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第二十七話「狂気」

 翌日、夜通しの宴で疲れきった全員は昼頃まで眠ることとなった。


 アルスたちも昼頃に起床し、これからの進路を決めていたところ、村長に呼び出された。


 一階の居間にて何やら申し訳なさそうな顔で四人に頭を下げた。


「地底人様方に無理言ってお願いがあります!実はこの村を囲む森にも魔獣がおりまして、定期的に異常がないか見回らないといけないのです。本来なら村の者がするのですが昨日の宴で使い物にならなくなっておりまして、どうか皆様のお力をお借り出来ないでしょうか。」


 とのこと。


 えーと、つまり村長直々の依頼ってことか。

 まぁ、魔獣点検ぐらいなら俺たちにも出来るだろう。

 それに、理由が宴となると他人事ではないな。


 アルスは勢いよく返事する。


「おう!いいぜ!俺たちが引き受けてやるよ!お前らもいいよな?」

「うん、昨日はたくさん持て成して貰ったしね。お礼に引き受けよう」

「私も別にいいわよ」

「……」


 バーゼル以外は問題無さそうだ。


 問題のバーゼルは………まぁいいか。


「本当ですか!!ありがとうございます!!!」


 村長はまた深々と頭を下げた。


 依頼か……。

 ということはつまりこれは俺たちが冒険者になって初の依頼なんじゃね!?

 なんか気合い入ってきた!


「まぁ、俺たち『グランベル』にかかればどうってことないだろう!」

「『グランベル』?」

「僕たちのパーティ名です」

「ほう。『グランベル』というのですね。覚えやすい」


 かっこいいとは言ってくれないんだな。

 まぁ、かっこいいかは分からんが。


「それじゃあ『グランベル』の皆さん、よろしくお願いします!」

「おう!」

「はい!」


 心地よく引き受けるアルスたちに対してバーゼルが呟いた。


「グランベルつったって、お前らなんも出来ねぇだろ。」


 まるで自分は何一つとして関係ないと言った様子。


「おい、何言ってんだよ。グランベルで受けるんだからバーゼルも一緒に決まってんじゃねぇか」

「は?何言ってんだ?俺はお前らの旅の手助けをしているわけであって村を助ける義理はねぇよ」


 分かってないなと言わんばかりにアルスは頭を振り、バーゼルに冒険者カードを見てみろとジェスチャーをする。


「?」

 

 バーゼルは怪訝な顔で考えるように固まった。


 そして数秒の間のあと、胸元のポケットから冒険者カードを取り出した。

 バーゼルは冒険者カードを確認した後、ワナワナと震え出した。


「お、お前ら……ッ!!!!」

「義理どうこうの話じゃねぇよ。これは『()()()()()』で受けた依頼だ。そんで、『グランベル』はお前を入れたこの四人でのパーティ。よろしくな!バーゼル!」


 悪い笑みを浮かべるアルス。


「な、何やってくれてんだよお前らぁぁッ!!!!」


 バーゼルは思いっきり頭を抱えて叫んだ。


 ふむ、やっぱり黙ってて正解だったな。



---



 四人は全ての準備を整えて、村長に見送られながら家を出た。


 今からやることは狩りではなく調査だ。

 危険な魔獣がいた場合は戦闘は免れないが、基本は異常がないかの点検だ。

 危険度はそこまでないだろう。

 万が一の時はやる気はなさそうだがバーゼルがいる。

 大丈夫だろう。


 バーゼルは分かりやすく肩を下げてゾンビのように歩いている。


「あ、あのー、バーゼルさん。嫌なら今からでもパーティ辞めます?」


 気を利かしてフェンリルがそう聞く。

 だが、バーゼルの目は睨むような目でフェンリルを見る。


「出来るわけねぇだろ。そもそもパーティってのはお試し期間みたいなもんがあるんだよ!その期間でパーティを組むか決めんだよ!じゃねぇとパーティが合わず組んで直ぐに解散したらギルドから違約金が発生するからだよ!!!!どうしてくれんだ!!!!」


 頭を抱えながら声を上げる。


 ふむ、違約金…………何それ?

 お金かかんの?


