第75話 死霊魔導師と、やっと繋がったようです。
side あの御方
「もぬけの殻だと……」
部屋を間違えたか? 寝台すらないということは、勘違いしたとみて間違いはなさそうだ。
だが……何も無い部屋だな。部屋を使わず遊ばせておくのも無駄なこと、倉庫にでもするよう伝えておくか。
いや、今回ヘルヴィを始末しようと起こしたスタンピードで、オーガたちの落とした武器が大量に手に入った。
王位につくための障害になり得る目障りなヘルヴィを殺せなかったのは正直痛いが、騎士たちのレベルアップも順調だ。
ハイオーガを単身で相手取れる者も増えてきた。あと少し、あと少しで反旗を振り上げ、王城を乗っ取る準備も整ってきた。
そうだな、手に入れた武器は私を支持せず、今の愚王を推す現国王派の重鎮たちを、始末する時にでも使えるだろう。
ことを起こすまで、この部屋に隠し入れることにするか。
父上よ、兄上たちの失脚のあと、王位継承権の順位を上げるだけでなく、私を立太子していれば、退位後も生かしておく未来もあったものを。
即位した暁には、父上が大事にしていた愚民どもの前で盛大に首でも刎ねてやるとするか。
おっと、思考の世界に浸っている場合ではなかった。……しかし、あれだけのスタンピードをヘルヴィたち三人で食い止めるとはな。
強化したトロールまでダンジョンに出させたと言うのに、倒してしまう実力があるというのか……。
やはり、放っておくことはできない。次に私を訪ねて来た時に遅効性の毒を仕込むとするか。
いや、早すぎるな。
そろそろ死んだトリューガーの闇騎士団が十人の商品を連れて到着する予定だ。
今、王女死亡なんて国を揺るがす騒ぎを起こせば、すでにスタンピード騒ぎで欠席を言ってきた貴族どもが、さらに減ることになるだろう。
「ヘルヴィよ、今回は見逃してやる」
一度部屋を出て、聖女たちがいるであろう向かいの扉に目を向ける。
そうか、こちらと勘違いしたのか。私としたことが。
扉に手を掛け、引き開けるが、部屋には木箱が乱雑に積み上げられているだけだった。
「なぜだ! いや、そんなことを言ってる場合じゃない。私の記憶違いか?」
扉を閉めることも忘れ、近い扉から順に開けていく。
「なぜだ……なぜだなぜだなぜだなぜだっ! どこにもいないなんてどうなってる!」
逃げ出した? いや、聖女たちとの繋がりは切れていないなら逃げ出すなんてあり得ない。
最後に命じた言葉は……『それぞれ寝台に上がり動くな』だった。だから屋敷の誰かが連れ出そうとしても、私の命令に従い、寝台に戻る……っ!
「それに気づき寝台ごと連れ出したということか!」
それなら使用人の誰かが必ず見ているはずだ。
ならば連れ出した犯人もすぐに見つかるだろう。
「誰か! 誰かいるか!」
「なんじゃ、うるさいのう。我輩は忙しいから話しかけるでない。いや、こやつに聞けば……」
「私にうるさいと? まだこの屋敷に来て日が浅いのか? 私がここの主だ、良く覚えておけ! そしてまずは主の前ではフードを取り顔を見せよ!」
「そんなことはどうでも構わん。お主、白髪で真っ赤な目をした奴がここにおるだろう。魔力の残滓を追ってきたのだが、今は出掛けているようだな」
「ど、どうでもよい?」
なんだ、聞き間違いか? それになんだ、ここの主といえば、シュテルネ王国の第三王子と誰もが知ることだぞ?
「何をしておるのだ? おい、話しを聞いておるか?」
赤目の白髪は伝令のことか、もしや奴の同族?
……それなら好都合ではないか! 奴が消え、聖女たちまでいなくなった今となっては、願ってもない獲物だ。
それに、誰も案内していないところをみると、おそらく転移魔法は使えるだろう。
あの伝令をテイムしたときも思ったが、“神に選ばれた使途”なのだ。
今回のような突発的に起きた私の不幸に、神は私の前にこの者を遣わしてくれたとみて間違いはなさそうだ。
それと……神が言っていた、世界を統べる者とは私ではないかと思っていたが、あながち間違ってはいないのかも知れない。
「ああ、その者なら今仕事を任せているところだ」
それならテイムの前くらい、寛大な心で許してやるのもご主人様となる私の優しさだろう。
「おおそうか! やはり灰にはなってなかったのだな! あやつのダガーを持つものが、っと、済まぬ、お主、ここの主と申したな、しばし“友”を待たせてもらっても構わぬか?」
くくっ、やはり、ヴァンパイアの友であるなら人族ではない。
さらに取られたフードの奥に隠されていた、耳の形は明らかにエルフ族のものだった。
これはこれはまた珍しい種族が来てくれたものだな!
黒髪黒目とは珍しいが、その容姿は噂通り美しいな。
あのヴァンパイアも美しい女ではあったが、この者も私の横に置くに相応しい。
「ええ、構いませんとも、ゆっくりお待ちください……テイム!」
人差し指の先から魔力糸が伸びていく。
目の前のエルフは気づいていない。
無色透明の糸だ、気づくわけもないだろう。
魔法に長けたエルフ族とはいえ、会話をしながら油断したこの状況で、ごくわずかな魔力で編まれた糸に気づく方がおかしい。
伸びた魔力糸が、エルフの眉間にたどり着い……た。私の勝ちだ!
「なんだこの不愉快な魔力は……ほほう、キサマテイマーか」
「くははははは! 気づくのが遅かったようだなエルフよ! だがもう遅い! 繋がったが最後、死ぬまで私の支配下だ!」
「ふむ、なるほどな。で、お主は我輩に何をさせようと言うのだ?」
「そうだな、まずは跪き、私に忠誠を誓い、従うとでも宣言してもらおうか」
「ほほう、このテリエ・ド・シャイターンに跪けと、中々大胆な者であるな……ん? 契約者殿か? そんなに慌てて念話を送ってくるとはどうした、何かあったのか」
どういうことだ? 私は跪くよう命令したのになぜ従わない?
確かに魔力の糸はこの者の頭に繋がったが。確実にテイムできているは……は?
なぜだなぜだなぜだなぜだっ! 繋がっていないぞ! どうなってる!




