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第三十四話「花神様が気になるんです!」

 討伐依頼は一週間後に決定した。

 その間、アルスたちは王宮での宿泊を許可された。


 部屋はしっかりと四人分用意されており、一人部屋にしては少し広いくらいの部屋だ。


 討伐依頼までの間、受ける依頼を減らして休息と肩慣らしに専念することになった。


 王宮では食事や必要なものは用意してくれるため、お金を稼ぐ必要もない。


 今日は午前にバーゼルとの手合わせを終え、午後から花神様ことリリアを探すことにした。


 いや、決してストーカーとかじゃないからね?

 ちょっとお話してみたいなぁ的な感じだから!



 王宮内どこに何があるのかさっぱり分からず、リリアがどこにいるのかも皆目検討がつかない。

 分かる部屋といえば自分たちが泊まっている部屋と昨日の宴会広場と食堂、それと湯浴み場だ。


 おっと、最後のは別にやましい意味とかないぞ?

 ただ単純に知っておいた方が便利だから頭に入れているだけであって覗いたりとかしないさ。

 フィーネスにでも誓っておこう。


 とりあえず宮内を散策してみることにした。



---



 まず、1階の方は扉を入って左手に食堂と厨房だ。

 ここで兵士や執事は食事を摂り、王族や貴族の食事を作って部屋へと運ぶらしい。


 そして右手の方には湯浴み場。

 ここも使用するのは兵士や執事やメイドだけだそうだ。

 男女で使用出来る時間が別れているらしく、順番は日によって変わるらしい。


 他にはちょっとした部屋や頻繁に使う物などが置かれている物置部屋などがある。


 1階はこれぐらいだろう。


 次に2階だが、主にここがスーリオやリリアたち王族の生活する場所だ。

 他にも昨日パーティーがあった宴会場や客間、資料庫などもここにある。

 ちなみに俺たちが部屋を貰ったのもこの階になる。


 貴族の生活場所や兵士たちの宿舎は別の場所にあるらしく、王宮としてはざっとこんな感じだろう。


 3階もあるらしいが3階はほとんど物置部屋になってるらしい。

 まぁ、行くことは多分ないだろう。


 外は花が植えられてたり訓練場があったり、中庭のようなものあるらしい。

 訓練場とかはさっき行ったしな。


 1階から探していくか。



---



 1階、食堂――。


 見渡す限りじゃ兵士しかいない。


 確か今は見張りとかの交代の時間か。

 そりゃあ兵士も多いわな。


 さて、次に行くかな。


「おい、アンタ!地底人の人だろ?ちょっと話でもしないか?」


 食堂を出ようとした時、若い兵士が呼び止めてきた。


「え?まぁ別にいいけど……。何の話だ?」


 そう聞き返すと、若い兵士がアルスの肩を掴み、椅子へと座らせる。

 両隣にも兵士、前の席にも兵士。

 逃がさないと言わんばかりの布陣だ。


「アンタ、昨日『花神』様と踊ってただろ……」

「あぁ……そうだな」


 おおよそ話の内容が掴めたので目を逸らしながらぶっきらぼうに返事すると、兵士たちは皆悔しそうに頭を抱え出した。


「羨ましい!!!」

「クソッ!!!俺だってリリア様と踊ってみたい!」

「どんな感じだった?!ねぇ!どんな感じだった?!」


 暑苦しくグイグイ聞いてくる。


 め、めんどくせぇな……。

 まぁ悪い気はしないけどね。

 この感じだと、ここでリリアと踊ったのは俺だけみたいだしな。

 お前たちには感じることの出来ないリリアの温かみを俺だけは知っているのさ!(※踊っただけ)


「まぁ、なんというか……感じたよね、神の感触ってやつ?」

「「「「うおぉぉぉぉ!!!!」」」」


 兵士たちが湧き上がる。


「どんな感じなんだ!詳しく教えてくれ!」

「ノンノンノン!アレは選ばれた者だけが感じることを許された神の領域だ。そう簡単に教えられるようなものじゃない。ただ、まぁそうだな。キミたちのような兵士たちにも多少の夢を与えてやるのも選ばれし者の義務ってやつかな。だから、強いて言えるのは、花に包まれるって言うか、温かい気持ちになるって言うか………めちゃくちゃ柔らかかったしめちゃくちゃいい匂いしたよね」

「「「「オオオオォォォォォッ!!!!」」」」


 その後、数時間にわたるアルスのトークにより兵士たちは眠れぬ一夜を植え付けられた。



---



 数時間後、ようやく食堂から出てきた。


 やべぇやべぇ、つい話に夢中になってリリアを探すのを忘れてた。

 アイツらの熱量もすごいからこっちも食い入って話し込んじまった。

 まぁ、兵士たちとは仲良くなれたからいいか。


 アルスが次に向かったのは湯浴み場だ。

 ちなみにこの時間は人はいない。

 時間帯が全然違うからな。


 え?じゃあなんで探すかって?