「いいじゃない別に!私たちのパーティに入れてやっと就職出来たじゃない!」

「だから!無職じゃねぇって言ってんだろうが!!!あぁ、もうめんどくせぇ!」

「おいおい!いくら嫌だからってニートじゃないですみたいな感じ出すなよ!俺らはちゃんと知ってるぜ!お前がニートってことをなッ!」


 そう駄べりながら森へ向かっている途中、前からシスターたちが歩いてくるのが見えた。


 アルスは大きく手を振る。


「おっ!シスター!」

「あっ、アルスさん!」

「アルス兄ちゃんだー!!」


 シスターの返事の後、聞こえてきたのは幼い子供の声。

 ギム、ビー、リネーナだ。

 三人とも一夜にしてアルスのことをお兄ちゃんと呼ぶほどアルスのことを慕ってくれるようになった。


「お前らもいたのか!何してたんだ?」

「朝の散歩です!と言っても、もう昼ですけど……」


 お茶目に笑うシスター。


 ん〜、最高です。


「さして、皆さんはどちらに?」


 シスターの隣を歩いていた司祭が尋ねてくる。


「僕たちは村長さんに頼まれて森の魔獣の調査に向かっているんです」

「あぁ、そうでしたか。それでは森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)にお気をつけて。我々は昼食の準備がありますのでこれで失礼します」

「バイバーイ!」

「また後で遊んでね!」

「それでは失礼します」


 そう言いながらシスターたちは通り過ぎて行った。


「バル?」

森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)って言ってたね」

「何よそれ」


 司祭が落として行った単語に首を傾げる三人。


 魔獣の類か?


森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)。名前の通り森の中を彷徨う人間。いや、人間の姿をした魔獣だな。たぶんこの森じゃそいつが一番強くて厄介だな」


 バーゼルが呟いた。


「人間の姿をした魔獣?そんなんいんの?」

「それはどう厄介なんですか?」

「……そいつは人の姿に化ける。油断して近づいた人間を襲うんだよ。一緒に歩いてた奴がふと目を離した隙にいなくなっていて、見つけたと思ったら何故か自分が襲われるなんてよくある話だな」


 アルスとアイビスはその話に身震いをする。


 何それ、普通に怖いんですけど。

 俺らの知ってる魔獣じゃないんですが?


「それって、仲間に成り代わるってことですか?」

「あぁ、そうだな。だから死にたくなけりゃ俺から離れず俺の視界に収まる位置にいるこったな」


 あかん、おしっこチビりそう。



---



 森に入り、しばらく調査を行った。


 森には当然魔獣はいるものの、アルスたちの姿を見るとすぐに隠れる。


 魔獣の変死体があるだの、妙に多い個体などは見つからず、スムーズに進んで行った。


「問題無さそうだな」

「そうだね。村長から教えてもらった普段の様子と比べるとこれといったものは無いね」

「つまんないわよ」

「まぁいいじゃねぇか。何も起きてねぇんだ。平和だろ?村の人間が安心して過ごせるってもんだ」



 そうこうしているうちに森を一周し、調査し始めた場所に戻ってきた。


「これで終わりか。何もなかったな」

「うん、じゃあ後は村長に調査報告をして………アイビス?」


 帰路につこうとした時、アイビスが何やら目を凝らして森の奥を見つめていた。


「なんだぁ?なんか見えんのか?」

「………あそこ、誰かいない?」


 アイビスが指差す。

 アルスたちも同じように覗く。


 誰かって、森の中に人がいるわけ………ん?


 アルスの目にも人が見えた。


 その人物は木の影から半分だけ見える位置に立ち、大きく目を見開きこちらをじっと見ている。

 しかもその顔は見覚えのある顔だった。


「アレ、司祭じゃね?」

「ほんとだ!確かによく見ると聖職者の服っぽいね」


 フェンリルも同じように見えているようだ。


 司祭がこんなところで何してんだ?

 そこ森の中だぞ?

