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間話「傍観者の役目」

 アルスたちが地底を出て数日、地底では再度慌ただしい状況になっていた。


 理由はアルスたちの二度目の神隠しが原因である。


 神隠しからの帰還、そして再度の神隠し。

 何がどうなっているのかと街や村では慌ただしくなっていた。


 そんな中、落ち着いてお茶をすする者が二人。


「慌ただしいのう。」

「だって神隠しですよ?誰だって心配になるでしょうに。」


 グランベル学園の談話室にて会話する彼らは、まるで慌ただしい状況が他人事かのように話す。


「そう言うお前さんは心配しておるのか?アーミス」

「……そうですね。心配ではありますが、でも、大丈夫だと確信もあります。私としてはボロボロになったあなた方の方が心配になりましたよ?学園長先生」


 アーミスとフィーネス。

 アルスたちの神隠しを知る者である。


「フンっ!全くじゃ。何故アルスはあんなものに襲われるんじゃ?昔からアルスは妙に人を惹きつけるが、あんなものまで惹き付けられるとこちらとしてはたまったもんじゃないわ!」


 フィーネスはアルスたちを外に出す際に襲ってきた人物にやられ、全身はボロボロだった。


「……その方はそんなに強かったんですか?」

「そうじゃな。ラスティーニとマルダが軽くいなされておった。ワシも年甲斐もなく本気を出したつもりだったんじゃがのう。まさか押し通られるとは」


 不甲斐なさそうな顔で頭を抑える。


「マルッフィルもほんの少しの時間しか稼げなかったと言っておったな。アルスたちは無事に地底に出れたのか、それだけが心配じゃ。」

「……確認はなされたのですよね?」

「あぁ、地上に繋がるあの部屋を隅なく調べたが、アルスたちの血痕やそれらしいものは見つからんかった。あったのは破壊された一つ目の扉と氷漬けにされた椅子ぐらいじゃ。おそらく、アルスたちはその椅子を滑車のようにして地上へ出たんじゃないかとマルダが言っておる。地面についた痕を見る限りおそらく真後ろまで迫ってきておったんじゃろう。それをフェンリルかアイビスが何とかして振り切れたんじゃないかのう。あくまで、希望的観測じゃが……」


 心配そうに呟くフィーネスの話を聞いて、アーミスはふと笑みがこぼれた。


「ふふっ……」

「何を笑っておるのじゃ?」

「いえ、あの子(アルス)は周りに恵まれた子だなと思いましてね。」

「周りに恵まれた?」

「えぇ、心配してくださる先生方いて、いざという時に助けてくれる仲間がいて、あの子にとってこれ以上心強いものはないでしょう。だから、私は大丈夫だと確信しているんです。アルスの隣にはあの二人がいるから。誰かが間違った道を選んでも他の二人が引っ張って連れ戻してくれる。どんな困難も手を取り合える。あの子たちならきっと大丈夫ですよ」


 微笑むアーミスを見て、フィーネスも心を落ち着かせる。


「お前さんは相変わらず呑気じゃな。……まぁ、やわな教え方はしとらん。教師として、ドンと構えて気長に待つとするかのう。」

「えぇ、信じましょう。あの子たちが笑って帰ってくる日を。」


 アルスたちの話を一段落つけ、ゆっくりお茶をすする。


 そして今度はまた別の話を引き出した。


「それはそうとて、お前の旦那はどうなっておるのかのう」

「………」

「……いつまでも期待し続けるのもお前さん次第だが、現実を受け止めるのも大事な事じゃぞ」


 アーミスはゆっくり外を見る。


「あの人は……今、どうしていますかね……」


 フィーネスの目には悲しげな表情が写った。


「ワシとしては、アルスたちには彼奴(あいつ)と同じ道を辿って欲しくはない」

「……私もそう思います」


 二人ともその人物を思い出すかのように黙り込む。


 そしてすぐに静まり返った部屋にノック音が響き、扉が開かれた。


「失礼します。校長、重役たちが今回の件で話があるとのことでいらしております」


 部屋に入ってきたのはフィーネスと同じく包帯を巻いたマルッフィル。


「そうか。そうじゃな。皆の者は事の次第を知らなんだ。それなりの事を言って誤魔化すかのう」

「……本当にこれで良いのでしょうか」

「……気持ちは分かるが仕方のないことじゃ」

「ですが!それでも子供に背負わすにはあまりにも!それに婦人も!自分の子を!」


 珍しく声を荒らげるマルッフィル。

 しかし、アーミスは落ち着いた声色で答える。


「良いのです。いずれは()()()()()なければならないのです。大人たちが強制する形になっても、成しえなければならないのです。それに、どちらにせよもう出てしまっているのですから今騒いでも意味のないことですよ。我々はもう手を出せない傍観者に過ぎません。我々がするべきことは来るべき日に備えるだけです」


