第三十一話「ようこそ、冒険者ライフへ」
――『フロールワ王国』、通称『砂の国』。
それはサヘルバル大陸の中央より西側に位置する大陸唯一の八大強国である。
地形は国の半分以上が巨大な森林になっており、国の西側に森林、東側に人々が暮らす街がある。
街は森林の三分の一の大きさにも満たないが、国土だけで言うと世界最大の大きさを誇る。
森林は独自の進化を遂げた魔獣が数多く存在し、世界でも類を見ない場所となっている。
街はほぼ円形となっており、中心に大木を纏わせた立派な王宮、王宮を囲うように人々が暮らす生活エリア、その外側を囲うように商人が集う商業エリア、そしてさらに外側にある冒険者ギルドや冒険者の宿などがある冒険者エリアとなっている。
建物は暑さと日差しを防ぐため、ほぼ全てが耐熱性の粘土で出来ており、風通しの良い四角い角張った造りをしている。
それに加え、道幅も広く、四角い建物が全て一直線に整列しているため、見通しが良く、街の外からでも王宮が丸見えなのだ。
産業の面では香辛料というものが有名である。
辛みの効いた調味料はこの国でしか生産されず、世界中に輸出されている。
そのため、国の資産のほとんどが香辛料の輸出で得たものなのだ。
この砂漠地帯ではダンジョンも少なくなく、かなりの冒険者が一攫千金の夢を見て集まるそうだが、それよりも商人の数が多い。
砂漠の地では物が売れやすいのだとか。
そんな地形、文化、産業の全てを取っても他国とはかけ離れた違いが見られるその国は大国と言うには十分な程だが、八大強国と言うには少し物足りない。
この国に貴族は少ない上に兵力もかなり低い。
しかし、王国を支える基盤と言っていいこの二つがかけてもなお、フロールワ王国が八大強国たらしめる理由がある。
――それは神人の存在だ。
砂の国の神人は『花神』。
どんな荒野にも、どんな戦場にも花を咲かせる女神と呼ばれるその存在は国力を倍以上に引き上げると言われている。
そんな花神には他の神人にはない、ある特徴を持っている。
それは、他の神人が不定期に現れるのに対して、花神だけはどの時代にも存在している。
つまり、花神は代々受け継がれているのだ。
――途絶えぬ神人の存在。
それが、『フロールワ王国』が八大強国で居続けられる理由なのだ。
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そんなスーリオの説明を聞きながら、アルスたちは冒険者エリアを散策していた。
「う〜ん、大体こんな感じかな?この国のことに関しては」
「物知りなんですね」
「そりゃあ自分の故郷だからね!」
「砂の国のことに関しては大体分かったけどよ、お前なんでずっと顔隠してんの?」
スーリオは街へ入る直前に黒い布で自分の顔を覆った。
何をしてるんだと思ったが、街に入るとスーリオのように顔を覆った人がちらほら居て、そういう服装なんだろうかと思っていたが……。
スーリオは答えを探すように首を傾げた。
「そうだなぁ。これは暑さや砂埃を避けるためのものでもあるし、顔を見られないように隠すためのものでもある。最近では冒険者間で流行ってるファッションでもある」
「ふーん、そうなのか。で?なんでつけてんだ?」
スーリオは暑さや砂埃を避けるためのものであると言ったが、そのためにつけているとは言っていない。
「なんでだと思う?」
「え?いや、それを今俺が」
「それとも何か理由がないと付けちゃいけないのかい?」
「ぐぬっ……!」
確かに……それはそうだな。
スーリオが何を付けようが勝手だ。
ただ、国に入る前に布で顔を隠すあたり、色々怪しく見えたから聞き出したかったが……。
こいつ意外と賢いのか……?
