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第十五話「卒業試験」

 一ヶ月が経った。


 今日は卒業試験当日。

 アルスにとって運命の日だ。


 この一ヶ月間、フェンリルとアイビスの協力で猛特訓と猛勉強の毎日だった。


 勉強の方は変わらずフェンリルが教え、魔法の方はアイビスがほぼ付きっきりで教えてくれた。

 勉強は徐々に成長が見える結果となって行ったが、魔法の方に関しては全く進展せず、おかげでアイビスからの好感度がマイナス400ぐらい下がった。


 魔力量に問題があるのではと色々なところで診てもらったが、結局何も分からなかった。

 至極健康だと言われた。


 北大大きな部屋(タンガ)での戦いから約二ヶ月が経過した今、ボロボロだった体もようやく完治し、三人とも万全と言える状態にまで戻り、絶好の試験日よりと言える。


 そんな中、三人の足取りは少し重かった。


「アレからもう一週間も経つね」

「…………えぇ、そうね。」

「あぁ、アレな。久しぶりだよな。」


 三人が少し暗い表情をしながら話しているその内容は一週間前に起きたとある事件の話をしていた。

 地底世界に住む人間ならば誰もが知るあの事件のことだ。


「 " 神隠し " …………アレってほんとどこに消えてんだろうな」


 一週間前、中央大きな部屋(タンガ)にて『神隠し』が起きた。


 居なくなったのは六歳の少女。

 母と買い物中にふと姿を消したそうだ。

 これぐらいならただ迷子になったと皆が思うだろう。

 だが、ここは地底世界。

 限られた空間の中で迷子になってもどこかしらに人はいる。

 必ずその日のうちに家に帰れるのだ。

 姿を消して一週間も経つということは間違いなく神隠しと断定出来る。


 人攫いの可能性もあるにはあるが、もしそうなら簡単に魔力で探知出来る。

 神隠しの可能性は濃厚だろう。


「神隠しは大昔からある事だけど、どこに消えているのか全く分からないらしいね。見つかって欲しいとは思うけど、可能性としてはあまり期待出来ないな」

「………」


 暗い雰囲気だ。

 アイビスは特に元気がない。


 神隠しに会った少女はアイビスとも面識があったようで、何度か遊んだ事もあったんだとか。


 そんな暗い雰囲気にアルスが話を変えようとする。


「まぁ、神隠しのことは一旦置いといて、まずは試験のことに集中しようぜ?」


 いつまで暗い話したって見つかるわけじゃねぇんだ。

 それに、こういう暗い雰囲気は居心地が悪い。

 アイビスには悪いが、俺はその消えた子をよく知らないしな。


「そうだね。試験の話をしながら行こうか。」

「……えぇ、そうね。」

「今日が本番だけど、アルス調子はどう?」

「ん〜、まぁ、ぼちぼちだな。魔法はちょっと不安だけど勉強の方は大丈夫だ。ちゃんと内容も頭に入ってるしな。問題無ぇだろ」

「まぁ、本番はいつもと違う空気感だからね。呑まれたらいけないよ。」

「あぁ、分かってる分かってる。自分のペース持ってれば問題無ぇだろ。」


 まぁ、実際今の実力なら合格点は取れるだろう。

 フェンリルにも見てもらったし、座学の方は大丈夫だ。

 問題は魔法の方なんだけど………


「アルスは魔法の方が問題よ!あれだけ教えても全然ダメなんだから!」


 アイビスが随分ご立腹の様子。


 この一ヶ月間、アイビスは毎日アルスに魔法を教えていた。


 アイビスが持つ最大限の力と知識をアルスに叩き込んだのだが、うまくいかなかった。

 その事について納得いってないようだ。


「まぁまぁ、アルスも頑張ったんだしさ、ここは元気の出る言葉で後押ししてあげよう。」


 そうそう!

 そういうの大事だよね!

 その言葉があるかないかでアルス君のやる気全然変わってくるよ!

 アイビスもいつまでツンツンしやがって〜。

 本当は応援したいんだろ?

 ほら、ツンツンの前振りはもう済んだんだ。

 デレの部分を見せてちょうだい!


「あぁ〜、可愛いアイビスのひと押しがあったら頑張れそうだな〜。」


 分かりやすいが、案外アイビスはこういうので釣られやすいんだ。

 さぁ、久しぶりにデレて見ろ!


「チッ…………」


 アルスの言葉にアイビスが大きく舌打ちをして、睨みつけてきた。


「………」


 うん……………え、そんな嫌?




