第三十三話「パーティーへ招待されて」
朝、目が覚める。
憂鬱な気分で目を開けると素朴な天井が一面に広がる。
いつもの事だ。
俺はいつも仰向けに寝ているからな。
だが、不思議なことに何故か俺の足も同じ視界の中に収まっている。
俺は寝相は悪い方ではない。
むしろいい方だ。
昨日も仰向けに寝たはずだ。
しかし今は明らかに就寝時と体勢が違う。
ものすごく息がしづらい体勢だ。
腹の辺りを誰かがしっかり両手でホールドしている。
身動きが取れないほどに。
指の形、匂い、状況から鑑みて後ろにいるのフェンリルだ。
そして体勢から推測するに、俺は今フェンリルにバックドロップをかけられている。
言っとくが、ベットは二つある。
同じベットで寝ることはまずない。
その上でこの状態だ。
もちろんフェンリルは寝ている。
吐息がしっかり聞こえるからな。
「……」
次から紐で縛るか。
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同じような依頼を受け続け、さらに一ヶ月が過ぎた。
アルスとアイビスは同じような依頼が続くせいか、ペットの捜索も薬草の採取も家事の手伝いもある程度慣れていた。
そろそろ旅立つ時期も近いだろうと思っていたそんなある日。
いつものように依頼を受けにギルドへ向かおうとした時、宿の前に一人の兵士のような人が立っていた。
どこにでもいるような甲冑に身を纏わせた兵士はアルスたちを見るやいなや、声を張り上げた。
「朝早くに失礼!私はフロールワ王宮に仕える兵士である!あなた方はCランクパーティ『グランベル』とお見受けする!」
「「「………」」」
いきなりの訪問に加え叫び出したときた。
アルスたち三人は口をぽかんと開けて状況が理解出来ないでいる。
「何アイツ、なんで俺らのこと叫んでんの?」
「頭おかしい人じゃないの?」
「いや、王宮に仕えてるって………」
コソコソ話し出す三人。
だが、バーゼルは大きなため息をつき、嫌な顔をしている。
「出たよ……」
「!!? バーゼル!お前……まさか……!自首しなさい!!!」
「俺じゃねぇよ!てか自首しなさいってなんだ?俺はなんもやってねぇよ!」
「いやバーゼルがなんかやっちゃんたのかと……」
「……呼ばれてんてのは俺じゃねぇ。お前らの方だ」
「え?」
「砂王様があなた方を王宮へ招待するとの事だ!砂王様の命であるため早急に王宮へ参られよ!」
なるほど、王宮へ招待されたのか。
………え?なんで?
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王宮とは、貴族もしくは王族、その身辺に仕える者のみが入ることを許される場所だ。
だがしかし、それら以外の者でも入れることがある。
それは、王様に留まらず、王族の許可を得た者である。
アルスたちは兵士に連れられ、王宮までやってきた。
王宮には塀と門がなく、周りに複数の建物が並べられているが、ほぼ王宮が丸裸の状態で見える。
アルスたちは初めて間近で見る王宮に声を漏らす。
「これが王宮かぁ……」
「すごいわね!私もこんなところで住んでみたいわ!」
「無理に決まってんだろ。ここは王様が住むところだぞ?」
「俺らみたいなのが住めたら誰でも住めるだろ。ましてや入ることだって難しいのに……」
「でも実際招待されてるし中に入れてるじゃない!」
「それなんだよなぁ………なんで俺ら招待されたんだ?」
バーゼルに尋ねる。
「……ここの王様が会いたがってるだけだ」
「会いたがってるって………もしかしてバーゼル、お前ここの王様とも知り合いなのか!?顔広いんだなぁ。器は小っちぇのに」
「しばくぞクソガキ」
扉の前まで来ると、門番がスっと道を開け、扉が開かれた。
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扉の中へ入ると、また立派な造りの内装が目に入ってきた。
キラキラと光る装飾品にあちこちに不自然ながらも興味を惹かれる花々が飾られている。
真正面には階段があり、上へと繋がっている。
「すげー……!」
「ここではありません。上です」
あっそうなの。
階段を登った先はいくつもの扉があった。
色んな部屋がこの階に集まっているんだろう。
そしてアルスたちは兵士に連れられ、一番大きな両開きの扉の前まで来た。
「ここです。この先で国王様並び国の重鎮方がお待ちしております。」
「ジュウチン?それって10本のチン――」
「偉いさんな」
フッ……察しがいいな、バーゼル。
「なんで僕たちがこんな所へ呼ばれたんですかね。僕たち国に来てからは依頼をこなすだけでしたし……。何かした記憶はないんですけど」
「……入れば分かるだろ」
うーん、確かにフェンリルの言う通りこの国に来てからは特に何もしてねぇよなぁ。
魔獣とも戦ってないし、問題行動も起こしてねぇ。
じゃあお叱りとかじゃなく、本当に俺たちに会いたいだけが理由か?
