第82話 死霊魔導師はワイバーンにも乗る。
飛ぶ相手には、さらに上から相手すればいいだけのこと。
ワイバーンの群れの頂点に、殿下が乗る黒いワイバーンがいた。
「ヒールショット!」
影転位で殿下背後に出た瞬間、ヒールショットで黒いワイバーンの後頭部を狙い撃った。
『ギョエェエエエエエエエッ!』
これで決まるとは思っていない。狙いは殿下だ。
「デバン!」
『承知! 影転移!』
デバンに俺を残し殿下だけを地上に連れ戻させた。
突然の痛みにも動じず、黒いワイバーンが背後の俺を見て首をかしげながら、旋回を続ける。
「そうか、テイムされていても、俺が敵だと教えられてなければ敵と認識されないんだな」
『ギョエ?』
「だけどごめんな、テイムされたお前をこのままにしておくことはできないんだ」
しっかりと魔力を込め、一センチほどまで圧縮したヒールショットを、この群れのリーダーである黒いワイバーンの眉間に撃ち込んだ。
『ギョッ』
ビクン、と一瞬だけの脈動の後、急激に高度を下げていく。
「このまま墜落はごめんだ! 死霊使役!」
振り落とされないよう掴まりながらも、魔力の糸が黒いワイバーンに繋がるのを見届けると、太い絆が生まれた。
「飛べ!」
ビクン、と息を吹き返したように言葉に答え、翼を広げ滑空の状態に体勢を戻してくれた。
「いいぞ、このまま急いで地上に降りてくれ」
ワイバーンの背をポンと叩き、急かせると、子供のワイバーンが見せたように、羽を畳み弾丸のように急降下を始めたら。
急げとは言ったけど! これ! 駄目でしょ! ぶつかる!
と、思ったが、ワイバーンはすでに着地をしていて、その衝撃すらなかった。
どうなってるんだ? いや、今はヘルヴィと、殿下の方が優先だ。
殿下はデバンに後ろ手に拘束されているので、ヘルヴィに害を与えることはできない状態だ。
「ワイバーン! 来てくれましたか! そいつを振り落とし、私を助けるのです!」
俺とワイバーンが地上にいるのを見て、喜色の笑みを浮かべた殿下。
「ははっ! いくらお前たちが強いといっても、そのワイバーンは特別です! この巣を治めるワイバーンの王ですからね!」
勝ち誇ったように言うが、一向に動く様子のないワイバーンを見て、焦りが見え始めている。
「どうしたというのですか! 横の男を食い殺しなさい!」
「兄上はもう我を気にかけてくれた兄上ではないんだな」
「何を言ってるのですか、私はヘルヴィのことを気にかけたことなどありません! 毒を盛ったほどですよ!」
「う、そだ、兄上が我に毒を……」
嘘だろ……解毒した俺だが、あの有り様は酷いものだった。
「あははははっ! そうです! その顔が見たかったのです! 五歳でヘルヴィが職業に目覚めた時からね!」
職業、そうか、ヘルヴィの職業は結界魔導師、それに、属性魔法も得意だ。
「兄たちや私なんかより、王に相応しい職業を持っていたことを恨むのですね!」
「そんな、我は王になんてなろうなんて一度も……一番相応しいのは兄上と思っていたのに」
「まだ知らなかったフリですか! 私は聞いたのですよ! 父上と母上が成人したのちヘルヴィを立太子するとね! だから! 聞いたその日に兄上たちに飲ませようとしていた毒をヘルヴィに飲ませたのだから!」
あの毒を……それをやったのがヘルヴィが一番心を許していた殿下だなんて……。
「本当に気づいていなかったようですね! 私たちの中で父上がとっくの昔に選んでいたのはヘルヴィでしたからね!」
「そんな理由でヘルヴィを苦しめたのか!」
「ヘルヴィのお兄さんなのに酷いですよ!」
「はっ! ネクロウ、貴方がヘルヴィの解毒をしなければもう少し長生きもできたのです! こうなったらまとめて殺してあげます!」
そう叫んだ瞬間、デバンの背後にサラマンダーが現れ、炎が漏れる大きな口を開き、腕に食いついた。
『ぐあっ!』
「デバン!」
あっという間にデバンが火に巻かれるが、その火は殿下に燃え移ることはなかった。
「よくやりましたサラマンダー! そのままヘルヴィも燃やしつくしてやりなさい!」
『ぬうっ! やらせませんぞ! 影転移!』
腕に食らい付いたサラマンダーをヘルヴィから引き離すため、殿下から手を離し消えた。
「デバン! くそっ!」
ワイバーンから飛び降り、ヘルヴィと殿下の元に走る。
「あははははっ! 一匹や二匹を退けようと、私にはまだまだ駒がたくさんありますからね!」
空を見る殿下につられ、視線を上げた先にいたのはワイバーンだ。
旋回を続けている、おびただしい数のワイバーンはまだテイムされたまま。
あの数に、俺たちに特攻しろとか変な指示でも出されれば、ゴブリンなんかとは比べ物になら無い質量と数の暴力で、ひとたまりもないだろう。
「兄上、もうやめてくれ、罪をこれ以上重ねてどうする気だ」
「うるさいです! やっとのことで兄たちを排除できたのになぜ邪魔ばかりする!」
殿下の顔から笑いが消え、怒りに赤く染まっていく。
「おいワイバーンたち!」
まさか! 駄目だ言うな!
続きの言葉を絶対言わせては駄目だと、直感で感じた瞬間、体が動いていた。
「私以外を全員殺――」
「言わせるか!」
「兄上の馬鹿!」