---



 学校に着いた。


 今日は卒業試験の為、六年生以外は学校に来ない日だ。


 教室に入るとクラスメイトたちが教科書を見直したり、魔法の練習をしたりしていた。


 テスト前の最後の確認。

 卒業試験は普通に授業を受けてる生徒ならまず不合格になることは無いが、やはり緊張はするのだろう。


「いい?アルス。念押して言うけど、雰囲気に呑まれちゃダメだよ?自分のペースを崩さずにね。」

「分かってるよ。大丈夫だ。」


 俺の中にはお前らとやってきた事が自信になってる。

 問題無い。大丈夫だ。

 気負わず行けばなんとかなる。


 だが、アイビスはすかさず指摘する。


「そういう意味じゃないわよ。空気感に()()()()()()の話よ」


 空気感に耐えられる?

 空気感って試験の空気感ってことだろ?

 それなら大丈夫だって。

 卒業試験って言っても普通の試験となんら変わらない。

 定期試験は俺だって何回も受けてるし、今更空気感に呑まれるなんてことは無いだろう。


 アルスが答えようとした時、近くにいたクラスメイトの会話が耳に入った。


「おい、聞いたか?筆記の試験官。」

「あぁ聞いたぜ。やべぇよな。もう緊張してきた……!」


 筆記の試験官?

 試験官なんて今の時点で誰がするのか分からないだろ。


 アルスは会話の内容を気にも留まらなかったが、次の瞬間大きな音が鳴った。


 バァン!!!


 扉が思いっきり開けられたような音。

 全員が音の方へ顔を向ける。


 それは教室の前方の扉。

 片側が全開にされ、扉の前には誰かが立っている。


 背が高く、頭が扉からはみ出ていて顔が見えないが、教室にいた全員がそれが誰か分かった。


 体だけしか見ないにも関わらず、その体があまりにも特徴的過ぎて嫌でも覚えてしまう。


 肩幅、筋肉量、手の大きさ、どれを見ても普通の人間の二倍以上はある。


 筋骨隆々というより怪物のようなその体格。

 そんな人間、地底世界で一人しかいない。


「テメェらァ、席に着けェ!!!試験の準備はァ、バッチリだろうなァァ?」


 低く響く渋い声と共にその巨体が教室に入っ来ると同時に顔が顕になった。


 七三分けの髪型に綺麗な丸眼鏡。

 細長とした面に飄々とした目つき。

 血管が浮きでる額、まるでヤクザのような顔をした男。


 この男の名は " マルダ " 。

 グランベル学園の教員にして、地底世界一の、「怪力」を持つ男である。


 あぁなるほど。

 空気感に耐えられるか、か。

 やっぱ無理かも。



---



 ――現在試験中


 静かな空間の中、皆怖じけながらな試験を受けていた。


 それは何故か。

 言うまでもない。


 教卓からメンチを切るように全員を見下ろすあの怪物が全てを物語っている。


「おい、テメェらァ、ちゃんと集中してんのかァ?ペンの進みがァ悪ぃじゃねぇかァ!!!」


 もう一度言わせてもらう。

  " 現在試験中 " である。

 ヤクザの拷問中とかではない。


 卒業試験という合格出来なければ留年が決まる大一番だ。


 本来ならば静かな教室で全員が全力で試験に望んでいるはずだった。

 だが、それはヤクザ面の試験官によって阻まれる。


 なんでだよ………。

 なんであんなヤクザが試験官なんだよ。

 怖くて手が進まねぇよ。

 なんとか半分くらいまでは解けたけど。

 もうダメだ。

 オシッコちびりそう………。


 すると、マルダはいきなり立ち上がり、今度は巡回を始めた。


 右に行き左に行き、前に行き後ろに行きと教室中を威圧するように歩き回る。


 なんで巡回し出すんだよ。

 巡回なんてし出したら余計に集中出来なくなるじゃねぇか。


 アルスの思う通り、マルダが巡回し出すと同時にクラス全員が目に見えて分かるように落ち着きが無くなりだした。


 見てみろ。

 みんなそわそわしだしたじゃねぇか。

 お前が巡回し出すと怖くてみんな縮こまるんだよ。

 大人しく席に座っとけ!

 ハウス!


 なんてことを考えていると、マルダはアルスの席の前で止まった。


「いっ!」


 アルスは思わず声がこぼれる。


 なんで俺のところで止まるんだよ!

 あっち行けよ!


