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第十七話「動き出した歯車・前編」

 ――痛む頭にうなされ、アルスは目を覚ました。


「うっ………」


 辺りは暗いままだが、目が慣れたのか周囲の状況が分かるようになっていた。


 視界の先には崩れ落ちた天井が見える。


「いっ……!」


 体を起こすも頭がズキズキと痛む。

 頭を触るとべっとりとしたものが手についた。


 ――血だ。


 倒れていたところを見ると少し出っ張った岩に血がついている。

 どうやら倒れた時に怪我をしたらしい。


 えっと……………なんでこんなことになってんだ……?

 っていうかここはどこだ?

 記憶が曖昧だ。


 ズキズキする頭を押えながら周囲の状況を見回す。


 そしてすぐに気づいた。

 自分の目の前にある光景に。


「っ!」


 息が止まりそうになった。


 アルスの視線の先。

 それは道を塞ぐ瓦礫の山の下――


 そこに、フェンリルとアイビスが倒れていた。


「フェンリル!アイビス!」


 立ち上がり二人のもとへ駆け寄る。


 二人は足だけだが瓦礫に埋もれている。

 所々怪我をしているが目立った外傷は無い。


 少しホッとしつつも、同時に思い出した。

 自分が誰かを追いかけて勝手にここまで入ってきてたのだ。

 そして二人が崩れてくる瓦礫から自分を押し退けてくれたのだと気づいた。


 すぐに二人の安否を確認する。


 万が一のために、フェンリルにやり方を教わっていた。


 顔や首に手を当てる。

 息はしている。

 脈も正常だろう。


 二人に呼びかける。


「おい!聞こえるか!フェンリル!アイビス!しっかりしろ!!」

「……………ん、………あぁ……アルス、無事だったんだね。」


 フェンリルが目を覚ます。


「大丈夫か!?フェンリル!」

「……………そうだね、……………ちょっと足の瓦礫を退けて欲しいかな」

「分かった。」


 アルスは直ぐに二人の足に乗ってる瓦礫を退けていく。



 瓦礫を退け終えて二人を瓦礫から離れたところに移動させた。


 フェンリルがすぐに自分の足とアルスの怪我の治療を終え、まだ意識を失ってるアイビスの治療を始める。


 アルスは何も出来ず、ただそれを見ていた。

 

「アルスはほんとにもう大丈夫?ちょっとしか治療してないけど。」

「…………あぁ。大丈夫だ。」


 それ以外は大きな怪我もしてないため、これだけで済んだ。


「…………」

「…………」


 二人とも黙り込む。

 静かな空間が流れる。


 アルスはその静かな空間の中、自分が追いかけていた人物が誰なのか思い出していた。

 

 誰だ……。

 思い出せない。

 確かに見たことがある奴だった。

 最近見た奴か?

 最近見たと言っても多すぎて分からねぇな。

 でも何故かそいつに()()()()()()

 何かされたわけでもないのに。

 あれはなんだったんだ?


「アルス、どうして急に走り出したの?」


 フェンリルが治療しながら聞いてきた。

 冷静な声色だ。


 そうか。

 フェンリルたちはさっきの奴に気づいてなかったんだったな。


 アルスは今自分が思い出せる限りのことをフェンリルに話した。



「そうだったんだね。僕たちは気づかなかったけど、そんなことがあったんだね」


 フェンリルは落ち着いていた。


 アルスは自分の言葉で説明していくうちに一気に罪悪感がのしかかっていた。


 二人は俺のせいでこうなってしまった。

 俺がいきなり走り出したから。

 二人は俺の代わりに死にかけた。

 俺のせいで………。


 そんなことを考えているとフェンリルは何事も無かったかのようにケロッとした顔で答えた。


「まぁなんにせよ、三人とも無事でよかったよ」

「……………え?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。


「なんで…………怒らねぇんだよ。」


 そう言われ、フェンリルは首を傾げて答える。


「怒る?あぁアルスの言うその謎の人物のこと?確かに怒ってるよ。でも怒ることよりもまずは」

「違ぇよ!俺に対して怒ってねぇのかよッ!」


 思わず叫んでしまった。

 だがフェンリルは余計に意味が分からないみたいな顔をしている。


「なんで君に対して怒る必要があるの?君なんか悪いことしたの?」

「は?いや…………だって………」


 フェンリルは至って純粋な疑問のように聞いてくる。


 何を言ってるんだこいつ。

 さっき何があったのか覚えてないのか?

