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第三十六話「襲撃」

 討伐依頼を終え、帰りの道中。


『グランベル』一行とその案内人たちの空気はかなり微妙な雰囲気になっていた。


 討伐の際にアルスの剣が折れてしまったのだが、実はその剣は母親からもらった大事な剣だった。


 アルスが気に病んで静かになる、とそう思っていたのだが……。


 全員の考えとは裏腹に、アルスの様子は想像の右斜め上を行った。


「俺の……俺の剣が折られた………ハハッ………どうしよ………これから生きていける気しねぇな。死のかな」


 剣を折られたことにより、アルスが壊れた。


 死んだ目でまるで呪文を唱えるかのようにボソボソと歌っている。


 周りもどう声をかけるべきか、それともそっとしておくべきか。


 微妙な雰囲気になっていた。


「あの魔獣、俺の剣を簡単に噛み砕きやがった………意味わかんねぇだけど………何最後の粘りとか……いらないんだけど………」

「「「「………」」」」

「あ゛〜、どうせなら腕噛ませてた方が良かったな〜」

「おい、誰だこいつ。俺こんな奴知らねぇけど?」

「アルスが稀になるやつですね。周りに影響でない限りは大丈夫でしょう」

「……なんか頭痛くなってきた」

「影響出てんじゃねぇか」


 気まずい空気感にスーリオがアルスを慰めようとする。


「ま、まぁ、剣のことは仕方ないじゃないかな。武器ってのは長く使っていると年季が入って壊れやすくなったりするしね。」

「………ハハッ、そうだよ。俺のメンタルはチキンと同じだよ」

「誰もそんな話してないよ」


 完全に滅入ってる。


「まぁ、そっとしておこうか。きっとそのうち何とかなるよ」

「なるとは思えねぇけどなぁ」


 そんな会話していると、進行方向に5、6人の黒いローブを身にまとった男たちがいるのに気づいた。


 スーリオが直ぐさま魔獣の足を止める。


「どうしたんです?」

「……今回の僕のもう一つの仕事が、ようやく姿を現したみたいだ。」


 スーリオが魔獣から降りる。


 男たちは不快な笑みを浮かべながらスーリオを挑発する。


「おやおや!こんなところにいるのは()砂王様じゃありませんかぁ!?どうしたんです?こんな何もないところで!!?」

「こんなところにいたら悪い奴らに襲われますよ!!?」

「大丈夫だよ。君たちの相手をするのは気づかないうちに虫を踏んづけてしまうようなものだ。些細なことだよ」


 笑顔で返すスーリオに男たちが顔をしかめる。


「あ、あの……これは一体どういう……」

「今日、君たちに王国の過去の話をしたね?」

「はい」

「その時に話した男、フリージック・カーネルバス。今目の前にいる彼らはフリージックが作った組織、『砂上の蜘蛛』の一員。つまり、フリージックの手先だ」

「!!?」

「ついこの間、彼らが王国にいたという目撃情報があった。森の魔獣たちを使って捜索した結果、この近辺に彼らのアジトがあると分かってね。今回の僕のもう一つの仕事はアジトの特定と殲滅。彼らを捕まえてアジトの場所を吐かせるのが目的さ」


