第86話 死霊魔導師はドラゴンの名を知る。
よし、やるだけやってみるか。
そう覚悟を決めたところに、気の抜けた声が届いた。
「ギャアギャアとうるさいのう、誰だ、我輩の眠りを妨げた奴は……ん? なんだ、お前の声だったか」
「テリエ?」
封印のため、影の居住空間で寝ていたテリエが起きてしまうほどの咆哮だったのか。
「おお、契約者殿か、安心せい、聖女たちの封印は終わったぞ。……それより、なにをしているのだ?」
時間がないため、ざっくりとだけ状況を説明することにした。
「なるほどな。とりあえずその卵は我輩がチャッピーに返してやろう。なーに、我輩がいれば奴は大人しく引き下がってくれる」
チャッピーって、あのドラゴンのことか?
「テリエ、やるのでしたら早めに頼みますわ。クソガキが逃げる前にね」
「おう、任せておけ。それに、この前は目の前でやられたからの、二度目は無い」
そう言い俺から卵を受け取ると、ドラゴン、チャッピーに話しかけ始めた。
「おい! チャッピーよ! 我輩だ! どこを向いておる、こっちじゃ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
side ドラートツィーアー
盗賊たちを乗せたワイバーンが勢い良く羽ばたき、宙に浮くのを見たあと、私は手の中の魔道具に魔力を流した。
「欲張ってドラゴンに手を出すべきではありませんでした」
しかしどうしたものでしょうか、ワイバーンは王都攻めの取って置きでしたのに
……おかしいですね。転移が始まりません。
胸元に突っ込んでいた手を引き抜き、握る転移の魔石を確かめてみる。
この魔石はキンダフィッカの街へのもの。もしかすると、魔法陣の不具合かもしれませんね。
あ、ヒビが入っているじゃありませんか……仕方ありませんね、でしたら別のところに。
残りの魔石を取り出す。
ヒビはなさそうですね。おそらくヘルヴィに殴られ、倒れた拍子に壊れたのでしょう。
さて、魔石は……王都の隠れ家に暗殺ギルドですか。王都は無いですね。
そうです、暗殺ギルド、こうなれば多少高くつくかもしれませんが、ヘルヴィ共々、父上にも死んでもらいましょう。
ドラゴンはまだ止まったまま。
新たにテイムしたワイバーンは、ヘルヴィたちの行方を見つけられていないようで、旋回を続けています。
「盗賊たちはもうあんなところまで、見逃されたのでしょうか?」
岩山の端を抜けた盗賊たちから視線を外し、ドラゴンを見る。相変わらず微動だにしていませんね。
手元の魔石に魔力を流していくと、ほんのり発光し始めた。
今度は大丈夫そうですね。
ヘルヴィたちがどこへ逃げたのかわかりませんが、必ず殺してあげましょう!
………………なぜだ。なぜ転移しない。
「なぜだ! なぜヒビが入っているのですか! いえ、こうしてはいられません、王都で妥協しましょう」
王都行きの魔石に魔力を流し、発光したあと――ピシッ、とヒビが入ってしまった。
「そんな……っ! ワイバーンよ来なさい! 私を乗せて逃げるのです!」
仕方ありません、転移ができないとなれば、ワイバーンを使うしかありません。
呼んだワイバーンの一匹がすぐ側に降り立った。
体をよじ登り、首にしがみつく。
「逃げるのです! 早く!」
ワイバーンは、『ギョエッ』とひと鳴きしたあと、羽を大きく広げ羽ばたき地を蹴った瞬間――
『ゴガアァアアアアアアアアアアアアアアッ!』
ドラゴンの咆哮が背後から聞こえた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
side ネクロウ
テリエの呼び掛けにピクリと動いた、チャッピーという名のドラゴン。
「我輩だ! よもや忘れたとは言わせんぞチャッピーよ!」
首だけを後ろに向けるチャッピー。
あ、これ、来るだろ!
「耳をふさげ!」
俺の声に反応し、慌てて耳をふさぐ。
『ゴガアァアアアアアアアアアアアアアアッ!』
チャッピーよりさらに向こう、遠くで飛び立ったワイバーンが落ちた。
そのさらに上空を旋回していたワイバーンたちも、墜落していく。
「やかましいぞチャッピー! お主の目的はこれだろ! 取り返してやったのだから大人しくせい! 馬鹿者が!」
『ゴッ! ゴガッ!』
首だけだったが、今度はしっかりと体までこちらに向け、突っ込んできた。
ヤバい、そう思った次の瞬間、チャッピーは地面に降り立ち、テリエの前にひれ伏していた。
「久しぶりじゃなチャッピーよ」
『テリエ、本当にテリエなのだな』
「くくっ、そう我輩だ、心配かけたようだな、許せ」
『探し回ったのだぞテリエよ、帝国中を。だがよくぞ戻った。それも、私の卵まで取り返してくれようとは』
「ちと封印されていてな」
よかった。さすがにデバンとジェイミーが戻っていない今、卵を返しても交渉が上手く行かなければ詰んでいただろう。
それより、飛び立ったワイバーン、人が乗っていたように見えた。
奴らだと思うが、落ちたなら今が好機、今度は見逃さない。
「テリエ、久しぶりの再会で嬉しいのはわかるが、今はやらないといけないことがある」
「おお、すまぬな契約者よ、わかっている。なーに、転移の魔道具は封じてある」
「え? そう、なんだ」
「さらにチャッピーの咆哮で、上手い具合にワイバーンも落ちたのだ、今さら逃げようもないわ」
最初からテリエがいたらと、思わなくもないが、結果よければ、だな。
「ぬっ! なんだこの禍々しい魔力は!」
『テリエよ、何者かは知らないが、悪魔を呼び寄せたようだぞ』