 いや、俺説明したよな?

 どう考えても俺のせいで死にかけただろ。

 なんでそんな顔をしてられるんだ……。


「だって、俺のせいで…………お前は死にかけたんだぞ………!?」

「君のせい?何を言ってるんだよ。どう考えても君のせいじゃないでしょ。」

「――は? いや………何を……どう考えても俺が……。」

「君のせいで僕たちは死にかけたんじゃない。アルスがさっき話したその謎の人物によって死にかけたんだ。でも、その人物が殺そうとしたのは僕たちじゃなく、君だ。これを自分のせいでって言いたいんだろうけど、それは違う。

 最初は僕たちは何が起こったのかは分からなかったし、いきなり君が走り出したことに混乱したよ。でも話を聞く限り、君は気付かぬうちに命を狙われてたんだ。崩れてきた瓦礫もその人物の仕業だろうし、それは僕たちを狙っての事じゃない。これはどう見てもその人物の仕業だよ。」

「でも!」

「じゃあもし、君の立場と僕の立場が逆だった場合、君は僕を責めるの?」


 そう言われ、言葉が詰まった。


 もし俺とフェンリルの立場が逆だった場合、確かにフェンリルの話を聞いている限り悪いのはその謎の人物だ。

 そして俺は絶対にフェンリルを責めないだろう。

 何があってもフェンリルを危険に晒したそいつを許さない。


 罪悪感で回らなかった頭が徐々に冷静になっていく。


 アルスは首を横に振る。


「そうだよね。君が僕を責めることはないし、僕が君を責めることもない。僕たちはいつものように助け合っただけだよ」


 そう言われ胸に引っかかっていた罪悪感が少し取れた気がした。


 ――やっぱり、こいつには適わねぇや。

 冷静になって考えるだけで認識が180度変わった。

 フィーネスが昔から言ってた「視野を広く持て」っていうのはこういうことか。


「……急に叫んで、悪かった。」

「ふふっ、いいよ。気にしてない。」


 フェンリルは笑いながらそう返した。


「ん、んぅ…………。」


 そうこうしてる内に可愛しい寝ぼけ声が聞こえてきた。

 アイビスが目を覚ました。


「アイビス、大丈夫?」


 フェンリルが心配そうに顔を覗かせる。

 アイビスは不機嫌そうな顔で目を開ける。


「…………ここは……?」


 声もだいぶん不機嫌だ。


「ここは…………どこだろう………?」


 確かに、言われてみればここはどこなんだ?

 何も分からず走っていたらここにいたし、見た感じ通路っぽいけど、こんなところに通路があるなんて知らないな。


「じゃあなんでここにいるの?」


 その質問は簡単だった。


 二人は事の次第を全部アイビスに話した。



「そう。で、そいつはどこなの?今すぐサンドバックにしてあげたいんだけど」


 アイビスもアルスの事を責めることなく、その謎の人物に対して腹を立てていた。

 まぁアイビスの場合、怒りの矛先が変わったと言うべきか。


「それは分かんねぇ。目を覚ました時には俺たちしかいなかった」


 アイビスはより不機嫌な顔で「そう。」と、素っ気なく返した。


 たぶんめっちゃ怒ってるな。


「さて、じゃあ三人とも回復したことだし、これからどうする?」

「どうするって、来た道は塞がっちまったし、出られねぇしな。」


 出口は塞がってしまった。

 今あるのはもう片方の道だけ。


 出口の瓦礫を退かそうにも無闇に動かすとまた崩れる恐れがある。

 そう考えると瓦礫の方は触らない方がいいだろう。


 となるともう片方の道に進むしかない。


「選択肢は三つ。まず一つ、どうにかしてこの瓦礫を退かし、元の場所へ戻る。崩れる可能性があるから出来るだけ避けたいけど、出来ないことは無い。アイビスの魔法を何発か当てれば通れるくらいの穴は空くだろうしね。戻るには一番これが手っ取り早い。

