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第二十三話「第一地上人発見」

 三人は湖から上がり、濡れた服を着替え、声をかけてきたニートと思しき人物について三人で話し合っていた。


「アレ、絶対『ニート』だよな?」

「えぇ、絶対そうよ!こんな昼間からお酒飲んで昼寝なんて『ニート』しかいないわ!」

「いや、『ニート』って決めつけるのは良くないんじゃ……。ただのバカンスをしに来た人ってことも有り得るし……」

「いや、アレは『ニート』よ!こんなしんどい思いしないと来れないようなところで何を楽しむのよ!」


 ヒソヒソ声で話す三人。

 だが、小声の会話も意味はなく――。


「ニートって………まぁ、そう見えるかもしんねぇけど。でも初対面の相手に対してニートって連呼するのは如何なものかねぇ。初対面の相手には礼儀を持って接しろって親に教えてもらわなかったか?」


 聞こえていたらしい。


 三人は怪訝な顔を浮かべる。


「『ニート』じゃないのか?」

「ほら!人を見た目で判断するのは良くないよ!」

「そんなことはないわよ!アレが『ニート』じゃないって言うならなんて言うのよ!」


 そう慌てるように呟くアイビスに対してアルスは考え込む。


「もしかしたら本当に『ニート』じゃないのかもしれないぞ?」

「? なんでよ?」

「『ニート』って言えば、数多くの職が世の中には溢れているのに、それらの一切に手をつけない " 猛者 " だろ?」

「そうね」

「そんな " 猛者 " が俺たちにとって最初に遭遇する地上人だった、なんてあまりにも奇跡としか言いようがねぇだろ?」

「………確かに」


 納得するアイビス。


『ニート』というのは彼らの言う通り職に手をつけない者のことを指す。


 それは世間から見るとかなり卑下される面が多くある。

 社会的地位の失墜や生活の困難など、様々な負の要因を生み出すそれは人々からは同情はされど、救いの手を差し伸べられることはほぼない。

 それだけ関わりたくないと思われる人種である。


 ――しかし、それは地上での話。


 地底で生きてきた、それもついこの間まで地底にいた彼らにとって『ニート』というのは地上人の認識と少し違う。


 地底はそもそもコミュニティ自体がそこまで大きくない。

 店が潰れることは滅多になく、いじめや惰性で働きたくない者はいたが狭いコミュニティ故に必ず何かしらの職を()()()()()()()()()