 マルッフィルが不安気な表情で俯く。


「そうじゃな。ワシらにはワシらの役目があろう。マルッフィル、その話はあの子らを地底に出す前に何度もしたじゃろ?」

「……すみません。少し気が動転しておりました」


 マルッフィルが頭を下げる。


 マルッフィルはアルスたちを地底に出す際の襲撃を受け、かなりナイーブになっていた。


 あの人物が何者かは分からないが、もし地上に関わる人物なら、そんな場所にアルスたちが生きていけるのかと。

 地底屈指の人物たちですら歯が立たなかった相手を相手に出来るのか。

 生徒思いのマルッフィルにはただ不安がのしかかるばかりだった。


「それでは、ワシらはここらでお暇させてもらうかのう。お前さんはもう少し居てくれも構わんぞ?」

「いえ、私もそろそろお暇させてもらいます」


 そう言って、二人は腰を上げた。



---



 村に戻ると、案の定騒がしかった。


 自分たちの村の子が神隠しに会ったと最初の時も慌ただしくなっていたが、今回も同様。

 村の人間総出で探し回っていた。


 アイビスやフェンリルの両親は半分諦めているかのように泣き崩れていた。


「なんで!なんであの子が隠されなきゃいけないの!」

「落ち着いて母さん!」


 声荒らげている。

 アーミスも割って入る。


「落ち着いてください。大丈夫です。きっと、大丈夫ですから」

「大丈夫なわけないじゃないですか!子供が取られて!大丈夫なわけないじゃないですか……!」


 縋るようにしてアーミスに泣きつく。


 アーミスはその姿にただ歯を食いしばりながら慰めるしかなかった。


「……あの子たちはいい子たちだから、神様が隠してしまったのかもしれません……」


 無責任な言葉が出た。

 同時に心に重く罪悪感がのしかかった。


「子供を隠す神様なんて……絶対に許さない!」


 その憎しみの籠った声にアーミスの心はより締め付けられた。


 同時に驚いた。


 自分の口から出る軽薄さに。

 宥めることしか出来ない無責任さに。


 村の人たちはまだ諦めないとばかりにあっちこっちへと地底中を探し回っている。

 その中でも村長が誰よりも必死に探し回っている。


 ふと涙がこぼれた。


 隠したのは神ではない。

 自分たちだ。

 子供たちの未来を、その親が見届けるべきものを取り上げたのだ。


 罪の意識が心を抉る。

 だが、それでもやらなければならなかった。


 これは長きに渡り地底を蝕む『呪い』との戦いなのだから。

 二千年前の()()()から始まった、遥か昔の『歴史(呪い)』だ。



---



 その日の夜、アーミスは自室にて日課である日記を記していた。


 外の方は昼間より静かになった。


 アーミスは今日の出来事、思った事、全てをその日記に書き記した。


 本来ならそこでペンを置くのだが、何故かその日はペンが止まることはなかった。


 今日の出来事だけに飽き足らず、今までの出来事、自分の出自や今までのこれら目的など全てを書いていた。


 ――まるで、遺書を書くような。


 そして日記を書き終え、ふと顔を上げると約束の()()になっていた。


 アーミスはその日記を持ち、皆が寝静まる中、一人家を出た。



---



 西大大きな部屋(タンガ)のとある村を通り抜けた先に、大きな部屋(タンガ)の壁が見えてくる。


 その壁沿いを少し歩いたところに妙な出っ張りがある。

 そこに手を当て魔力を流し込むと、壁が扉のように開かれる場所がある。


 そこは明らかに人為的に造られたもので、上へ登る階段が姿を現した。


 暗く先の見えないそれをアーミスは杖に灯りをともし、慣れた足取りで登り始めた。



 30分もしないうちに、アーミスは階段を登り終えた。


 階段の先にあったのは真っ暗なだだっ広い空間だった。


 何があるのかも分からないその空間には自然もなく、光も入り込まない場所で、じめっとした湿気を感じる。


 アーミスは慣れた手つきで暗闇から大きなトーチを見つけ出し、そこに火を点した。


 部屋の全貌が顕になる。


 部屋は縦長の直方体。

