアは今、音でしか周囲の状況を把握出来ないでいた。


 なに……?

 なにが起こったの?

 前が見えない。

 みんなが慌ててる。

 指示を出さなきゃ……。


「オイッ!どこ行くんだ?花神(リリア)ァ!?」


 聞き覚えのある声。


 その場にいる全員の顔が青ざめる。


 リリアが先程までいた窓にその人物はいた。


 黒と灰色混じりのドレッドヘアーに悪人顔とガタイのいい体。

 指や首にはたくさんの宝石が埋め込まれた指輪やネックレス。


 悪名高く、誰しもが指名手配書で目にしたあの男がだった。


「フリージックッ!!!」


 従者たちは皆、警戒態勢に入る。


 花神の前に立ち、武器を向ける。


 だが、その行動はこの男の前では一切の意味を成さない。


「久しぶりだなァ!!!あの時国を追われた以来かァ?」

「花神様に近づくな!!」


 怯えながら叫ぶ声にフリージックは嘲笑う。


「なんだそれはァ?抵抗のつもりかァ?笑わせる!これから俺の()()になる主の盾になって死ぬか。それとも大人しく奴隷として売り捌かれるか。選ばしてやるよ!弱い弱いクズ共!!!」

「っ!」


 リリアが花神の力を使おうと手を前に出す。


 しかし、花神の力が全く出ない。

 というよりも魔力を全く感じない。


 え、なんで?

 なんで力が使えないの!?


「貴様ッ!!!!花神様を侮辱するなッ!!!」

「皆さん待っ――」

「この方はいずれこの国を光へと導く御方!!!貴様のようなクズが関わっていいわけないだろッ!!!」


 そう一人の従者が前に出た。


「そうか、なら死ね」


 フリージックが指をクイッと動かすと、従者全員の周りに砂が立ち込め、一瞬にして全員を覆った。


 ただの砂の塊と化した従者たち。


 フリージックはなんの躊躇いもなく彼らを蹴り倒した。


「主が無能だと従者もここまで無能になるか」


 目がまだ見えず、何が起こっているのか分からない。

 ただ、従者たちがフリージックに攻撃されたことは分かった。


「何をしたのですか!!?」

「何って、砂で固めてやっただけだ」

「!!? ……あなたはどこまで――」

「『どこまで非人道的な人間なのか』って?笑わせんな!」


 目が見えずへたり込むリリアの顔をフリージックは鷲掴みにして寄せる。


「人道的である理由が何処にある?結局は世の中強い奴だけが生き残っていく。弱い奴は強い奴にこき使われるか死ぬかしねぇんだよ!お前らの両親のように!!!なァ?哀れな王女様!」

「っ! あなたはいつもそればかりですね!」


 見えない目でフリージックを睨みつける。


「ケッ……つくづく似てるなぁ。お前の母親も似たような目をしてやがった」


 リリアを投げ捨て、フリージックが声高々に宣言する。


「この国はもう時期俺の国へと返る!俺が支配し!俺が育て!俺が世界をのし上がる国になァァッ!!!」

「そんなことさせません!お父様が!先代様方が作りあげてきたこの国を!二度もあなたの踏み台になんてさせない!」

「ガハハハッ!そうか!じゃあ止めてみろ!お得意の花神の力でな!」

「くっ!」


 もう一度力を使おうとするも使えない。


「ハハハッ!使えないだろ?花神の力ァ!」

「何をしたのですか……!」


 フリージックはリリアの近くに落ちていたさっきの魔道具を拾い上げた。


「お前が食らったのはこの魔道具だ。体の一部に当たると光を発して周囲の人間の魔力を一時的に消すんだとよ。俺が作ったわけじゃねぇから知らねぇが、本来ならそんな魔道具なんて存在しねぇらしいんだがな、色々条件が揃うと発動する魔道具を俺の()()()が作ったらしい」


 交渉人?

 この人が用意したわけじゃない。

 その魔道具をこの人に渡した人がいる!