まぁ英雄になる奴の顔は見ときたいだろうな。
ってかそんなことよりこの王宮人全然居なくね?
「じゃあバーゼルさん。開けてください」
そうフェンリルが言うとバーゼルは眉をひそめた。
「なんで俺が扉開けんだよ。」
「いや、バーゼルさんがパーティで一番偉い人ですし、もしかしたら本当はバーゼルさんに用があって呼ばれたのかなと思って……」
明らかに場違い感のある扉にしり込みする三人。
「……はぁ、さっきも言ったろうが。ここに呼ばれたのは俺じゃねぇ。お前らの方だ」
「でも……」
「いいから開けろ!」
そう言ってバーゼルはアルスの背中を押した。
「うぉっと!」
アルスは押される勢いのまま扉を開けた。
その瞬間、扉の先から歓声と拍手が上がった。
そこは、貴族特有の服に身を包んだ人々と料理の並べられたテーブルの数々。
見るからにお貴族様のパーティー会場だ。
「は!?な、なんだ!!?」
「パーティー!!?」
間違えて盛り上がるパーティー内に飛び込んでしまった雰囲気ではない。
明らかにアルスたちを見ての歓声と拍手だ。
何が起こったのかと戸惑うアルスとアイビス。
「おいバーゼル!どうなってんだよ!」
「どうもこうもねぇよ。見たまんまだろ?パーティーだ」
「そういうこと聞いてんじゃねぇよ!」
パーティーなんて見りゃあ分かんだよ!
なんでこんなパーティーが開かれてんのか聞いてんだよ。
もしかして部屋間違えたか?
まさか俺たちのためにこんなパーティー……え、もしかしてそのまさかか?
立ち尽くすアルスたちに執事のような人が声をかけてきた。
「お待ちしておりました。『グランベル』の皆様。さっそくこちらへどうぞ」
言われるがまま、アルスたちは使用人たちに押され、パーティー会場をまっすぐ横断。
「おっとっと!ちょっと押さないで!歩けますから!」
「うわぁ!何するのよ!」
「分かった分かった、押すな!」
「ちょ、ちょっ!押すなよ!危ねぇだろ!」
「これは失礼。
只今より、花神様より歓迎の舞が披露されます。心して目に焼きつけるように!!」
一番奥にある何やらステージのような場所まで連れてこられ、ものすごい距離でガンつけられた。
これ歓迎されてんの?
いや、歓迎されるてる奴が向けられる目じゃないよな?
めちゃくちゃ血走ってんじゃん。
すると次の瞬間、歓声と拍手で騒がしかった室内が一瞬にして静まり返った。
ステージの方を見ると、ステージの奥側にはステージを囲むようにして楽器を持った人々が座っている。
その人たちの服装はかなり露出度の高いもので、体に何やら色々な紋様が描かれてある。
見る感じジャングルで叫んでそうな感じがする。
そして何かの合図が合ったのかは分からないが、演奏者が同時に楽器を演奏し出した。
「おっ?なんか始まったぞ!」
軽快なリズムで始まった曲。
ステップを踏みたくなるような心が踊る感覚。
その場にいた全員がすぐにその曲の世界観に入り込んだ。
すると、舞台袖の方から踊り子と思われる人物がステップを踏み、回りながら入ってくる。
同時に観客から一際大きい歓声が上がった。
なんだ?そんな声を上げて。
そんなにこの踊りがすごいのか?
