第77話 死霊魔導師を倒せる敵がいるそうです。
side あの御方
今度はなんだ? いきなり黙ってしまったぞ……いや、そうか、私のテイムに抗っているからか。
それなら納得もいく、知能の無い魔物や、低い獣人などとは論外だが、知識に富み、魔法に長けたエルフ族なら当然のことか。
しかし、ダンジョンの守護者でも私の足元にひれ伏したのだ、抵抗など無駄なこと。
あの凶悪な王都のミノタウロスに、無尽蔵の回復力を持つトロールでさえ、それ程抵抗もせず私の駒になったのだからな。
……しかし、その二匹をヘルヴィたちが倒したとなれば、このエルフだけでは心もとない。
さらに強力な魔物をテイムするため他のダンジョンに向かうことも検討するか。
ダンジョンマスターの力で生み出すこともできるが……無理をすればダンジョンが崩壊し消えることになる。
在野で強力な魔物の情報を集めておくか。
考えがまとまったところを見計らったように、エルフのテイムも完了したようだ。
宙を見つめていた視線が私に向けられた。
ふむ、やはりエルフ族。美しい容姿をしているな。
さあ、私への忠誠の言葉を聞いてやろう。
「なんだ、逃げずに待っているとは、そんなに死にたいのかお主」
「は?」
今なんて言った? 忠誠の言葉ではなかったよな? 確か……死にたいのかだったか? 私に向かって?
「なぜテイムできていないだと! おかしいだろ!」
「ああ、我輩を前にずっと偉そうなことを並べると思えば、勘違いしておったようだな」
「か、勘違い?」
「我輩にはすでに契約者殿がいるのでな」
っ! すでにテイムされてたのか!
『テリエ、何してるっすか? 早く主のところに戻るっす』
「なっ! 何者!」
こ、この騎士もいきなり現れたぞ! いや、それよりこの場を離れなければ殺される!
「おお、迎えに来てくれたのだな」
『そんなとこっす』
よ、よし、二人で会話をしている隙に!
いくつかある転移の魔道具の一つに魔力を流し入れ、起動させる。
「なっ! こ奴魔道具を持っておったのか!」
『まずいっす! 転移の……やられたっす』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「逃げられたのか!」
床で光る魔法陣が消えていくのが見える。
「ここは、チッ、オークション会場の魔法陣だったか……まあいい、ライト」
魔法陣が完全に消え、闇に包まれた部屋に光源が浮かび上がる。
まさかこの魔法陣を使うことになるとは。
「狭いが仕方がない、オークションが終わるまではこの屋敷で身を隠した方がいいだろう。誰かいるか! カルバロを呼べ!」
緊急避難の部屋を出て、使用人と、ここの持ち主を呼び、部屋を用意させる。
ここは本来滞在する予定がなかったが、中々良い調度品を揃えてあるようだ。
「おい、私にもワインを用意しないか、気の効かないメイドめ」
「申し訳ございません。ドラートツィーアー殿下、どのようなものがよろしいので?」
「そうだな、少し酔いたい気分だ、良いものを何本か持ってくるように」
「かしこまりました。ご用意させていただきます」
深くお辞儀をしたメイドが、部屋を出ていく後ろ姿を見送ったところでカルバロが口を開いた。
「殿下、お聞きしてもよろしいか?」
「なんだカルバロ、私がここに滞在するのがそんなに不満か?」
盗賊ギルドマスターで、オークション会場の持ち主カルバロ。
使い勝手がいいから多少の不敬は見逃しているが、最近は目に余るものがある。
今も私の前でワインを飲み、ニヤニヤと笑みを浮かべ、まるで馬鹿にしているような態度が目につく。
「いえいえ。殿下のお陰で儲けさせていただいておりますので、不満などあるわけございません」
「だったらなんだ」
「いえね、今回は闇騎士団のトリューガーが十人の商品を持ち込むとか」
「そう聞いている。数日の間にこの街に到着するだろう」
カルバロは、訪れていたキンダフィッカが街を出て、今回のスタンピードで、客足が遠退いたことを聞きたいのだろう。
「さようでございますか……。いえね、私どもの裏情報では闇騎士団は到着いたしません」
「ん? そのような報告は無いが」
どう言うことだ、トリューガーは確かに数日後に届くと報告を上げてきた。奴が嘘の報告をするなど考えられない。
「キンダフィッカ伯爵様に提供していたギルド員がほぼ捕縛されたのはご存じですよね?」
「ああ」
ヘルヴィの言っていたことだな。
「あの時点で、闇騎士団が運ぶ商品は、ヘルトヴァイゼ殿下たちによって奪還されているそうですよ」
「なにっ! そんなことヘルヴィは一言も言ってなかったぞ!」
カルバロはそこでまた、先ほど見せた笑いを顔に張り付けた。
「そうでございましたか。……おっと、もうこんな時間ですね、殿下、仕事がありますのでここで失礼させていただきますね」
「待てカルバロ! では今回のオークションはどうなる! まさか!?」
「いえいえ、もちろん開催はいたします。が、私は少々立て込んでおりまして、当日のご案内はできかねますがね。では」
呼び止める言葉がどうしても思い浮かばず、カルバロを見送ってしまった。
どうなっている。確かにキンダフィッカの盗賊村を潰したと聞いた。
死んだ伝令も、ヘルヴィたちが護衛する商隊を襲撃する前に捕縛されそうになり、なんとか一人だけ逃げてきたとも聞いた。
だが、拐った商品のことは一言も……。
他のクランは商品の納品は着々と届いている、多少商品は減るが、購入者も欠席が多いため開催は問題ない、のだが、嫌な予感しかしない。
カルバロは盗賊ギルドを運営できるほど危機感には鋭い男だ……。
『殿下、ワインを御用いたしたした』
「入れ」
自分の行動予定をメイド風情に知らせてはいないだろうが……。
「おい、カルバロはこの後どこかに行く予定なのか?」
つい、口から疑問の言葉を吐き出してしまった。
「確か、隣国のシュマルツに依頼があるとか、そのことでございましょうか」
「敵国シュマルツか……」
待てよ、シュマルツとの国境にあるシュヴェールト辺境伯領にはアイツがいたな。
「おい、すぐにカルバロに伝えろ、私も途中まで同行すると」
「……かしこまりました」
シュヴェールトには、ミノタウロスやトロールなど話にもならない魔物がいる。
今まではそこまで必要と思わずに、使う選択肢はなかったが、ヘルヴィたちの強さを知った今なら躊躇することのないだろう。
シュマルツに攻め入る際に使うつもりだったが、贅沢は言ってられんな。
いつの間にかワインが注がれていたグラスを手に取り、口に運び、カルバロの返事を待つ。
そして数分後、メイドがカルバロを連れて帰ってきた。
「殿下、一緒に行くのでしたら、すぐにご用意を」
「ふむ、では、私の騎士たちに伝令を頼む」
「……はっ。では、この者に出発準備を手伝わせてください」
「わかった」
それだけ言うと、カルバロは座ることなく部屋を出て言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
side カルバロ
「殿下と一緒に仕事をするのも、今回が最後のようですね」
シュヴェールトまで数日、予感では殿下の死地への旅路になりそうですが、お伝えするまでもありませんね。