 てか、さっきシスターたちと帰ってたろ。

 何してんだよ。


 アルスが司祭に声をかけようとした時、バーゼルがそれを止めた。


「やめとけ!アレに声をかけんじゃねぇ」


 バーゼルが司祭を睨みつける。


「………何でだよ」

「森に入る前にした話をもう忘れたのかぁ?ありゃあ森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)だ」

「!? 森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)!?アレが!?」

「人に擬態する魔獣だ。アイツは司祭に擬態したんだろ」


 アルスはもう一度そいつを見る。


 そいつは一切動く様子もなく、じっとこちらを見ている。


 確かに全く動かねぇし声も発さねぇ。

 おかしいっちゃおかしいが、それにしても似すぎだろ。

 一発で見抜くなんてほぼ無理なレベルだ。


「襲ってくるの?」

「いや、こっちから下手に近づいたりちょっかいかけたりしなけりゃ何もしてこねぇよ」


 バーゼルの言葉通り、そいつはすぐに木の影に完全に隠れてしまった。


 アルスたちはすぐに緊張が解けた。


 なんだよ。

 襲ってくるのかと思ったぜ、ったく、ビビらせやがって。


「ふぅ、まぁ、変に魔獣に遭遇するのも嫌だし、すぐに帰ろうか」


 四人は早足で村へと向かった。



---



 村に着くと日が暮れ出した頃合だった。


「すっかり日が暮れちまったなー」

「そうだね。結構時間かかったもんね」

「つまらなかったし全然楽しくなかったわ!」

「馬鹿野郎!初心者が依頼貰ってんだ!ありがてぇと思え!」


 そう話しながら村長の家に向かって歩いていた。


 結構長ったなー。

 依頼ってこんなもんなのか?

 いや、冒険者自体結構こんな感じで日が暮れて帰ってきたりすんのかな。

 地底にいた時はそもそも日が暮れるなんて概念自体なかったしな。

 なんか冒険者らしいことしてる気がする。

 いや、冒険者なんだが。

 …………?


 歩きながらそんなことを考えていると、アルスはふと異変に気づいた。

 それはアルスだけではなく、他の三人も同様に異変を感じたようだ。


「なぁ、なんで誰もいないんだ?」


 村は最初に来た時と同じように誰もいない。

 昼は確かに人がいた。


 この時間帯はみんな家の中へこもるのか?

 でもそれにしてもまだ早くね?


「いや、人はいる。けど、全員家の中にいるね。それも来た時みたいに見られている」

「なんで誰も出てこないのよ!私たちよ!?アンタたちの言う地底人様よ!!!」

「………」


 三人が困惑する中、バーゼルだけは怪訝そうな顔を浮かべている。


 そして、嫌な感覚を覚えながら歩いていると、いつの間にか村長の家に着いていた。


 アルスたちは気にしても仕方ないと、家の中へ入った。


「ただいまー!」

「ふん!何なのよ!」

「只今戻りました!依頼の方は…………あれ?」


 三人は元気よく家に入ったが、すぐに家の中の異変にも気づいた。


 この時間帯は日が落ちてきてどんどん暗くなる。

 だから、部屋の中も明かりをつけないと暗いままだ。


 しかし、村長の家には明かりが照らされていなかった。


 昨日はちゃんとついていた。

 なら留守だろうかとも思ったが、留守ではなかった。


 村長はすぐ近くにいた。


 居間の壁に向かって突っ立っている。


 何かをしているわけでもなく……。


 脱力した様子で頭が少し上を向いた状態に見える。


 アルスたちは首を傾げる。


「? おーい、帰ったぞ〜!依頼ちゃんとやってきたぜ!」

「………」


 返事がない。


 なんだ?

 何をしているんだ?

 三人が近づこうとした時、バーゼルが先に行くと前に出た。


 そして四人で村長に近づき、バーゼルが村長に声をかける。


「おい、じぃさん。帰ったぞ。」


 返事はない。


 四人はそのまま村長の顔を覗いた。


 そしてすぐに後悔した。

 恐ろしいものを見てしまったと。


 アイビスが尻もちを着き、小さく悲鳴を上げた。

 アルスとフェンリルも全身の毛が震え上がり、動けなかった。

 