 そしてマルダはアルスの解答用紙をじっと見下ろした。


「アルスゥ、よく出来てるじゃあねぇかァ。」

「は、はひっ!」


 反射で返事をしてしまった。

 あまりの怖さに声も裏返った。


「お前が試験勉強を頑張っていた事がよォく分かるゥゥ。手にペンだこが出来てるじゃねェかァ。」


 マルダはチョークでアルスの手を指差す。

「お前みたいに正々堂々と試験に挑もうとする奴はァ、字が自信に満ち溢れて見えるゥ。」


 今度は自分の解答用紙を見る。

 確かに今日の字はいつもより字が活き活きしているように見える。

 たぶん。いや、わからん。


「だがァ、正々堂々と試験に挑んでねぇ奴の字はァ、字が怯えやがる」


 と、マルダが喋り終えると同時に大きな打撃音が教室中に鳴り響いた。


 アルスは体をビクッと震わせ、何が起こったのかと顔を上げる。


 目の前には当然のごとくマルダが見下ろしているが、マルダの左手が別の方向を向いている。

 アルスは思わずマルダの左手が指す方を見た。


 それは教室の廊下側の壁の真ん中辺り。

 そこに小さな穴が空いており、その穴から煙が出ていた。


 思わずもう一度マルダの方を見る。

 よく見ると、マルダの左手の指が何かを投げ終えた後ようなポーズ見える。


 白い粉が手についている。

 さっき何か手に持ってたな。

 チョークか……。


「テメェ、カンニングはァしちゃいけねぇだろォ?」


 それはアルスに対しての言葉。

 ではなく、左手の先にいる一人の生徒に対しての言葉だった。


 クラス全員が同じ方向を向く中、そいつだけはみんなと逆の方を見てオドオドしていた。


 よく見るとそいつの左手は机の下に隠れていた。


 そこに何か隠してるのだろう。


「す、すいません!」


 そいつはすぐに立ち上がり、涙目になりながら謝った。


「今回はァ見逃してやるゥ。次見つけた時はァ即不合格だァ。」


 マルダはあっさりとカンニング野郎を見逃し、教卓へ戻って行った。


 えー……っと、マルダはあいつがカンニングしてるのを見つけて巡回を始めた。

 そしてそれをやめさせる猶予を与えるためにぐるっと教室内を一周した後、結局やめなかったからわざわざここまで来て手に持っていたチョークを投げつけた…………ってことか。


 その為にわざわざ巡回を?

 俺のところに来てチョークまで投げて?

 なんで?

 普通にあいつのところに行けばいいだろ。

 いや、近くに行ったら隠すからか………。

 っていうかあの怪物が試験官の時によくカンニングなんか出来たな。

 この試験の内容ならカンニングする程でもないだろ。


「いいかァ、テメェらに教えといてやるゥ。テメェらがこれから生きていく世界はそう簡単に生きれる場所じゃあねぇ。

 やりたいこと、成したいことをする時にィ必ず大きな壁がテメェらの前に立ち塞がるゥ。その都度都度、不正をしてェ切り抜けていくつもりかァ?」

「っ……!!」


 カンニング野郎が肩をビクつかせる。


「最初のうちはそれで通ったとしてもォ、それはいつまでも通用すわけねェんだァ。どこかで必ずぶち当たるゥ。その時にィ、ちゃんとしておけば良かったな、なんて思い返しても遅せェんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 気づけば全員が手を止めて耳を傾けていた。