「まぁ要はお前は今なんの力も使えないただのガキだ!」

「っ!」


 またフリージックを睨みつける。


 すると今度はフリージックはリリアの顔を蹴り上げた。


「うッ!」

「お前はこれから俺のガキを産んでもらう!『花神』の力を持ったガキをな!それでそいつがそこそこでかくなって正式に『花神』の力を引き継いだら、従順な俺の手足として一生使い続ける!俺の野望の土台にする!」

「っ!」

「お前はガキを産んだら北方の金豚(貴族)共に売り飛ばしてやるよ。最高級の高値でな!」


 嘲笑うフリージック。


 ただ聞くことしか出来ないでいたリリアの額に血管が浮かび上がていた。


 人を道具のように扱い、国を己の欲のために踏みにじる。

 あってはならない。

 人の命は無限じゃない。

 軽々しく扱っていいものじゃない。

 簡単に貶しいいものじゃない!


 リリアは手探りで近くにあった武器を取り、立ち上がってフリージックへと向けた。


「おなたの野望は叶いません!『花神』クロリリア・フロールワの名のもとに、あなたを打ち倒します!」


 嘲笑うかのようにゲラゲラ笑っていたフリージックはリリアのその行動を見て、冷めたような目で見下ろし、小さく呟いた。


「……お前はやっぱりアイツのガキだな」

「……?」

「まぁいい!目も見えずに武器を構えて大層なこった!兄が戻ってくるまでの時間稼ぎだろうが、面白い!お前を一方的に痛ぶった後、遅れて到着したスーリオをお前の目の前で殺してやる!」


 男の笑いが宮内に響き渡った。



---



 《王国襲撃開始から数時間後 バーゼル方面》


 バーゼルは森から溢れ返ってきた魔獣たちを抑え続けていた。


「オイやばいぞ!次から次へとどんどん溢れ返ってくる!」

「抑えろ!何としてでも抑えろ!ここを突破されたらこいつらたぶん王宮まで突っ込んで行くぞ!」


 バーゼルだけでなく、その場にいた冒険者や国民たちも総出で抑えていた。


「おいアンタ!どうにかならねぇのかよ!このままじゃ時期に突破されるぞ!!?」

「うるせぇな!こいつらがただの魔獣だったら仕留めて終いだったんだが、どこぞのバカ王が国の所有物になんかしたせいでこんなにも手詰まりになってんだよ!」


 今森から溢れ返って来ている魔獣は全て国の所有物として認められた魔獣たちだった。


 その証拠に国の紋章が入った首輪がされてある。

 制御装置の役割を果たしていた首輪だ。


 それが何かしらの影響で壊れ、そして何故か王国を襲っている。


 よりにもよって国の魔獣共かよ!

 殺したりしちまったら国罪じゃねぇか!


 さっきの『呪い』が関係あるのか?

 だが、あの『呪い』の効果は恐らく『飢餓』だ。

 あくまで仮定だが、『飢える苦しみを何倍にして与えるもの』だろう。

 魔獣たちが暴走する効果じゃないはず。

 それともこれも『飢餓』の一環か?


 それに、どうやらスーリオのやつが何とか『呪い』の緩和をしてくれているようだが――。

 なら尚更、暴走が止まってもおかしくないはず。


「………」


 だが、止まる気配はない。


 ――まさか『呪い』じゃない何かが関わっている?


 そうなるとますます手がつけられなくなってきたな。


 クソっ!

 本来ならこいつら(魔獣たち)が襲撃者を撃退しなきゃならねぇのになんで俺がやってんだよ!


 バーゼルの魔法にも限りがある。

 今無数の黒い手やら沼を使って止めているものの、これ以上増えると手が回らない。


 ――しかし、起こって欲しくない時に嫌な予感は的中する。


 森の方からまた溢れんばかりの魔獣たちが押し寄せてきた。

 その勢いにバーゼルを中心とした包囲網が崩れた。


 魔獣たちのうち数匹が包囲網を抜け、突っ込んで来た。


「チッ……!」


 止むを得まい!