 そして二つ目、ここで待機して助けが来るのを待つ。これは正直現実的じゃない。待機して体力を温存し、もし魔獣と遭遇しても万全に戦うことが出来る。けど、ここは僕たちの知らない場所だし、この渡り道(ラスタ)はおそらく正規の道じゃない。僕たちの知らない魔獣やまた未確認の魔獣だって現れるかもしれない。そんな道に助けが来る確率はほぼゼロだ。仮に誰かがここを知ってても、広い大きな部屋(タンガ)の中でピンポイントでここを割り当てるのは無理だろう。」


 確かにそうだな。

 この大きな部屋(タンガ)を知り尽くした気でいた俺たちですら、ここがどんな場所でどこに繋がってるのかも分からない。

 助けは期待出来ないだろう。


「そして三つ目。もう片方の道に進んで出口を探す。これはかなり危険だ。この場所がどこか分からない上に出口があるのかも分からない。さっき言ったみたいに魔獣と遭遇しかねない。そして何より、迷子になった場合、おしまいだ」


 そう言うと三人とも黙り込んだ。


 今自分たちが置かれている状況がかなり危険な状況であることにようやく気づいたのだ。

 どれを選んでも危険が伴う。

 最悪の場合死にかねないだろう。

 どうする……。


 だが、そう深く考えずともアルスの頭の中では答えが出ていた。


「じゃあ進むしかないな」


 その答えに深く考えていたフェンリルが思わず声をこぼす。


「……え?」

「そうね、それが一番だわ。」


 アイビスが賛同する。

 いきなり出された答えに困惑するフェンリル。



「二人とも分かってる?進むのはたぶん一番生存率が低くなる。帰って来れないかもしれないんだよ?」

「分かってるわよ!どれ選んでも危険なら進むしかないじゃない!それとも何もせずじっとここで待つの?」


 アイビスの言葉にフェンリルは頭を悩ます。


 正直、一番手っ取り早いのはこの瓦礫の山を退かす事なんだろうけど、俺の中ではそっちじゃない。


「なんで進む方なの?理由とかあるの?」


 かなり神妙な面持ちだ。

 当然だろう。

 自ら火の中に飛び込もうと思うものはいない。

 ここでの選択はかなり重要だ。


 それらを全て頭に入れて判断を下そうとするフェンリル。

 それに対してアルスは思いもよらない言葉を返した。


「勘……。」


 その言葉は軽々しくも絶対的な確信があるような言葉だった。


 フェンリルはそれを聞いて一瞬呆気にとられたような顔をしたが、すぐに考え直すように眉間に皺を寄せた。


「………まぁ、そうだね。そうしようか。待つより動いた方がいいって二人の勘が言ってるなら、まぁ間違いないかな」


 そうあっさりと受け入れた。


 いつもはこういう時、三人で話し合いの結果どうするかを選ぶのだが、極たまにアルスとアイビスの勘で決まることがある。


 理由もなく、いい加減だが、彼らの勘は外れたことがない。


 つまり、彼らの内どちらかもしくは両方が勘と言い出せばそれが必ず正解になる。


 不思議なもので、その勘がそれぞれ違った方向を指したことは無い。

 必ず同じ答えを出すのだ。


 故に、二人の答えが今回同時に出た時点でフェンリルには信じるに足る理由が出来た。


 三人は立ち上がる。


 進むと決めたなら行動は早い。

 それぞれ武器や荷物の点検をする。



 ――準備を終え、三人は歩き出した。



---



 しばらく歩いた。


 景色はあまり変わらない。

 長い長い一本道の渡り道(ラスタ)が続き、魔獣と遭遇することもない。


 魔法陣が一切ないため、随分と暗いが、アイビスが魔法で光源を確保してくれているおかげであたりは見えやすくなっている。

 ただ、先の方までになると中々見えない。


 フェンリルも歩きながら魔獣を呼ぶ口笛を鳴らしたりしているが一向に現れる気配はない。

 ここら辺に魔獣はいないのか。


「魔獣の気配はないわね。」

「あぁそうだな。この辺は魔獣の生息地じゃねぇのかもな」


