第二十八話「とりあえず状況整理」
村を出た四人は砂漠のど真ん中で野宿をして一夜を明けた。
四人はこれからの方針について話し合うと座り込んだものの、その前に昨日のことについて整理することにした。
主にアルスたちからバーゼルへの質問攻めだ。
「バーゼルさんやバーゼルさんや。聞きたいことあるんですが?」
「はいはいどうされましたクソガキ」
「昨日のことについて整理してほしんですけど」
「……めんどくさ」
「めんどくさじゃねぇよ!あれだけの事があってなんでお前からなんの説明もねぇんだよ!」
バーゼルの表情が渋る。
「まずだ!シスター、あの人は何もんだ?あの感じ、お前なんか知ってただろ」
「……ありゃあ教団絡みの人間だな」
「教団?」
「シスターは教会の人だから教団やらなんやらは確かに関わってそうだけど。」
「そうじゃねぇよ。」
「?」
「俺が言ってんのはただの教会の話じゃねぇよ。『反神人教団』のことだ」
「『反神人教団』……って何よ」
神人?
って確か『神様の力を授かった人間』?だったけ?
地底の本に書いてあったような。
「神人……をよく思わない教団ってことですか」
「ざっくり言えばそうだな。やる事成す事が尋常じゃない。普通の人間ならやらねぇようなことに手を染める。そうまでして『神人』を排斥したがる連中さ」
「……その人たちは何が目的で『神人』の排斥を願うんですか?」
バーゼルはタバコを咥え、長話をすると言わんばかりに腰を据える。
「まず、『神人』についてだがな。『神人』の存在が確認されたのが2000年前。異常な魔力量と逸脱した特一魔術を持った人間が世界各地で発見された。当時、っつうか今でも考えられないほどの能力を持っていたんだよ。容易く地形や気候を変えちまったり、大国ですら単独で潰せるほどな。当時、戦争の絶えなかった時代において、そいつらの存在は時代を変えるには十分だった。
混沌の時代をさらに混沌へと堕とすことも平和へと導くのも、そいつらの気まぐれで変えられた。
そんな圧倒的な強さに、人々は恐れ、そいつらを『神の使者だ』と崇めた。『戦争を繰り返す人間たちに神様が使者を送り出して天罰を与えようしているんだ』ってな。」
「はぇ〜、難儀な時代だな。」
「次第に『神人』は宗教の対象となり、『神人』を崇める『神人教』が出来た。ただまぁ、それが良くなかったんだろうな。『神人』が誕生するよりも前に崇められていたのは本物の神様だ。その本物の神様を崇める奴らが『神人教』を猛批判。『それは偽物だ。ただの怪物だ』とな。その火種が徐々に大きくなっていき宗教戦争なんて起こるようになった。それが『反神人教団』の原型だな」
なるほど。
思った以上に深い存在なんだな。
「でもよ、なんでそんな奴らがあの村を襲ったんだ?あの村が『神人教』が多かったとかなのか?」
「……いいや、違ぇな。あそこの村は宗教に熱心な村じゃねぇ。宗教に関心が低い村だ。」
「じゃあなんで――」
「襲われたのはあの村じゃねぇ。お前らの方だよ。」
タバコを三人へと向ける。
「……え?俺たち?」
「それこそなんでよ!私たち宗教とか関係ないわよ?」
地底に宗教はない。
あるとするならば古臭い土地神様程度だが、『神人』云々の宗教などは存在しない。
関わりはゼロと言っていいだろう。
「『反神人教団』の表向きは『神人』の排斥。だが、本当の理由はそうじゃないと言われている。」
「言われてる?」
「俺も聞いた話だ。実際はどうかは分からんが、まぁ可能性は高いってぐらいだな。」
「で?本当の目的は?」
「……社会制度の崩壊。言わば王族、貴族、神人、社会的地位の高い者の完全な排除だ。」
「は?なんだそれ」
「恨みがあるのか知らねぇけど、どうもそういうお偉いさんが嫌いなようだな」
言ってる意味が分からない。
それだと――
「それじゃあ尚更よ!なんで私たちが狙われなきゃいけないのよ!」
アイビスも同じ疑問を感じていたようだ。
バーゼルの言う通りなら尚更意味が分からない。
俺たちは宗教も関係ないし、地上の社会的地位なんてほぼ無いに等しい。
説明なっていない。
考え込んでいたフェンリルが呟く。
「……単に邪魔になるから、ですか?」
「正解。今まで地上に出てきた地底人共に散々邪魔されたんだろうな。これでもかと言わんばかりに目の敵にしてやがる。」
マジか。よく分かったな。
「フェンリル、お前ホントすげぇな」