そういえばさっき血走ったヤバめの執事が歓迎の舞がどうのこうのって……。
バーゼルがアルスたちの視線の位置まで顔を持ってきてボソッと呟いた。
「よく見とけよ。アレが『花神』だ」
花神………アレが……?
目を引くほどの色鮮やかなピンクの長髪に絵に書いたようなスレンダーボディ。
羽衣を纏わせて舞うその姿は妖精、いや、女神そのもの。
靡く髪から見えたその綺麗な顔と透き通る青い瞳。
アルスはその瞳と目が合った瞬間、何かが落ちた感覚がし、口から出てきた最初の言葉は「綺麗……」だった。
息を飲む間に気づけば曲調が変わり、今度は力強い音楽へと変わった。
同時に花神の動きも激しくなり始め、素早く、力強く、そしてより繊細で気迫のある踊りへと変わった。
その踊りは正しく戦火に咲く花の如し、見ている人々にも熱烈な印象を与えるどころかまるで実際にその花を見ているかのような感覚に陥らせる。
――そしてそれは現実になる。
花神が踊りを強く踏み込む毎に周囲が何やらボンヤリと光り出した。
その光は花神の動きに反応するようにステージの周囲に根と茎を生やし、一瞬にして花を咲かせた。
それは王宮内に留まらず、王宮を支える『セナフィムの大木』にまで影響をもたらし、みるみるうちに大木ごと包み込むように花が満開に咲き誇る。
――これが花神の力。
一瞬にして周囲に花を咲かせ、全ての人々を魅了し癒す、 " 天性の女神 " 。
アルスは目が離せないでいた。
いや、アルスだけではないだろう。
きっと全員がそうなのだろうが、アルスは少し違う。
花神の凄まじい踊り。
確かに魅力的だ。
脳裏に焼き付く感覚というのはおそらくこのことだろう。
それほどの踊りだ。
ただ、アルスにはその踊り以上に目を引くものがあった。
それは花神そのもの、いや、目の前で踊る一人の少女に対して、これ以上に無い興味を抱いている。
気づけば頬は赤みを帯びていた。
花神の踊りが徐々に曲とともに落ち着きだし、またゆっくりと曲調が変わりだした。
今度は激しい曲調でもない。
軽快なリズムの曲調だが、さっき踊っていたものとは少し違う。
聞いた感じ言い表すとさっきのが上級者向けだとしたらこちらは初心者向けといった感じだろうか。
誰もが踏めるステップかつ見ていて楽しい踊りをテーマにしたものだろう。
その曲が流れると同時に花神と同じ露出度の高い服装を身に纏った女性たちがステージへと入ってきた。
スタンバイしていた踊り子たちだろう。
彼女たちも花神と同じように踊り出す。
すると周囲の観客たちがザワつきだし、何人かが自信ありげにステージへと入っていく。
「え?ステージに入って……」
「何してるのよ!せっかくいいところだったのにー!!」
「何言ってんだよ。ここからはそういうダンスなんだよ。お前らも行ってこい!」
「「うわっ!」」
バーゼルに背中を押されステージに入ってしまったフェンリルとアイビス。
二人はなんで押したんだと振り返ろうとする暇もなく、踊り子に両手を捕まれ、そのまま踊りの世界に引きずり込まれるようにして連れて行かれた。
なるほど、これは二人一組で踊るダンスなのか。
ステージに上がった人が踊り子を選んで踊る感じか。
面白いな。
俺も行ってみようかな。
そう思い花神の方を見ると、彼女の元には誰も近づく感じはしない。
いや、近づきたいのだろうが、緊張や自信がないのだろう。
そうか、花神は可愛くて愛想の良さそうな子であるにも関わらず誰も彼女を選ばないということは近づき難いと感じてるんだろう。
あれほどの美貌を持った者に対して自分なんかがということか。
確かにそれほどの美貌に加え圧倒的な存在感。
気持ちは分かるが………。
「何をボサっとしてんだ?お前も行ってこい!」
「うおっと!」
そう言いながらまたバーゼルが背中を押した。
そしてアルスは押されるがままにステージに入り、その勢いのまま目の前にいる踊り子の手を掴んでしまった。
やべっ!
