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第二十話「真実」

 ――翌日、三人は学校に呼び出されていた。


 いつものように和気藹々とした教室に、と言いたいところだが、学校は現在休校中。


 理由は言わずもがな三人が神隠しに会ったため。


 教師以外誰もいない学校に三人だけ呼び出された理由は昨日のことを聞くためだろう。


 神隠しに会った者が帰ってくること自体、歴史上でもほとんど実例がない。

 奇跡と言ってもいいのだ。


 ただ、三人からすればアレを神隠しと呼べるのかどうかは分からないが。


 三人はフィーネス本人に呼び出されたため、誰もいない教室で彼が来るのを待っていた。


 フィーネスもアルスたちの行方不明のことで何やら色々と忙しくしているようだ。


 アルスたちは教卓の前の席にそれぞれ腰を掛けていた。


「二人とも調子はどう?昨日の疲れとか溜まっていない?平気?」

「えぇ、まぁいつも通りってとこかしら」

「俺もー」


 三人とも昨日のような疲れきった様子はなく、いつもの調子を取り戻していた。


「昨日も言ったけど、昨日のことは秘密だよ。何か聞かれても道に迷った、てことにね?」

「分かってるわ」

「………」


 少し心配そうに呟くフェンリル。

 もしフィーネスが本当に神隠しの犯人なら三人の身はどうなるか分からない。


 そう考えているのだろう。


 だが、アルスはそんな事には絶対にならないという信頼がある。

 昨日しっかり心の整理をつけたのだ。


 だから、アルスがとる行動はもう決まっている。



 しばらくして、フィーネスが教室へ入ってきた。


 フィーネスはアルスたちを険しい表情で見つつも、何も言わず教卓に着いた。


 アルスたちは全員表情を変えることなくフィーネスを見る。


 そしてフィーネスは意外にも落ち着いた声で話し出した。


「お前たち、試験のあの日、何があったんじゃ。」


 フェンリルがすかさず答えた。


「実習の試験を受けていたあの時、僕たちは北大大きな部屋(タンガ)の北部、グランドウルフの生息地にいました。そこで試験内容をこなそうとしていたのですが、うっかり大きな部屋(タンガ)の奥の方まで進んでしまい、道に迷ってしまったんです。僕たちも初めて行く場所でどこか分からず帰ってくるのにかなり苦労しました」