「おい………どうなってんだよ……!」


 四人が目にしたものは村長の顔、と言うよりも村長の()だった。


 その目は白目が全くなく、全てが黒目で埋まっていた。


 瞳孔も本当に瞳孔なのかと疑うほどグルグルと渦を巻いたような目だった。


 そして口を開け、ヨダレを垂らし、放心状態に近い顔。


 震え上がるには十分過ぎる程だった。


「ど、どうなっ………村長………え、え???」

「バーゼルさん、これ……」

「……『呪い』だな」

「『呪い』……!?それって村長は生きているんですか!?」

「あぁ、生きてはいるだろう。見た感じ精神系に来るやつだな」


『呪い』って確かフィーネスが言ってたやつか。

 いや、確かギルドの説明の時にも『呪い』の文字を見たような。


「でも、『呪い』ってこんな突然起こるものなんですか……?」

「いや、誰かがこの村に『呪い』をかけた。俺たちが森で依頼をこなしている間にな」


 まだ地上に来て日の浅い三人には詳しいことはよく分からなかったが、何者かに攻撃されている事はわかった。


「出るぞ」


 バーゼルの指示に従い、アルスたちは家の外へ出た。


 バーゼルだけはやけに落ち着いている。

 慣れているかのような落ち着きだ。


 そしてバーゼルの指示で村の家を一軒一軒調べた。


 依頼を始めてどのくらいの時間帯に起こったことなのかは分からないが、もしかしたらまだ村にいるかもしれない。



 一軒一軒隅なく探していき、分かったのは村の全員が村長と同じ状態である事だけだった。


 あと見ていないのは教会だけ。


 四人は教会へ向かった。



---



 教会の周りにも人はいなかった。

 四人は扉を開け、そのまま中へ入った。


 協会の中はかなり暗かったが、唯一差し込む沈みかけの夕陽が部屋を照らしていた。


 協会の中には人影が四人。


 一番前の席に並んで座っているギム、ビー、リネーナの後ろ姿。

 そして、壇上の前で一人祈るような形で立っているシスターの後ろ姿。


「シスター!ギム!ビー!リネーナ!」


 アルスはすぐに駆け出した。


 だが、


「待てッ!!!近づくな!!!」


 バーゼルの叫び声に足を止めた。


「何でだよ!」


 そう振り返ると、バーゼルはアルスの奥にいる人物を睨みつけるようにして見下ろしていた。


「そいつには絶対に近づくな」

「そいつって誰を……」


 言いかけてすぐに壇上前に立つシスターのことだと気づいた。


 そして、アルスにはそれが理解出来なかった。


 シスターには近づいてはいけない。なぜ?

 何がダメなのだ。

 彼女らの状態を早く見てやらないといけない。


 心配と混乱がアルスの頭をかき乱す。


 次第に焦りは憤りを感じ、バーゼルに向かって叫ぼうとした時、笑い声が聞こえた。


「フフフフッ……」


 それは部屋中に響き渡ったが、どこから発せられたものかはすぐにわかった。


 アルスは聞き間違いかと前を向いた。


「フフフフッ………ハハハハッ………」


 『嗤い』は止まることなく響く。


「ハハハハッ………アハハハハッ………!」


 その不気味な笑い声は徐々に大きくなっていく。

 まるで何かを嘲笑っているように。


「アハハハハハハッ!!アハハハハハハハハハハッ!!!」

「シスター?」


 アルスがその声に首を傾げながら呟くと、不気味なその笑い声はピタリと止んだ。


 そしてシスターは祈っていた手を組んだまま下ろし、ゆっくりこちらを振り返った。


 その顔は間違いなくシスターだった。

 だが、まるで別人のような顔に見えた。


「あら、いたのですか……」


 シスターの元気な明るさは一切なく、表情も声も全てが暗い。

 半目に開かれたその目に一切光が見えない。


 アルスは困惑する。


 誰だアレは……。

 いや、シスターだ。

 顔を見ればわかる。

 だが、アレは本当にシスターなのか?

 俺の知ってる――


「『俺の知ってるシスターではない』ですか?」

「!?」


 アルスの考えていることを読み上げるようにシスターが呟く。


「フフフッ………益々愚かですね、地底のネズミ共。大人しく地中に埋まってればよいものを」


 憎しみの詰まった言葉だと分かった。


 アルスはその言葉を聞いて、瞬時にこれらの全てはシスターがやったのだと理解した。


「やっぱりお前か。この村の人間に『呪い』をかけたのは」

「えぇ、そうです。やはりあなたは最初から気づいていましたか。――『死神』」


 意味深な言葉が呟かれた。

 バーゼルは眉がピクリと動くも質問続ける。


「……大体検討はついているが一応聞いてやる。何が目的だ?」

「目的?うーん………役目を終えたので、今度は『供物』になってもらおうかと」

「供物?」


 なんの話しをしているんだ?