勝手に掴んじまった!
いや、こういう踊りだからいいのか。
なんて思いながら目を開けると、さっきまで自分を虜にしていた美少女が目の前に至近距離でいた。
「……え?」
思わず声が漏れ、心臓の音が速く大きくなっていく。
アルスが花神の手を取ったのを見て、観客が湧いた。
花神も驚いた表情をしていたが、すぐにニコッとアルスに微笑んだ。
「ありがとう!私を選んでくれて!」
その言葉にアルスの顔は見た事のないほど赤みを増した。
花神はそのままアルスの手を握り返し、アルスの目を見る。
「緊張するかもしれないけど、大丈夫。分からなくなったら私の目を見ててね!」
花神はアルスをリードするように踊りを再開し出した。
アルスは踊りなどはしたことがない。
リズム感は掴めばいい方だが、ステップなどは全く分からない。
だがしかし、そんなアルスのステップは何故か綺麗に踏めており、ほぼ完璧と言っていいほどの完成度。
それもそのはず、アルスは今、踊りに集中していない。
いや、それどころではないのだ。
目の前の美少女のせいで。
やばいやばいやばいやばいやばい。
めっっっっっっっちゃ可愛い!!!
いい匂いするし手も柔らかい!
これが花神!これが女神!
アルスは足元など微塵も見ていなかった。
見ているのは花神の顔だけ。
花神がリードするままに身を委ねているため、余計な考えがなく、自然と正しいステップを踏めているのだ。
花神とアルスに観客だけでなく他の踊り子たちからも視線が集まる。
アルスは視線には一切気づいていないが、花神はすぐにその視線に気づき、ファンサービスを送る。
花神は先程のように踊りながら周囲に花を咲かせ、観客の目を楽しませる。
一歩、また一歩とステップを踏み込むに連れ、アルスの顔もまたどんどん赤くなっていく。
そして、アルス顔の赤みが限界に達する直前でビタっと音楽が止み、踊りが終わった。
観客から歓声が上がる。
息を切らす花神とアルス。
互いをじっと見つめ合う。
「踊ってくれてありがとう!楽しかったよ!」
「え……あ、おう」
「ふふっ、じゃあね!バイバイ!」
花神がニコッと微笑みながらアルスの元から離れて戻っていく。
アルスは自分の手から解けていく花神の手の感覚がじんわりと手に残ったのを忘れないように優しく拳を握った。
「アルス!凄かったね!まさか花神様と踊るなんて……!」
「まぁ私だってそれぐらい出来たけどね!………って、何大事そうに手握り締めてんのよ」
「……俺、もう一生手を洗わない」
「え?」
「汚っ」
余韻に浸るアルス。
そしてそのアルスを観客たちは一目置いたように視線を向けていた。
「終わったか?」
観客を掻き分けるようにしてバーゼルがアルスたちの所へ戻ってきた。
「バーゼルさん、どこ行ってたんですか?踊ってる時姿が見えないと思ったんですが……」
「あー、ちょっと風にあたりにな……。こういう場所はあんまり慣れねぇから」
「そうなんですか。てっきりこういう場所とかも慣れてるもんだと思ってました」
「ちゃんと私たちが踊ってるところ見なさいよ!花神の花ちょー綺麗だったのよ!」
「そうかい。そりゃあ見れなくて残念だ」
花も印象的だったが一番はあの美少女だろ。
俺の目の前にいた美少女はどの花よりも綺麗だった。
花より綺麗と思った人は初めてだ。
「やぁ、歓迎の踊りは楽しんでくれたかい?」
アルスの後ろからどこかで聞いたことのある声が飛んできた。
振り返るとそこには一際目立つ高貴な服に身を包んだ人物がいた。
「え!?お前……『スーリオ』!!?」
ニッコリと微笑むスーリオ。
「なんであんたがここにいるのよ」
「そりゃあだって、ここ僕の家だしね」
「何お前王宮に住んでんのか?居候的な?」
「いやいや違うでしょ。この高貴な服でそれはないよ」
「なんでよ!居候してるんだったらこれぐらい普通じゃないの?」
「居候が着れる服じゃないよ。この場にいる誰よりも豪華な服で王宮に住んでいるときたら一つしかないよ。スーリオはこの国の王族……だよね?」
王族?