「君のオツムよりかは出来がいいからね」
「ん?なぜディスる?」
満面の笑みで馬鹿にされた。
「てことは教団の奴らは村じゃなくて私たちを狙うために村を襲ったってこと?」
「そうだな。正しくは利用した、だな。何せあの村は地底から一番近い村だ。地底人は大抵あの場所を通るだろう」
「じゃあ、村の奴らは俺らのせいで……」
村の奴らは無関係なのに巻き込まれたことになるんじゃ……。
「いいや、それは違うな。そもそも、あそこの村は最初からおかしかったんだよ」
「おかしい……確かに変わった村なのかなって思ってましたけど……」
「そういうことじゃねぇ。あの村はお前らが来るだいぶん前から『呪い』に汚染された村だった。」
「……なんで、そんなこと分かんだよ」
「俺はあの村に行くのは今回で8回目だ」
「8回!?そんな行ってたのかよ。」
てことは『呪い』のこともだいぶん前から知ってたってことだよな。
最初から言えよ。
「初めてあの村を訪れた時は違和感に気づけなかった。お前ら同様、ただ少し変わった村。そんな印象だった。だが、回数を重ねる毎に異変は明確になった。」
「……異変?」
「……あそこにいる村の連中、全員一日毎に記憶をリセットされていた」
「記憶を……リセット?」
「つまり、何度もその村に訪れても次の日には名前は忘れる。する話も毎回同じ、決まった配置、決まった行動、それが当たり前かのように行われる。」
「確かに……それは変ですね」
「酒を飲み交わそうが覚えやすそうな物を渡そうが何も変わらなかった。物に関しては次の日には消失していた。村に宿泊していた際に関しては次の朝に不審者扱いされ追い出される始末だ」
「ん〜、でもよ、それだとおかしくねぇか?
俺たち今回村長の家に泊まったけど特に変わった様子なんてなかっただろ?」
「そうね。村長は宴の時と何も変わってなかったわ」
「あの村で使用された『呪い』は使用者本人が制御可能な『呪い』だった。だから地底人であることを知って村全体のループを解いた。『呪い』を一時的に解除したんだ。おそらく宴の時だな」
「………バーゼルはそれを分かってたのかよ。『呪い』を解くって」
「あぁ、分かってた。だからお前らが地底人であることをバラした。早く動いてもらいたかったんでな。
まぁ、たぶんバラさずとも向こう側は気づいてたんだろうがな」
納得出来ないと言った様子の三人。
「今は考えたところでどうしようもねぇよ。とにかくお前らはこの先、あのシスターのようなイカれた連中に追われ続ける。対峙した時の感覚を忘れんなよ。今のままじゃ直ぐに死ぬぞ。」
神妙な面持ちで警告してくる。
確かにあんな奴がこの先にもいると考えると恐ろしいな。
俺たちが地上に来たのは地底の開国のため。
それがあんなのと対峙していかなければならないなんて……正直地上を舐めてたな。
だが、たかが地底人相手にあそこまでするのか?
俺たちは子供だぞ?
それを村ごと利用して――。
「んじゃ、状況整理も終わったことだし、これからどうするか話しておくかな」
おっと、すごい切り替えだな。
あんまりすぐに切り替えられるような内容じゃないんだけど……。
「どうするかって、行き先とか決まってるの?」
「そりゃあもちろん、決めてある。」
バーゼルが荷物からボロい地図を取り出し、三人の前に広げる。
「まずお前ら、地上の大陸やら国やらどれくらい知ってる?」
アイビスが瞬時に答える。
「もちろん知ってるわよ!大陸は大きいのが5つ!国はたくさん!」
「いや、名前言ってくんない?それだとなんも分かんねぇだろ」
「え、えーと……」
「まず、地図の左下にある『サヘルバル大陸』、その上にある一番大きいのが『中央大陸』、その右に位置する『和大陸』、その下にある『リージ大陸』、リージ大陸とサヘルバル大陸の間にある『ブラッデン大陸』。そしてこれらの大陸の真ん中に位置する大きな海が『フォールマーデル海』です」
答えられないアイビスに変わってフェンリルが地図に指を差しながら答えた。
「ほーう、ある程度は勉強してきてんのな」
さすがフェンリルだ。
大陸全てを答えるなんて……。
そしてアイビスは何故か自慢げに胸を張って腕を組んでいる。
いやお前答えれてなかっただろうが。
「ある程度は分かりますが、地底で見た地図と多少違う部分もありますね」
「地形ってのは年代と共に変わるもんなんだよ」
へー、そうなのか。
てか地形覚えてんの?