 バーゼルは黒い刀を作り出し予備動作のない動きで魔獣に斬りかかろうとした。


 だがその時、割って入るようにして横から大きな攻撃が飛んできた。


「『――水渦砲(アクアウィービア)!!!』」


 聞き慣れた声と見慣れた魔法。


 振り返るとそこには、先程二手に別れたはずのアルスたちがいた。


「バーゼルさん!」

「バーゼルーーー!!無事か!?」

「うわ何この大量の魔獣……!」


 バーゼルは三人が吹き飛ばした魔獣を見て肩を落とす。


「あーあ、せっかく苦労して無傷で抑えてたのに………。何の躊躇もなくぶっ飛ばすかね普通。

 あとお前ら北側の方に行くって言ったろ。なんで戻ってきた」

「向こうの方は被害が少なかったので動けそうな人にはとりあえず声は掛けときました。それと大きな音がしたのでそっちの方が気になって来たんですけど……これは………」

「見ての通り魔獣の暴走、言わば大暴走(スタンピード)ってやつだ」

「? 何それ」

「多数の魔獣たちが一斉に暴走しだすことだよ」


 フェンリルのは本での知識だが合っている。

 魔獣たちが何かしらの原因で一斉に人の町を襲撃したりするこの現象は、主に『中央大陸』に多いとされている。


 本来この国の魔獣は魔道具で制御されている上にしっかりと躾までされているため大暴走(スタンピード)など起こり得ない。

 起こり得ないはずなのだ。


「言っとくが、こいつら全部国の所有物だから殺したりしたら国罪だから。」

「「「えっ!!?」」」

「本当は傷付けんのもグレーゾーンだからな〜。まぁさっき吹っ飛ばしてたけど」


 まじかよ。

 てことはこいつ(バーゼル)、全部殺さずこの量を止めてんのかよ。

 ますます化け物だな。


「と、とりあえず!どうするのよ!このままだとアンタも持たないでしょ!?それに、リリアの方も気になるわ!」

「そうだな!もう一回二手に別れるか!」

「俺は魔獣共の相手でここを離れられねぇ。だが、俺一人じゃ持たねぇからアイビス、お前もここに残れ。お前が居りゃあだいぶ楽になる」


 アイビスの魔法があれば広範囲に渡って魔獣たちの足止めが出来る。

 ここではアイビスが適任だろう。


「わかったわ!」

「……」

「アルスとフェンリルはそのまま王宮の方へ――」

「待ってください!」


 しかし、納得しない者が一人。


「僕に残らせてください。僕が、魔獣たちを止めます!」

「フェンリル……」

「いや、でもフェンリルの特一魔術じゃこんなデカい奴ら一気に操れねぇだろ?」

「そうよ!アンタの特一魔術は個体の大きさとかで制御が可能かどうか変わってくるって昔言ってたじゃない!」


 フェンリルの特一魔術は魔獣を操る極めて例を見ない魔術。


 似た魔術を扱う者も居らず、手本と言える手本がいなかった。


 故に、フェンリルは手探りで覚え始めた。

 自分の魔獣がどれほどの大きさでどれだけの個体、どれだけの時間、どこまでの要求が可能なのか。

 調べ、試し、覚え続けた。


 そしてそれは地上に出てからも変わらず続けた。

 地底と地上の違いを自分の体を持って調べた。


 結果、分かったことがある。


 地上に出てそれなりの時間が経過した今、地上の魔力に体がそこそこ適応し出し、地底にいた頃よりもはるかに能力の幅を広げていることに。


「僕が今操れる魔獣は、あの大きさの個体なら50はいけるはず……!」

「50!?」

「え、それってどれくらいの……」

「今押えてる四分の一だ」

「それで操った個体を使ってもう半分を相殺出来る」

「言わば実質100ってことか」


 フェンリルが頷く。


 確かにそれならアイビスよりも効果的に魔獣を止められる。


「出来んのかよそんな事!?俺お前が地上に出てから大量の魔獣操るところ見た事ねぇぞ?」

「出来るよ……!いや、出来なくとも、やる!」