 スーリオが男たちに向かって近づいていく。


「さぁ、アジトを教えてもらおうか。今回は逃がさないよ」


 男たちは怖気付きながらも強気の笑みを見せる。


「ハッ!アジトだ!?そんなもん探したって意味ねぇよ!俺たちのアジトは今日より変わったんだからな!」

「……何?」

「いや、()()()()()って言うべきか!」

「――まさか……!」

「王国は我ら『砂上の蜘蛛』のものへと返る!全ての支配はフリージック様が成されるのだ!」

「ッ!!!」


 瞬時に殺気を放ったスーリオが男たちに向かって魔術を放った。


 それは見たことのない魔術。

 おそらく特一魔術だろう。


 一人、二人と瞬殺し、あっという間に男たちを全員殺した。


 そして荒い息を落ち着かせ、魔獣へ跨る。


「おそらく国が襲撃されてる。悪いけど、急いで帰らせてもらうよ」


 返事を待たずしてスーリオが足を進めた。



---



 王国に着くと酷い有様だった。


 往来で人が倒れ、建物は破壊され、女、子供は連れ去られて行く。


 襲撃者たちは皆、黒いフードを被り、顔を隠している。

 そして背中には組織の印であろう絵が描かれていた。


 スーリオはその現状を目の前に言葉もなく立ち尽くしていた。


「嘘でしょ……!これヤバいんじゃ……」

「ヤバいどころじゃないよ!完全に襲撃されてる!」

「おいおい勘弁してくれよ……」


 四人の姿を見て、一人の襲撃者が叫ぶ。


「おい見ろ!砂王がいるぞ!!!」


 それにつられ、どんどん襲撃者たちが集まってくる。


「ホントじゃねぇか!随分と戻ってくるのが遅かったな!」

「おいおい、ガキまで連れてやがる!格好のカモだな!」

「砂王ぶっ殺して手柄を上げる!そんでガキも攫って一石二鳥!」


 下劣な笑みを浮かべてスーリオたちを取り囲む。


 アイビスとフェンリルも戦闘態勢に入る。


 襲撃者たちは容赦なく一斉に襲いかかってきた。


 しかし、その勢いも一瞬で無に変わる。

 襲撃者たちが走り出した瞬間、足元から黒い手が無数に現れ、絡みつくように全身を覆い、全員下へ引きずり込まれた。


「相手が誰かも分からず、よくもまぁ迷いなく突っ込んでこれるなぁ。俺だったら絶対にしねぇな」

「うわっ怖っ……」


 低い声で呟くバーゼルにアイビスがドン引く。


「おい砂王がいたぞ!」


 また襲撃者たちがワラワラと寄ってくる。


「また来たわよ!」

「これ相当数がいるんじゃ……」

「王様〜、いつまで俯いてんだよ。そろそろどうするか決めたらどうだ?迷う暇はねぇぞ?」


 バーゼルの問いかけに答えるようにスーリオがゆっくり顔を上げた。


「そうか、お前たちの狙いは国じゃなくて花神(リリア)だな?」


 その表情に動揺は一切なく、ただ怒りのこもった目で王宮を見上げていた。


「「「「っ!」」」」


 図星をつかれたかのように押し黙る。


「襲撃されてからかなり時間が経っているように見える。本来なら壊滅していてもおかしくないだろう。フリージックがここにいるなら。でも、姿が見えない上に花神(リリア)が力を使っていないときた。何かしらの手段で花神(リリア)の力を抑えているな」

「そ、それがどうした!」

「今更気づいても遅せぇよ!もうすでにフリージック様が花神を連れ帰ってくる頃だろ!」


 動揺しながらも吠える襲撃者たち。


 スーリオがゆっくり手に魔力をこもらせる。


「そうか、花神(リリア)を連れ帰って奴隷にでもするつもりだったか。だが、それはもう叶わない。ここにいる全員、この国から外へは出られないからね」


 スーリオが腕を振り上げると、正面にいた敵が全員吹っ飛んだ。


「「「「………え?」」」」

「さぁ、掃除の時間だ」


 スーリオの周囲が薄緑の光に包まれる。

 そして徐々に形を作り、人型へと変わっていく。


 アイビスはそれを初めて見たが、すぐに魔力の塊だと分かった。


「お、おいなんだアレ……!」

「まさか……アレが王家の特一魔術!?」


 人型の光は一斉に攻撃を開始した。


 魔法を放ったり落ちている武器を取り突っ込んでいく。


 フェンリルが唖然とした様子で立ち尽くす。


「『魂の活性』。アレがフロールワ王家代々受け継がれる特一魔術だ。周囲の人間の魂を活性化させて潜在能力を何倍にも引き上げる。しかも生者だけじゃなしに死者もその対象内となる」