 そりゃあもしかしたらいるかもしれないじゃん?

 汗かいちゃって入ってるかもしんないじゃん?

 いや別にやましい気持ちはないよ?

 ただもし足を滑らせて頭でも打ったら大変だしね、うん。

 覗こうとか思ってないし、下着でも落ちたてラッキーなんてそんな……フィーネスじゃないんだから。

 ただちょっと念の為にね、念の為。


 慎重に周囲を警戒しながらさっと脱衣所へと入る。

 湯浴み場は大人数で入れるよう、脱衣所もかなり広く作られてある。


 部屋の隅から隅まで入念に部屋を調べる。

 その動作はまるでベテランの()()である。


「!!!?」


 脱衣所の一角にて、脱いで置かれてある衣服を発見。

 声にならない叫び声が脳内に響き渡る。


 メイド服!!!!!!!

 キターーーーーーーッ!!!!!

 これはキタッ!

 間違いない!

 入ってるのは女だ!!!!!

 そしてここにメイド服があるということは――。


 ギラつき、興奮した目でそっとメイド服を捲る。


 そしてまたも脳内で咆哮が上がる。


 ピンクの下着!!!!

 しかもこのデカさ!

 相当なモノを持っていると見ていいだろう!

 上玉確定演出キターーーーーーーッ!!!!


 アルスは慣れた手つきで下着をポケットへとしまい込む。


 おいおい、デカすぎてポケットに収まりきれねぇよ。

 全く、どんな上玉ぶら下げてんのか確認してやらないとな。


 鼻息を荒くしながら湯浴み場の扉の前に立つ。


 この先に………いる!!!

 裸のメイドさんが!!!!

 苦節12年、長くも報われぬ道のりだった……!

 だが、今日!俺は男になる!!!


 体を小さく丸め、ゆっくりと戸を開ける。

 響き渡る湯浴みの音。

 ほのかに湯気が立つ浴場に顔を覗かせる。


 ギラついた目を見開き、目先の光景をかぶりつく。


 来い!来い来い来い来い来い!

 俺のまだ見ぬ世界よ―――!!!


 そうして、見えた先にいたのは台座に腰をかける岩。

 いや、岩ではない。

 背中だ。背中だが、岩だ。


 ん?い、岩?ん?


 目に映るのは人の尻とは信じ難いほどの大きな尻、岩と遜色ないくらい大きな背中。

 いや、なんなら岩だな。

 そして短い髪をちょびっと結ばれた髪。


 アルスの思考が停止する。


「……」


 台座に座る女は戸の音に気づいたか、ゆっくりこっちを振り返った。


 アルスの思考は膨大な数列を詰め込まれたかのよう混乱しだす。


 顔はカエルとゴリラを足して2で割ったような顔だった。

 つまり、とびきりのブサイクだった。


 空いた口が塞がらないでいるアルスの目は、その女の目としっかり交差した。


 女の方も思考が停止していたのか、数秒間の沈黙が流れる。


 絡み合う視線、流れる沈黙、時間だけが過ぎていく――。


 そして、女の方が先に我に返ったか、頬を赤らめ、体を隠しながら小さく


「いやん♡」

「………」


 響いてきたその声にも反応出来ず、アルスはゆっくりと戸を閉めた。


 そしてポケットに入れた下着を投げ捨て、逃げるようにして大慌てで去って行った。


 後にアルスはこう語った。


 いやぁビックリしましたねぇ。

 まさかあぁいうパターンがあるとは思いませんでした。

 なんというか、そうですねぇ……メイドで雇っていいのか疑問に思うレベルでしたね、はい。

 スーリオには苦情どころか軽蔑してしまいそうになりましたね。

 あぁいうのが好みなのかぁって。

 まぁ………酷い目に遭っちゃいましたね。


 フェンリル曰く、アルスは大急ぎで新しいズボンを買いに行っていたそう。

 そして履いていたズボンは買ったばかりなのに何故か燃やしていたらしい。

 その日は入念に手も洗っていたそうだ。



---



 ふぅ、酷い目にあったな。

 気づけばもう日暮れだ。


 リリア探しも中々見つかんないし、今日は諦めるかな。


 そう自分の部屋に戻ろうとした時、中庭に座る見覚えのある髪を見つけた。


「ん?あの髪色、リリアじゃねぇか!」


 リリアを見つけ、一目散に彼女の元へ駆け出す。


 そして中庭に入ろうとした時、目の前に背の高い女が立ち塞がった。

 執事のような服を身にまとい、アルスを見下ろす。


「あなたは地底人の方ですね?どうかされましたか?」

「いや、ちょっとリリアと話したくて……」

「チッ……」


 ………え?