 退く気は一切ない目で魔獣たちに目を向けている。


 バーゼルも折れるかのようにため息をつき、


「分かった。お前が残れ。アルスとアイビスは王宮へ急げ。もしかしたらスーリオがどこかで手詰まってるかもしれねぇから何とかしてやってくれ」


 フェンリルの表情は覚悟の決まった者の顔だ。

 その熱は二人にも伝播する。


「分かったわ!すぐに終わらせてくるわ!」

「美少女の助け、笑顔を見るため……!アルス、参ります!」

「はよ行け」


 四人は再び二手に別れた。


 二人の背中を眺め、バーゼルが呟く。


「俺はあっちの方が不安だね」

「えぇ、だから早くここを終わらせて追いましょう!」

「……お前、ほんとに出来んのか?まさかとは思うが二人の前で大見得切っただけなんてわけねぇよな?」


 フェンリルが鼻で笑う。


「しませんよそんな事。やった試しは無いですが、出来るという確信があるから残ったんです。それに、魔獣に関しては僕の領域ですから」

「……生意気だな」

「まぁ、彼らの幼なじみなんで」


 森の方からまた魔獣が溢れ出し、バーゼルの包囲網を突破してきた。


「おいアンタ!何やってんだ!すんなり突破されてんじゃねぇか!」

「うるせぇよ!わざと通らせたんだ!」


 フェンリルは突っ込んでくる魔獣に向かって走り出す。


 そしてバーゼルから教わった剣の容量でぶつかる直前に横へ飛び避けた。


「『従え!我が心のままに!』」


 耳元で発せられた詠唱に、魔獣が急ブレーキをかけた。


 バーゼルの手前でようやく動きが止まり、フェンリルの方へ歩いていく。


「僕を乗せてこのまま他の魔獣たちの周りを走り回って欲しいんだ!頼むよ!」


 フェンリルが背中に乗ると、魔獣はその要求に答えるように走り出した。


「……便利な魔法だねぇ〜」



---



 《スーリオ方面》


 スーリオは『呪い』を抑えるため手が離せないでいた。


 それをいいことに、襲撃者たちはどんどん街や人を襲っていた。


 悲痛な叫び声、建物の破壊音、聞くに絶えない下賎な笑い声。


 スーリオはただそれを見ることしか出来なかった。


「助けてくれぇぇぇ!!!」

「お父さぁぁん!!!お母さぁぁん!!!」

「きゃああああっ!!!」

「やめろ!やめてくれ!!」


 ――ただ、見ることしか出来なかった。


 この国の『王様』なのに。

 この国の人々を守るべき存在なのに。


 目の前で人が斬られ、連れ去られ、泣き叫んでいても、何一つ助けられない。


 僕は―――何のためにいるんだ?


 分かっている。

 頭の中では冷静にと言っている。


 被害状況、先程の音、呪い、リリア。

 落ち着け。

 まだ解決すべき点は多い。

 焦るな。


 まずこの状況をどうにかしないと。


 そう、頭では分かっているのに――。


 だが、耐えられない。


 見るに堪えない光景を目の前に、「これ以上は」と手を離そうとした――その時だった。

 何かが横を通り過ぎ、一瞬にして襲撃者たちの二、三人を斬り倒した。


「『――風砲(エアキャノン)!!!』」


 後ろから魔法が放たれ、残りの襲撃者たちを吹っ飛ばした。


「スーリオ!大丈夫か!?」

「アルス、アイビス……!無事だったんだね。

 バーゼルさんは?」

「バーゼルは森の方で大暴走(スタンピード)を起こした魔獣たちを止めてる」

「!!? 魔獣たちが大暴走(スタンピード)!!?そんな馬鹿な……」


 そんな命令など下していない!

 さっきの『呪い』の影響か?!

 それとも制御装置が壊れた?!


「そんなことは今は後でいいんだよ!早くリリアのところへ急ぐぞ!」

「………」


 急かすアルスに対して黙り込むスーリオ。


「どうしたんだ?」

「僕はここから動けない。ここで『呪い』を止めないといけない」


『呪い』?

