第79話 死霊魔導師は殿下の追跡を開始します。
ジムに先触れを頼んだ後に起こったことを陛下に伝えたあと、陛下は目を閉じ、考えを巡らせているように見える。
陛下と俺たちだけの公務室は静寂に包まれ、流れる時間がまどろっこしく、中々進まない錯覚さえ覚えてきた。
重苦しい空気の中だが、早く考えを聞かせてと言える者は誰もいない。
陛下に催促もできるだろう宰相でさえ、内通者に通じているかもしれないと、ここには呼ばれていないどころか、今回の訪問は誰にも伝えていないそうだ。
王城には人族以外の臣下や使用人も少ないが、一定数勤めているので、用心のためには懸命な判断だと思う。
そして固く噤んでいた口を開く。
「ドットは生きたまま連れてきて欲しい」
悲痛な表情なのは当然のことだろうとは思うが、王としては甘い考えなのだろうな。
「こちらで調べた限りでも、相当数の内通者と、テイムされているだろう者が見つかっている」
陛下の中でもドラートツィーアー殿下の有罪は、揺るぎない証拠として集まったようだ。
「それと、この捕縛がなされ、ドットを裁いたあと、ヘルヴィ。お前を立太子する予定だ」
「……何を言ってるんだ父上、我は王になどなりたくない」
ここに来て初めてヘルヴィが顔を上げた。
「よく聞けヘルヴィ。現状息子三人の立太子はもうない。娘にしても、お前の姉たちは王の器ではないのだ」
「我も同じこと! 王の器などありはしない!」
二人は視線をぶつけ合い、そこで話しは終わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョンの街に戻ってきた俺たちを待っていたのは、大きな屋敷が燃え、煙が街を包んでいる景色だった。
『ジェイミー! ジム! これはどういうことだ!』
『いきなり燃えたっすよ、それに消える気配すらないっす』
『中、もぬけの殻』
殿下の屋敷の次くらいの大きさの屋敷の窓から、ゴウゴウ、と今も炎が吹き出し、衰える兆しも見えない。
「この炎の魔力は……あのクソガキ、サラマンダーを使ったようね。ご主人様、この街のオークション会場がこの屋敷よ」
『サラマンダーっすか、厄介な奴っすね』
『地下、転移魔法陣』
「なら殿下はジェイミーとアイシャから逃げてここに来て、さらに身をくらませるため、屋敷まで燃やして逃げたってことか」
『追おうと思ったんすけど、出口側の魔法陣が壊されたのか、発動しなかったっす』
屋敷にいた者全員を連れ出し、追跡の妨害までやってるとなると、アイシャの知る殿下の行きそうなところをしらみ潰しに探すしかない。
だが、それだと効率も悪すぎだ、時間がかかればアイシャも知らない拠点に移るはずだ。
そうだ、アイシャに知る拠点を回れるだけ回ってもらえば、デバンたちも、その場所へ影転移ができるようになる。
あとは四人で手分けして探せば多少は時間の短縮もできるだろう。
問題は今も燃え続ける屋敷だが、見たところ、屋敷の外へは被害は広がりそうにないが、火は消しておいた方がいいだろう。
「追跡の前に火を消していくぞ、火の元になるサラマンダーはまだここにいるのか?」
「いえ、もうここにはいないわね。それより、消さなくても大丈夫よ、魔力の残滓的にあと、一時間ほどで消えるもの」
『そっすね、ウンディーネでもいるならサラマンダーの火を消すのも簡単っすけど、いないなら、触らない方が身のためっす』
ウンディーネなんて、俺たちが用意できるようなものじゃない。
「一時間か……よし、ここが消えるとわかってるならアイシャ、殿下の行きそうなところを片っ端から回るぞ」
「デバンたちに転移場所を教えるためね、わかったわ、大きな街には必ずあるから、早速行きましょう」
数を上げれば切りがないほどの拠点を回った末に、ようやく手応えを掴んだ。
「行ったことがある場所を後回しにしたことが裏目に出たな」
殿下の痕跡を見つけたのは、シュヴェールト辺境伯領の一つ、鉱山の街だ。
シュヴェールトの領都についで二番目に大きな街にある、大きな屋敷は人でごった返していた。
おそらくダンジョンの街にいた者たちだろう。
「殿下のお陰でアジトを一つ潰しちまうとはな」
「それにオークションもだろ?」
「オークションの中止はカルバロ様の判断だがな」
そんな会話が聞こえてくる。ここに殿下が来たことは間違いなさそうだ。
さっそく屋敷内を探してもらったが、すでに殿下の姿は見えず、どこに行ったのかの情報も会話に上がらないことには知る方法は一つしかない。
テリエに魔力を追跡してもらえば済むことだが……。
聖女たちとテリエ眠る寝台に視線を向けるが、まだ初日だ、変化がある訳じゃない。
今、無理矢理テリエを起こせば殿下の問題は解決するだろう。
だが、聖女たちはどうなる? 最悪は……いや、テリエを頼るのは最後の最後だ。
ここにいる者たちが言っていたギルマスは、数人のギルド員をつれて隣国に向けて出立しているそうだ。
そこに殿下名が上がらないところを見ると、別行動なのは間違いないだろう。
それなら殿下はいったいどこに行ったのか……。
「ネクロウ、殿下はどこいったのかなー、もしかして魔物をテイムしに出かけたとか?」
「セレス、殿下は追われているとわかっているはずだ、それなのにテイムなんてしに行く……」
……いや、強力なアイシャが手元から抜け、テイムしたと思った聖女たちも行方不明と思っているはずだ。
それなら自身を守る騎士たちを、連れてこれていない今こそテイムでの守りを増強しようとしてもおかしくはない。
「……セレス、お手柄かもしれないぞ」
「え?」
「みんな、この近くに強力な魔物か、大量の魔物がいる場所を知らないか?」
俺に思い付くのはダンジョンだが、この街にはダンジョンはない。
『団長殿、ここってアイツの巣があるところっすよね?』
『ああ、昔と変わらないのであれば、ワイバーンの巣が合った場所であるな』
『考えるより、見に行けばわかる』
ワイバーン巣か、あんな魔物を群れでテイムされたなら……考えるまでもない。
「行こう、ワイバーンの巣へ!」