 何故かはっきり聞こえる音で舌打ちされた。


 なんで?

 なんで舌打ちされた?

 俺なんかまずいこと言った?


「申し訳ございませんが、リリア " 様 " は現在お休み中です。要件があるのならば私が代わりに伝えておきますので」


 なるほど、様をつけろという事ね。


「いや伝えて欲しいって言うか、直接話したいんだけど……」

「いせません。リリア様はお疲れですので、どうしても話したいのであればまた後日に。話せるかは知りませんが」


 なんか、トゲある言い方してくるな。

 普通に表情とか怖いし、怒ってんのか?

 それともこういう人なのか?

 まぁそれはどっちでもいいか。

 リリアが疲れてるなら別に今じゃなくてもいいか、姿見れただけでも嬉しいし。


「じゃあいいや。俺帰るわ」

「帰っちゃうんですか?」


 最後にリリアの方をチラッと見ようかなと顔を覗かせた時、女執事の後ろにリリアが同じように顔を覗かせていた。


「うお!?」

「!!? リリア様!?いつから私の後ろに!!?」

「今さっきですよ?」


 アルスも女執事も動揺している。


「二人でなんの話をしてたんですか?」

「……それは、その………」


 可愛らしく首を傾げるリリアに照れて顔が真っ赤になる。


 何も答えないアルスに対して、リリアが優しく声をかける。


「よろしければ私とお話しませんか?私アルスさんと話したいなって思ってたんです!」

「いいんですか!!?」


 思いもよらない言葉に心臓が跳ね上がる。


 女執事はその姿に嫌そうな顔を浮かべていた。



---



 中庭にあるテラス。

 見た感じリリア専用と言ったような花の装飾やら女の子らしい可愛らしい雰囲気の場所だ。


 リリアの向かいの席に腰を下ろし、目の前にお茶が出される。

 なんか休憩って言うより、お茶会みたいな感じだな。

 王族はこうやって休憩するのか。


 出されたお茶は何故か俺のだけ明らかに適当に入れたように周りがべちゃべちゃに濡れている。

 あと色もおかしい。


 リリアのやつ見てみろよ。

 明らかに色が違う。


 女執事の方を見ると、何事もなかったかのように平然とした顔をしている。


 わざとだな。


「アルスさんは地底から来られたんですよね?地底ってどんなところなんですか?」


 興味津々な顔で聞いてくる。


「どんなところ……。ん〜、まぁそうだなぁ。地上に比べて危険は少ないけど、住みにくいところかな」

「そうなんですか?」

「地底にいる魔獣とか弱いから簡単に倒せるんだ。俺が5、6歳の時には普通に狩れてたしな」

「5、6歳!!?そんな幼少期から……」

「それに地底は基本寒いって言うか、あんま温度とか変わんんねぇんだよなぁ。街の灯りは常に明るいけど、それも全部魔法陣でやってるんだってよ。魔法陣がなけりゃあもっと生活しづらかったのかもな。」

「そうなんですか……」


 まぁ地上に来た頃は暖かいどころか暑くて死ぬかと思ったけどな。


 他にも色々聞きたそうにしているが、どれから聞くべきかとあたふたしているため、今度はこっちから質問してみるか。


「リリア……様は普段何して過ごしてるんだ?」


 執事の目を気にしつつも尋ねると、リリアはニッコリとした笑顔で答える。


「基本的にはお兄様のお仕事のお手伝いですかね。お兄様だけじゃ色々と大変ですから。あとは街の方に顔を出して国民の皆さんと交流したりしてます」


 交流ね。

 いかにも王女様らしい。

 というかこの前スーリオが花神が街に顔を見せる日があるって言ってたな。


「そう言えばリリアたちの親は何してるんだ?スーリオが王様ってことは……隠居?みたいな感じなのか?」


 その言葉にリリアの表情が曇る。

 その表情を不信に感じると同時に執事からさっきのようなギラついた目が向けられた。


「……両親はいないんです。私が赤子の時にすでに亡くなってるんです」

「あっ、ごめん」


 言葉を聞いた瞬間、すぐに頭を下げた。


 踏んではいけない地雷と言うやつか。

 二人の表情をすぐに理解したと同時に罪悪感が湧き上がった。


「いえ!アルスさんは地底から来られたばかりですから知らなくて当然なんです。お気になさらないください!」


 慌てて擁護してくれるリリア。


 優しい、と感じつつも空気は最悪になった。

 ここは深く聞かずに話を変えるべきだな。


「ほ、他には何してるんだ?例えば趣味とか」

「趣味ですか。うーん、これと言った趣味はないんですけど………花を眺めるのは好きですね。あとは踊ることだったり、執事やメイドたちと話すこととかですかね。あっ!あと人の笑顔も好きです!誰かが笑ってるとホッとするというか」