 確かスーリオの魔法がどうのこうのってフェンリルが言ってたな。

 そうか、スーリオが止めてくれてたのか。


「じゃあどうすんだよ……」

「……リリアの元には君が行ってくれ、アルス。

 アイビスはここの援護をして欲しい。僕は今何一つとして動けないからね。」

「……分かったわ」

「頼まれてくれるかい?」

「当たり前だろうが」

「ありがとう。それじゃあ敵の情報を伝えておく。

 敵は知っての通りフリージックだ。アイツは砂の特一魔術を使う。

 それに何かしらの方法でリリアの『花神』の力を抑えている。水魔法を使って対応しながら『花神』の力を抑えているものを何とかするんだ」

「………分かった」


 そう言ってアルスは王宮へと走り出した。


 同時にアルスは思った。


 ――俺、水魔法使えないじゃん……。



---



 王宮まで辿り着いた。


 外から見た感じはこれといって荒らされたような形跡はない。


 ただ、人はどこにもいなかった。

 怪我人や倒れている人一人いない。


 まるで最初からいなかったかのように見える。


 その代わり、あちこちに()()()()()くらいの砂の塊があった。


 どうなってんだ?

 なんで誰もいない。

 それにこの砂の塊何だよ。

 こんなの無かったろ。


 扉の前まで来ると、何故か扉が砂で覆われていた。


「ん?何だこれ?」


 そう呟きながらとりあえずその砂を斬ってみた。


 しかし、当然砂なので斬れない。

 それどころか、この砂斬っても斬っても元通りになる。

 砂が崩れない。


「どうなってんだよこの砂!」


 明らかに誰かが塞いでいる。


 これもしかしてフリージックって奴がやってんのか?

 てことは空いてるところを探さねぇと行けねぇのか。

 クソったれ!

 めんどくせぇ時間稼ぎしやがって!

 もしこれでリリアになんかあったらタダじゃ済まさねぇ!



---



 《王宮内部》


 リリアは傷まみれになりながら足を引きずり、王宮内でフリージックから逃げ回っていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「オイいつまで逃げてやがるッ!!?」


 フリージックは物や壁を破壊しながら余裕そうにリリアを追ってくる。

 まるで子猫を相手しているかのようにゆっくり近づいてくる。


 目は見えるようになった。

 けど、『花神』の力は戻らない。


 一般魔術も使えるけど、詠唱に集中出来ない。


 王宮内に居た人はみんな砂に包まれて出入口は隠し通路も含めて全て塞がれた。


 持ってる武器で対抗してもすぐに壊される。


 助けは来ない。

 万事休す。


「無駄だ!どこまで逃げても変わらねぇ!」


 フリージックが段々迫ってくる。


 部屋へ逃げ込み、壁際に隠れる。


 どうしよう。

 どうやっても太刀打ち出来ない。

 何か方法は……。


「コソコソ隠れてんじゃねぇよ」

「!!?」


 壁の向こうから聞こえた声に振り返ると同時に、壁が破壊され、伸びてきた手に首を掴んで持ち上げられる。


「うッ!」


 宙ぶらりんにされ、身じろぐ。


「無駄なんだよ!どこまで逃げようが!誰に助けを求めようが!誰も来ねぇし逃げられねぇ!そのために出入口塞いでんのが分かんねぇのか?!」

「くッ!」


 身じろぐリリアを嘲笑する。


「さっきの威勢はどうした?『花神』の名のもとに俺を倒すんじゃなかったのか?」

「……っ!」

「結局こうなるんだよ。どれだけ人に期待されようが、人望があろうが、弱けりゃ全て意味がねぇ。弱い奴はただ奪われるだけだ。奪われ、貶められ、最後には強者に喰らわれる。お前の親父もそうだった!理想を語って死んだ!お前も同じだ。『花神』がなんだってんだ。結局力を取り上げられたら何も出来ないガキじゃねぇか!」

