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第二十四話「レーデ村到着」

 オアシスを出て一日が過ぎ、四人は順調に歩みを進めていた。


 アルスたち三人の体は変わらずズッシリとした倦怠感を感じていたものの、バーゼルのおかげで魔獣が出て来た時も楽に進めるようになった。


 バーゼルはアルスの推測通り、かなり強かった。


 魔獣が現れると、見た事のない黒い魔法で一瞬にして魔獣の息の根を止めている。

 おそらくバーゼルの固有魔法なのだろう。


 固有魔法にも強い弱いと差はある。

 バーゼルの固有魔法はかなり強い方だろうが、何よりバーゼル自体ものすごく強い。


 魔獣が現れても一切視界に入れる素振りをしない。

 見てすらいないのに、魔獣の気配を感じ取り一撃で仕留めている。


 おかげで三人はほぼ何もせず進めている。


 初めて見る固有魔法にアイビスは目を光らせていた。


「ねぇ!その固有魔法どうやってやってるの!?教えなさいよ!!」

「だからぁ!おいそれと教えていいもんじゃねぇの!あと固有魔法って言い方は古いって言ってんだろ?」


 バーゼル曰く、固有魔法と言う言い方はどうやら古いらしい。

 何せその言い方は千年以上前の呼び方だそうだ。


 今は固有魔法のことを『特一魔術』と言い、それを使える者も極わずかなのだとか。


「いいじゃない!教えなさいよ!」

「やなこった!どうしても聞きたいのなら金でも積み上げて来い!」


 頑なに答えようとしないバーゼルにアイビスは顔を赤くして地団駄を踏む。


「いいじゃねぇかよ教えてくれたって!っていうか、バーゼルお前さっきから隠し事ばっかじゃねぇか!仲間なんだからもっと色んなこと教えてくれよ!」

「誰が仲間だ!こちとら昨日初めて会ったガキの世話をやらされてんだ!なんで俺がこんな面倒な事しなきゃなんねぇんだ〜ちくしょう!ガキの世話は嫌いなんだよ」


 そうぼやきながら面倒な顔で先頭を歩く。


 引き受けたのはお前だろ。


「無理言ったのは僕たちですけど、もう少し心を開いて欲しいかなって僕も思います。さっきからずっと僕が聞いてる質問にも答えて欲しいです」


 フェンリルはさっきからずっと、バーゼルがオアシスで話していた数十年前の地底人のことが気になっているらしく、何度も同じ質問をしている。


 だが、バーゼルの答えは決まって


「だから、それはそのうち分かるって言ってんだろ?お前らはこの先嫌でも知らなきゃならなくなるんだからよぉ」


 と返してくる。


 こちら側に対する質問に対して極端に答えないバーゼル。


 心を開いてくれていないだけなのか、何か別の理由があるのか。


 ただ、アルスの目にはシンプルに説明が面倒くさくて答えないだけにも見えるが。


 しかし、そんなバーゼルだが何も教えてくれないわけではない。


 旅をする際の基本の行動やら地上にある危険な物やらのことは色々教えてくれる。


 生きていくための知識はちゃんと教えてくれている。


 そうこうしているうちに小さく村が見えてきた。


「おい、アレだ。アレが最寄りの村、『レーデ村』だ」


 真っ直ぐ前を指差すバーゼルにつられ、顔が下がっていた三人が同時に顔を上げる。


 そしてその指の先には変わらず続く一面の砂。

 ではなく、一箇所だけ鬱蒼と緑が生い茂っている。


 アルスは目を凝らす。


「? なんだアレ?アレが言ってた村か?」

「……そう……みたいだね」

「びっくりするだろ?砂しかないこの場所にこんなにも緑が生い茂る場所があるなんて。っていうか植物が育つとも思わねぇわなぁ」

「村よ!やっと着いたわ!」


 そうはしゃぎながら走り出すアイビス。


「あっ、コラ待てガキんちょ!突っ走ると危ねぇだろ!」


 ん〜?なんか……変な感じがするな。


 そう思いながらも後について行った。



---



 緑が生い茂る場所はやはり何か異様だった。


 砂漠の中にあるそれは、徐々に緑が生い茂っているわけではなく、ある境目からいきなり緑が生い茂っている。

 あまりにも境界線がはっきりしすぎている。


 アルスたちはその境界線に対してまた首を傾げるも、先行してスタスタと歩いていくバーゼルに着いて行く。



 徐々に進むに連れ、その異様さは明確になった。


 太陽をも隠すほどの背丈の長い木々が所狭しと並べられ、まっすぐとした何も無い道だけが続いている。


 魔獣は見え隠れしているものの、襲っては来ない。


 それだけでない。

 気温と湿度も変わった。