 そして部屋埋め尽くすかのように置かれた巨大な鐘。


 それは金属で出来た巨大な鐘であり、地底世界にはないものだった。


 見るからにその大きさは本来の大きさではないことが分かる。


 まるで、この部屋自体がこの鐘のためにあると言っても過言ではない。


 アーミスは荷物を置き、鐘の真下まで移動する。


 そして紙切れを丸めて耳につめ、垂れ下がった紐に捕まりながら勢いよく飛び上がり、地面にある少し出っ張った区画に勢いよく体重を乗せた。


 すると次の瞬間、鐘が動き、巨大な音を鳴らした。


 地響くようなその音は地底中に伝わり、就寝の知らせる本日四度目の『()()()()()()()』となった。


 そう、これが地底にある謎の一つ、『グランベルの鐘』の正体である。



---



 アーミスは耳栓を外し、ホッと一息つく。


 この巨大な鐘は少しの力で動かすことが出来、地底の知識では存在しえないものだ。


 アーミスは一日四度この鐘を鳴らし、地底人の損なった時間の感覚を養っているのだ。


 これが無ければ恐らく人の行動は統率されず、また選ばれた者が地上に出たとしても時間の感覚について行けなくなるだろう。


 アーミスは毎日欠かすことなくこれを行う。


 言わば彼女にとっての『使命』なのだ。


 アーミスは日記を持ち、鐘の下に座り込む。


 そして日記を開き、今までの日々を振り返るようにページをめくっていく。


「ねぇ、あなた。あなたもアルスも外に行っちゃって、私やっぱり寂しいわ。家に帰っても誰にも迎えてもらえないもの。あなたはいつ帰ってくるのかしら?」


 まるで誰かが隣に座っているかのように話す。


「この使命もいつまで続くのかしら……。

 ……私、今日アイビスちゃんのご両親とフェンリル君のご両親に嘘ついちゃったの。子供たちがいなくなって泣いてるあの人たちに無責任に大丈夫なんて言って、いい子たちだから神様が欲しがっちゃったんだって。酷いわよね。隠したのは紛れもなく私たちなのに。……私、もう耐えられないわ。子を失う親の気持ちなんて痛いほど分かるもの。それ強制させてしまった。一生かけても償いきれないわ」


 アーミスはいつの間にか涙をこぼしていた。


「私だって……アルスのことが心配で仕方ないのに……!何も分からず子供が消えた人たちは不安で夜も眠れないんじゃないかって!」


 嗚咽をあげる。

 アーミスは自分が感じた罪悪感を全て吐き出すように涙を流した。


 しばらく嗚咽をあげた後、深呼吸をして心を落ち着かせる。


「それでも、やらなきゃいけないわよね。ここで何もしなかったらこの地底はアイツの思うままよね。弱気になっちゃダメよアーミス!戦わなくちゃいけないの!あなたもそう思うわよね?」


 アーミスは誰かに問いかけるようにして何もない空間を見つめる。

 もちろん返事はない。


 だが、何を感じとったのか、アーミスは優しく微笑んだ。


「私ね、()()()のところに行こうと思うの。ほら、前に話した家に来た子。たぶん今困っているのはあの子よ。アルスを狙ったことは叱らないといけないけど、ここで動かないといけない気がするの。次のために――」


 アーミスは立ち上がる。


 そして今度は寂しそうな顔で呟く。


「たぶん、私がここに来るのはこれで最後だと思うの。鐘の役目はフィーネス先生にお願いしようかしら。いえ、でもあの人もかなり老体よね。となると、あなたの親友に任せようかしら。マルダさんとラスティーニさん。二人なら大丈夫そうよね?」


 アーミスは鐘を支える支柱に手を当てる。


「……あなたが今何をしてるかは分からないけれど、でも、あの時のあなたのように、今度は私の()だと思うの。……怖いけれど、頑張るわ。みんなのために、アルスの未来のために」


 そう言って、アーミスは鐘から離れ、荷物を持ち階段へ向かった。


 最後に名残惜しそうに鐘の方を振り返るも何も言わずに登ってきた階段を降りていった。



---



 そしてその日の夜、日記だけを残し、アーミスは地底から姿を消した。

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