王族ってお前それ………。
「いかにも!僕はこの砂の国の王族であり、現国王である『スーリオ・フロールワ』さ」
なるほど、王族であり、現国王か。
……………国王?
---
パーティーが一段落したところで、アルスたち四人は王宮の客間へと案内された。
客間にしては広い部屋で、内装は少し古いようにも見える。
幅のあるソファに礼儀正しく座るフェンリルと遠慮なしにドカッと座る三人。
当の呼び出し人はまだ来ていない。
「はぁ〜、こういう貴族がいる場所はかったるくて嫌いなんだよ……。ここはまだマシな方だが、それでも居心地悪い」
「まぁ飯は美味かったけどな。めっちゃ聞いてくる奴とかは鬱陶しいかったなぁ……」
どうやら今回のパーティーはアルスたち地底人が砂の国に訪れたことを祝うためにスーリオが招待状を送ったんだそうだ。
「ほんとよ!私が可愛いだの、嫁に来ないかだのうるさいのよ!私が可愛いのは当たり前でしょ!」
「いやそっちかよ」
アイビスはちゃっかり縁談の話まで来てるってどうなってんだよ。
誰だよそいつ。
ふざけんなよ。
簡単にアイビスを嫁にもらえるとでも思ってんのか?
いいわけないでしょ!
俺は絶対許さない!
ママが認めた子じゃないとダメよ!
「まぁこういう貴族様の社交会に参加させてもらえていい機会だったと思うよ?この先ないかもしれないし、貴族様の価値観とかも知れたしね。あと、三人とも疲れたのは分かるけどまだ王宮の中だから礼儀正しく居て」
「いいじゃねぇか誰も見てねぇんだし」
「そうよそうよ!」
「アイビス、足閉じなさい。はしたないよ」
「うるさいわよ!」
そんな会話をしていると扉からノックと同時に「入るよ」と声がして、当の呼び出し人が姿を現した。
「四人ともお疲れ様。今日のパーティーはどうだった?そこまで堅苦しくはなかっただろ?」
「いいや!堅苦しい!堅苦しくて仕方ねぇ!お貴族様はどこ行っても堅苦しいもんなんだよ!」
「いやぁ、そう言われてもねぇ〜。バーゼルさんが今まで見てきた中ではマシな方だと思いますが……」
「私は変な奴に求婚されたわ!花神の踊り見たり美味しい食べ物食べて気分良かったのに興が削がれたわ!もちろん断ったけどね!」
「そうか、アイビスは求婚されたのか。確かに君は妹に見劣りしないほどの美人だもんね」
ん?妹?
「お兄さん、妹というのは……?」
「君のお兄さんになった記憶はないけど?」
バンッ!