「死者も?」

「ここの地域じゃあ死んだ奴の魂が現世で彷徨い続けるって言われている。その魂にもスーリオの特一魔術が適応されるんだよ」

「なんと恐ろしい……」


 スーリオがすでに周囲の襲撃者たちを卒倒させ、王宮へ目掛けて進み出した。


「僕たちは他の襲撃者たちの撃退と負傷者の手当てをしましょう!今回はバーゼルさんも動いてくださいね!」

「はいはい……」

「アイビスもいい?」

「えぇ、分かったわ!」

「アルスも……あれ?アルスは?」


 さっきまでいたはずのアルスがいない。


 周囲を見渡すと損壊した武器屋で何か頼み込んでいる。


「いや頼むって、直るだろ?なぁ?直せんだろ?この世に一つしかねぇ剣なんだよ」

「何言ってんだよお前!今それどころじゃねぇだろ!」

「冗談よせって。直せんだろ?いくらでも出すからさ……」


 まだ引きずってたのかと肩を落とす。


 だが、いい加減痺れを切らしたアイビスがアルスの元へ駆け寄り、思いっきり往復ビンタをかます。


「いい加減しっかりしなさいよ!アンタ男でしょ!?いつまでもめそめそしてるんじゃないわよ!目を覚ましない!」


 母親かと言わんばかりのビンタにアルスはようやく我に返る。


「はっ!なんだ!?何が起こった!?」

「アンタが剣折れてうじうじしてる間に王国が襲撃されてんのよ!」

「王国が襲撃!?誰に!?」

「フリー………フリーピッグよ!」

「フリージックね」


 聞き覚えのある単語にアルスは目をさ迷わすもすぐに思い出す。


「アイツか!スーリオの両親殺した!」

「狙いはたぶん花神様らしい。スーリオさんがそっちに向かったから僕たちは他の襲撃者たちを撃退しながら負傷者の治療に当たろう」


 ようやく現状を理解した。


 いつの間にこんな事に……。

 しかもリリアを狙って国を襲撃?

 このクソ共が!

 俺の大事なリリアに何手ぇ出そうとしてんだ!(※違います)


「俺はこのまま南側の救護に当たる。お前たちはまだ被害の少ない北側に行って、まだ使えそうな奴連れて来い。俺たちだけじゃ全員の救護は無理だ」

「分かりました。救護に当たれるだけの人員を集めてきます」

「それと、不要な戦闘は避けろ。魔獣の戦い方は教えど、対人戦はまだ教えてねぇんだ。危ないと思ったらすぐに逃げろ」

「……分かりました」


 バーゼルの指示に従い、各々動きだした。



---



 北側冒険者エリアにて、三人は倒れる人々に声をかけて回っていた。


「大丈夫ですか!!?」

「うっ……あぁ……」


 幸い、死者はいなかった。


 周りの建物の損壊もそこまで酷くない上、倒れている人もわずかだ。


 被害は少ないと見えるが、それでも皆避難はしているようだ。


「ここはそこまで酷くないな」

「そうね。これならさっき居たところに戻った方がいいんじゃない?」

「いや、あっちの方はバーゼルさんがいるからここが終わったら反対側の東側へ行こう。被害状況は分からないけど向こうの方も確認した方がいいと思う」

「それなら三人で別れた方がいいんじゃないかしら?」

「確かにその方が効率的だな」

「……いや、それはやめておこう」

「? 何でたよ」

「バーゼルさんの言ってたように、相手が人である以上は油断は出来ない。不測の事態も起こりうるし、

 万が一敵に攫われても離れ離れだと分からない。固まって動いていた方がいい」


 今起こっているのは予想外の現実。

 一つの判断ミスが後に大きく影響を与える。

 求められるものは間違いのない判断。


「分かったわ」

「分かった」


 どう動けばいいのかは分からないが、迷った時はフェンリルの判断に頼る。

 これが何より失敗を回避出来る。


「人手が足らねぇな。他の冒険者はどうしたんだよ」

「他の冒険者は相手が魔獣でない限りは戦わないよ。国からの要請もこの状況じゃ出ていないだろうね」

「ってことは?」

「逃げたね」


 まじかよ。

 冒険者ってそういう感じなのか。


「今は人命を最優先に人手を増やして行こう」


 そう言って救助を始めようとした、その時だった。

 アルスはふと何かに視線を奪われた。


 道の端、不自然な場所に広げられた布とその上に並ぶ商品。

 商売人であろうやせ細った老人が胡座をかいて俯いたまま静止している。


 あまりの不自然さにアルスが立ち止まる。


「アルスどうしたの?」

「早く行くわよ!」


 何だこの違和感。

 こんな人がたくさん倒れていたのに避難どころか一切動く気配がない。

 死んでる?

 いや、外傷は見られない。

 なんで動かないんだ?


 それにこの老人、あまりにも細すぎる。

 いやそのレベルじゃないな。

 腹も凹んでるし骨がくっきりと見える。


 並んでる商品も全て同じ商品だ。

 この道具どこかで見たことがあるような……。


 いや、ちょっと待てよ。

 老人云々の前にここは確か冒険者エリアのはずだ。

 なんで商人がこんなところで物を売ってんだ?

 あれ?てかこいつさっきまで居たか?