「まぁそんなことは置いといて、街を案内してあげようか。どういうお店があるかとか知りたくない?」
「! 知りたい!教えなさい!」
「いいですね!是非お願いします!」
「いや、その前に宿を……」
「決まりだね。行こうか!」
乗り気のフェンリルとアイビス。
バーゼルだけはそうではないらしいが、流されるまま。
アルスも疑いながらもついて行く。
「じゃあそうだね。まずはあの肉屋とかどうだろう。」
指さす方には一件の肉屋。
列が出来ており人気店と見える。
「あそこはこの国ではかなり人気のお店なんだ。サッビアコヨーテの肉を使ったもので中々癖のあるお店でね、冒険者から人気なんだ」
言われるがままに列に並び、人数分購入。
見た目はただの肉だが上には香辛料が乗っている。
初めて見るが見た目的には普通だ。
スーリオが「さぁお食べ」と言わんばかりの笑みを向けてくる。
本当に上手いのか?
実は不味い肉で嫌がらせでもしようとしてるんじゃ……。
と、疑いながらも思い切ってかぶりついた。
「! うまっ!なんじゃこれ!!?」
疑いながら頬張った肉は想像以上に美味しかった。
外はパリッとしていて中は噛み応えのある肉感。
香辛料のパンチも効いていてバツグンの美味しさだ。
移動中の食事とは比べ物にならない。
「美味しい!こんな肉があったんですね!」
「おかわり!おかわり!」
フェンリルも感動しており、アイビスに関してはもう一度列に並び出した。
「そうだろう。僕もこの店はお気に入りなんだ」
自慢気に呟くスーリオ。
アルスはハッと思い出す。
何を絆されている!
これは信じ込ますためにあえて美味しいものを食わせたに違いない!
絶対なにか裏があるぞ!
鋭い眼光でスーリオを睨むもスーリオはニッコリと微笑む。
「じゃあ次のお店も紹介しようか」
「はい!」
「早くしなさい!待ちきれないわ!」
「……」
完全に絆された二人とまだ疑りの目を向けるアルス。
それでもスーリオについて行く。
俺は絶対に絆されないぞ!
裏の顔を暴いていやる!
「宿……」
立ち尽くすバーゼルを尻目に眼光を光らせるのであった。
---
――数時間後、アルスは信じられないくらい絆された。
両手に食べ物や荷物を抱えながら三人はルンルンで歩いている。
「なぁ!次はどこ行く?」
遊園地ではしゃぐ子どものような笑顔を見せる。
よっぽど楽しかったのだろう。
「次は……いや、もうそろそろ帰ろうかな。日も落ちちゃったし。」
店の灯りで全く気づかなかったが、空はすっかり暗くなっていた。
「本当ですね。もうこんな時間か。」
「まだ全然足りないわよ!」
「まぁまぁ、今日で最後じゃないんだし!また明日も会おう!」
「おう!そうだな!」
「それじゃあ、僕は帰るよ!またね!」
そう言いながらスーリオはあっさりと帰って行った。
いやぁ楽しかったなぁ。
スーリオのこと最初は疑ってたけど結構良い奴じゃねぇか。
次が楽しみだ。
さて、スーリオも帰ったし、俺たちも帰……。
あれ?俺たちの宿ってどこだ?
「なぁ、バーゼル。俺たちの宿ってどこ?」
振り返ると、ほぼ荷物持ちのお父さんのような状態で立ち尽くすバーゼルがいた。
表情はもちろん、ブチ切れである。
「お前ら……勘違いしてんのか知らねぇけど、俺はお前らの保護者じゃねぇぞ!!!!」
うん、こりゃあやっちまったな。
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バーゼルの説教の後、宿探しが始まった。
本来なら街に来てすぐに宿を探さなければならないのだが、見ての通り遊び呆けてしまったため、宿が中々見つからない。
――そうして一時間経過。
ようやく二人部屋が二つ空いている宿が見つかった。
宿の名前は『牡丹の羽衣亭』。
老夫婦が営む小さな宿で、朝と夜は食事がついてくる。
部屋は四畳半と狭く、ベットが二つと物掛けが壁に二つあるだけの部屋だった。
扉と反対側の壁には30センチの正方形の穴が空いており、扉を開けることで風通しをよくするんだとか。
そのため、熱がこもらないように扉を開けっぱなしにすることが多いそうだ。
この宿は二階に泊まれる部屋があり、一階に老夫婦の家と食堂がある。
泊まれる部屋は三部屋しかなく、うち二部屋はアルスたちの部屋だが、もう一部屋は商人が二人泊まっている。
防犯の面ではゆるゆるだ。
と言っても、元々扉に鍵がないので防犯以前の問題なのだが。
その商人たちは気の優しそうな人たちだったが、一応念の為、夜中に誰かが入ってきたら分かるような細工をしておいた。
部屋割りはバーゼルとアイビス、アルスとフェンリルの二組に別れることになった。
「バーゼル!!!アイビスに夜這いすんなよッ!アイビスに夜這いしていいのは俺だけだ!」
「いいわけないでしょ!!!」
思いっきりぶたれた。
「ガキには欲情しねぇよ。俺はお前とは違って経験豊富なんでな」
クソっ!