いきなり勢いよく扉が開かれ、一人の人物が入ってきた。
「お兄様!なぜ私を置いて先にお客様の元へ一人で行かれてるのです!?」
慌てた様子で入ってきたその美少女は先程全員の注目を集めた張本人。
――花神だ。
「いやぁ、ごめんごめん。早く彼らに会いたくて先に来ちゃったよ」
「困ります!私も一緒に顔を合わせるって言ってたじゃないですか!だから着替えるまで待っててってあれほど言ったのに……!」
眉を八の字に曲げて怒る彼女にアルスは頬を赤く染める。
「四人ともごめんね。紹介するよ。こちら、僕の妹であり、花神の……」
「『クロリリア・フロールワ』と言います!リリアとお呼びください」
桃色の髪を靡かせながら軽く頭を下げるリリア。
思わずアルスも立ち上がり声を張り上げる。
「冒険者をやってるアルスと言います!『グランベル』ってパーティの剣士です!好きなものはお……愛情が籠っているものならばなんでも!年は12!不束者ですがよろしくお願いします!」
「愛情の籠ったて……言ってて恥ずかしくねぇのかよ」
「不束者じゃなくて不躾者でしょ」
何故か急なアルスの自己紹介。
しかし、花神は表情を明るくして答える。
「12歳で冒険者とは珍しいですね。私は14なので歳も近いですし、仲良くしていただけると嬉しいです!」
「おっふ」
「どうした?」
あまりの可愛さに思わず声をこぼしながらソファに崩れる。
おいマジか。
こりゃあとんでもねぇ。
とんでもない神様だ。
破壊力抜群のその笑顔。
おそらくその笑顔で何人も殺ってきたに違いない。
「リリア、こちらに座ってるのは左からフェンリル、アイビス、顔馴染みのバーゼルさん、そしてさっき自己紹介してくれたアルス。Cランクパーティ『グランベル』の皆だ」
「よろしくお願いします」
「………」
「さて、それじゃあ早速本題に入ろうか」
「異議あり!その前に説明すべきことがあります!」
「どれのこと?」
分かりやすくすっとぼける。
「全部だ!今まで王様だって黙ってたこと!今日招待したこと!そして妹さんの普段の生活ぶりのこと!」
「最後のは要らねぇだろ」
何故今まで黙っていたのか。
忘れていたわけではあるまい。
敢えて言わなかったのだ。
やっぱり怪しいと思っていたんだ。
普通あんなところで人と会うわけがないからな。
こんな可愛い妹までいることを隠していたなんて………許されないぞ?
「うーん、そうだなぁ。まず一つは君たちの監視。監視ぐらいなら僕じゃなくてもいいのでは?って思うかもしれないけど、ちゃんとこの目で見ておきたくてね。そして二つ目は君たちがどういう人たちで何に興味を示してどんな生活を送っているのか、知りたくてね」
「……つまり、それって僕たちが地底人だってことを知ってたってことですよね?どうやって分かったんですか?」
「それはそこの『死神』さんに聞いてみては?」
全員の視線がバーゼルに向かう。
「……俺がギルドを通して『八大強国』に伝えた。お前らの存在の確認と保護の状況をな」
なるほど、最初の村で伝えたってことか。
「だから僕は君たちが来るのを楽しみに待ってたんだ。それでどこから来るのか予想して森で待ってたら予想が的中したのさ」
「……それは分かったけどよ、別に隠す必要なかったろ。普通に正体明かして王宮まで連れてくればよかったんじゃね?わざわざパーティーなんか開く必要あったか?」
「そうよ!変なおじさんばっかのパーティーに連れてきて!直接ここまで案内すれば良かったじゃない!」
「おじさんばっかのパーティーじゃないんだけど………まぁそうだね。それはそうなんだけど、パーティーでリリアの踊りを見て欲しかったんだ。僕の自慢でもあるからね」
ふむ。
まぁパーティーは良かった。
リリアの踊りを見れたことはおそらく俺の脳内メモリーが壊れない限りは絶対に色褪せない記憶になった。
「あとは単に僕の遊び心さ。こっちの方が面白そうだと思ってね」
その理由は要らねぇな。
「そうですか。大体理解しました。それで、本題の方は?」
アルスたちを王宮へ招待し、今度は客間へ招いて王族二人と密会。
これは遊び心なわけじゃないだろう。
「今回君たちを呼び出したのは依頼を頼みたくてね」
「「「依頼?」」」
「そう、依頼。国の外れの砂辺でちょっと厄介な魔獣が出てね。それを倒して来て欲しいんだ」
「魔獣の討伐?!やったーーーー!!!」
アイビスが跳ね上がる。
「その魔獣はどんな魔獣なんですか?」
「名前は『サンドタイガー』。六メートルもある巨体と鋭い爪が特徴的でね。国の森に生息していた個体が何故か森を抜けて野生化してしまったケースだ」
「『サンドタイガー』の推定ランクは?」
「Bランクかな。ギルドに依頼しても毎回失敗するからね」
「ギルドに依頼したんですか?」
「今回はしてないよ?君たちに頼むつもりだったからね。でも、いつもはギルドに依頼するんだけど毎回失敗するから最終的にリリアが退治してくれてるんだ」
なんと!