「おい爺さん!大丈夫か?ここは危ねぇからさっさと逃げろ!」


 俯く老人と目線が合うようしゃがみ込んでそう伝えた。


 老人もそれに答えるかのようにゆっくり顔を上げる。


「っ!!?」


「生きている」、そう安堵しかけた。

 だが、その安堵が一瞬にして恐怖へと変わった。


 顔を上げた老人の目は無く、ぽっかりと空いた二つの穴が見開かれ、アルスをじっと見つめる。


 アルスは思わず後ずさりして剣柄に手をかける。


 こいつはダメだ。

 この気持ち悪いくらいの悪意と肌がひりつく様なこの感覚。


 ――()()()だ。


 アルスの様子に気づき近づくアイビスとフェンリル。


 しかし、アルスが手で二人を静止する。


 不用意に近づいたらダメだ!

 一歩間違えれば簡単に殺される……!


 そんなアルスの殺気に当てられてか、その老人がゆっくり呟き出した。


「何モ無ク…………生キテユク…………。

 与エルコトハ愚カ。与エラレルコトモ無ク。

 タダ………時間ダケガ過ギテユク。

 己ガ飢エテイルトイウ自覚スラ無ク。タダ死ヘト向カッテ生キテユク……」

「……?」


 なんだ?

 何かの呪文か?


「飢エルコトヲ知ラヌ者。

 生キル苦シミト……生キ抜ク苦シミ……。

 明日ガアルコトガ当タリ前ノヨウニ…………。

 ―――ソノ飢エハ、何ヲ欲スル……」


 なんだ?嫌な予感がする。

 何かが来る。

 分からない。

 でも、止めなきゃ行けない気がする。


 アルスは息を飲み、長剣を引き抜いてそのまま老人の首元へと斬りにかかった。


「一度、感ジレバヨイ……根源ノ苦シミヲ」


 アルスは勢いのまま老人の首を跳ねた。


 跳ねられた首はボトッと落ちて転がった。


 初めて人を斬ったことに対する罪悪感なのか、それともさっきまで感じていた恐怖のせいなのか、アルスは息を荒々しく立てながら落ちた老人の首に目線を落とした。


 止めれたのか……?


 ――いや、遅かった。


 老人の生首が地面に落ちた後、()()が発動した。


 後ろで人が倒れる音がした。

 振り返るとアイビスとフェンリルが倒れていた。


「アイビス!フェンリル!」


 二人の元へ駆け寄ると苦しそうに腹部と喉を抑えている。

 痛がっているようには見えない。


 ――何かを()()()()()


 アルスの目にはそう見えた。


「おい!しっかりしろ!」


 アルスが二人の体に触れると悶える二人の様子はすぐに止まった。


 息を荒々げながら呼吸する二人。


「どうした!?何があったんだ!?」

「………分からない。急に酷い空腹と脱力感に襲われて……」


 戸惑いながら答えるフェンリル。

 アイビスは少し震えている。


 空腹?脱力感?

 急に感じるものじゃない。

 それもあんな悶え苦しむような。

 となると、さっきの奴が……。


 睨みを利かせるようにして老人の方を振り返った。


「……は?」


 しかし、老人はそこにはいなかった。


 跳ねたはずの首も胴体も、まるで最初からそこに居なかったかのように……。


 ただ、大きい布の上に並べられた商品だけが残っていた。

 それも、全て()()()()()状態で。


 どうなってるんだ……。

 確かに俺はアイツの首を跳ねたぞ。

 間違いない。

 跳ねた時の感覚がまだ手に残ってる。

 なのに………なんで居なくなってるんだ!?


 動揺を隠せないアルスにフェンリルが首を傾げる。


「どうしたの?」

「いやさっきあそこに……」

「あぁッ……!」


 そうフェンリルの手を離した瞬間、フェンリルがまた悶え出した。


「!!?」


 アルスがすぐにフェンリルの手をまた握ると落ち着いた。


 どういうことだ……。

 俺が手を離したら苦しんで、俺が手を握ったら落ち着く。

 なんで俺が………。

 いや、考えろ。

 何かあるはずだ。

 あの時アイツが魔法か何かを仕掛けたのは確かだ。

 でも俺には効かず離れてたフェンリルとアイビスにだけ影響が及んでる。

 二人を狙ったのか?

 何のために?

 でもそんなことよりなんで俺が触れると落ち着くんだ?