羨ましい!!!!
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――翌朝、宿での朝食。
四人揃った食卓に出てきたのは、薄いパンと色の濃いスープだった。
それを初めて見るアルスたちは不思議そうな目をする。
「パンとスープ?」
「あまり見た事ない料理ですね」
「お前らはそうかもしれねぇが、この国じゃあみんな食ってるもんだ。確か郷土料理とかだっだはずだな」
郷土料理……。
確か「その土地の気候とか風土に合わせて作られる固有の料理」だったけ?
本で見たな。
これがその郷土料理か。
バーゼル以外の手が止まる中、アイビスが一番最初に料理に手をつけた。
バーゼルの真似をしてパンをちぎり、それをスープにつけてから口に頬張る。
二、三回ほど噛んだあたりでアイビスは目を大きく見開き、頬を紅潮させた。
「美味しい!!!」
その言葉にアルスとフェンリルは顔を見合わせる。
すかさず二人もアイビス同様パンをちぎり、スープにつけて口に頬張る。
「うまっ!」
「ほんとだ、美味しい」
二人の口にも合ったようで、好評価だ。
パンはちょっと硬めで味もそんなにないけどスープがそれを補っている。
硬いパンをスープでほぐし、その上スープの味の濃さがちょうどいい。
いい感じのスパイスと風味、これが香辛料か。
なるほど、確かにこれは癖になりそうだ。
「美味いのは分かるが、ちゃっちゃと食えよ〜。飯食ったらギルドに行くらからな。テメェらが昨日遊び呆けたせいで昨日は何も出来なかったし」
根に持ってるようだ。
バーゼルは直ぐに食べ終わり、皿を片付けて部屋へと戻って行った。
アイツ食べるの早いな。
そういえば確か今日は依頼をたくさんこなして稼ぎまくるって言ってたな。
この朝食はかなり美味いが、今は早く食わねぇとな。
また明日も食えるだろうし。
アルスを大きく口に放り込んだ。
結局おかわりした。
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――砂の国:フロールワ王国は八大強国である。
故に、ギルドはそんじゃそこらのギルドとは比べ物にならない程の大きさを誇る。
冒険者エリアの東側にある巨大な建築物。
砂の国の冒険者ギルドだ。
アルスたちは朝食を終え、ギルドへと向かった。
宿からギルドまでは大通りを二、三本渡った場所にあり、そう遠くない。
そびえ立つギルドを目の前にアルスは目を輝かせていた。
「コレだよコレ!!!コレこそ俺が想像してたギルドだ!!!」
「悪くないわね!」
「随分と大きい建物ですね」
「そりゃあ八大強国のギルドともなればこんぐらいの大きさになる。小さいところもあるにはあるが、ここは人が集まりやすいからな」
我慢出来ずにアルスが我先にと前へ出る。
このギルドこそが本で見たギルドそのもの!
英雄としての第一歩を踏みしめる重要な場所だ!