戦いの方も出来ると来たか。
こりゃあとんでもないお姫様だ。
「その……別にいいんですけど、なんで僕たちに依頼を?僕たちこの国で一番の冒険者とかじゃないですよ?ランクもDランクですし……」
その言葉に、スーリオの目が見定める目にかわった。
「ふふ……君たちは地底人だ。これから先のことを考えて、君たちの実力をちゃんと把握しておかないとね。出来れば、良き『パートナー』でありたいから」
良き……パートナー……?
三人とも眉をひそめる。
「引き受けてくれるかい?」
良きパートナーという単語が引っかかる。
しかし、深く考えたところでだろう。
「え、えっと……今回、もし僕たちが失敗したら花神様に?」
「いやいや、今回失敗したとしてもそちらの『死神』さんに退治してもらうつもりだよ」
スーリオがバーゼルに視線を向ける。
俺たちが退治出来ずともこっちにはSランクがいる。
Bランク相手なら一人でも余裕ってことだろう。
「分かりました。ちなみに報酬の方は?」
「それ相応の額は払うよ。なんなら欲しいものがあったら言ってくれたら出来るだけ応えるようにするよ」
なるほど、ということは………。
「お兄さん、ちなみにそれは妹さんが欲しいと言ったら?」
その言葉にリリアは頬を赤らめながら息を飲むように口元を抑えた。
「いやいや、アルスさすがにそれは……」
「こんな時までナンパって………キモっ!」
顔を引きつらせるフェンリルと蔑む目を向けてくるアイビス。
いつもの反応だ。
だが、バーゼルだけは違った。
「あーあ、俺知ーらねー」
そう言ってバーゼルはそっぽ向いた。
? 知らない?
何が?
なんて思うと同時にスーリオから嫌な殺気を感じ取った。
スーリオは笑顔を保ったままだ。
笑顔を保ったまま、とんでもない殺気をアルスに向けている。
「……え?」
「僕の妹が欲しい、か。なるほど、確かに国の危機を救うほどの功績を残したならばそれもありえるかもね。でも、今回はそれほどの脅威じゃないから無理かな。それとも自分はリリアの隣に立つに相応しいと自覚しているってことかい?」
口角は上がっているのに全く目が笑っていない。
おぞましい目にアルスは為す術もなく、まるで案山子のように無害そうな顔をしながら固まった。
ふむふむ。
妹が欲しいと迫る年下、それも子どもに対してこれほどのさっきを放つか……。
え、怖……。
「お、お兄様!お客様に向かってそんな目を向けないでください!」
「……いやぁ、ごめんね。ちょっと脅かすだけつもりだったんだけど、やり過ぎちゃったね」
やり過ぎちゃった?
え、今やり過ぎちゃったっていうか完全に殺ろうとしてたよね?
「でも、言葉には気をつけた方がいいよ」
スーリオが釘を刺すようにアルスを睨み付けた。
イエスキング。
二度と言いません。
シスコンの神に誓います。
「さて、それで本題に戻るけど、『サンドタイガー』の討伐依頼、受けてくれるかい?」
「はい、承りました」
「当然よ!こんなやつすぐに片付けてあげるんだから!」
「ハハ……よ、余裕だよー、アハハ……」
棒読みで答えるアルス。
三人の答えを聞いて、スーリオはニッコリ微笑んだ。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
こうして、『グランベル』の国命依頼、「『サンドタイガー』の討伐」が決定した。
♦ちょこっと補足♦
アルスたちはこの国に来て二週間後にはDランクへ昇級していた。