「……お父様は……弱くなんかありません!」

「じゃあ何故死んだ!?何故殺された!」

「……強さというのは力だけのことを言うものじゃありません!心の強さも立派な強さです!お父様は心の強い方でした!」

「その結果、妻もろくに守れず、王国を奪われた!心が強かろうが負ければ意味を成さねぇんだよ!弱い奴は悪だ!」

「きゃあ!」


 リリアを投げ捨てる。


 木箱に体を打ちつけ、そのまま木箱が壊れる。


 痛む体を我慢しながら起こす。


「……あなたは……心の弱い人です!人から奪うという行為、命を軽んじる行為、それはあなたの弱さを隠すための道具にしているだけです!あなたは決して強くなんてありません!」

「まだ言うか!」

「はい!何度言います!あなたは弱い人です!自分の弱さに目を向けようとしない愚か者です!」

「……」

「人は道具ではありません。命は軽んじていいものではありません。力が無くても、苦しくても、必死に生きようともがく。それが人の美しさです!あなたが簡単に踏み躙っていいものではありません!どんな理由があろうと、その()は踏み荒らしていいものではないのです!」


 力の籠った目でフリージックを見上げる。


 どんな理由があっても、折れるわけにはいかない。

 王女として、花神としての責務だから。


 だが、フリージックは呆れるかのようにため息をつく。


「それもこれも全て、理想でしかねぇ。実現しない戯言だ。

 どれだけ芯のある人間だろうと、どれだけ誇りを胸に戦おうと、相手との間に圧倒的な力の差があれば、それらは全て無になる。奪われ、支配される。

 奪われた奴らはみんな口を揃えてこう言う。『自分は何も悪くないのに、なぜこんな目に遭うんだ!なんでこんな酷いことをするんだ!』ってな。」

「……」

「だがな、そいつは違ぇ。奪われ、支配された時点でお前が悪い!弱いお前がだ!

 何もしてなくてもこの先幸せに生きていけるとでも!?自由を謳歌出来るとでも!?そんなわけねぇだろ!

 ある日突然日常が消える!家族が!国が!自由が!」


 荒くなった息を落ち着かせてリリアを見下ろす。


「この世界は理不尽の塊だ。力が弱くて生きていけるわけがねぇ。心の強さがどうだのも、俺にしちゃあただの言い訳だ。殺されちまったらそれは言い訳に出来ねぇだろ?」

「それは……!」

「だから俺は奪う!支配する!俺のために!俺がこの世界を作るために!まずはこの国だ!喜べ!俺がこの世界の王になってやる!」


 両手を広げ、天を仰ぐ。


 リリアは歯を食いしばり、目の前の巨漢を見上げる。


「……あなたはやっぱり、弱い人です」

「……まだ言うか」

「だって、そうやって力を誇示し、野望まで掲げているのに、どうしてそんなに悲しい目をしているのですか……」

「………あ?」

「その掲げた力と野望は、本当にあなたが望んだものですか?本当は誰かに助けて欲しいんじゃないんですか?