「じゃあ国は?」
「国の方は『八大強国』というのがあることは知ってますが、時代と共に数えられる国が変わるんですよね?」
「正解!まぁそっちのバカ二人のために教えておいてやる。」
「誰がバカよ!バカはアルスだけよ!」
「それ言う必要ある?」
なんでさっきから俺はフェンリルとアイビスにディスられてんの?
なんかしたっけ?
「『八大強国』ってのは経済力、武力、資金力において群を抜いて秀でている八つの国のことだ。確か今の八大強国はー、えーと、『金の国 アンデル王国』、『炎の国 フレア王国』、『水の国 マール王国』、『光の国 ルミナリア王国』、『闇の国 ティアナ王国』、『天の国 ラークス帝国』、『日の国 アマナギ皇国』、そして『砂の国 フロールワ王国』の八つだ。他にも中小国や『八大強国』以外の大国も存在するが、今の主要国はこんぐらいだ。」
「フンっ!簡単ね!」
「おーそうか。じゃあ俺たちは今どこの大陸にいるでしょうか」
アイビスに指が向けられる。
「私たちが今いるのは『サヘルバル大陸』よ!舐めんじゃないわよ!」
自信ありげに答える。
「おぉ!バカ2号に1点!」
「だからバカじゃないわよ!!!」
耳が痛くなるくらい声を荒らげる。
「じゃあ次。俺たちがこれから向かう国はどこでしょうか」
次にアルスに指を向けられる。
アルスは慌てて答える。
「え、えーと、す、砂ぽい国だ!」
「ザンネーン!バカ1号落第!」
「一発で?」
呆れ顔でバーゼルが答える。
「俺たちが今いるのは『サヘルバル大陸』。ならその『サヘルバル大陸』にある『八大強国』に向かうのが定石だ。覚えとけよ」
「てことは……」
「『砂の国 フロールワ王国』だね」
バーゼルが地図を指差しながら説明し出す。
「今いる場所が『サヘルバル大陸』の西側。そんで『フロールワ王国』は大陸の東側だ」
「随分遠いな……」
「普通に歩いて行けば4ヶ月はかかる道のりだ」
「4ヶ月!?そんなの歩けるわけないじゃない!」
「だが、この大陸は独特な魔獣が多くてな。背中に乗られていることすら気づかないようなバカデカい魔獣がいる。そいつが近くを通ればそいつの背中に乗って移動出来る。そうすると4ヶ月の道のりが2ヶ月の道のりになる」
そんなに足の速い奴がいるのか。
乗られていることすら気づかないってとんでもなく大きいんじゃ……。
「つまり、俺たちの今後の進路は『フロールワ王国』を目指しながらそのバカデカい魔獣を見つけて乗る。そしてそのまま『フロールワ王国』へ行く。とりあえずの進路はこれだ。いいな?」
「はい!分かりました!早速準備しましょう!」
「はぁ、また砂の中歩かなきゃ行けないの?」
「文句言うなら放って行くぞ」
「い、言わないわよ!ちゃんと歩くわ!」
アイビスが急いで準備する。
「日が暮れる前に進んおくぞ。夜はお前らガキ共には酷だからな。あっ、あとお前ら、これ上から着とけ」
バーゼルは三人にボロい布切れのようなものを渡した。
「なんだこれ、汚ぇ!」
「ちょっと!何よコレ!こんなの要らないわよ!」
「それは砂嵐とか日差しとか遮るやつだ。服を汚したり肌を焼きたくなけりゃ着とけ」
アイビスはその言葉に顔を真っ青にし、布をじっと見下ろした。
そして何も言わずにそれを着た。
地底には日焼けというものが存在しない。
しかし、地上に出るとこの眩い日差し。
そのせいか、アイビスは地上に出て来てからよく肌を気にするようになっていた。
やはり日差しは乙女の大敵とはよく言ったものだ。
アルスたちは肌のことは気にしていないが、地上に出て来てから服が砂まみれになっていたので、アイビス同様着ることにした。
肌感はゴワゴワしていて気持ち悪いが、これで砂まみれにならずに済むならいいだろう。
アルスたちはボロ布を纏いながら先の見えない砂漠を進み出した。
♦ちょこっと補足♦
バーゼルは経験豊富。そして貧乳派。