 シスターが『呪い』を?

『死神』ってなんだ。

 役目?

『供物』?


 言葉が頭の中で飛び交う。


「えぇ、本来は必要なかったのですが『あの方』のご命令をいただきましたので」


 シスターのその言葉と同時に壇上の左手の扉から一人の男が歩いてきた。


 見覚えのある聖職服。


 ――司祭だ。


 司祭はシスターの隣に立ち、何も言わずに目を見開きこちらをじっと見てくる。


 その様子はさっき見たあの魔獣と酷似していた。


 アルスたちは顔をしかめる。


「アレ………司祭じゃない」

「あの目、表情、まさか………!」

森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)……!!!」

「あら、よく気づきましたね。勘はいい方なんでしょうか?」


 興味深そうにアルスたちを見る。


森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)がなんでここにいるんだよ!」

「さっきの奴!?」

「じゃあ本物は……」


 三人がそう呟いたのを聞いてシスターはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「……」

「フフフッ……本物?本物って誰のことです?」

「………は?」

「まるで本物を見た事があるような口振りをしていますが」


 本物を見た事があるような口振り?

 

「コレは昔、とある旅する商人たちに魔獣を襲わせた際に偶然彼らを助けた冒険者を模したものですよ。勇敢ではありましたが到着が遅く、助かったのは子供三人だけでしたがね。

 私は彼から子供を預かりましたが、私だけで面倒を見るのはさすがに困ります。ですので、入れ替わってもらって、ついでにそれっぽい役職もつけたんです」


 懐かしそうに話すシスター。

 それに対して冷たい目線を送るバーゼル。


「入れ替わったって、何が……」

「……その冒険者を殺して、森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)に擬態させ続けてたってことだ」

「……は?」


 言ってる意味が分からない。

 なぜそんなことを……。


「えぇ、当然じゃないですか!だって同じ人は二人も要らないでしょう?」


 当然のように殺しを認めた。


 フェンリルとアイビスは一気に警戒を強める。

 だが、アルスだけはそれどころではなかった。


 アルスは口をワナワナさせながら声を絞り出した。


「………おい、お前がさっき言った助かった子供って……」

「あら、気づきました? そうですよ。ここに座る、可愛い子供たちです」


 シスターは三人の頭を撫でながら不気味な笑みを向ける。


「えっ、じゃあその子たちの親を殺したのって……!」


 アルスは自分の中で怒りが湧いてくるのがわかった。


「違いますよ?私は指示したのであって殺したのは」

「お前が殺したんだろッ!!!!」


 アルスの怒声が教会中に響き渡った。


 許せない。

 私欲がために人の命を奪うこと、それを認めないこと、今まで平気な顔で過ごしていたこと。

 その全てが許せない。


 生まれて初めて本能が存在そのものの否定を促す。


「なんで殺したッ!!!?何のためにッ!!!」


 怒るアルス。

 シスターは俯く。


「何のため?そんなの決まっているじゃないですか。『あの方』がそうお望みになられたからに!!!」


 顔を上げ、声を大きく響かせる。


「さっきからあの方あの方って……あの方って誰だよッ!!!」


 その問いかけにシスターは紅潮した頬を両手で抑え、興奮した様子で上を見上げながら叫ぶ。


「フフフフッ……あの方は偉大で清廉で推敲で聡明深き方!真の神とはあの方のことを指す!

 そんなあの方は私に命令をくださる!

 あの方が私を必要としてくださる!

 私を求めてくださる!それだけで私は今日も生きる意味がある!!!!