 笑顔……ホッとする、か。

 まぁホッとするかは分からないけど、言いたいことは分かる。

 実に王女様らしい、というか聖女と見て良いのでは?


「そうなんだな。花とかって言ってもここら辺にしか咲いてないよな。森の方にもちょっとあったけど。これも全部リリアが咲かせたのか?」

「いえ、これは初代様が作ったこの『セナフィムの大木』から生えてるものなので、私が咲かせたわけじゃないんです。まぁ、私がいないと枯れてしまうんですけどね、、」


 え、これこのデカい木から生えてんの?

 木から花って……それも根元から生えるもんなのか?


「なんかすげぇな」

「ふふっ、そうですよね。こんなにも偉大な木なんて他にないと思います。大きくそびえ立って、たくさんの花々を咲かせる、国の象徴。この木は私の理想そのものです。」


 へー、国の象徴か。

 確かに大きいし目立つもんな。

 もしかしたらこの木は国民にとってはすごい恩恵とかあるのかもな。


「私は『花神』ですから、みんなを照らせる花にならないと!」


 そう言いながら力こぶを作って満面の笑みを見せた。


 アルスの顔が赤くなる。


 可愛い。めちゃくちゃ可愛い。

 その細い腕も太陽のような笑顔も、正しく女神そのもの。

 これを象徴と呼ばずしてなんと呼ぶのだ。

 願わくば、僕をその隣に立たせてはくれないかマイハニー。

 作詞 アルス


「リリアならなれるだろ。リリアは踊りも上手くて、花も好きで…………そ、その………か、可愛い……から」


 恥ずかしがりながらもそう伝えると、リリアはキョトンとした後、吹き出すように笑った。


「はははっ!なんですかそれ!あはははっ!」

「な!?別になんもおかしいこと言ってねぇだろ!」


 慌てながら言い返す。


 べ、別に変な事言ってねぇし!

 思ったことそのまま言っただし!


 口を尖らせながらいじけるようにそっぽ向くアルス。


 リリアも落ち着いたのか、アルスに向き直る。


「ごめんなさい。つい面白くて笑ってしまいました。でも、そう思ってくれるのは嬉しいです!ありがとうございます」


 天女のような笑顔につい目を取られる。


「あと、アルスさんって面白い方なんですね!」

「おも!?馬鹿にしてるだろ!」


 顔を真っ赤にしながらツッコミを入れる。

 その顔の赤さは恥ずかしさの赤みなのか照れの赤みなのかは分からない。


 そんな二人を隣で見ていた執事がリリアに告げる。


「リリア様、もうそろそろお時間です」


 ん?この後なんかあるのか?

 いや、シンプルにもう日が落ちて暗くなってるな。

 話に夢中で気づかなかった。


「あっ、もうそんな時間でしたか」


 しょんぼりとした顔で肩を下げる。


「ほんとだな。こんな時間まで話しちまって悪かった。俺もう自分の部屋戻っとくわ」

「あ、あの、アルスさん!」

「ん?」


 スーリオのように颯爽と去っていこうとしたら、リリアが呼び止める。


「もし、アルスさんが良ければ明日もお話しませんか?まだ全然話し足りなくて……」

「うぇ!?え、よ、喜んで!」

「本当ですか?!ありがとうございます!楽しみにしてますね!」


 そう言ってリリアも席を立ち、執事と共に王宮へと戻って行った。


 去り際に執事にがん飛ばされたが、そんなことはどうでもいい。


 明日も………リリアと話せる!


 アルスの脳内はお花畑状態だった。


「よっしゃああああああああああああ!!!!!」


 咆哮に近い雄叫びが中庭に響き渡った。

♦ちょこっと補足♦

女執事の名前:ハイネ

身長:174cm

容姿:20代前半から中盤、ボブの灰色の髪色、若干のつり目で冷たい目をしている

趣味:リリアへの崇拝、観察、日記、妄想、身の回りのお世話、最近現れたリリアに近づこうとするガキを〇害する妄想

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