 ……人の心は目に映るんですよ。」

「……」


 リリアの目にはフリージックの目が野望に満ち溢れる目には見えなかった。

 何かに縋る、良く見覚えのある(昔の自分の)目だ。


 リリアの言葉に、段々フリージックの頭に血が上る。

 そして拳をリリアに振り下ろした。


「うッ!」

「テメェ、馬鹿にしてんのか?俺が、助けて欲しいだと?」

「はぁ……はぁ……」

「こんなにコケにされたのは久しぶりだ!やっぱり今ここで殺してやろうかッ!!?」


 怒鳴り散らすフリージックに対して、リリアはもう限界が来ていた。


 体力的な限界と心の限界。


 王女、花神と言っても、中身は普通の少女である。


 ずっと追い回され、部下も失い、逃げ道も塞がれても威勢を張り続けた。

 だが、リリアの心は段々恐怖で蝕まれていた。

 目の前の男に。


 ダメだ。

 私はこの国の王女なの。

 逃げたらダメだ。

 ――怖い。


 私が逃げたら誰がみんなを助けるの。

 ――もう嫌だ。


 お父様とお母様なら絶対に諦めない。

 何か、何か手を考えないと。

 ――誰か助けて。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 息が早くなっていく。

 手足が震え、目に涙がじんわりと滲む。


 気づけば顔は恐怖を浮かべていた。


 戦わないと……だって、私は……私は……。


 フリージックが砂で斧を作り出し、リリアに近づいた。


「じゃあな、理想を語るだけの弱者共!」

「……だ、誰か……」


 その斧は大きく振り下ろされた。


 ――助けて。


 声にならない叫びと何も出来ない非力さに、ただ為す術なく目をギュッと瞑った。


 ――部屋に血飛沫が上がった。


 色鮮やかな赤い血は天井や壁に飛び散り、何もない部屋が血塗られた部屋へと化した。


 跡形だけを見るならば悲惨という言葉が出てくるだろう。


 しかし、その血の出処はリリアからではなかった。


 斬られた感覚が無いことに、恐る恐る目を開けた。


 一番最初に目に入ったのは血飛沫だった。

 そしてその血飛沫の出処に目が行った。


 その血はフリージックの斧を振り下ろした腕から吹き出ていた。


 もちろん、やったのは自分ではない。


 やったのは――。


「テメェ、誰だッ!!!?」


 窓から伸びる白銀の一刀。


 その柄を握る、赤髪の少年。


「俺か? 俺はアルス。美女の救世主だ!」


 その少年はニカッと苛立ちのこもった笑みを浮かべた。


「アルス……さん……」


 窓から剣を振り抜いた姿のアルスを目に、リリアは驚きと説明の出来ない興奮が胸を占めた。


「リリアッ!」


 焦る顔で近寄ってくるアルス。


 アルスさん。

 なぜここに?

 お兄様は?

 外の様子は?

 皆さんは無事?


 頭の中で飛び交う質問の中、口にしたのは思いもよらない言葉だった。


「――ありがとう。」


 気づけば大粒の涙を流しながら、アルスの細くも逞しい胸に手を回していた。


 王女であるのに、花神であるのに、一番最初に出てきた言葉がまさか自分の身を案ずる言葉だったことに不甲斐なさを覚えると共に、ホッと落ち着く安心感があった。


 アルスもリリアに抱きつかれて、普段の調子で興奮するのかと思いきや、そうはならず。


 一番に目が行ったのは、リリアの状態だった。


 体中が傷まれで汚れており、顔から血も流れている。


 アルスの心配が怒りへと変わり、沸点に達した。


 何も言わず、リリアの手を解き、壁へ持たれかけさせる。


 そして、間髪入れずに殺意のこもった一太刀をフリージックに向けた。


「っ!」


 ギリギリで避けられた。


 その動きを見て、フリージックの目の色が変わった。


「随分とお怒りじゃねぇか。好きな女だったのか?」


 煽るフリージック。


 アルスもイラつきながら言い返す。


「あぁ!好きだね!大好きだ!だからテメェがやったことは完全に一線越えだぜぇフリージックッ!!!俺は今、ブチギレてんぞおおおッ!!!」


 顔を赤らめるリリア。


「リリア!」

「は、はい!」

「俺がこいつ倒したらデートしてくれよ!裏切らねぇデート!」

「えっ?……あっ、は、はい。そんなので良いのなら……。???」

「決まりだな!」


 質問の意図が分からず首を傾げる。


 フリージックは砂の斧を解く。


「ガハハハハッ!おめでたい脳みそだな!こんなところで惚気られるとは!だが残念ながらそのデートは叶わねぇぞぉ。お前は今から俺に殺されるからな」

「残念!俺はデートの約束したから元気百倍なんだよ!これでお前を百倍たたっ斬ってやるぜッ!!!」


 怒声を上げる。


 これは――本当にアルスさん?


 ――王宮内にて、アルスとフリージックの戦闘が始まった。

♦ちょこっと補足♦

女執事のハイネはリリアとフリージックが退治した時に現場に到着した。そして相対するリリアをすぐに抱きかかえて、部屋から飛び出し、王宮内に現状を叫び助けを求めた。おかげで兵士が状況を把握し、出動することが出来、足止めに成功した。しかし、その後フリージックに追いつかれ、リリアを逃がした後、自分は腹を斬られフリージックの進行を許してしまった。

ハイネはまだ生きている。

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