 さっきみたいに壁に隙間がないか見ながら歩いているが今のところは無さそうだ。


 三人とも警戒して歩く。

 辺りは三人の足音しか聞こえない。


 そんな中、フェンリルがぽつりと呟いた。


「こんなに渡り道(ラスタ)が静かなのはあの時の魔獣(かいぶつ)の一件以来だね。」

「まぁ、そうね。こんな感じだったかしら」


 北大大きな部屋(タンガ)渡り道(ラスタ)と言えば、道を歩くのは人だけでなく魔獣も通る。

 だからもう少しうるさかったりするのだが、今は随分と静かだ。

 あの魔獣かいぶつの時もこんな感じだったが、あの時のような威圧感や嫌な空気感は感じられない。


「あの時はもうちょっと緊張感あっただろ?」

「そうだね。今よりも少し怖かった気はするね」


 フェンリルが思い出しながら微笑んでいる。

 それぐらいの余裕はあるってことだろう。


 アルスはさっきの奴が居ないか気配を探るも、さっきのような嫌な気配は無い。


 三人の予想とは裏腹に魔獣とも遭遇していない。

 このまま行けば危険度はかなり低い。

 戦闘での死はまず無いと思っていいだろう。


 だが、これ程にも魔獣と遭遇しないとなると今度はまた別の問題が出てくる。


 ――それは、餓死だ。


 魔獣がいなければ食料なんて当然ない。

 このまま出口が見つからず、ずっと彷徨(さまよ)い続ければ確実に餓死する。

 さっき狩ったグランドウルフも全部俺を追いかける際に放り投げてきたらしい。


 まぁ餓死する前に引き返せばいいだけの話なのだが。

 何とかして早く出口に出たいところだが。


 そんなことを考えながら淡々と歩いていると、アルスはふとあることに気づき、足を止めた。

 二人も同じように足を止める。


 あれ? なんか……………この道…………。


「ねぇ、なんだか………………さっきから………()()()()()()()………?」


 アイビスが戸惑いながら呟いた。


 フェンリルも顔をしかめながら道を見ている。

 二人も気づいていたようだ。


 そう、さっきからアルスたちが歩いているこの道は――徐々に坂道になっていた。


 後ろを振り返ると道が少し傾いているように見える。

 微かな傾きにアルスたちは気づかず、ずっとこの坂道を登っていたようだ。


「どうなってんだ………。渡り道(ラスタ)が坂道になってるなんて………」


 坂道のある渡り道(ラスタ)っていうのは見たことがない。

 というかそもそもの話、地底世界に坂道なんてのはほとんど存在しない。

 あったとしても自然発光地帯(メモワール)の中くらいだ。


 自然発光地帯(メモワール)は変わった地形も多いから坂道があっても不思議じゃない。


 だがここは渡り道(ラスタ)

 坂道なんて、あるはずがない。


 アルスは顔を顰めながらも


「………行こう」


 と呟き、進み出した。


 違和感は感じる。

 ただ、それが嫌な感覚かと言われれば違うだろう。

 足が「進め」と言っている気がする。


 引き返すという選択肢もあるが、ここに来てその選択肢は取ることは無い。


 この違和感の正体も気になるしな。

 この先に進めば違和感の正体が分かるような気もする。


 進んだ方がいいのか悪いのかは分からないが、進むだけの価値はあるはずだ。


 二人はアルスの選択に何も言わずについていく。


 アルスが選んだのなら迷いはないということだろう。

 それがもし間違いだったとしても、アルスを責めることは無いし、後悔もしない。

 そう言える程の信頼がある。


 ――たとえ進んだ先に、()()()()()()()()()

♦ちょこっと豆知識♦

地底世界での治療法は魔法によるものしかない。これといった医療機関は無いため、魔法の治療にしては治りが少し遅い。出産の際は村の女衆を中心に男でも借りてサポートをしてくれるため、これと言って困ることがないのだとか。

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