 まるで用意してたかのような言い分。


 アイビスは何かを言う素振りもなく、フィーネスと顔を合わせないように顔を背けていた。


 フィーネスはフェンリルのその言葉を聞いて、何も言わずじっと彼らの方を見る。


 フェンリルとアイビスの目にはその表情がどう写ったかは分からないが、アルスには何か言いたそうに見えた。

 いや、何かを言いたいと言うよりも、もう既に気づいているのだと確信した。


 アルスたちがどこに行って何を見たのかを。

 昨日帰ってきたあの時から気づいていたのだろう。


 そしてすぐに


「そうか。」


 と言い、黙り込んだ。


 フェンリルとアイビスはお互いに目を見合わせる。今の発言はフィーネスに嘘だとバレただろうかという考えでいっぱいなのだろう。


 アルスにも目線が飛んできたが、そんなことはどうでもよかった。


 目線を飛ばされようが今からする行動が変わることはないのだから。


「全く、お前らは……」


 フィーネスが何事も無かったかのようにいつもの説教に入ろうとした。

 だが、アルスはそれを遮るように呟いた。


「フィーネス、一つ質問いいか?」


 その言葉にフィーネスは少しムッとした顔をするも答える。


「………なんじゃ?」

「…………なんで、地上が今もあるんだ?」

「え!?」

「!!? ちょ、アルス!」


 打ち合わせとは真逆の行動をとるアルス。

 二人は動揺する。


 だがフィーネスは驚いた様子はなく、分かっていたかのように言葉を返す。


「やっぱり、見てしまったのか……」

「「!!!」」


 その言葉は自分があの場所を知っていることを裏付けるものだった。


「あぁ、見た。変わった遺跡(あの場所)も、月も、そしてフィーネスの家紋も。」


 フィーネスは遠い目をして、


「そうか」


 と呟いた。


 今フィーネスが何を思っているのかは分からないが、認めたということは神隠しの犯人もおそらくフィーネスで間違いないのだろう。


 アルスは複雑な気持ちがじんわりと胸に広がっていくのを感じる。


 もしかしたらとは思っていた。

 信じると言った手前そんなことを思ってしまっていたが、それでも、フィーネスなら何かしらの理由があるはずだ。

 少なくとも、その理由だけは知りたい。


 アルスは手に汗を握りながら


「理由、説明してくれよ」

「………そうじゃな」


 そう言って、フィーネスは懐から一冊の本を取りだした。


 三人はその本を受け取り、覗き込むように凝視する。


 タイトルは、


 『〜地上の帰還者による証言記録〜』


「何よこれ……」


 アイビスがそのタイトルを見て、しかめっ面をしながら呟く。


「それは今から約1000年前に地上から帰還した者が、地上について証言した内容が書かれておる。」


 地上についての証言………!

 って、1000年前って………よくそんな物が残ってたな……。


 三人は顔を見合せた後、恐る恐る本を開いた。


 本を開いた1ページ目に、大きな文字で


 『 Ⅰ . 偽りと真実の歴史』


 と書かれてあった。


 偽り……?……と…………真実の歴史……?


 三人は眉をひそめながらも今度は順調な手際で本をめくった。


 次のページには一枚の絵と大量の文字が並べられていた。


 三人はとりあえずその文章を読み始める。


『ここに書かれているのは地上から帰ってきた者による地底の歴史の嘘と真実の証言である。

 まず、歴史上において、約2000年前に起こった大戦により、人類は敗北した。その結果、地上で暮らしていた人類は地底へと追いやられ、地上は消えてなくなってしまった。

 これは地底世界の重要な歴史として教えられてきたが、実は()である。実際は違う。

 実際は、人類は大戦に負けて、地底へ追いやられたのではなく、地底に()()()()()()()()()のだ。

 ()()の下で力を発揮出来ぬようにと。光を見ることなく生涯を終えるようにと。

 敵の思う通りに幽閉されてしまった。人類は手も足も出ない状況でただ指を加えることしか出来なかった。

 唯一幸いだったのが、幽閉されたのが大戦に参加していた者だけだったこと。そのため、滅んだと思われていた地上は今も尚存続しており、敵の被害を受けていないとされている。

 それが地底人が地底で暮らす本当の理由であり、今の地上の現状であると、帰還者は語る。』


 アルスは区切りのいい所で目を離す。


 随分と浅い文章だな。

 1000年前は言語とか今に比べて拙かったんだろうか。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。


 えーっと、………つまり、俺たちが知っている歴史は嘘で、地上にはまだまだ人がいて、何の被害もなく生活が出来る状態なのに、俺たち地底人は約2000年もの間幽閉され続けているってことか。

 ………?

 なんでだ?


 フェンリルも読み終わったのかフィーネスに質問する。


「先生、これは本当なんですか?」

「………あぁ、そうじゃ。」


 フェンリルはその言葉に顔を曇らせる。


「………では、ここに書かれていることが本当なら、色々と矛盾があるのではないですか?」


 そう言ってフェンリルは本の該当する文章を指で抑えた。


「僕たち地底人は約2000年もの間、この場所に幽閉されているって書いてありますが、地上は存続していて何の被害もなく暮らせているって書いてますよね?」

「あぁ……」

「地上がそんな状態ならなんで外に出ないのですか?」


 地上が何の被害もなく暮らせるなら外に出れば今よりも随分と楽な生活が出来るはずだ。


 地上が学校で教えてもらった通りの場所なら、絶対に地上へ出るべきだ。

 わざわざここに留まる理由もないだろ。


 だが、フィーネスは変わらず表情を曇らせたまま低い声で答えた。


「さっきから何度も言っておるじゃろ。(わし)ら地底人はこの場所に、()()()()()()()んじゃと。」

「?……………あっ………」


 言葉の意味を理解したのかフェンリルが声を漏らした。


「出たくとも、そもそも出られんのじゃ。この『呪い』がある限り。」


 そう言ってフィーネスは窓の外を見た。


 出たくとも出られない。

 幽閉されている…………ん?呪い?