 さっきまでは暑い日差しに乾燥した空気に覆われていたが、今はかなり涼しく、空気も若干湿気ている。


 先程の過酷な砂漠にある場所とは思えない程だ。


 だが人が住みやすいと言えるこの環境の中で、魔獣は見えれど人の姿は全く見られない。


 本当にこんなところに村があるのかと周囲をキョロキョロしながら進む三人にバーゼルが呟く。


「ここはちょっと変わった場所でなぁ、砂漠地帯に存在する()()()()()だ。」

「北大地って、ここから真上に上がったところにある場所ですよね?それも大陸を跨いで」

「なんでそんなのがこんなところにあるんだよ」

「………さぁ?俺もよく知らねぇ。ただまぁ、俺たち地上人からすれば色々気味悪がられている場所ではあるな。色々変わった村だし。まぁでも、お前らの知識だとそれなりには()()んじゃねぇの?」


 最後にボソッと呟いたバーゼルの言葉にアルスは眉を顰める。


 ? 俺らの知識だと合うって言ったか?

 ただでさえ地上人が気味悪がる場所を俺らが合うわけねぇだろ。

 俺たちだって地上人と同じことを思ってんだぞ?


 こんな砂漠の中にでっかい森があったら誰でも気味悪がるだろ。


 実際に中に入って変な寒気がするし、人は誰もいないし。

 地上には色んな景色があるとは思ってたけどこうも極端な景色やら歪な景色を見せられたらなんか…………ん?


 この森のことを色々と考えていた時、ふと何かを感じ、後ろを振り返った。


 だが、後ろには何もない。

 歩いてきた道が伸びてるだけだ。


 首を傾げる。


 ? なんだ?

 今さっき何か視線が………。


「何止まってんのよ?行くわよ!」

「………あぁ、悪ぃ悪ぃ」


 妙だなと思いつつも、アイビスに急かされそのまままた歩き出した。



---



 少し歩いたところで村の入口が見えてきた。


「見て!アレじゃない!?」


 アイビスが指を差す。


 その指の先には柵や塀があるわけではなく、ただ、『レーデ村』と書かれた門が一つあるだけだった。


 四人はそのまま門を通り抜け、村へ入った。


 村には一軒家が立ち並び、畑や遊び場のようなものが沢山ある。


 アルスたちは入ってすぐにぐるっと村を見回した。


「これが地上の村かぁ」

「なんか新鮮ね」

「そうだね。でも建物とか景色とかは地上特有のものだけど、なんというか、ある物で言うならそこまで地底と変わったところはないように見えるね」


 アルスたちの村にも畑や遊び場はあった。

 そういうところで言うならそこまで違いは見えないが。


「馬鹿言え。村にあるのが畑と家だけなわけねぇだろ」


 そう言いながらバーゼルが左の方を指差した。


 その方向には何も無く、ただ広い敷地を柵で囲まれてあるだけ。


「? 何もねぇけど?」

「よく見とけ」


 そう言いながら、バーゼルはピーっと唇を鳴らした。


 すると奥の方から何やら黒いものがこちらへ近付いて来た。


 魔獣が来たのかと身構えたが、それは近くに来てすぐに分かった。


 黒い体にピンク色の斑点。

 丸いフォルムに泣け無しの小さな角。


 おそらくこれは、地上世界で言うところの『動物』というものだろう。


「可愛いぃーー!!!」


 アイビスが分かりやすく目をハートにさせてしゃがみ込んだ。


「何だこれ?」

「そいつは『ブルピッグ』っていう魔獣の一種だ」

「魔獣なんですか?」

「あぁ、魔獣だ。こういう従順で飼いやすい魔獣のことを一部の愛好家たちは『動物』って読んでるらしいが、こいつも列記とした魔獣だ」

「え?そうなの?」


 ってことは、『動物』って生き物はいなくて、実は魔獣だったってことか?

 マジで?

 地底の本とかにも色々出てくるからそういう生き物がいるんだとばかり思ってた。


「じゃあこの柵の中に魔獣がいるってことはこの魔獣は家畜で、ここは牧場と言ったところですか」

「そういうこった。他にも協会や冒険者ギルドとか色々ある」

「冒険者ギルド!早く行こうぜ!」

「………後でな」


 四人は歩き出す。


「後でって、これからどこか行くんですか?」

「どこ行くも何も、お前らこの村のどこにギルドがあるのか知らねぇだろ?それを聞きに行くんだよ」

「聞きに行くって、バーゼルが教えてくれたらいいじゃねぇか。この村のこと知ってんだろ?」

「あぁ、知ってるさ。だがな、この先はお前らだけで生きて行くんだ。ものの聞き方すら上手く出来ないようじゃこの先、生きて行けねぇぞ〜。言っとくが、お前らの常識と地上の常識、どこまで違うか自分たちで体験した方が早い」