 そんなアルスたちに休息を与えぬかのように、地響きを鳴らし、何かとてつもない大群が押し寄せてくるような足音がした。


 そして次の瞬間、遠いところで大きな音がした。


「何が……」


 そして次は地面やそこら中の建物から徐々に薄緑の光が湧き出てきた。


「何なんだよ……!次から次へと!」


 苛立つアルス。


 しかし、フェンリルが落ち着いた声で返す。


「アルス、ありがとう。もう大丈夫かもしれない」

「え?」


 言われるがままアルスはゆっくりフェンリルの手を離す。


 しかしフェンリルに異常は起こらない。


「は?治ったのか!?」

「……いや、たぶんスーリオさんだと思う。この光、スーリオさんの特一魔術だ」

「お前スーリオの特一魔術見たことあんの?」

「うん、君の気が狂ってた時にね」

「狂ってたて……」


 アイビスの手も離すとアイビスも何事もなくゆっくり体を起こす。


「大丈夫か?」

「……大丈夫よ。けど、これやった奴絶対許さないわ!」


 イラついた声に安堵する。


 問題は無さそうだ。


 何だったのかは分からないが二人とも復活した。

 とりあえずは良かった。


 さて、このあとはどうするか。

 このまま救護に向かうか、音の方へ向かうか。


 救助に向かう方は東。音がした方は西。

 真逆の位置だ。


「予定変更だ。音の方へ向かおう。なんでか分からないけど、音の方が嫌な感じがするんだ。バーゼルさんがいるはずなのに」

「えぇ、そうね」


 確かに、俺もそっちの方が気になるな。


「分かった。」


 意見が揃った。


 三人はすぐに音の方へ向かった。



---



 《数分前 スーリオ方面》



 商業エリアの北中部。

 スーリオは『魂の軍勢』と共に王宮へ急いでいた。


「おいなんだアレ!」

「砂王一人しかいねぇのに!魔法がどんどん飛んできやがる!」

「うわあぁぁぁぁ!!!!」

「逃げろ!」


 襲撃者たちに一切の慈悲も与えることなく砲撃を続けるスーリオ。


 道中で倒れている人々の応急処置を施しながら、順調に進んでいた。


 しかし、王宮があと少しのところで異変が起きた。


 フェンリルたち同様、異常なほどの空腹と脱力感がスーリオたちを襲った。


 周囲に人間は皆一斉に倒れ、スーリオも片膝を着く形になった。


 この攻撃は敵の攻撃!?

 いや、敵味方関係なく発動している。

 おそらく第三勢力!

 となるとこの攻撃は僕に目掛けてものじゃなく、この国そのものに目掛けてのもの!

 そしてそれ程までの規模とこれ程の脅威を持った攻撃は一つしかない……!


 ――これは『呪い』だ!


 ()()が来てる!


「あ………かはっ!………た、助け……て………」


 苦しみもがく声が聞こえる。


 敵か国民かは確認出来ない。


 直感だが、おそらくこの『呪い』はほっとけば数十秒で死に至るものだろう。

 今更国の外へは逃れられない。

 僕の力なら全力を使えば止めるまでは行かずとも緩和くらいにはなるはずだ。

 だが、それをするとリリアの元へ行けない。


 国民を見捨ててリリアを助けに行くか、リリアを見捨てて国民を助けるか。


「………」


 いや、何を迷っているんだ!

 僕はこの国の王様だろ!

 優先すべきは分かっているはずだ。


「クソっ!」


 僕は僕の役目を全うする。

 あとは、巻き込むつもりはなかったが、彼ら(アルスたち)に……!


 スーリオは両手を地面に着き、体に魔力を巡らせる。


「『呼応せよ魂 呼応せよ大地 その眠りし器に本能と喝采を! 大魂の息吹(ゼーレリベルディア)!』」


 同時に魔力が地面を伝い、国全土へと広がっていく。


 国全土が薄緑の光に包まれ、人々の空腹と脱力感が弱まった。


「かはっ!……はぁ……はぁ……何だったんだ!?」

「分からない。死にそうなほどの空腹だった……」


 敵も国民も皆立ち上がっている。


 しかし、スーリオは立ち上がることは出来ない。


 常に魔力を地面に送り続けないといけないため、手を地面から話すことが出来ないのだ。


「おい、砂王がなんかしてるぞ」

「もしかしてさっきのを止めたのってこいつか……!」


 襲撃者たちは顔を見合せ、悪い笑みを浮かべる。


「こいつを攻撃したらまた同じことが起きるが、攻撃しなけりゃ何をしてもいいってことだよな?」


 周りには完全に避難しきれていない国民たち。


 スーリオは手一杯で手を出せない。


 どうする。

 手が離せない。

 それに早く事の原因をたたないと僕の魔力が尽きる。

 そうなれば間違いなく終わりだ。


「っ……!」


 バーゼルさんが来るまで持ち堪えるしかない……!