「呪い?」

「………そうじゃ、『呪い』じゃ。」


 三人は思わず顔を見合せる。

 そして頭を下げて小さい声で


「何、呪いって。呪われるとかの呪い?迷信すぎじゃね?」

「知らないわよ。何かの例えじゃない?」

「いや、僕たちが知らないだけで、何かそういうものがあるのかも」


 三人は渋った表情で顔を上げる。


 何かは分からないけど、ボケて言ったとかじゃないよな?

 そういう何かの例えとかだよな?


「その呪いってのは何だ?」


 アルスの言葉にフィーネスは視線を戻し、アルスの目を見る。


「『呪い』というのは解明も説明も出来ない、人類に害を成す、魔法に似たようなものじゃ。(わし)ら地底人はこの場所から出られなくする『呪い』がかけられておる。」


 随分とあやふやな言葉返ってきた。


 なんだそれ?

 魔法に似たようなもの?

 それは魔法とは何か違うのか?


「それがどうしたんだよ。」

「その『呪い』がこの地に刻まれておる。遥遠い昔に、ある人物によってつけられた。」

「………誰だよそいつ」

「それは分からん。何せその人物について何一つとして記述がないからの。」


 フィーネスの言葉にアルスは肩を落とす。


 記述がないのか。

 それは確かにどうしようもねぇな。

 つまり、そいつのせいで俺たちはこの地底に幽閉されてて外に出られないと。

 そういう事か。


 だが、それだとまた別の問題が生じる。


「それじゃあ、神隠しに会ってる奴らはどこ行ったんだよ。アイツらは地上に出たんじゃないのか?」


 思い切った質問にフェンリルたちが驚愕の顔でアルスを見る。

 地上のことはともかく、そんなことまで言っていいものなのかと。


 だが、アルスはそんな事は知ったこっちゃないと言った顔だ。


 地上に出れないなんてことはないだろう。

 実際俺たちは地上に出たぞ?

 それとも俺たちが居たあの場所はまだ地上って呼べないところなのか?


 フィーネスは驚いたような顔で答える。


「なんじゃ、そんなことも知っとたのか。」

「知ってたっていうか俺たちが考えた憶測だけどな。」


 フィーネスは感心を通り越して少し引き気味の表情で「そうか」と呟いた。


「お前たちの憶測通り、神隠しに会う者は皆、地上へ出ておる。お前たちと同じようにな。」

「だけど地上へは出られないんじゃないのか?」

「普通の人間は出られん。じゃが、極一部の限られた人間だけは出られる」

「極一部の人だけ?」

「そうじゃ。ここ(地底)の土地神様によって選ばれた者だけが外へ行ける」

「あっ!だから神隠しって言うんですね。」


 フェンリルが呟く。


 なるほど、そういう事か。

 神様に選ばれた人だけが出れる。

 うん、神様って?

 そんなやついるのか?

 まぁ、そういう事なら神隠しに会う奴らは人為的なものじゃないってことになるが。


「でもよ。神隠しに会うって言っても結局は北大大きな部屋(タンガ)の最奥の方まで行かないといけないだろ?選ばれた奴らはどうやってそこまで辿り着くんだよ。俺たち三人でも結構しんどかったぞ?」


 そう言うとフィーネスは一瞬表情を変えた。

 暗い表情というのか、瞳に光が宿ってないような、そんな顔。


「………彼らがあそこまで行くのには二人通りの方法がある。一つは自力で辿り着く方法。

 何故その場所を知り得たのかは全く分からんが、ある日こつ然と姿を消すのじゃ。

 家に居ても、学校に居ても、反対の南大大きな部屋(タンガ)に居ても、どこにいてもふとした瞬間に居なくなる。神様が導いてくださっているのか、一人や二人といった人数であそこまで辿り着く。じゃが、辿り着いた頃にはかなりの労力を要している。外に出れたとしても、そこで力尽きるじゃろう」


 自力でそこまで行く奴らって、どうなってんだよ。

 その場所を知ってた訳でもないのに。

 …………ん?

