第78話 死霊魔導師は気になります。
「じゃが安心せよ契約者よ、奴の魔力は覚えているからな、いつでも探し出せるのだ」
『そんなことできるっすか、なら大丈夫っすね』
それを聞き、胸にたまっていた熱い空気が口から吐き出された。
「それより契約者よ、アイシャは――ふぐっ!」
「テリエ! よかった、生きててくれてありがとう」
「ぐえっ」
テリエに飛び付くように抱きついたのだが、その胸にはセレスが抱かれたままだ。
カエルが潰されたような声をあげたセレスは、見事にサンドイッチにされている。
さらには抱きつかれたテリエも無事ではなさそうだ。
セレスと変わらない体型のテリエの足は完全に宙に浮き、背骨を中心に、のけ反るような絵を見せてくれた。
……ヤバくないか?
「ぐお、ぉおお、ア、イシャ、し、死ぬ」
「むぐくくくぐくっ!」
「やっぱり! おいアイシャ! 二人ともヤバいからその手を離せ!」
「え? あ……」
アイシャから解放された二人に、小回復をかけつつテリエに呼び出した内容を話すことにした。
「この三人じゃな……ふむ、この娘の力が万全であれば、我輩が手を貸さずともテイマーとの繋がりは簡単に切れるのじゃがな」
「ミズキちゃんの?」
「その通り、時空を渡ればそこで簡単に切れるのじゃ」
時空間魔導師の魔法か、なるほど、時空を越えるか、別の時空間に入れれば魔力の繋がりも切れるということか。
「だが、見たところそこまでのレベルには達しておらんようだ」
「え? テリエちゃん、だったらこのお姉さんたちはずっとこのままなの? なんとかならないかな?」
「テリエ、私の子がここまで頼んでいるのよ、なんとかならないの?」
「おお、セレスはアイシャの子であったか! うむうむよく似ておるな、ほれ、アイシャを探している途中で見つけた魔剣じゃ、アイシャの子であるなら使いこなせるだろ」
今は関係ないだろ、と言いたかったが、テリエの取り出した物に目を奪われた。
……刀だ。日本刀がなぜこの世界にあるのか疑問もあるが、漆黒の鞘に目を奪われ視線を外せない。
「変な剣はあとでいいから、テリエちゃん、なんとかならないの?」
「そうだったな、契約者よ、しばしこの魔剣を預けておくのじゃ、セレスの頼みを聞かなくてはならんのでな」
目の前に差し出された刀を受け取ると、手に吸い付くような手触りに意識が持っていかれそうになる。
なんとか意識を日本刀から、テリエに移し替え、手の感触から話しに集中させる。
「我輩と同じ方法を使えば繋がりは切れよう。この者たちを殺すのだ」
「いやいやいやいや、殺してどうするの!」
テリエの信じられない提案に、思わずつっこみを入れてしまうほど、とんでもないことを耳にした。
「契約者よ、慌てるでない、我輩と同じと言うたであろうが、肉体と魂を分けるだけのことだ」
「……なるほど、聖女たちを封印すれば、テイムから解放されるってことか」
「その通り、我輩が封印されていた術式はしっかりと覚えておるのでな、再現など簡単なことよ」
「ならすぐにでも頼む、このままだと食事すらできないんだ」
「ふむ、テイムとはそういうものだ、許されていることしかできぬのだ、おそらく、動くなとでも命令されたのであろうな」
まばたきすらできなかったのは、そういうことだろう。
「契約者よ、それはすぐにした方がよいのであろ?」
「ああ、すぐにでも解放してあげないとな」
「わかった、十日、いや、七日あれば封印もできるだろう。その間、我輩も眠りにつくが、アイシャとの再会はその後に喜ぶとしよう」
「そんなに時間が……いや、このままってわけにはいかない、テリエ、頼む」
「状況によっては……早まることもあるが、任せよ。皆の者、このあと、娘たちと我輩には近づくでないぞ、封印に巻き込まれるでな」
そうテリエは言ったあと、聖女たちの寝台を中心に、魔法陣が影の居住空間の床に浮かび上がり光始めた。
「頼んだぞテリエ」
魔法陣から一定の距離を保ち残りの者で集まった。
「……」
一言も声を出さず黙ったままのヘルヴィ。
「あ、また……あまりキツくしないでねお母さん」
「わかってますわセレス」
セレスをまた抱え込んで膝に乗せるアイシャ。
「この後殿下がどんな動きをしてくるかわからないことが不安だが、ジムの帰りを待ってからしか動けないか」
そして俺の後ろで控えるデバンとジェイミー。
『ですな、あの二人の殿下をさばいた陛下であれば、心配なさることもありますまい』
『逃がしたのは痛いっすけどねー、あ……テリエがあの状態で、殿下を探せるっすか?』
「しまった! ……今さら言っても仕方がないか……」
いや……そうだ、殿下が “あの御方”に間違いないのなら、拐った者たちを売る場所があるはずだ。
そして殿下はここ、ダンジョンの街にいたとなれば、高い確率でこの街にそれはある。
そして見つけることも、そう難しくはない。
「アイシャ、アイシャは殿下が拐ってきた者たちを売る場所を知っているよな?」
テイムされていたアイシャほどの者を連れて歩かないわけはない。
「もちろんですわ、この街の盗賊ギルド、そこが会場ですわね。この街でないとしても、すべての会場に案内できますわよ」
「よし思った通りだ、ならジムが戻り次第、捕獲が先になるか後になるかは陛下次第だが……」
ジムの帰りは少し時間がかかるかもしれないな、今は深夜、忙しいとは思うがさすがに寝ている時間だ。
夜が明けるまで待たされることになるだろう。
「デバン、しばらく近くにと思っていたけど、街を出入りする者たちをジェイミーと一緒に見張って欲しい」
そう告げたところに、まだ帰ってくるとは思っていなかったジムが帰ってきた。
『ネクロウ様、陛下すぐ会える』
予定を立ててすぐにひっくり返されたが、やることは決まっている。
「よし、ジェイミーとジムはこの街の出入りを監視、デバンは俺たちと陛下に会いに行くぞ」