 誰かが必ず手を差し伸べてくれていたのだ。


 そんな彼らにとって『ニート』というものの認識は職業が数多くあるのに対し、何一つとして職を手につけずとも己の力だけで生きていくことが出来ると振り切った者。

 いわば " 猛者 " である。


 ――他人の介入を一切許さい孤高の存在。


 彼らの目にはそう写っている。


 だから彼らは決して彼を馬鹿にしているのではない。

 敬意に近い感覚だ。


 三人の会話を聞き、自分の解釈と違っていることに気づき出したその人物は物言いたげな顔で、口をへの字に曲げる。


「……ところでお前ら、こんなところで何してるんだ?」


 ニートのくだりを避け、三人に質問を投げかける。


「俺たちは旅をしてんだ!」


 男は座った目で三人を観察する。


「……へぇ、旅ねぇ。ガキ三人でか?大層なこった。だが、ここはガキが来るようなところじゃねぇぞ?下手したら死んじまうぜ?お前ら、どっから来た?」

「俺たちは地底から来たんだ!」

「!!?」

「地底人……」


 フェンリルが咄嗟にアルスの口を覆う。


「んんっ!ぷはぁ!何すんだよ!」

「何すんだよじゃないよ!なんでそうベラベラと喋っちゃうの!?」

「え?」

「フィーネス先生が言ってたでしょ?!地底人にとって地上人は必ずしも味方であるとは限らないって!忘れたの!?」


 あっ、そう言えばそんなこと言ってたような……。


「もし地上人にとって地底人が敵だという認識なら、どうなるか分かるよね?こっちは三人だけど今の僕たちじゃ何も出来ないよ」


 アルスは今更とんでもない失態を犯したことに気づく。

 三人は警戒の眼差しを男へ向ける。


 もちろん男はその会話も聞こえており、両手を上げて無害を示す。


「言いたいことは分かるが、その心配は必要ないぜ?地上人にとって地底人は敵じゃねぇ。味方だ。なんなら味方でいてもらわなくちゃ困るんだよ。」

「………困る?」


 フェンリルが怪訝な表情を浮かべる。


「まぁ細かいところはいいだろ。俺はお前たちの敵じゃない。」

「………」


 三人は顔を見合す。


 信じていいのかは分からない。

 だがもしアイツが嘘をついていて俺たちの敵だったならばもうすでに遅い。

 対抗する術がないんだ。

 迷っていたところで意味はないだろ。


 アルスが地底から持ってきた地図を取り出しヒラヒラと示す。


「なぁ、ここってギアナ砂漠ってとこなんだろ?ここから一番近い村ってどこなんだ?」


 男はアルスたちが来た方角より90度東を指差し、


「ここから真っ直ぐ行けば二日ほどで『レーデ村』ってとこに着く。そこが一番近い村だ。」


 ほう、レーデ村。


 この男の言ってることが合ってるかどうかは分からないが、とりあえず村はある。

 そう思っておこう。


 だが、村があるにしてもどうやって辿り着くか。

 結局、戦えないことには変わりないしそうやって魔獣を避け続けてたらまた場所を見失いかねない。


 それに腹も……。


 なんて考えていると、どこからか腹の音が鳴った。


 ん?誰……あぁ、アイビスか。

 めちゃくちゃイライラしてるわ。


「ねぇ!アンタ!なんか食べる物寄越しなさい!お腹が空いて死にそうなの!」


 なんとまぁ図々しい。


「あぁ?なんで俺がお前らに食料を分け与えなきゃなんねぇんだよ。自分でなんとかしてこい!」


 まぁそりゃそうだよな。

 初対面の人間に食料を強請るのはさすがにないぜアイビス。


 冷たく一蹴され、アイビスが吠える。


「誰に指図してんのよ!!!」


 アイビスは男がハンモックをかけている木を思いっきり揺らす。


「こっちは地上に出てからまともに魔法も使えないのよ!!?狩りも出来ずに何食べろって言うのよ!!!そんな子供をアンタ見捨てるわけ!!?はぁ!!?有り得ないんですけど!!!良心と痛まないわけ!!?人の心とかないのかしら!!?私なら助けてあげるけどね!!!でも食べ物くれないなら私はアンタが困ってても絶対に助けてあげないから!!!この人でなし!!!クズ!!!ボロコート!!!」


 そんなに太くないせいか、アイビスの力でも木はブンブンと揺れる。


「ちょ、ちょっとアイビス!」


 フェンリルがアイビスを止めに入るも、アイビスの揺らし攻撃にその男が音を上げる。


「だぁー!!!分かった!分かったからやめろ!これやるから揺らすな!」


 上から布に包まれたものが落とされた。


 アイビスが一目散に拾いに行き布を広げる。


 中には砂漠にあるのか疑問に思う木の実が入っていた。


 それを三人ともこぞってつまみ食い。


 腹が減っていたのはアイビスだけじゃない。

 アルスとフェンリルも我慢してたのだ。


 秒で全てを食いつくしてしまった。


「ねぇ!他にはないの?」

「無ぇよ!持ち分はお前らが食ったそれで最後だ!」


 さすがに男もイラついているようだ。


「やっぱりニートって何も持ってないのね」

「しばくぞクソガキ」



---



 雑談を交わすようになり、三人の間ではとりあえず悪い人ではないという結論が出た。


 見ず知らずの子供に食料を分け与えてくれたのだ。

 それでも疑うはバチが当たるってもんだ。


「で、体が重い、息もしづらい、おまけに魔法も使えなけりゃ身体能力も大幅に低下した……。だから狩りもろくに出来ずに途方に暮れてたと」

「そうなんだよ!これどうにかならねぇか?もうこのままじゃ旅なんて出来ねぇよ」

「ふーん。まぁ、そりゃあそうだろうな。お前らの中に流れている魔力が地上に適応出来てねぇんだから。」

「魔力が……地上に適応してない?」


 三人は眉間に皺を寄せて首を傾げる。


「それって、どういうことです?」

「魔法ってのは体内にある魔力と空気中の魔力が互いに影響し合って発動するもんだ。だが、地底と地上じゃそもそも空気が違う。空気中にある魔力量も魔力の質も段違いの差がある。