もちろん俺はただの凡人じゃなく英雄になる側の人間だ。
英雄になる奴は登場も決まって印象的なのさ。
扉を蹴り破って大見得切るもる良し、冒険者間のトラブルを圧倒的な実力を持って黙らせるも良し(※トラブルが起こっている時に限る)。
なんにせよ、ここが一番重要だ。
さぁどんな風に入ってやろうか。
そう考えながら扉に近づいた時だった。
アルスが扉に触れるより前に扉が開かれ、扉からトカゲ頭の冒険者が出てきた。
アルスはその冒険者を見て声を上げた。
「トカゲ!!!?」
その声に冒険者は怪訝そうな顔でアルスを見下ろす。
「あぁん!?なんだテメェ……!!?トカゲが何だって!?」
メンチを切る冒険者。
しかし、アルスには冒険者の言葉など聞こえていない。
人型のトカゲが目の前に立っていることに驚きを隠せないでいる。
「いやぁ悪いなぁ。こいつ魔族を見るのが初めてなんだ。気を悪くしたかもしれねぇが、まぁ許してくれや」
瞬時にバーゼルがトカゲ頭の冒険者を宥める。
その冒険者はバーゼルの言葉に再度アルスをギロっと見下ろした後、舌打ちをこぼして通り過ぎて行った。
「アレが魔族だ。見た目は違うが、人間とそう大差はねぇよ。驚いたかもしれねぇけど、あまり外見で騒いだりすんな。騒がれる方は気分の悪ぃもんだからな」
そう言ってバーゼルは先にギルドへ入って行った。
完全に思考が停止し、固まるアルス。
「アレが魔族か。本で見るより断然怖くないね。まぁ1000年前の本だから生物的に進化してるってことかな」
「そんなことよりアイツ態度悪かったわ!一撃くらい撃ってもいいんじゃない!?」
「ダメだよ。冒険者間でのトラブルは活動停止になりかねないんだから」
そんな会話をしながら二人もギルド内へ入って行った。
………トカゲ頭……魔族……冒険者……英雄………。
「はっ!!!俺の登場シーンが!!!」
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ギルド内は活気溢れる空間に包まれていた。
入って目の前に受付、左側に休憩スペース、右側に食堂があり、人族と魔族の冒険者で溢れ返っていた。
大剣や大盾などの武器を持った屈強な戦士たちやローブを身にまとい、アルスたちの持つワンド型の杖ではなく魔法使いらしいスタッフ型の杖を持った魔法使いたちを見てアルスは再度目を輝かせた。
す、すげぇ……冒険者だ……!
いや、地底にも似たような人は居たけど、それとこれとは違う。
出てる雰囲気というか、体や顔についた傷というか、これぞ冒険者という感じがする。
良い!
超良い!
ギルド内を見回す三人を放ったらかしてバーゼルは受付へと向かう。
アルスもついて行こうとした時、数名の冒険者がアルスたちに向かって煽るような口調で話しかけてきた。
「おいおい、ここはガキが来るところじゃねぇぞ?託児所と間違えたか?」
「お前らがここに来るにはまだ5年早ぇよ!」
片手にはジョッキ。
どうやら酔っているようだ。
顔をしかめるアイビスとフェンリル。
そしてすぐに周りの冒険者から見られていることに気づいた。
見慣れない顔が来たからかと思ったが、周囲の冒険者を見てすぐに分かった。
そうか、俺たちと同じくらいの年齢の冒険者がいないからか。
確かに俺たちみたいなのが来たらガキが何しに来たんだって感じなんだろう。
まぁ、気にしても仕方ない。
こういうこともあるだろう。
と、言いたいところだが、腹が立つものは腹が立つ。
問題は起こすなと言われているがちょっと言い返すくらいならいいだろう。
「ガキがギルドに来ちゃ行けないって?誰が決めたんだよ。お前らがガキの頃は託児所に行かされてママのおっぱいが恋しかったか知らねぇけど、俺らはお前らと違って出来が良いからそんなとこ行かなくていいんだよ。それともなんだ?まだ託児所が恋しくて羨ましいのか?」
「あぁ!?」
アルスの返しに相手はすぐに顔を真っ赤にして逆上しだした。