 ほぅ、確かにそれはそうだな。

 手間だがやる価値はあるだろう。


 ていうか、ちゃんと俺たちのこと考えてくれてんじゃん。

 ツンデレかよ〜。


 まぁ、舐めてもらっちゃ困る。

 俺たちとて何も出来ないわけじゃない。

 道を聞くくらい造作もないことだ。


「なんだそんなことかよ。余裕余裕!聞き込みぐらい出来るって!」


 だが、アルスのそのフラグを立てるような言葉はすぐに回収されることになる。



 今四人がいる場所はおそらく村の中心あたりなのだが、今のところ誰一人として人間を見かけない。


 人がいないわけではなさそうなのだ。

 生活音はするし、窓の方からこちらを伺うような影も見える。


 ただ警戒して出てこないと言ったところか。


 誰にも会うことが叶わず聞くことも出来ない。

 そんなアルスの様子を見て、バーゼルがからかうような笑みを浮かべる。


「ほれ見ろ!聞き込み一つ出来てねぇじゃねぇか!ハハハッ!!!」

「うるせぇ!仕方ねぇだろ!聞き込みしたくても人が居ねぇんだよ!これじゃあ出来るもんも出来ねぇだろ!」


 顔を赤くして叫び散らすアルス。


「てか、地上人は地底人と友好的じゃねぇのかよ!ジロジロ見て出てくる気配すらねぇじゃねぇか!」

「バカが。地上人も地底人も見た目が変わらねぇのにどうやって外見だけで判別すんだよ。この村の人間はお前らが地底人だから警戒してるんじゃねぇ。村の外の人間だから警戒してんのさ。」

「はぁ〜!!?じゃあ地底人とか全く関係ねぇじゃねぇか!」

「なんでこんなにも警戒してるんだろう?」

「この村の人間は臆病なのよ!」


 そんな会話をしていると少し大きな建物が現れた。


 他の家とは少し違う感じで、屋根の上に十字架のようなものが見える。


 そしてよく見ると、その建物の前に人がいるのが見えた。


「おっ!アレ、人だろ!やっと見つけた!」

「ほんとだ!あの人に聞いてみようか」

「これだけ歩いて人一人しかいない出歩かないってどうなってんのよ!」

「……この村の人間は何かと警戒心が強いんだよ」


 その人物は丈の長い黒い服に身を包み、頭にもベールのよう黒い布が覆いかぶさっている。


 ほうきを持っている様子からして掃除中なのだろう。


 アルスはその人物の装いを見て、驚愕を受けたような表情で声を上げた。


「!!!? あ、アレは!!!あの服装!あの立ち振る舞い!そしてあのおっぱい!間違いない!アレはこの村のシスターだ!!!」


 アルスの目には毅然とした振る舞いで掃除に励む聖女の姿が写っていた。

 そんな女性を見かけたなら当然アルスの目は身体に行く。


 身体の線が分かりづらい服装であるのにも関わらず、少し大きめの胸と袖からチラチラと見える腕。

 腕の細さからして細身の女性であることが分かる。


 アルスは鼻息を荒くしてその女性(特に胸のあたり)を凝視する。


「おっ!当たり〜。おっぱいの一言が無けりゃあ満点やってたぜ〜」

「シスター……って確か聖職者のことだよね?人の傷を癒すっていう。すごいねアルス!よくそんなすぐに出てきたね」

「あぁ、フィーネスが言ってた『地上にいる!唆られれる女性ランキングトップ10!!』に入ってた」

「どこの馬鹿だよそんなこと教えたのは」

「キモっ」


 バーゼルとフェンリルからの呆れた視線とアイビスの軽蔑の視線を浴びつつも、アルスはその女性から目を離さない。

 かなり強い意思が見られる。


「まぁ、そんなことは置いといて、人を見つけれたから今度は聞き込みだね。行ってみようか」


 女性の近くまで移動する。


 そして、その女性はアルスに気づき、手を止めてキョトンとした顔で首を傾げる。


 アルスはそれを見た瞬間、手を挙げて後ろにいる三人を止まらせる。


「? アルス?」

「可憐なシスターに大勢で押しかけるのは良くない。ここは俺に任せておけ、フェンリル。俺が一人で聞いてくるから、お前たちはここで待っていろ」


 イケボ(※自認)を使い、(※アルスの目にしか見えない)花を振り撒きながら、アルスは女性と目を合し近づく。


 いいか?アルス。

 こういう時は男が相手に大人だなと感じさせるような振る舞いをすれば、会話の主導権は自ずと男のものになる。

 俺は確かにこのお姉さんより年下だし背も低い。

 今は彼女の目に写っているのは男と言うより坊ちゃんと言ったところだろう。

 となると、一番重要なのは第一声に何をどう言うかだ。

 会話の一言目は相手に与える印象に大きく関わる。

 言わばこの一言目で決まる!