 お前らの体の中にあるのは地底の魔力。地上で魔法を使おうとしても魔力が反応しねぇんだよ。」


 そもそも地底にはどうやって人間が魔力を蓄え、魔法が使えるのか解明されていない。

 核心に近づいた者はいたそうだが、そこまで。


 はっきりとした理由が分からないまま地底人は魔法を使っていたのだ。


「と言うことは、体の重みも息苦しさも全て地上の魔力が影響しているってことですか?」

「まぁ、大体そうだろう。陸に魚を放り出すようなもんだからな。」


「なるほど」と呟きながらブツブツ独り言を始めるフェンリル。

 それを聞いて今度はアイビス訝しげな表情をする。


「ねぇ、それって元に戻るの?」

「多分な。お前ら地上に来てまだ日も浅いだろ」

「そうですね。まだ一週間って言ったところですかね。」

「じゃあそのうち元に戻るだろ。お前らの前に地上に来た奴は一ヶ月もしないうちにピンピンしてたがな」

「僕たちの前に来た人物?それは小さい女の子ですか?」

「いいや。男だったぜ?数十年前にお前らと同じくらいの歳のガキが一人で来たんだ。うるさかったが目は真っ直ぐした奴だった」


 懐かしむような目でアルスを見る。


「?」


 何?なんかついてる?


「数十年前……。彼女じゃないのか……」


 彼女というのはおそらく、俺たちより前に神隠しに会ったアイビスの知り合いのことだろう。


「……そう。とりあえず、日が経てば元通りになるのね?」

「あぁ……」


 アイビスは彼女のことを気にしてないのか、気にしてない素振りをしているのかは分からないが、魔法が使えることに対するであろう安堵の表情を浮かべている。


 まぁ日が経てば元に戻るならそれはそれでいいんだけど、それまでどうやって生き抜くか。

 そこを解決しないことにはどうしようもないんだよなぁ。


 あっ、そうだ!


「なぁ!お前、俺らの旅についてきてくれよ!」

「え!!?ちょ、ちょっと」

「見ての通り俺たち自力で狩りが出来ねぇんだ。それまで旅についてきてくんねぇかな?俺らが自力で狩りとか出来るようになるまででいいから!頼む!」

「い、いやいや、さすがにそこまでしてもらう義理はないよアルス。」

「いいや!ついてきなさい!私の代わりに魔獣を狩りなさい!」


 なんともいえ図々しいお願いにフェンリルは心做しか顔が引き攣る。


 本来ならば受け入れてくれるはずもないだろう。

 見ず知らずの子供に食料を分け与えた上に旅に同行して護衛兼お世話までしなければならないなんてとんでもない善人でない限り引き受けない。


 だが、その男は違った。


 男は嫌そうな顔をしながら


「わかった……」


 と受け入れた。


 まるで誰かに命令されているかのような感じだ。


「えぇ!!?いいんですか!!?」

「……まぁな。頼まれちゃ仕方ない」


 本当にいいのだろうかと困惑するフェンリル。


 おぉ!ありがたい!

 本当に来てくれるとは思ってなかったが来てくれるなら当分は安全に旅が出来るな。


「ありがとな!じゃあもうちょっと休憩してからそのレゲエ村ってとこに行こう!」

「『レーデ村』ね。」


 男はため息をつきながらも横になる。


「あぁ、めんどくせぇ。ちょっと寝るから。俺が起きたら出発するからそれまで準備しとけよ」

「分かったわ!」

「あ、ありがとうございます」


 そう言って今度こそちゃんと睡眠を取れると寝転んだ男にアルスは最後の質問をした。


「なぁ、聞き忘れてたんだけどさ、アンタ名前なんて言うんだ?」


 そう聞いたアルスに男はため息混じりに呟いた。


「………バーゼル」

「バーゼルか!俺はアルス!よろしくな!」


 バーゼルが護衛?として旅に同行することになった。

♦ちょこっと補足♦

バーゼルが最初に三人に注意した「服のまま入っては行けない」というルール。そんなルールは存在しない。

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