第66話 死霊魔導師は采配を迫られる。
「ヒィィールッショットォオオオオ!」
撃ち出したヒールショットは狙い違わずにホブゴブリンを仕留めた。
だが聖女たちがいた場所で、折り重なるように倒れたために安否を確認できないが無事であって欲しい。
そうこうしてる間も次々と後続のホブゴブリンが迫っている。
ヘルヴィの結界もあと少し時間が必要だ。
結界が張られるまで、セレスと俺がこの場を押さえなければならない。
そこに待ち望んでいたジムからの念話が届いた。
『みんな、無事』
よし! 間に合ってた!
「セレス、ヘルヴィ、聖女たちは無事だ! 残りは俺たちで片付けるぞ! ヒールショット!」
「間に合って良かったよー、っとあ!」
「物理結界! 我は心配してなかったがな、ファイアーアロー!」
聖女たちに、影の居住空間がバレたのは予定外だが、無事で良かった。
『ダンジョンコア取ってきたっすよー』
「よくやったジェイミー! セレス、ヘルヴィ、あとは魔物の一掃だ!」
「まっかせてー!」
「任せろ!」
『あ、言い忘れてたっすけど、ドラーなんとか殿下は助けなくていいっすか? 八階層でオーガに囲まれてるっすけど』
「駄目だろ!」
俺も完全に忘れていた、ドラートツィーアー殿下もダンジョンで修練していた騎士たちに合流していたことを。
次期国王の最有力である殿下が、ここで倒れるなんてことがあってはならない。
テイマーの能力で、ハイオーガさえ使役できるのを見た。
そこに鍛えられた騎士たちもいる。
そう簡単には全滅なんてしないとは思うが、ダンジョンの出口に繋がる階段前のここを離れて助けには行けないだろう。
直線の通路にいるホブゴブリンの数も減ってきたが、レイスの取り憑きを抜けてきたオーガも現れ始めている。
ここにオーガが来たということは、殿下の救助も大事だが、五階層で修練していた騎士たちの方が危機的状況になっているに違いない。
十階層にいた騎士たちは精鋭だが、五階層の騎士はそこまでの力量は、修練を見ていたが無いだろう。
レイスたちはまだ一階層だ。
五階層から撤退をしているとして、進んだとしてもよくて二階層。
間に合わない可能性の方が高い。
「ジェイミーは殿下を! ジムは五階層にいた騎士たちを援護して!」
『了解っすよー、影の中から見つからないようにっすよねー、でも主も危なかったら呼ぶっすよー』
『了解、任せて、団長殿呼ぶ』
そうだ、デバンがいた!
戦力を分けるなんてスタンピードの最中では自殺行為だが、そんなことは言ってられない。
なんとしても出口を死守しながら殿下や騎士たちを救い出すためにやれることはすべてやってやる!
『デバン! トリューガーは一旦監視を止めてこっちに来て!』
『しかし主よ、こ奴ら街の外へ向かってますぞ』
わかってはいたが、やはり報告には行かなかったか。
トリューガーは、逃げたキンダフィッカ伯爵とは違い、あの御方に合流する可能性が一番高い。
あの御方の正体を暴くためには監視を外すなんてできないが、今はスタンピードを止める方が重要だ。
最悪トリューガーを見失ったとしてもキンダフィッカ伯爵なら自身の領地へ向かったとわかっている。
少し目を離したとしても居場所がわかっているから、あとからでもあの御方との接触を待てばいい。
『構わない! 見失ってもまだ機会はある! それより今はスタンピードを何とかするぞ!』
『……わかりもうした。して、持ち場はここで?』
俺の影から飛び出してきた漆黒の鎧に包まれたデバン。
「デバン! まずは聖女たちを影の居住空間から出して! そして外に助けを求めるように頼んでくれ!」
『わかりもうした主よ。しばしお待ちくだされ』
「頼んだ!」
影へ沈むデバンを目の端で見送り、眼前の魔物の群れに意識を集中させる。
ホブゴブリンの姿は消え、肌の色も体格もまったく異なるオーガが通路を塞いでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
side キンダフィッカ
「伯爵様、前方で商隊とみられる馬車が立ち往生しております。いかがいたしましょう」
御者台に続く明り取りの小窓から声がかかった。
「なんだと? くそ! 急いでいるというのに忌々しい! 避けて通れないのか!」
「無理でございます。森に入りましたので、脇を抜けることも」
「ならばなるべく端に寄せろと言ってこい! 私が乗っていると伝えても構わん!」
「は、はい、かしこまりました、すぐに言って参ります!」
なぜ急いでいるこんな時に!
いや、落ち着くのだ、ダンジョンの街から我が領地までの街道は広く整備されていたはずだ。
そう待たずして通り抜けられるだろう。
こんな時は酒を飲み、ゆったり腰を落ち着け待てばよい。
商隊というほどだ、護衛もいるだろう、それに加え我が護衛たちもいる集団を襲う馬鹿な盗賊などいるはずもない。
ワイングラスへ並々と注ぎ、一気に流し込み、二杯目を注ぐを繰り返す。
ボトル二本が空になった時、御者が戻ってきたようだ。
「伯爵様、伯爵の名を出し避けるよう申し付けたのですが、思うように避けられないようでして、いかがいたしましょう」
「なんだと! いったい何をしておるのだ! 私の邪魔をしおって! おい! 扉を開けよ! 私が直接行って退けさせてやるわ!」
「は、はい、ただいま」
ガチャ、と扉の外鍵の開く音が聞こえた。
「なぜ伯爵の私がこんなことをせねばならんのだ!」
ガチャ、と内鍵を開けると、扉が勝手に開き、そこにいたのは御者ではなく、あの御方の伝令だった。
「なぜお前がここにいる! まさか!」
「あの御方からのお言葉です。『お前はもう使えない、破棄だ』だそうです」
「そ、そんな、私がどれ程あの御方に尽くしてきたか、お前も知っているだろう伝令!」
「承知いたしております。が、キンダフィッカ伯爵様が何をしたか、すでに陛下も知るところでございます」
「陛下が……どうしてバレたのだ、すべて私に繋がらぬようにしていたというのに」
「あの御方の最後の情けでございます。痛みすら感じぬようにと。……伯爵様、お送りいたします」
伝令の最後の言葉通り、膝から崩れ落ちたというのに痛みも何も感じることなく、意識が遠退いていく。
バタン、ガチャン、と馬車の扉が閉まり、鍵の音が聞こえた。