 アルスは決心を決め、一歩前に出る。


 漢アルス、参ります。


「すみませんお姉さん、少しよろしいでしょうか?」

「はい!なんでしょう?」


 アルスの質問に笑顔で返す女性。


 決まったな。

 これは好印象だ。

 いや、もう既にゴールしたと言っても過言ではない。

 この優しい笑顔に頬の赤み、間違いないだろう。


 誰もが交わす会話をして、早くも勝利を確信したアルス。


 あとは冒険者ギルドの場所を聞いた後、こっそりまた会えるだろうと言った口説き文句を……ぬぅぅう!!?


 返答に対して言葉を返さないアルスに、女性がどうしたのかと首を傾げたその時だった。

 アルスの思考が止まった。


 脳内で勝利を確信し、詰めの一手を脳内で弾き出していた時に首を傾げた女性。


 その動作は少し大きめなアクションだったためだろうか。

 首を傾げると同時に身体も傾き、そのままドミノのように連なった振動により大きく揺れた胸をアルスの目は見逃さなかった。


 アルスは瞬きしかけた目を無理やりこじ開け、胸を血走った目で凝視する。


「あ、あのー……」


 困惑した女性の声でアルスは我に返る。


 大きく深呼吸をしながら天を見上げる。


 落ち着けアルス(おっぱい揺れた)。

 ここで取り乱しては(おっぱい揺れたよな?)まだまだケツの青いガキと同じだ。

 さっきかなり動揺して(あの揺れ方はまさか……)しまったが、まだ大丈夫だ(何も着けてない!!?)。

 ここは少し咳払いを入れつつ(いや、でも神聖なシスターともあろう方が着けてないわけ……)、世間話の一つでも入れよう。

 やはりハプニングにこそ(やべぇな、とんでもねぇぞ)会話は大事だ。

 まずは(あれは間違いなく凶器だ)にっこり笑顔からだ。


「すみません、最近寝不足でぼーっとしやすくて、、(もう一回見てみたいな)」

「そうなんですね。確かに私も寝不足だとぼーっとしやすくなるんです。冒険者の方だと比較的慣れているらしいのですが、もしかして旅人の方ですか?」

「えぇ、そうなんです。始めたばかりで慣れなくて、、(この可愛さにそのおっぱいは反則だな。動揺したのも俺がゴールまで辿り着いたのに対して明らかな相手のファウルのせいだ。問題ない。次は見切ってみせる)」


 ワンクッション会話を入れたあと、アルスが一瞬間を空けた。


 あの破壊力のせいで次に会えるだろう云々の一言は出そうにないな。

 いや、大丈夫だ。

 冒険者ギルドの場所さえ聞けたらそれでいいんだ。


 そして最後に質問をしようとした時、また女性の体が揺れた。


 同時に大きく揺れる胸に目が釘付けになりながらも、アルスの「質問をする」という意思により口だけははっきりと動いた。

 いや、()()()()()()()


「あのすみません、おっぱいに顔埋めてもいいですか?(冒険者ギルドは何処にありますか?)」

「…………え?」

「………あっ……」


 一瞬女性の動きが止まったが、何を聞かれたかすぐに理解したのだろう。


「キャアアアーーーッ!!!」

「ぶふっ!」


 胸を押え、悲鳴を上げながらの大振りのビンタは綺麗にアルスの左頬を捉え、アルスの体を宙に浮かした。


 あぁ、しくじっちまった。

 嫌われちまったかなぁ。

 だけど、あの距離であの揺れを見れたんだ。

 悔いは無い。

 あとは任せたぜ!

 フェンリル!アイビス!


 地面に落下すると同時にアルスの意識は遠のいて行った。


 変な方向に首が曲がった状態で白目を剥きながら地面に横たわるアルスを見下ろす三人。


「あ……アル……ス……」

「何やってんのコイツ」

「アホだな」


 足元に横たわるアルスの姿は今まで見てきた中で一番情けなかったとフェンリルとアイビスは答えた。

♦ちょこっと補足♦

アルスたちの世界にもちゃんと男女の下着はある。色も種類も多様なため、ゴリゴリの勝負下着を持っている人もかなりいる。

ただ、下着類は価値が高いため、小さい村ではボロい布を下着代わりにするそう。

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