 なんか既視感あるな………まぁいいか。


「もう一つは?」


 そう聞くと、フィーネスの空気が変わった。


 重苦しく、何かに縛られているような空気感。

 同時に彼の表情を見て、アルスは寒気がした。


 強い罪の意識が心の奥深くを蝕み、何かを感じることをやめた人間の顔。

 アルスが昔読んだ童話に出てきた人物の顔と重なって見えた。


「………もう一つは案内人が連れて行く方法。」

「………案内人って、誰ですか?」

「………… " (わし)じゃ " 」


 その瞬間、空間が静まり返った。


 やっぱりと言うべきなのか、それともその表情の意味を問うべきなのか。


 アルスは息が詰まりそうになった。


 他の二人はフィーネスのその表情と言動に対してどう思ったのか。


 少なくともアイビスは良いようには思っていないようだ。


 アイビスはフィーネスを睨みつけて、右手には杖が握られていた。


 対して、冷静さを保つフェンリルがフィーネスに問う。


「それは、………どういうことでしょう?」

「………言葉の通りじゃ。(わし)が選ばれた者をあの場所まで連れて行っておる」


 少し落ち着いた声に戻った。

 開き直った様子ではないが、さっきよりも言葉が軽く感じる。


「………なんでだ?」

「それが、一族の使命だからじゃ」

「一族の使命?」


 同時にあの場所にフィーネスの家紋があったことを思い出す。


 一族の使命って、だからあそこに家紋があったのか。


「代々(わし)の一族だけはある役割があった。誰にも知られてはならない。極秘のな。」

「その役割と言うのが……」

「選ばれた者を地上へと導く。それが我が一族、『フューレン家』の使命じゃ」


 強い言葉でそう吐き捨てられた。


 昔から代々受け継いでやってきたってことは、あの場所もフィーネスの一族が作ったのか?

 それにしてはあまりにも地底のものとかけ離れすぎてるというか、それが造れる程の技術があるなら地底ももっと色んな建物があったはず。


「その使命というのは、何の為にあるのですか?」

「………この()()()()する為じゃ。」

「開国?」

「………言い方が悪かったのう。要するにこの幽閉された地底から地底人を解放するためじゃ。」

「「「!!!」」」


 なるほど、そういう事か。

 俺たち地底人も昔は地上に暮らしてたもんな。

 そりゃあ地上の方が色々生活も快適になるだろうけど………


「それだったら地上の奴らに頼んで何とかしてもらったらいいんじゃないのか?」

「………じゃから地上に人を送っておるんじゃろ」


 ため息混じりに呟いた。


「でも帰っ来ないってことは、地上の人が地底のことをよく思わってないってことですか?」

「いや、それがそうとも限らん。その本には地上人は地底人に対して協力的だったと明記されておる。」

「ってことは出来ない何かしらの理由があるってことか」

「………そうなるな。」


 なるほど。

 つまり、神隠しの犯人はフィーネスだが、一族の使命としてやっているってことだな。

 納得は出来た。


 これで地上と神隠しのことは大体理解出来た。

 この場所の歴史、いや、この場所が出来た理由には深い理由があって、今まで先人たちが何とかしてこの地底を開国しようと奮闘していたワケだが、一つ気になることがある。


 アルスは少し話を戻す。


「ところでなんだけど、フィーネスがさっき言ってた選ばれた者っていうのはどうやって分かるんだ?」

「あぁ、確かに!案内するには選ばれた人かどうか見極めないといけないし、それが分からない限りは案内も出来ないね。」


 フェンリルも便乗する。


「視えるんじゃ。選ばれた人間が、ぼんやりと光ってな」


 ぼんやりと光って見えるって、お前それ老化で目が悪くなったとかじゃねぇだろうな?

 ちゃんとそう見えてんだよな?


「見えとるわ!」

「なんで分かるんだよ」

「その光が見えるって………どんな風にですか?」

「………そやつ自身の影や動いた後の残像だったりがぼんやりと白い光を残すんじゃ。常にエネルギーを放っているかのようにな。これは『フューレン家』の特徴じゃ。」


 それで見分けれるのか。

 っていうか、それなら俺らのこと常に光って見えたのか。


「それに、あの場所へ行ったなら分かると思うが、門が独りでに開いたじゃろ?