---



 《数分前 バーゼル方面》



 西冒険者エリアの森付近にて襲撃者を撃退をほぼ終え、国民たちの救助に当たっていた。


「お〜い、大丈夫か?まだ死ぬんじゃねぇぞ〜。お前らの大好きな大好きな花神が泣いちまうぞ〜」

「 " 様 " をつけろ!!殺すぞ!!?」

「怖ぁ……」


 国民たちは意外にも問題なさそうだ。


 幸い、襲撃者たちは決まって連れ去った女、子供を森の方へと連れて行くため、バーゼルが来てからは連れ去られた者は一人もいない。


「あんた……強いんだな……」


 そう声をかけてきたのはこの国のギルドでアルスたちに突っかかってきたいつぞやの冒険者だった。


 冒険者たちも最初は襲撃者たちに対抗したものの、対人での戦闘がほぼない冒険者たちは不利に追いやられ、国民と一緒に避難せざる負えなかった。


「あぁ、まぁな。それより、お前ら冒険者はとんだとばっちり食らったな。故郷でもない国の反乱に巻き込まれて、気の毒だねぇ」

「………そんなことは今いいんだ。俺たちは所詮ただの冒険者だ。傭兵じゃない。この国が勝とうが負けようが興味は無い。ただ………ただ、お願いだ!あんた!そんなに強いなら連れ去られた俺の仲間も助けてくれ!」


 懇願するように膝を立てる。


 どうやら仲間の冒険者が襲撃者たちに連れ去られていたようだ。


「……冒険者まで連れて行くか………元気だねぇ」


 バーゼルは立ち上がり、スタスタと森の方へと歩いて行く。


「あっ、おい!」

「手は尽くす。可能な限りはな」


 襲撃者たちがどれだけの人数をどこまで連れて行ったのかは分からないが、もしかすると手遅れの場合もある。

 殺されはしてないだろうが、それ以外なら何をされているか。


 だがその時、『呪い』がバーゼルたちを襲った。


 酷い空腹と脱力感で周囲の人間は全て地に伏した。

 あのバーゼルでさえよろめく程。


「かっ………あぁっ………!!!」


 先程の冒険者も悶えるようにうずくまっている。


 これは………『呪い』!?

 フリージックの仕業か?

 いや、それなら俺たちが戻ってくる前に使っていたはず。

 まさか………アイツらまで来てるのか?


 おいおい、これじゃあ当て上げだ。

 俺一人は助かれど、こいつらは全員死ぬな。


 いや、この『呪い』はたぶん国全土を覆うもんだろう。

 こうなりゃあもう仕方ねぇ。

 こいつらは見捨てるしかねぇ。

 最優先は『予言の子(アルスたち)』だ。


 あいつらの安全が第一だ。

 ここからはもう離れるしか……。


 だがその時、次の問題が起きた。


 森の方からこちらへ向かって何かの大群が近づいてくる足音がする。


 その足音は人の足音ではない。

 巨大な足音で地響きを感じる。


「おいマジか……。勘弁してくれよ……」


 その正体に気づいた瞬間、森の方から大量の魔獣たちが溢れ返るようにして飛び出て来た。


 制御装置はついている。

 なのにこの反乱。

 スーリオが命令したのか?

 いや、そんな無謀は犯さない。

 なら……制御装置が壊れた?

 一斉に?あぁもうめんどくせぇなぁ!


 魔獣たちは目の前の倒れる人々を蹴散らし、踏み潰し前進してくる。


 狂ったような目で()()()()()()()()()かのように。


「最悪だ……」


 目の前の光景に、バーゼルはボソッと呟いた。

♦ちょこっと補足♦

スーリオの特一魔術:『魂の活性』。使用者や他者の魔力量、身体能力、潜在能力の全てを最大で3倍まで引き上げることが可能。そして魔法の対象者は生者に留まらず死者にも適応する。


作中に登場した大魂の息吹(ゼーレリベルディア)は特一魔術で国を覆い、対象者を生者のみに絞り、『呪い』の影響と拮抗するギリギリで保つことにより、最低限の魔力消費量で最長時間の魔法の使用を可能にした離れ業。

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