おっと、つい言い過ぎちった。
まぁこれぐらいはただの口喧嘩だからね。
てへぺろ。
「テメェガキ!舐めてっと痛い目見るぞ!?」
毛を立たせた猫のようにその冒険者たちは怒りながら近づいてきた。
「お?やるか?」
挑発に乗るようにアルスも剣柄に手をかける。
その時、冒険者の前を黒い影が遮った。
「まぁまぁ落ち着けって。問題起こしたらどうなるかぐらいアンタらも分かってんだろ?」
「くっ……!」
冒険者がチラッと受付の方を見ると、受付嬢たちが目を光らせていた。
「悪いなあんちゃん。こいつらは俺の連れでねぇ、訳あって鍛えてんだ。そんじゃそこらのガキんちょと一緒にはしないでくれ」
バーゼルの説得にその冒険者は舌打ちをしながらどこかへ行った。
なんだ案外あっさり引いたな。
子供に絡んでくる割にはビビりかよ。
鼻息一つ鳴らすアルスにバーゼルは向き返り、ノーガードのおでこに向けて強めに指を弾いた。
「痛ってぇ!」
「騒ぎを起こすなって言ったろが」
「起こしてねぇだろ!?」
「俺が止めなきゃ完全にやり合ってたろ。あと冒険者同士の喧嘩に剣なんて抜こうとしてんじゃねぇよ。斬る気満々じゃねぇか」
「いや、これはつい癖で……」
シラを切ろうとするアルス。
バーゼルはため息をこぼす。
「いいか?騒ぎは起こすな。活動を止められて困んのはお前だけじゃねぇんだよ。パーティにいる以上は仲間のことは常に頭に入れて行動しろ」
「……イエスボス」
「お前反省してねぇだろ」
また深いため息をこぼす。
反省はしてるぜ?
反省はしてるけど、今のは絶対に向こうが悪いですぜ旦那。
「もういい、ついて来い。今日の依頼を決めるぞ」
そう言ってバーゼルは今度は三人も連れて再度受付へ向かう。
受付に立つ美人なお姉さん。
その横にある掲示板に無数の依頼が貼られてある。
バーゼルは掲示板の前に立つ。
「まず、依頼ってのはこうやって掲示板に貼り出されてある。依頼には推定ランクが書かれてて、それを見て自分たちが受けれるレベルか判断するんだ。」
「僕たちの推定ランクは確かCランクでしたっけ?それならCランク相当のやつを探せば………あれ?」
「全然無いじゃない」
掲示板にはFランクかEランクばかりで、あってもDランクが限界だった。
「まぁたまにこういうこともある。この国にいる冒険者の中に強い奴が多かったり、そもそも高ランクの依頼を出すほどの危険がなかったりしたりな。まぁどっちにしろ、安全であることには変わりねぇんだ」
まぁそうだな。
安全が一番だ。
となると、今日はどの依頼を受けるか……。
「ちょうどいい。今回はお前らが依頼を選べ。」
「いいんですか?」
「あぁ、自分たちに見合った依頼を選ぶ。こういう判断力も必要だ。それに、俺がいなくなったらどっち道自分たちで選ぶようになるんだ。俺がいなくなればお前らの推定ランクはEからDランク。今のうちからやっとけ」
確かにそうだな。
今までバーゼルを入れて考えてたがいつまでも頼りぱなしも良くない。
本当はついてくる必要なんてなかったのにこうして鍛えてくれてるんだ。
本当に良い奴だこいつは。
アルスたちは掲示板の依頼にざっと目を通す。
「ペットの捜索、薬草の採取、家事の手伝い………ふむふむ、なるほど。って、雑用ばっかじゃねぇか!!!!」
「確かに雑用ぽい仕事が多いね」
「EランクFランクの依頼なんてそんなもんだ。戦闘能力の低い奴らに戦闘の依頼なんてこねぇからな」
いやそれにしてもだろ。
ペットの捜索とか家事の手伝いとか冒険者がすることじゃねぇだろ。
こんなんでいいのかよ。
「まぁとりあえずこれにしようか。何もしないよりかはいいでしょ」
フェンリルが手に取ったのはさっき読み上げた三つだ。
「それでいいのか。んじゃあそれ持って受付に行け。その依頼を受ける報告と手続きをする」