『やるべきようにやってからするもの』……………。


 マルダ()()()言葉だな。

 後悔はするもんじゃないが、後悔の仕方が違えば、進む道も変わってくるもんなのか……。

 まぁなんにせよ、深い言葉だ。

 クラスのみんなにも響いただろう。

 これが試験中じゃなければ……。


 キーンコーンカーンコーン………


 マルダが喋り終え、チャイムが鳴った。


「試験終了だァ!ペンを置けェい!回答用紙を回収するゥ!」


 マルダが叫ぶ。


 マルダは意外と生徒思いな一面もあるらしい。

 俺は見たことがないが、それが本当なら、喋り方と見た目を何とかしたらおそらく生徒から少しは人気が出てただろう。


 そんな事を思いながら、筆記試験が終了した。

 いや、終了してしまった。



---



 ――次の試験科目、演習。


 試験場は学園の敷地内にある訓練場。


 訓練場は校舎の東側にあり、校舎の倍の大きさがある。

 訓練場と言っても地面は砂で、遊具もある。

 言わばここは訓練場という名の運動場だ。


 アルスは試験が始まるまでフェンリルとアイビスと一緒にいた。


「はぁ、筆記が終わったのにすぐ演習かよ。」

「まぁ仕方ないね。次の実習はどうしても長くなるから、スケジュール的には押してるんだよ」


 そうか、実習もあるのか。

 正直さっきの座学でだいぶん気力が削がれた。

 今すぐ帰りたい気分だ。


「早く終わんねぇかなぁ………」


 筆記の方はそこそこ出来た気がする。

 あの圧の中でよく最後までペンが動いたと賞賛してやりたいぐらいだ。

 次の演習は少し自信が無いからな。

 筆記で稼げたのは大きいだろう。


 するとアイビスがアルスに指を立てて言う。


「いい?アルス。魔法を使う時のコツはちゃんと覚えてる?」

「あぁ、まず肩幅を開きお腹に力を入れる。そして体中に魔力が流れる感覚を意識する。最後に深く深呼吸をし、落ち着いて詠唱を開始する。」

「分かってるわね。あとは緊張しないでリラックスすること!分かった?」

「おう!」


 まるで遠足前に忘れ物チェックをする親子のような会話だ。


 ふぅ、なんとか筆記は乗り越えたんだ。

 このまま演習も乗り越えるぞ。


 そんなことを話していると次の試験官がやって来た。


「皆、もう集まっておるか?」


 聞き覚えのある声と姿の老人が入ってきた。


 相変わらずの髭と杖がチャームポイントのジジィ。

 フィーネスだ。


 なるほど。実技の試験官はフィーネスか。


「いきなりですまないが、もう試験を始めるぞ?」


 そう言いながらみんなの前に移動する。


「試験内容は事前に言った通り、固有魔法以外の魔法をわしの前で披露することじゃ。いいな?それでは、これより実技の試験を開始する。呼ばれた者から前へ出てくるように。それ以外は周りで待機しておれ。」


 フィーネスの合図とともにヌルッと試験が開始した。


 なんだ、案外すんなりと始まったな。

 もっと緊張するような始まり方かと思ったが。


 周りを見るとみんな喋りながら順番を待っている。


 さっきの座学のこともあって、今回は試験っていう感じがしないな。


「では、まずアイビス。」


 アイビスの名前が呼ばれた。

 いきなりか。


 アイビスが颯爽と前に出る。


 なにか声をかけようと思ったが、表情はかなり真剣な表情をしていた。


 これは声をかけない方がいいな。

 トップバッターはかなり緊張しそうだが、アイビスなら問題ないか。


「お前の持ってる全てを見せてくれ。」

「わかりました。」


 アイビスは杖を構え、詠唱を開始する。


「『雄大なる水のせせらぎよ、水の加護を与えし精霊よ、今我が身の力を汝に見せよ ――ウンディーネ』」


 詠唱と同時にアイビスの背後に大きな水で出来た美女が出てきた。


 その瞬間、周囲がどよめいた。


「ほぅ、これが水の()()、ウンディーネか。」

「はい、私が出せる最大の魔法です。」

「流石じゃな、これからも精進するのじゃぞ。」


 精霊魔法とは、確か国で数人しか使えない魔法だと聞く。


 それを十二の子供が使えるとなれば正真正銘の天才だ。


 確か、フィーネスも風の精霊魔法を使えるんだっけ?

 こういうところは素直に尊敬するな。

 俺も練習したらいつか美女の精霊とか使えるようになるかな。



---



「次、アルス。」


 半分くらいをすぎたところでアルスの名前が呼ばれた。


 おっ、やっと呼ばれたか。

 かなり長かったなぁ。

 三人で話しながら待ってたけど意外と長かったな。


 アルスは自分の両頬をバシッと叩いて喝を入れる。


「よし!んじゃあ行くか!」

「アルス。頑張って。」

「リラックスよ!リラックス!」


 フェンリルとアイビスが鼓舞しながら送り出してくれる。


「おう!見とけよ!特訓の成果見せてやる!」


 そう言いながら前に出た。


 前に出てようやく気づいたが、これは全員から見られるような立ち位置だ。

 見られること関しては問題無いがいつも通り出来るだろうか……。


「アルス、初級魔法などを使う気ではなかろうな?」

「んなわけねぇだろ?この日のためにちゃんと()()()()()()()()()と一緒に特訓して来たんだ。」

「ほう、そうか。なら見せてもらおう。」


 そうか、フィーネスは俺が初級魔法しか使えないと思ってるんだろうな。

 それもそうだな。

 あいつら以外に見せるのは初めてだ。


 よし!

 んじゃあ目一杯見せてやろう!