 ああああああああッ!!あああああああああああああッ!!!あああああああああああああああああああああッ!!!!!」


 鼻息も荒く、焦点の合わない目で体をうねらせている。


 純粋な悪意に満ちたそれは、三人を恐怖で固まらせた。


 アルスにとっては悪意を向けられるのは初めてではない。

 一度命を狙われたことがある。


 だが、今回はそれとはまた別の悪意。

 感じたことのない()()だ。


 命の危機は感じないが、あの狂気には絶対に触れてはならないと、体がそう言っている。


 そんな中、バーゼルだけは変わらずシスターを睨みつけている。


「あーあーうるせぇよこのイカレアマ!やった事の落とし前はつけてもらうぞ」


 バーゼルの言葉にシスターは興が冷めたかのように静かになり、また冷たい声で続ける。


「怖いですねぇ。でも、それは叶いませんよ?そのための供物ですから」


 そう言うとシスターの隣で動かなかった森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)がゆっくりと動きだした。


「村の人間の全ての " 魔力 " と " 記憶 " をこの器に移しました。多少は楽しんでくださいね?『死神』さん」


 次の瞬間、森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)の体が奇妙な音を立てて膨れ出した。


 それは瞬く間に肥大化し、あっという間に四倍ほどの大きさになった。

 顔も司祭の顔ではなく、ぐちゃぐちゃになった気味の悪い顔へと変貌した。


「な!?なんだコイツ!!!」

「どうなってるのよ!」

「アルス!危険だ!下がって!」


 慌てる三人。

 そんな彼らを尻目にバーゼルは小さくため息をこぼした。


「――舐められたもんだな」


 片手を上げ、同時に黒いモヤが腕にまとわりついた。


 そしてアルスがフェンリルたちの元へと駆け出そうとした時、既に事が終わっていた。


 駆け出して直ぐにフェンリルたちの顔が驚いた表情になるのを見て、アルスは後ろを振り返った。


 そこには身体中に穴が空けられた森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)がただ突っ立っていた。


 !? 何が……起こったんだ?


 森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)も自分の落ちた腕や身体に空いた穴を見て首を傾げている。


 しかし、それらを理解する猶予はなく、森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)は足元にある影から出てきた手に足を掴まれた。

 それは複数本現れ、森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)の身体中を掴み影へと引きずり込み出した。


  " ア゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!! "


 必死の抵抗も虚しく、森の彷徨い人(ヴァルトヴォンデラー)はそのまま影へと引きずり込まれた。


「お前はただ操られただけの魔獣のようだが、それでもお前自身何人も人を殺してるな。お前の主を捕まえるまで、お前を代わりに閉じ込めておく。何も無い、動くことも喋ることも考えることも出来ない、ただひたすら生かされるだけの虚空の空間にな。」


 あまりの一瞬の出来事に三人は圧倒される。


 しかし、アルスはすぐにシスターのことを思い出し、振り返る。


 だが、シスターの姿はどこにもなかった。


 あるのは開けっ放しにされた窓だけだった。


 逃げられたことを理解し、アルスはやるせない気持ちが湧き上がる。


 しかし、気持ちを察してかバーゼルが肩に手を置いた。


「気持ちはわかるが、考えたところで仕方がねぇよ。もうこの村から出る。準備しろ」

「!! なんで!?ギムたちは!?」

「お前がいたところで仕方ねぇだろ。記憶はもう消されてんだ。起きる前に村を出る」

「でも、それだとまた村が襲われるんじゃ……」

「じゃあいつまでもこの村に留まんのか?またアイツが来るとも限らねぇんだ。それなら次の場所へ行って情報共有なり収集なりした方がこの先のためになる」


 バーゼルの言うことはごもっともだ。

 村の人たちがどこまでの記憶を消されているのかは分からないが、とにかく一緒にいるのは良くない気がする。

 そう思い、四人は子供たちを連れ、教会を出た。



 そして村長の家に行き、子供たちを預かってほしいと置き手紙に残し、子供たちを置いて四人はそのまま家を出た。


 バーゼル曰く、まだそこまで強くない『呪い』だったため、一日もすれば目を覚ますとのことらしい。



---



 何も言えず去るこの言い表せない気持ちを噛み締め、アルスたちは村を後にした。


 日は完全に落ちきっており、手に持つ小さなランプだけが暗い寂しい道を照らしていた。

♦ちょこっと(要らない)補足♦

シスターが叫んでいる時、実はあの時のシスターは軽くイッてるらしい。

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