 あれも同じじゃ。地上に招かれておる証拠じゃ。」


 道理で何もしてないのに開いたわけだ。

 普通ならあんなもの動くはずがないしな。


「他にも方法はあるぞ?」

「まだあるのかよ。」


 フィーネスは首から下げているペンダントを取り、三人の前に置いた。


 三人は初めて至近距離でそれを見た。


 錆びた白銀のような色をしたそれは、ペンダントにしては少し妙な形をしている。

 大きな円形の形をしており、上の出っ張りを押すと開くようになっている。


 フィーネスが「開けてみよ」と呟く。


 アルスがそれを手に取り、言われた通り出っ張りの部分を押した。


 するとそれがパカッと開き、中には見た事のないようなものがあった。


 一から十二の数字が円状に並んでおり、それを指す真ん中から出た針が二本。


 アルスたちはそれを凝視する。


「? 何だこれ?」

「なんだろう………装飾品にしては少し大きいね。」

「なんかの不良品じゃないの?」


 フィーネスは三人の様子をじっと見ながら呟く。


「それは " 時計 " というものじゃ。」

「トケイ?」

「時間という時の流れを示すもので、地上人にとっては必需品と言うべきかのう」


 ?

 ジカン?

 なんだそれ?


 フィーネスは三人の理解出来ないと言った表情を見て、ため息をつきながら黒板を使い説明しだす。


「良いか、地上には " 時 " という概念がある。それは過去から現在、更に未来へと、とどまることなく移り流れて行くと考えられる現象の事じゃ。言わば月日の移り行きのことじゃな。これがあるから人は歳をとるし、ものは劣化する。美女も気づけばしわくちゃのババアになるんじゃ。」

「美女も気づけばしわくちゃのババアに…………なるほど!そういう事か!」

「何でそれで分かるのよ……」

「えーと、つまり、僕たちはその " 時 " というもの進むから老化し、今を生きている。そういう事ですか?」

「さ、さすがじゃな、フェンリル。」


 フィーネスが引き気味にフェンリルを見る。


 理解早くね?

 なんで一瞬でそんなに分かるんだよ。


「そしてその " 時 " というものを表すのがその " 時計 " じゃ」


 三人はもう一度それを見下ろす。


 へぇー、なんかすげぇな。

 ん?

 なんかさっきより長い方の針の位置が違うような気がするな。

 これは時が進んだってことか。


「ってことは、コレ待ち合わせとかに使ったら便利じゃね?何でコレ使わねぇんだよ」

「………それが選ばれた者を見つける方法じゃ。」

「「「???」」」


 何が?


 フィーネスは重苦しい表情で


「それは、選ばれた者しか使えんのじゃ。そう出ない者がそれを見たり触れたり、時計や時間という言葉を聞くと、気が狂い、それにまつわる記憶が全て無くなるんじゃ」


 なんだそれ。

 本当か?

 そんな奴見た事ないぞ。


「………それも、『呪い』の影響ですか……?」

「そうじゃ。(わし)の先祖にも時計を見て気が狂った者がおる。気の狂い方が尋常じゃなかった。………人によっては死に至る可能性も有り得る。」


 そんな危険なものなのかこれ。

 こんなにも便利なのに……。


「先生がそれを見て正常でいれるということは先生も選ばれた側の人だということですか?」

「そうじゃな。」

「なんで外に出ないのよ」

「言ったじゃろ?(わし)の一族は導く人間。兄弟姉妹がいない限りは外には出られん」


 ふーん、まぁフィーネスにも色々事情があるのは分かったが、これを聞いた俺たちはどうすればいいんだ?

 まぁ話せって言ったのは俺だけど……。


 いや、もしかしてこれは俺たちに外に出ろって話なんじゃないのか?