言われた通り受付に持って行くと元気な受付嬢が依頼を受け取り、アルスたちの冒険者カードとパーティ名を紙に記入し、よく分からない手続きをしたあと、笑顔で送り出された。
めちゃくちゃスムーズだ。
ギルドを出たところでバーゼルが呟いた。
「簡単だろ?これでお前らだけでも依頼を取れるな」
まぁ依頼取って受付に持っていくだけだしな。
手こずる奴なんていないだろ。
「そうですね。ただ、受けるに足る依頼かを見極める力はまだないので不安です」
「なぁに、そんなもん経験だ。何事もすぐに出来てたら苦労しねぇよ。
んじゃ、さっそく行くか」
依頼の内容に肩を落とすアルスとアイビスの足取りは重いが、黙ってバーゼルとフェンリルの後ろについて行った。
---
全ての依頼を終え、四人は宿で夕飯を食べていた。
結果から言おう。
依頼は全て成功した。
アルスたちが今日こなした依頼は最初の三つと追加でもう二つで計五つだ。
そのどの依頼もEランクかFランクの依頼。
内容はさほど変わらない。
外面的に見ればかなりいいだろう。
そう、外面的だけ見れば。
内容は酷いものだった。
ペットの捜索、薬草の採取、家事の手伝い、その全てが出来ないアルスとアイビスはお荷物状態。
逆に全てが出来る上にそれらを得意とするフェンリルがほぼ全てを一人でこなしていた。
うなだれるアルス。
「ムリ……マジでムリ。全然楽しくない」
「ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事ペット薬草家事……」
同じく机に突っ伏すアイビスが呪文のようなものを唱えている。
「そう?僕は楽しかったけど……」
「そりゃあそうだろ。お前はアレ全部出来るからいいだろに。俺たちは戦うしか出来ねぇんだよ。見ろこのアイビスを。あまりのつまらなさに壊れたぞ」
フェンリルが二人を見て苦い顔をする。
「そんなにつまらなかったかな……」
「まぁ、こいつらからしたらつまんねぇだろうな。今まで戦う依頼しか取って来なかったからこういう依頼には不慣れな上に楽しさが全くないと来た。そりゃあ壊れたりもするだろ。こいつら馬鹿なんだから」
「うるせぇよ!!!そういうバーゼルは依頼中なんもしてなかったじゃねぇか!!!それどころかテメェ酒飲んでたろ!!!?」
「いやいや、俺はお前らの経験のために邪魔にならないように退いてただけだ」
「退いてただけなら酒は要らねぇだろ!!?」
ワイワイと言い合いを始め出す。
そんな四人の前にちょうど料理が並べられた。
出てきたのは香辛料で味付けされた肉料理だ。
「元気だねぇ。こっちも元気出てくるよ!」
店の女将がニコニコと呟く。
「おっと悪ぃな、ばーさん。騒いじまった」
「いいんだよ!ここは静かな店だからあんたらがいると活気ある店に見えるよ!」
「……そうかい」
ニコニコしながらそのまま厨房へ戻っていく女将。
騒いでいたのにも関わらず笑顔とは。
優しい人なんだな。
なんて思いながら並べられた料理に目を向ける。
その料理に対して美味しそう以外は何も思わなかったが、気づけばヨダレを垂らしながら肉にかぶりついていた。
同時に汁が周囲に飛び散った。
「うわっ!ちょっとアルス何してるの!?あーもう机が汚れちゃったじゃん」
「犬かよ」
眉を八の字に曲げるフェンリルと意味がわからないみたいな顔をするバーゼル。
だが、アルスにはそんなことどうでもよかった。
あまりにも料理が美味し過ぎて、一切気にならない。
あぁうめぇぇぇ。
イライラしてる時にこんなもん食ったらなんか全部どうでも良くなってきた。
あぁ………これ毎日食えんのかな。
最高だな。
まぁいいや。
とりあえず、明日も頑張ろ。
四人の砂の国での一日が終わった。
♦ちょこっと補足①♦
初日の買い物は全てスーリオがお金を出したらしい。
♦ちょこっと補足②♦
アイビスは3人の中じゃ一番の大食いで食い意地を張っているため、アルスはよくアイビスの飯を横取りされるそう。




