第67話 死霊魔導師は見失う。
「やっとハイオーガが混ざりだしたぞ! あと少しだ! 気を抜くなよ!」
十五階層に出没するハイオーガが来たということは、そろそろ深層の階層主が来るはずだ。
「やったー! もうすぐ終わりだよね! わたしすっごくお腹空いてるんだからねー!」
「セレス! もう少し我慢しろ! ここを乗りきればいくらでも我が食わせてやる!」
ジムとジェイミーの働きで、ドラートツィーアー殿下たちは救出済み。
今は俺たちと一緒に一階層で迎撃している。
殿下はさすがに外へ出てもらったが、鍛えられた騎士たちのお陰で、余裕をもって対応できている。
『ネクロウ様、トロール来た』
ジムの念話のあとすぐに通路の先にトロールが見えた。
ほぼ通路いっぱいの巨体、五メートルはあるだろう天井に頭を擦らせながらも、両壁まで一メートルもないほどだ。
「おっきいよー! ずんぐりむっくりー! それに顔、気持ち悪い!」
セレスのいう通りの姿だが、気持ち悪いは……いや、そこは同意かな。
だが、あまりの巨体のせいか、歩く度に天井に頭をぶつけ、両壁にもつっかえ動きにくそうだ。
「アレほど巨体のトロールは聞いたこともないが……あれではまともに動けないだろ」
そうこうしている内に、トロールの前にいた残りのハイオーガも倒しきった。
すでに死霊使役を止めているから、トロールの足元には折り重なるようにハイオーガが積み重なっている。
「ネクロウ、トロールさん、ここからバーン、って撃っちゃえば?」
「そうだな、ハイオーガどもを踏み越えることにも手間取っている間にやってしまえ」
二人のいう通り、うず高く積み上がったハイオーガを退けることもせず、そのまま進もうとしているからか、遅々として進めていない。
その巨体のせいもあり、外す方が難しい、ほぼ動かない的だ。
それをわかっているのか、騎士たちの魔法が次々と撃ち放たれている。
だがトロールの防御力と回復力のため、ダメージらしいダメージはない。
「まったくなんて防御力だ、我の魔法すら効かないとは桁外れだぞ、アイスランス!」
ヘルヴィが放つ得意の上級魔法、アイスランスを受けても、騎士たちとは違い、体に突き刺さるがすぐに回復してしまうほどだ。
傷すら残らないとか、反則だろ。
「わたしが前に出て切ってこようか? スパスパって切れると思うんだー」
確かにそうかもしれないが、もし、トロールの一撃が掠りでもしたらレベルの上がったセレスでも無事ではすまないだろう。
防御力の高いハイオーガが、進むために軽く振っている腕の一撃で粉砕されているからだ。
防御力が高い上に、攻撃力も高いとわかるが、幸いにも頭脳の方はそこまで高くはなさそうだ。
あれほどの力があるなら、ハイオーガを端に寄せながら進めばもっと速く進めているのにそれすらしない。
生半可な攻撃ではトロールを倒すことはできない。
俺たちに倒せなかった場合、このまま外に出てしまえば、誰にも止められないだろう。
「セレス、俺がやってみるから先走って突撃するなよ、頼むから」
トントンとその場で弾み、今にも飛び出していきそうなセレスを止める。
「ネクロウがやるの? あ、あの王都で撃ったやつだね」
「それしかないだろうな、ネクロウ、あとは頼むぞ」
「ああ、その準備はもう始めてるから、二人とも遠慮無く頼む」
「うん! ネクロウわたしの全部持ってって!」
「全魔力だ、しっかり受け止めろよネクロウ!」
二人が俺の肩に手を置き、魔力を流し込んできた。
王都で注がれた、疲れきり、残りわずかだった魔力の比ではなく、まだまだ余裕がある状態で注がれてくる魔力。
「ぐっ!」
あの時よりレベルの上がった二人の魔力だ、少ないわけ無い。
俺の魔力と質の違いからか、激しく反発しながらも混ざりあっていく。
「ネクロウ鼻血でてるよ!」
「まずい! 注ぎすぎたか!」
「ぐっ、だ、大丈夫だ、行くぞ!」
左手で右腕の手首を掴んで固定する。
狙いはもちろんトロールだ。
手のひらから出たヒールショットは、トロールの巨体と並べても遜色のない大きさまで大きくなっている。
「圧縮っ!」
まわりから圧力をかけ、サッカーボールほどの大きさにまで密度を高め、完成したヒールショット。
『グォオオオオオオオオオオッ!』
「気づかれたか! ネクロウ! まだか! 動きが速くなったぞ!」
「あわわわ! 怒ってるよー! 早く撃とうよネクロウ!」
トロールがこっちの状況に気づいたのか、咆哮をあげ、四つん這いになったかと思った瞬間、今までの動きが嘘のように突進してきた。
だが、いまさら気づいてももう遅い。
『ギガァアアアアアアアアアッ!』
「きゃっ!」
「くうっ!」
「ぐぅっ、耳がぁ!」
「なんて声だ!」
鼓膜を破るような二度目の咆哮は、セレス、ヘルヴィだけでなく騎士たちでさえ思わず耳をふさいでしまうほどの衝撃波として届いた。
「うる! さいっ! んだよ! ヒィールショットォオオオオ!」
放たれたヒールショットの軌跡を見るまでもなく、十数メートルまで迫っていたトロールの開いていた口へと吸い込まれた。
ドゴォオオオオン、と、次の瞬間には直線通路の突き当たりの壁に当たる音が聞こえず、振動を肌で感じた。
口内を突き抜け、首を失ったトロールは、そのまま何歩か俺たちに近づいたあと、崩れ落ち、動かなくなった。
が、何も聞こえない。
真横で喜び、俺に抱きついてくるセレスとヘルヴィの声さえ聞こえてこない。
はぁ、鼓膜が破れたか……声、大きすぎだよ。
ヒールを耳にかけながらあたりを見渡すと、二人の様子もだが、一緒に戦っていた騎士たちにも笑顔が戻っている。
はぁ、今回もなんとかなったな。と思ったところにデバンから念話が届いた。
『主、トリューガーが消えましたぞ、おそらく転移ですな』
『はぁ、今回は仕方ないよ、スタンピードを止めるのと、殿下たちを助ける方が優先度が高かったしね』
『そうですな、では、この後、どうされますかな』
『トリューガーの行き先は検討もつかないけど、キンダフィッカ伯爵ならわかってるよね』
『なるほどですぞ、ならばキンダフィッカ伯爵の監視に切り替えますかな?』
『うん、頼むよ、あ、待って、聖女たちは大丈夫なんだよね?』
そういや、デバンに聖女ことを頼んだのに完全に忘れてた。
『聖女たちはドラートツィーアー殿下に保護されておりますな』
『なら安心だね、じゃああと、お願いね』
『お任せを』
念話を切り、破れた鼓膜を治していると、切ったばかりの念話がまた繋がった。
『主よ、キンダフィッカ伯爵ですが、何者かに襲われ死んでおりました』