「大体の話は分かりました。それで、ここまで話したってことは僕たちを地上に送り出したいのですね?」


 フェンリルが確信したように聞く。

 フィーネスも言葉を濁さず、はっきりと答える。


「……そうじゃ。お前たちは選ばれた。地底のために、地上へ行ってはくれぬか?」


 その言葉にフェンリルとアイビスは少し躊躇ったような表情をする。


 やっぱりそうか。

 じゃないとこんな深くまで話さないだろうし、時計なんて見せない。

 最初から俺たちを外に行かせるつもりで話してたのか。

 それなら俺にとっては都合がいい。


 アルスはまっすぐフィーネスの目を見て


「あぁ、俺は行く!」

「っ! ………アルス、分かってるの?地上は危険な所なんだよ?死ぬ可能性が高いんだ!今まで通り何とか生き抜けるような場所じゃない!」

「落ち着けよ。今の話聞いて不安になるのも分かるけど、俺は今日ここに来るまでに決めてたんだ。『地上に行く』って」

「………どうして……?」


 眉を顰めるフェンリル。


 フェンリルの言いたいことも分かる。

 今の話聞いてそんな危険なところに行きたいって思う方がおかしいのも分かってる。

 俺も昨日まではそうだった。

 もし死んだら……とか、母さんを一人にしてしまったら……とか色々考えたけど、それでも行ってみたいって思うんだ。

 何かを見たい知りたいって好奇心を教えてくれたのはお前だぜ?フェンリル。


 アルスはまっすぐフェンリルの目を見て言う。


「――見たいからだ。外の景色を。

 何があるのか。どんな場所にどんな景色が広がってるのか。どういう人がいて、何をしているのか。

 俺は見たい!危険なのは分かった。もう戻って来れないかもしれない。それでも、この好奇心が進みたがってしょうがねぇんだ!」


 力強く顔の前で拳を握りしめる。


 冗談ではなく、期待と覚悟を孕んだその言葉は、フェンリルが納得するには十分な理由だった。


「………分かった。アルスが行くなら僕も行くよ。怖いけど、僕も地上には興味がある。例え戻って来れなくても、君について行く!」


 落ち着いた声で、そう言った。

 だがその目は、誰が見ても分かるぐらい活き活きとした目をしていた。


 なんだよ、めちゃくちゃ興奮してるじゃねぇかよ。

 最初っからそう言えばいいのに。

 今更優等生ぶったってお前も俺と同じ悪ガキだろうが。


「アイビスは?」


 そう聞くと、アイビスは不機嫌そうな顔を浮かべていた。


 行きたくないのか?


「………私も行くわ。けど、その前に質問に答えて!」


 そう言ってアイビスは席を立ち、フィーネスに指差す。


「……なんじゃ?」

「ついこの間神隠し会った子がいるでしょ?」

「あぁ、先日の……」

「その子………あんたが地上に出したの?」


 殺意の籠ったような目でカッとフィーネスを睨みつける。

 だが、フィーネスはそれに動じず答える。


「いや、(わし)はその子を外に出しておらん。おそらく土地神様に招かれたんじゃろう」


 アイビスはフィーネスの顔をじっと見つめた後、「そう」と言ってそっぽ向いた。


 なるほど、今日全然喋らなかった理由はそれが原因か。

 ずっと気になってたんだな、あの子のこと。


「じゃあとりあえず、三人とも行くってことでいいんだね?」

「おう!」

「……えぇ」


 二人の返事を聞き、フェンリルがフィーネスに向き直る。


「……そうか。ありがとう」


 フィーネスは少し思い悩むような顔で天井を見上げるも、すぐに三人に向き直る。


「三人とも、頼んだぞ!」


 力強く吐かれた言葉。


 教え子だからこんなに強く言うのか、それとも毎度毎度同じように言ってるのか。

 それは分からないが、俺の目には昨日帰ってきた時からフィーネスの様子がずっとおかしく感じていた。


 ――焦り、後悔、悲観、安堵。


 色んな感情をしていた気がする。


 事情までは聞かないが、フィーネスにも思うところはあるのだろう。

 俺も地上に対しての不安とかが無いわけではないが、進むと決めたからには意思は固い。


 地上に出るということは死地に赴くようなことなのかもしれないが、それでも、とことん進もうと思う。


 ――この好奇心が止まない限り。

♦ちょこっと補足♦

フィーネスが持っている時計についてだが、確かに時計そのものはフィーネスの一族が管理していたが、それを時計と認識しているものはあまり居らず、本来は小さな木箱に仕舞われている。フィーネスは若い頃独断でそれを開封した。ちなみにその時計は約1000年前に一族の誰かが完成させたそう。

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