第69話 死霊魔導師は怪しい人に気付きました。
「キンダフィッカ伯爵について知っているものは限られている」
「だが父上、口封じに殺されているのだ、内通者がいることは明らかだぞ」
スタンピードの後始末を騎士たちに任せ、陛下の元にやって来たのだが、中々信じがたいことのようだ。
陛下の側近であり、信頼する部下の中に内通者がいるなんて受け入れがたいだろう。
「くっ、だが、話が漏れるのは側近からだけではない。お前たちも、気づかず話したことを盗み聞きされることもあるだろう」
その可能性はかなり低いだろうな。俺たちの近くには、影の中にデバンたちがいて、いつも周囲は警戒してくれているから盗み聞きは無理がある。
「うっ、そう言われればそうだが、キンダフィッカ伯爵のことを話したのは兄上だけだ」
そうだ、ドラートツィーアー殿下に話した時も、部屋には俺たちだけしかいなかった。
なら、漏れる可能性があるのはこの王城内部からしか考えられない。
というのに陛下の顔つきが変わった。
「なんだと、ヘルヴィ、お前まさかドットにその話をしたのか」
「どうしたんだ父上、怖い顔をするな。それに当然だろ、兄上がちょうどダンジョンの街にいたのだから挨拶ついでにな」
「……そうか、話したのだな」
なんだ、様子が変だぞ。
「わかった、お前たちはトリューガーとやらの監視に戻れ、その件は調べておく。下がれ」
「はぁ、下がれといわれたなら仕方がないが、内通者の捜索は頼んだぞ」
公務室を、半ば無理矢理退室させられた俺たちは、影転移でダンジョンの街に戻ってきたのだが、スッキリしない。
喉の奥に小骨でも刺さっているような、気持ち悪さが拭えないままだ。
「父上は何が言いたかったのだ? 兄上に話したのがそんなに気に入らなかったというのだろうか」
「どうしてだろうねー、次の王様なんでしょ? それなら話してもいいと思うんだけど」
「セレスもそう思うだろ? まったく、父上は何を考えてるのか、上の二人より格段に次の王として相応しいというのにな」
そうだ、あの二人を王にするには問題がありすぎだった。
だから陛下は二人の内一人を選ぶことなく、立太子をしていなか……あれ、おかしくないか?
それならなぜドラートツィーアー殿下を立太子していないんだ?
すでに第一王子殿下と、第二王子殿下は王位継承権を剥奪され、もう立太子することはない。
それなのになぜ……それに陛下のあの顔はいったい……。
さすがに第三王子であるドラートツィーアー殿下まで相応しくないということは……ないよな?
ヘルヴィの話を聞く限り、良い兄だと思っていたが、まさかな。
変な考えは起こすな、ヘルヴィが信じる次期国王だ、いくらなんでもそんなことあり得ないだろ。
よし、気持ちを切り替えるとして、時間ができたな……スタンピードの後処理に戻るのがいいか。
ダンジョンコアも、早くどうするか決めなきゃな。
陛下に聞いてこればよかったが、ダンジョンで騎士たちの修練をしてる殿下に渡せばいいだろう。
「セレス、ヘルヴィ、ダンジョンに戻ろうかって、何見てるんだ?」
二人が寄り添って、こそこそと小声で聞こえないが、何かを覗きながら話をしているようだ。
「ねえヘルヴィ、あれっていいのかな、変な顔になってるように見えない?」
「いや、だが、聖女たちも嫌がってはいないから、悪くはないと思うんだが様子がおかしいな」
近づいて、背後から外を覗き見ると、殿下に跪く聖女たちが見えた。
別に殿下に跪くのはおかしなことではない。
この世界では常識と言っても過言ではないが、聖女たちは俺の知る異世界から来てる。
それなのにまるで、元からこの世界の住人のような振る舞いに違和感しか感じない。
それに二人がいうように、聖女たちの表情も変だ、まるで何も考えてないような、無表情といった方がしっくりくる。
何がどうなってるんだ……。
『デバン、いるか?』
聖女と殿下のことを見に行ってもらったデバンなら、なにかあれば連絡をくれるはず。
それがないということは、問題はなかったということになる。
『主よ、なにかご用ですかな、任された殿下と聖女に問題はなかったので、今はトリューガーを追っておりますが』
『そうか、いや、それならいい、引き続き探す方をお願い』
『了解しましたぞ』
デバンが見て問題がなかったとしたら、離れたあとか、その前になにかあったのかもしれない。
「なんだかさー、聖女たちのあの目ってダンジョンで見たオーガみたいだよねー」
……そうだ、どこかで見たような気がしていたが、殿下がそんなことをするとかあり得ないだろ。
「セレス、何を言ってる。兄上は確かにテイマーで、魔物や動物を従えることはできるが、人族にはまったく効果はないんだぞ、エルフやドワーフでもあるまいし」
そうなんだ、なら、テイムされた線は消え……いや、確かに人族、人間なんだが、聖女たちはこの世界の人間じゃない。
「じゃあほとんど見たことないけど、エルフやドワーフはテイムできちゃうんだ」
「ああ、テイマーとは、自身の種族以外ならほぼ可能とされてるからな」
嘘だろ……でもなんで。
「なら勘違いかな。あ、ネクロウ、考え事は終わった? それならこの後どうするのー、できたらそろそろ寝ない?」
「ネクロウ、どうした、眠いのか? 我も今日は疲れたようだ、眠くてたまらない」
推測だけで決めつけるのは駄目だ。状況的に殿下が『あの御方』の可能性を捨てられない現状。
本当の殿下はどんな人物か、見極めないと。