 アルスは手順通り準備を整えていく。


 まず肩幅を開きお腹に力を入れる。

 次に体中に魔力が流れるように意識する。


 ………うん、大丈夫だ。


 最後に深く深呼吸。


「………ふぅ……」


 アルスの一つ一つの所作に周囲は思わず目を留め、息を飲む。


 そしてゆっくり杖を構え、詠唱を開始する。


「『我が目に宿す光を灯せ!火照(ファイアインタクト)!』」


 詠唱を終え一瞬静まり返った。


 そして次の瞬間、杖の先からボッと音を立ててマッチのような火がついた。


 どうだ!これは中級魔法!

 今までの俺とは思えないだろう!


 アルスは自慢気な顔をしているが周囲は何が起こっているのか分からず、じっとアルスの方を見たまま思考が停止していた。


 アルスが今使っている中級魔法 火照(ファイアインタクト)は本来、眩しい火球が出来てまっすぐ前に飛んでいき、周囲を照らす魔法である。


 舗装されきっている地底世界では使うことは少ないが、学校では一番最初に学ぶ中級魔法だ。


 その中級魔法をアルスは使ったはずなのだが、アルスの杖には小さな火がついているだけ。


 アルスは自信満々な顔をしてフィーネスを見ると、呆けたような顔をしている。

 そして頭を抱えた後、フェンリルとアイビスの方を見た。


 アルスも釣られ二人を見る。

 フェンリルは笑顔でよくやったと言わんばかりに拍手をしている。

 アイビスはいつものように鼻を鳴らしながら「私が教えたんだから当然よね!」なんて言っている。


 よし、順調だ。

 だいぶんいいんじゃないか?

 けど、二人以外はみんな静まり返っているが、まぁいいか。


「どうだ!スゲェだろ!中級魔法だぜ?」


 アルスは鼻高々と腕を組む。

 フィーネスは頭を抱えながらアルスの方を見る。


「…………アルス、上級魔法は使えるのか?」

「上級魔法?もちろん使えるとも!」


 本来、演習の試験は上級魔法からしか採点されない。

 中級魔法ではどんだけ凄かろうが、採点外だ。


 ただ、今のアルスの精神は緊張と達成感の情緒不安定な状況になっており、上級魔法しか採点されない事を完全に忘れていた。


 上級魔法だろうが、関係ない。

 今ならなんか出来る気がする。


「…………わかった。ならば上級魔法を見せてみよ。」


 フィーネスの指示通りアルスはもう一度準備をする。

 そして、ゆっくり杖を構え、詠唱する。


「『大地の恵よ!泉の精霊よ!邪を穿つ我に王源なる力を与えん!水渦砲(アクアウィービア)!』」


 詠唱を終えると同時に、アルスの杖の先から小便のように水がチョロチョロと出てきた。


 どうだ!上級魔法だぞ!!


 自慢するようにフィーネスを見るがその視線はアルスではなく、フェンリルとアイビスの方に向けられてる。


 二人は変わらずさっきと同じような顔をしている。


 おい、どこ見てんだよ。

 俺の魔法を見たのか?

 この綺麗な俺の魔法を。


「フィーネス、ちゃんと俺の魔法見たのか?」

「………あぁ、見たぞ。」

「どうだ?スゲェだろ?俺が上級魔法だぜ?いやーもっと魔法が使える楽しさを知ってればよかったなぁ!」


 今までフィーネスには散々手を焼かせたからな。

 ちょっとでも成長した姿を見せられて良かった。


「アルス、下がって良いぞ。」


 フィーネスにそう言われ、アルスは言われるがまま元いた場所へ戻ろうとする。


 ?

 やけにあっさりしてるなぁ。

 もっとなんか感動したりしねぇのか。

 まぁいいや。


「フェンリルとアイビス。後でわしの部屋に来なさい。」

「「………はい」」


 二人のところに戻ろうとした時、フィーネスがそう言った。


 ?

 なんだ?

 あいつら何かやらかしたのか?


 二人のところへ戻ると二人は笑顔でアルスを出迎えてくれた。


「お前らなんかしたのか?」

「いや、なんでもないよ。それよりアルスよく出来たね!すごいよ!」

「えぇ、あんたがあそこまで出来るとは思わなかったわ!」


 二人に褒められ照れるようにアルスは頭を搔く。


「よせよ、照れるじゃねぇか。」


 なんにせよ、演習もバッチリだな。

 これであとは実習だけだ。

 思った以上に余裕だな。


 アルスは余裕の顔で二人の間に腰を下ろした。

♦ちょこっと補足♦

フェンリルとアイビスはフィーネスに職員室に呼ばれたのはもちろんアルスのあの惨状を問い詰めるためである。フェンリルはまだしも、アイビス疲労によりはアルスの魔法の出来が完璧とまで錯覚するほど判断基準が鈍っていた。

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